ならもう俺が魔法少女になるしかなくね?   作:来宮 エリカ

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それ、いらないよね?♡

 一人、人々が疎らに歩く町中での帰り道。

 学校での用事を済ませた俺は、無理やり渡された懐中時計を片手に家へと向かっていた。

 

 いきなり渡された『これ』。

 結局何かわからないままだった。

 

 

「懐中時計か……」

 

 

 懐中時計と言われて思い浮かぶもの──特にないな。

 

 そもそもあの黒い影、一体なんだったのか。

 人間でないことだけははっきりとわかる。

 

 俺の名前に、エリカのこと。

 そしてこの狂いきった現状を理解しているかのような発言。

 

 奴は俺を最後の希望と呼んだ。

 それが何を意味するのか──わからないほど俺は鈍くはない。

 

 だが。

 誰ができるというのか。

 もはや神にも等しい存在と化した、あの『来宮 エリカ』を止めることなど。

 

 はっきり言って無理だ。

 うん、無理。

 

 俺はたしかに彼女の奇跡に当たることはない。

 奇跡は間違いなく行使されるし、投げられたらまず間違いなく当たる。

 だが当たるだけだ。

 それによって何かが起こるわけでも、変わるわけでもない。

 

 何故効かないのか──それについて俺はこう考えている。

 最も近くで浴び続けてきたから、エリカの能力に対し抗体が出来たのではないのか、と。

 

 まぁ、所詮は俺の考察。

 実際のところはどうなのかわからない。

 

 何かしらエリカの能力が効き及ばない範囲がある可能性も。

 現に彼女は俺のことを見れていない。

 

 現実改変能力にも何かしらの制約があるはずだ。

 

 

「……現実は誰にも分からない、か」

 

 

 右手に握っていた懐中時計をポケットに入れようとした──その瞬間だった。

 

 

「違法物品の存在を確認」

 

 

 聞き慣れない声に思わず動きが止まる。

 今日はよく背後を取られる日だ、なんて普通は考えないようなことを思考しながら、俺は懐中時計を片手に握ったまま後ろを振り返る。

 

 すると屋根の上に可憐な姿をした、黄色に近い髪色を持つ少女が一人、屋根の上からこちらを見下ろしていた。

 

 

()()()()──!? 何故……!」

 

 

 その姿は紛れもなく、魔法少女だ。

 

 彼女は屋根の上から飛び降りると俺の前に立つ。

 その目からはまるで意思のようなものを感じ取れない。

 

 それもまぁ、当然というべきか。

 なんせこの世界に存在する魔法少女は、片っ端から()()()()()()()その意思を奪われている。

 

 例えるならば……観測兵器、と言ったところだろうか。

 

 エリカは現実改変能力が及ばない部分を、魔法少女という兵器を用いることでカバーしているのだ。

 

 そこに『人道』なんてものは存在しないが。

 

 

「それを渡してください」

 

 

 と、手を伸ばす名も無き魔法少女。

 

 手を伸ばす先は俺の右手、即ち懐中時計だった。

 

 

「な、なんでこれを?」

「それは()()()()()()()()物品です。今すぐに渡してください」

「登録? なに言って──」

 

 

 俺がその先の言葉を紡ぐ前に、彼女の左腕が振り払われる。

 すると突如大きな切り裂くような音と共に、俺の足元に突然亀裂が生まれる。

 

 いや、亀裂と言うよりも、綺麗な一直線──切り裂き跡と言えるだろうか。

 

 彼女の手にはナイフのようなものが握られていた。

 

 

「は──?」

 

 

 攻撃された──その事実に、俺の顔は青ざめていく。

 

 あと一歩ずれていれば、間違いなく当たっていた──ということは今の攻撃は警告。

 次はないぞ、という警告だ。

 

 

「ちょ、ちょっと待て!? 俺が持ってるのは、ただの懐中時計で、攻撃なんて──!?」

「抵抗を確認。奪い取ります」

 

 

 意思一つ感じ取れないような物言いに、俺は恐怖と困惑で後退りしてしまう。

 

 覚束ない足の後退りでは確かに踏み抜くことはできず、グラリと大きく揺れた後、後ろへ倒れ行く。

 

