本編の二年前の設定なので現在本編で活躍しているキャラは基本出てきません。
ゲヘナ風紀委員会からの依頼を達成した排斥者一向はついに黒服からの依頼を達すべく動く。
依頼の先で彼女らに待ち受ける者とは────
眼下のゲヘナの街並みには、いつもの喧騒はなかった。
それは当然。
風紀委員会が徹底した取り締まりの為にそこら中を走り回っているのだから問題児達は下手に顔を出せないのだ。
その様子をヘリの上で見下ろすのは黒服の依頼のためにやって来た排斥者達だった。
「さあ、そろそろ時間だ。全員、降下の準備を」
副隊長が呼び掛けと同時にヘリの扉を開ける。
顔を叩いた風にユメは目をすぼめた。
「全員、用意はいいな?」
アカリがユメ達に最後の確認を取り、全員が首を縦に降るのを確認する。
その後、パラシュートを背に乗せた排斥者達が続々とヘリから一棟のビルに向かって降下した。
加速度的に身体は重力に従うがまま落ちて行く。
耳からは風を裂く轟音が響いている。
『今!!』
耳に装着した無線機からアカリの声がして、排斥者達のパラシュートが開く。
一気に身体が上に持ち上がり、体に強い衝撃が走る。
そうして、ゆったりとビルの屋上の灰色の地面に着地した。
「全員無事か?」
隊長のアカリはヘリから投げ下ろされた物資から仲間の装備を取り出して各々に配りながら全員の無事を確認する。
「ユメ?顔色が悪いがどうした?」
「えっと、高いところから落ちる経験はなくてぇ。うっ」
今にも吐きそうなユメの背中をさすり、調子を取り戻したところで隊列を組む。
宵闇に紛れる為の黒一色の装具に身を包んだ排斥者達は足音一つ立てずにビルの非常階段の入り口を破り、ユメを先頭にしてビルの中に突入する。
ビルの中は静まり返っていて耳鳴りがするほどであり、視界は五つのヘッドライトの淡い明かりだけだ。
緊張で心音の音が大音響で耳を穿つ。
構える銃の冷やりとした感触にばかり感覚が向いて、周囲の景色が遠く見える。
「十八階、ここか」
排斥者が階段の踊り場に止まり、そこにある扉を見ると、18と銘打たれていた。
ユメが盾を一度背中に回し、扉のノブを捻って静かに開け、隙間から煙幕を投げ込む。
「三、二、一」
アカリのカウントダウンの声が無線機から聞こえ、カウントが終わったと同時に総員で入り込む。
────しかし、予想していた反撃はなく、そこには無人の廊下が広がっているだけだった。
数秒、その場で排斥者達は周囲を警戒し、誰の攻撃も飛んでこない事を確認し、無人の廊下を進み始める。
「次の角を右ッ────ユメ!前!」
「え!?はい!」
アカリが指示を出そうとしたその時、前方に人型のシルエットが直立していることを認識し、ユメに防御の指示を出す。
咄嗟にユメが反応し、盾を構えたと同時に盾に強烈な衝撃が間隔を空けずに叩き込まれた。
耐えること約10秒、火花を上げた盾から潰れた弾頭がカラカラと地面に落ちる。
「自動人形か。カイザーの新型か?」
副隊長がナイトビジョンで前方を確認すると、腕に直接繋げられたミニガンの真っ赤に熱を帯びたバレルを交換する自動人形オートマタの姿があった。
「どうする?破壊するには近接以外壊せないぞ?」
アカリの問いに副隊長が考え始める。
「ユメ、後一回耐えられるか?」
「え?はい、行けます」
副隊長からの頼みに素直に頷くユメの姿に自信ありげに副隊長が即席の作戦を提案する。
「ユメがあの弾幕を受け、その後すぐに隊長と俺で近接を仕掛ける。ソラとアスカはその支援だ」
「了解」
「りょ」
「はい!」
アスカは淡々と、ソラは調子良く、ユメは少しの緊張と意気を込めて返事をした。
そして、自動人形のバレル交換を待ち、再び弾幕の雨が排斥者達に降り注いだ。
弾幕は全て、ユメの堅固な盾に阻まれ、潰れた鉄片が地に落ちた。
「よし、撃ち切ったな?行くぞ」
「────ああ」
副隊長とアカリがユメの背中から出て無防備な体を晒して自動人形に突貫する。
「あと、少し!」
副隊長がアサルトライフルを構えて引き金を引こうとしたその時、─────二人の頭上に二対のドローンが現れる。
「ソラ!」
「分かってる!」
アスカとソラがその様子をすぐに察して二対のドローンを撃ち抜いた。
ボンッと小さな音を立てて墜落するドローンは壁に羽を折られて床に羽虫のようにして壊れる。
「良くやった!」
アカリが支援の二人に称賛を送り、ボトルアクションライフルの銃口を赤熱したバレル交換から近接戦闘に切り替えようとした自動人形の首に突っ込む。
「あばよ」
ドン!と自動人形の頭が弾き飛ばされ、力無くその膝をついて人形は倒れた。
「さあ、進もう」
自動人形の完全な停止と、追撃の有無を確認した副隊長が無線で全員に声を掛け、また静かになった廊下を進み始めた。
迷路のように入り組んだ廊下の構造はまるで外敵から身を守るための要塞のようで、とてもオフィスビルとは思えなかった。
