栗浜アケミとの戦いから数日、排斥者達は平和な休日を過ごしていた。
そんな休日の中で、ユメはアスカの部屋を訪れていた。
栗浜アケミとの戦いから数日、排斥者達は平和な休日を過ごしていた。
そんな休日の中で、ユメはアスカの部屋を訪れていた。
「ねぇ、アスカちゃんって何で排斥者に加わったの?」
「ん?気になるか?」
「うん。アスカちゃんは私と歳がそんなに変わらないようだから」
「はは、それは勘違いだ。俺はもう二十歳過ぎだ」
「え!?そうなの!?」
「ま、褒め言葉として受け取るよ」
アスカは読んでいた医学書を閉じてユメの座るベッドの横に腰掛ける。
「さて、俺がここに来た理由、だよな?」
「うん」
「そうだな、どこから話そうか………よし、あの時からが丁度いいかな」
そう言って、アスカは淡々と語り始めた。
───ある戦場のある野外病院にて
「アスカ!こっちに手貸して!!」
「はい!」
私は血の匂いと喧騒に包まれたテントの中で先輩の声に答えて大急ぎで声の方に駆け寄る。
先輩は苦痛に呻く兵士を抑えて治療を施していた。
「アンタはここ抑えて!」
「はい!」
暴れる足を私は必死で抑える。
汗が吹き出し、治療で飛び散った生温かい血が顔面に飛んでくる。
腕が徐々に痺れてきて荒れる息が自分の顔に返ってきて時間の経過さえ曖昧になって来た。
「───アスカ、アスカったら!」
「え?」
ふと、顔を上げると先輩が私の肩を掴んで心配げな顔をしていた。
どうやらもう兵士の治療が終わったようで痛みに呻いていた彼は和やかな寝息を立てている。
「アンタねぇ、少しは休みなさいよ?」
「ええ、でも、毎日前線から運ばれて来る兵士の皆さんの治療はどれだけ人手があっても足りませんから」
「それでも、流石に四日も寝ずに看病は体を壊すわよ」
「すいません」
「ともかく、今日は早めに寝なさいよ」
「……善処します」
先輩は呆れたような顔をしてテントを離れていった。
「お疲れ、アスカ」
「来てたんだ」
「当たり前だろ?恋人の顔を伺うぐらいの癒しは俺には必要なのさ」
「はは、何それ」
爽やかな笑顔で私の前に立った青年は、前線で英雄とも呼ばれている人で、私の恋人だ。
彼が傷を負った時に治療したのが私でそれがきっかけでこうして恋人になった。
「寝てないのか?」
彼は私の顔を覗き込んでくるので私は驚いて顔を硬直させてしまう。
「あはは、四日ぐらい寝てないんだ」
「それを早く言えよ。そら、俺がベッドまで運んでやる」
「え!?」
いきなり彼は私を担ぎ上げて私の寝床のあるテントまで駆け始めた。
途中私達を見る目が痛くて目を瞑るが、彼の胸の温かさに全てのことがどうでも良くなって行き、安心して寝入ってしまう。
気づけば私はベッドに横たえられていて、彼の手を握りながら幸せな夢に浸った。
「ねぇ、明日は帰ってくる?」
私は寝ぼけながら、自分の心に募った不安を吐露する。
彼は困ったような顔をして私に答える。
「大丈夫、ちゃんと帰るよ。───でも」
「でも、何?」
「最近、妙なんだ。仲間の何人かが戦場で少女が三部隊を壊滅させてた、なんて噂があってね。それに似た内容をここ最近頻繁に耳にするんだ」
「大丈夫、なんだよね?」
「ああ、大丈夫さ、なんたって俺は英雄だから!」
明るい笑顔を浮かべる彼は自信満々にしている。
けれど、その顔はどこか不安を押し殺そうと誤魔化しているようで私は余計に不安になって次の言葉を紡ぐ勇気も無くなってしまった。
私はただ、彼の手を握る力をより一層強くして、何とか私の不安を払拭しようとした。
気づけば、また私は寝てしまった。
翌日、私は相変わらず途切れる事なく運ばれて来る兵士達の手当に奔走していた。
───その時だった。
突如としてテントに強烈な風が舞い込んで来て、私は目を覆う。
それと同時に私を誰かが抱き止め、その後すぐに激しい銃声が鳴り始めた。
─────目を開けると、恋人が私の前で倒れていた。
