ならもう俺が魔法少女になるしかなくね? 作:来宮 エリカ
図書館内部はやはりと言うべきか、非常に静かで足音すら聞こえなかった。
不気味なもんだが、これもやはりというか、エリカの影響下にあることの証明でもある。
「迂闊に話せないな……さて、どうしたもんか」
「手掛かりが図書館しかない以上、魔法少女の痕跡を探っていくしかないだろうな」
「……一先ずは、一般客に紛れつつ、ってところか。それなら──」
キョロキョロと辺りを見渡し、図書館内を彷徨く人々の様子を見る。
その動きにはパっと見では違和感はなく、普通そのものだが、よくよく見れば一部の人間は同じ動きをパターンで繰り返しているだけだった。
まるでゲームのNPCだ。
見ていて気味が悪い。
やはり変に動けばめんどくさいことになりそうで……少し思い悩んだ末に、俺は影に話しかける。
「二手に分かれよう。俺は本を調べていくから、お前は図書館内を頼む。浮けるだろ?」
「なるほど。わかった、それならこっちはこっちで調べるとしよう」
そう言ってふわふわと、浮き去っていく影の後ろ姿を見送った俺は、改めて図書館をぐるりと見渡す。
「二手分かれるとは言ったが……さて、どうしたもんか」
手掛かりはないに等しい。
あるとすれば、図書館内に何かがある、というヒントのみ。
何を探せばいいのか、何を見つければいいのか、それすらも分かっていない状況だ。
ここになにかあるのは間違いないのに。
「……しょうがない。取り敢えず俺も図書館を歩いてみるか」
取り敢えず、まずは手掛かりを探すところから始めるか、と図書館内を歩き始める。
図書館はやはりと言うか、非常に広く、歪で、まるで迷路かのように無限に広がっている。
確かに何かを隠すならば最適な場所ではあるだろう。
まぁ……エリカが普通に物を隠す、とは考え難いが。
「そうせざるを得ない理由があれば、話は別だが……」
とてもじゃないが、今のエリカにそんな理由があるとは思えない。
腕の一振りで森羅万象を掌握する彼女に、不可能なんてものは存在していない。
仮に、彼女には手出しできない領域があるのならば、それは間違いなく付け入る隙だ。
もしそんなのが本当にあれば、の話だけども。
「……図書館。ここから連想ゲームしてみるか……?」
図書館と言えば『なんだ?』と言うところから、手掛かりを探してみることに。
とは言っても、そんなことは考えずとも分かりきっている。
図書館と言えば『本』だ。
ここは本を見るところであり、借りるところである。
それはいつの時代だって変わらない。
ならば──そこに魔法少女を絡めるとしよう。
「……魔法少女、特設コーナー」
足を止めた先には、一際大きな特設コーナーが設けられていた。
置いてある本は魔法少女に関するものばかりで、図鑑や図説、歴史や教育本など、その種類は多岐に渡っている。
その中で俺の目を引いたのは、魔法少女図鑑と書かれたそれなりに大きな本であった。
気になったのは他でもない、昨日の彼女のことだ。
「……名前わかんねぇけど、載ってるかな」
ペラペラと数ページ捲ってみる。
そこに載っていたのは、魔法少女の説明とその魔法少女が写った写真。
だがやはり数が多いからか、どれも簡素に纏められており、あまり詳しいことは書いていない。
書かれていることと言えば、魔法少女が持つ『名前』と、どんな戦い方をするか、ぐらいで能力などは描かれていない。
これより詳しいのがあれば、対抗策を生み出すのに使えるが……なんて考えながら捲っていく。
「魔法少女にご興味がお有りですか?」
そんな時だった。
突然、後ろから女性の声が聞こえて、本来ならば聞こえるはずのない言葉に驚きながら振り返る。
そこには事務服に身を包んだ、青髪の眼鏡の女性が本を抱えて立っていた。
──あり得ない。
エリカの能力は全ての人間に等しく適応される。
決まった行動を決まった時間に、日常を保つために魔法少女は認知させず、だが誰もが理解する、そんな世界のはずなのに。
目の前の人は自らの意思を持って動いている。
……エリカに関係する人か、俺と同じように何かしらの影響でエリカの能力に耐性を持つ人……もしくは、俺が知らないだけで、そもそも影響下に無い人……の可能性もあり得る。
とにかく慎重になるべきなのは間違いない。
「ま、まぁ……魔法少女をちょっと調べてて」
「そうですか、それでしたら……」
と言って、俺の観ていた本棚から幾つか選んで手に取る。
小綺麗なやつから古い本まで、様々だ。
その中から一つ、選んで俺に差し出す。
「これは如何でしょうか? 最新版のやつでして、昔のものから今のものまで、ありとあらゆる魔法少女が網羅されていますよ」
「『名前』も載っているんですか?」
「載っていますよ」
俺は持っていた本を棚に戻し、差し出された本を受け取って軽く開く。
載っていたのは魔法少女『名』。
魔法少女としての名前ばかり……まぁ、そりゃそうだろうな、としか言えないが。
それこそ本名とか載ってたら大問題だろ、としか。
ともかく。
軽く中身を覗いてから女性の方を見る。
「結構、色々載ってるんですね」
「魔法少女の歴史もそれなりにありますから」
あると言っても20年ちょっとだろうに。
「……取り敢えず、この本を借ります」
「わかりました……それと──」
と言って、司書さんはもう一冊、とても古い本を俺に手渡した。
発行年日は擦り切れていて読むことはできず、タイトルも掠れ掠れでなんて書いてあるのか、ほとんどわからない。
だが何か、他を寄せ付けない妙な雰囲気があった。
これでは誰も手に取らないだろう。
……誰も取らないから渡された、とかじゃないよな。
俺は恐る恐る聞く。
「こ、この本って、なんなんですか?」
「……きっと、貴方に
「必要……一体、何に?」
「ふふ、すぐに分かりますよ。きっと、ね」
もう一度、古びた本へと視線を向ける。
やはりタイトルは読めないのに、妙な雰囲気から遠ざけたくなってしまう。
俺は違和感と雰囲気から本を返そうと、司書さんへと視線を向ける。
ニコニコとした笑みを作っているが、ちょっと恐怖感もあった。
「……じゃ、じゃあ……借りていきます……」
そう言うと一つ礼をして去っていくのだった。
俺は仕方なく2冊の本を片手に、再度図書館を探索するために歩き出すのだった。