しかし、事前に黒服から渡された地図に従い進む排斥者達の足取りに迷いはなく、三十分もした頃には目的の部屋の前に到着した。
「隊列はこのまま、煙幕を投げてから突入だ。いいな?」
副隊長の指示に全員が頷き、ユメがまた先頭に立つ。
ユメは大きく深呼吸をし、電子ロック解除の為のマスターキーを鍵穴に差し込む。
ピピッという電子音がしたことを確認して、ユメは手筈通り煙幕を部屋の中に投げ入れる。
扉の下から白の煙幕が溢れてきたと同時に排斥者達が突入し、銃を構えた。
部屋の中は煙幕で真白に染まり、サーマルスコープで室内をくまなく見渡す。
「────やれやれ、相変わらず乱暴だな二号」
女の声が排斥者達の真正面から聞こえ、全員がそこに視線を移すと、そこには女のシルエットがサーマルスコープに浮き出た。
「────おま、お前は、六号なの、か?」
その女の姿をとらえた瞬間、アカリがあからさまに狼狽える。
死人でも見るような様子のアカリに眼前の女は笑みを浮かべた。
「やあ、先生もご健勝そうで何より」
「─────アネット、なのか?」
副隊長もまた狼狽え、構えていた銃を下ろした。
「おや?随分と感動してくれたようだ。いや、まあ、そうだよなぁ?だって────殺したヤツが生きてるのは可笑しいもんなぁ?」
ケタケタと笑う女は両手にアサルトライフルを持っていた。
しかし、彼女に今はその引き金を引く気は無いようで垂れるように腕から力を抜いている。
「いやあ、あの時は参ったぜ?顔面にナイフを斬り付けられた上に、土手っ腹に風穴開けられたんだ。痛くて痛くて痛くて仕方なかったぜ!?」
悲劇を演じる役者のように悲嘆な声を上げる女は相変わらず動けないでいる二人を見つめる。
「だがな?死にかけてた私を崇拝者とかいうヤツが拾ってくれたんだ」
「んな!?」
崇拝者、という言葉に二人が更に顔をひきつらせた。
「あの時の先生と違って、崇拝者は私を助けて、その上私をカイザーPMCに戻してくれたんだよ!」
相変わらず上機嫌に語る女の姿が煙幕が晴れてようやっとその女の顔がハッキリとした。
幾重にもある顔の傷、その顔にアスカは記憶を想起する。
それはあの戦場の記憶、戦場の兵士達を敵味方区別無く殺して回っていた狂気の怪物。
────そして、憎き恋人の仇の姿がそこにあった。
「お、まえ、はぁああああああ!!!」
形振り構わずアスカが憤怒のままに銃口を女に向け、トリガーを引く。
女はその弾幕を軽く避けて今度は不気味なまでにその口角をひきつらせて嗤った。
「ああ、お前はあの時殺し損ねた看護師?だったか。丁度いい。ここでお前もお仲間の所に送ってやるよ」
女が二丁のアサルトライフルをアスカに構え、引き金引いた。
火花と衝撃は同時にアスカに襲い来る。
唯の人間であるアスカではその弾幕に身を晒し、マリオネットのように血を噴いて踊るしかない。
───が、黒い影がアスカの視界を覆う。
「危ない!」
ユメの盾だった。
「ああクソ、キヴォトスのヤツがいるのかよ。白けるなぁ」
女が心底つまらなそうな声を上げて自分の攻撃を全て弾いたユメの盾を見つめる。
「大丈夫!?」
「あ、ああ。すまん。取り乱した」
ユメのお陰で正気を取り戻したアスカが眦に涙を浮かべて尻餅をつく。
「お前、変わって無いんだな」
アカリが淡々と女、六号に問いかける。
「はあ?変わったさ!お前が殺し損ねてくれたお陰でな。私はもう、殺せるなら何でもいい!昔みたいに殺す相手を縛らなくていいんだよ!」
六号はアカリに嗤い掛け、アカリは冷徹なまでに冷めきった目を言葉の変わりに六号に返す。
「お前ら、ここからは私がやる。副隊長、三人と地下に向かってくれ」
「………分かった。すまない」
「頼む、先生」
逡巡の後、副隊長はアカリ背中に謝罪を述べる。
「さあ、行こう」
ソラが床にへたり込んだアスカの肩を担いで副隊長に続く。
「ユメも来い」
「で、でも」
「アカリなら大丈夫だ。むしろ邪魔になる」
「分かりました」
ユメも副隊長の指示に従って部屋を出る。
扉が締め切られ、二人だけになった部屋は静まり返った。
「なあ、何故、お前はあの時、私達を襲った?」
「………さあ?気分かな」
アカリの問いに軽い口調で六号が答える。
「崇拝者は私達をあんな目に合わせた張本人だと分かっているのか?」
「え?無論だよ?当たり前じゃないか」
アカリの問いに愉快そうに六号が答える。
「お前は戦場でアスカの恋人を殺したのか?」
「そんなこと覚えてるわけ無いじゃないか。何せ、あそこじゃ毎日三十人は殺したんだもん。あ、けど、野戦病院を襲った時の事は覚えてるよ?反撃してこないヤツって殺しがいあるよね」
アカリの問いに心地良さそうに怪物は答える。
「最後に答えろ。お前は先生の敵か?」
「…………ああ、そうだよアカリ」
「………そうか、残念────でもないな」
問答の終了の合図はアカリが構えたライフルの銃口から飛び出した弾頭だった。