漂う硝煙、血煙が頬を撫で、絶命の声が辺りに木霊する。
彼は、私を庇って銃弾の雨を受けて無惨にその命を散らした。
「な、んで………」
頭がこの現実を受け入れることを拒み、絶叫を上げる事さえも遮って代わりに体が小刻みに震える。
生温かい血が彼の体から溢れるのを塞ごうと必死で手をその傷に置くが、尚もその傷から血は溢れて私の手を真っ赤に染め上げる。
「やだ、やだ、やだやだやだやだ!!!置いてかないで!置いてかないでよ!!」
ようやく出た私の声は張り裂けんばかりの絶叫で、必死に彼の死を否定しようと自分に言い聞かせようとしていた。
「貴方まで、貴方まで置いていくの!?やだ、やだ!!」
涙で滲む私の目からポロポロと抱えきれない雫が彼の血色を失った顔に落ちてはじける。
その時、私の前に一人の少女が現れた。
「おい、そこのガキ、お前いつまでソレに縋ってんだ」
顔を上げると、そこには二丁の拳銃を両手に持ち、顔は大小含めた多くの傷が刻み込まれていた。
そして、その頭上には光る輪が浮かんでいる。
少女は徐に片手の銃を私に向け、その引き金を引いた。
高熱の弾丸が私の肩を抉り、私は痛みで倒れる。
「はは、やっぱヘイロー無しの人間をいたぶるのは楽しいね」
少女は狂気的な笑みを浮かべて私ににじり寄り、彼を足げにし、邪魔とばかりに蹴飛ばして私に彼をぶつけた。
「死んだ奴が私を邪魔するな」
彼女は二丁の拳銃を構えて二、三発、彼の体に撃ち込む。
「やめて!!これ以上、傷つけないで!!」
私は彼を庇って覆い被さる。
「死人を庇うとか、イカれてんのか?」
少女は私を踏みつけてその踵で私の背を捻る。
私は苦痛に涙を浮ばせながらも、それでも私は彼を抱く。
「チッ、退去命令か……。せっかく人が楽しんでるってのに」
少女は私の背中から足を退けると、私に銃を向けて残念そうに引き金を引いた。
体にまたあの熱い塊が叩き込まれた。
次に私が目を開けた時、全ては終わっていた。
私は事切れる寸前に味方の軍に救出され、国の病院で治療を受けて助かったらしい。
起きてすぐに私は彼の所在を問うたが、多くの兵士達は言葉を濁して何を答えるでもなかった。
「ねぇ、彼は、彼は、大丈夫、なの?」
私は必死で私を看病する看護師に聞いた。
彼女はただ黙って私を連れて病院を出た。
しばらく歩いて私は多くの灰色が並んだ場所に連れてこられ、案内する彼女は、その中の一つの前で立ち止まった。
「こちらです」
彼女は淡々と私に告げた。
「嘘、嘘、でしょ?」
「すみません、駆けつけた時にはもう………」
彼女は目を伏せながら申し訳なさそうにしていたが、私に彼女の言葉は届いていなかった。
私はフルフルと震えながら彼の眠る場所に近づき、その冷たい石を抱きしめる。
「なんで、なんでよ!置いてかないって約束したじゃない!なんで!!」
私の鳴き声と止めどない涙が彼の墓跡に染みてゆく。
数日して、俺は病院を退院すると同時に私は国を後にした。
戦場での働きである程度の賃金はあった、それに、これ以上失うことを恐れた俺は戦場から逃げ出した。
それから何日、何週間、何ヶ月経った頃だったろうか、アカリと副隊長に出会い、俺は排斥者なる組織に誘われて行く当ても無かった俺はその誘いに乗った。
「そら、俺の過去なんて面白みも何もないだろう?」
アスカは皮肉った笑みをユメに向ける。
「ううん、聞きたいって言ったのは私だし」
ユメは涙を浮かべた顔で頭を横に振った。
「何でユメが泣くんだよ」
「だって、あんまり悲しいから」
「悲しい、か。もうそんな思いも掠れてちまった。時間は残酷だよな」
アスカは哀愁を含んだ顔で天井を見上げ、ベッドに体を放り投げる。
「でも、これまでがあったから私は助かったんだよね」
ユメは嬉しさと悲しさを含んだ笑みを浮かべ、ベッドに体を横にする。
二人はただ、胸の内に広がる感情をどう処理するかと考えを巡らせながら顔を見合わせて、笑った。