 そしてそこに奴は──ナイフを振りかぶった。

 

 

「死ッ──!?」

 

 

 死ぬ、紛れもなく、これは死ぬ。

 

 俺は抵抗一つ取れずにその刃が当たる、その寸前のことだった。

 

 突如、倒れいく俺の体を横から何かが突き飛ばす。

 あまりの勢いに軽く飛んでいったが、その直後に斬撃の音が響き渡る。

 

 

「ま、マジ、かよ……」

 

 

 そうして攻撃先に視線を向けると、突き飛ばれる直前まで俺がいた場所に大きな亀裂が一つ。

 

 今、突き飛ばされなければ間違いなく死んでしまっていた。

 

 冷や汗とともに一体何がと、視線を向けるが何の姿もない。

 

 魔法少女も俺の不自然な動きにキョロキョロと辺りへ視線を向けているが、誰の姿も見当たらなかったのか俺の方に向き直る。

 

 

「逃げ、ろ」

 

 

 なんの前触れもなく耳元で聞こえた声に、俺は強制的に意識が逃げる方法へと向かう。

 

 目の前の魔法少女がその手に持ったナイフを振り上げる前に、急いで立ち上がった俺は、その場から逃走すべく走り出す。

 

 

「そう、だ、そのまま、逃げろ」

「な、なに!? 誰だ!? ──まさか、この声は!」

 

 

 それは先ほど聞いたばかりの声。

 学校で懐中時計を押し付けてきた、黒い影のような存在の声だった。

 

 走りながら周囲を見渡すが、先程のように姿形は確認できず。

 周りにあるのは明らかに様子のおかしい俺を無視する人々の姿だけ。

 しかし姿は間違いなくないのに、耳元で声が響き続ける。

 

 

「裏路地、だ。どこでも、いい、人のいない、廃ビルに、急げ」

 

 

 どうにも受け入れ難いが、現状何処に逃げればいいのかも分からない俺は、一先ず影の声に従い裏路地へと入る。

 

 響いてくる足音。

 間違いなく、あの魔法少女が追ってきている。

 

 追いつかれればどうなるか……なんて考えるだけ無駄だろう。

 

 後ろから迫る足音に恐怖しながらも、細い裏路地を駆け抜けていく。

 

 

「屈、め!」

「ッ──!」

 

 

 急かすような影の声に俺は急いで頭を下げたその瞬間、目の前で積まれていた籠が突如斜めに真っ二つになる。

 

 

「ま、マジかよ……!?」

 

 

 少しよろけそうになりながらも、急いで立て直し走り続けていく。

 すると目の前に人の気のない古びたビルが一つ、辺鄙なところに存在していた。

 

 恐らくエリカの街並み再編に巻き込まれ裏に押し込まれた結果、使われなくなったと言ったところだろうか。

 

 俺は影の声を聞くこともなく、急いで廃ビルの中へと入っていく。

 

 

「奥だ、奥に、急げ」

 

 

 声に導かれるままに走り続けて、二階、三階と辿り着く。

 そのまま屋上へと向かうとした時だった。

 

 

「逃げるのは無駄です。大人しくそれを渡してください」

「……そりゃそんぐらいできるよな」

 

 

 階段の上には、こちらにナイフを向ける魔法少女の姿。

 

 どうやら屋根の上に飛び、先回りしてきたようだ。

 

 魔法少女はその手に握ったナイフをゆっくりと上に掲げる。

 その姿を見た俺は急いで走り出すと、後ろから斬撃の音。

 

 そこから逃げるように俺はひたすらに走り続けた。

 だが……いつまでも逃げる、というのは不可能である。

 

 

「く、そっ……行き止まりかよ!」

 

 

 後退りしながら、そこから離れようとした時にはもう遅かった。

 

 

「今すぐに、渡してください」

「……年貢の納め時、ってやつか」

 

 

 壁を背にして魔法少女を見つめる。

 相変わらず感情のない目で、俺の手に握られた懐中時計を見つめていた。

 

 考えてみれば。

 これを渡せば一件落着なのだ。

 

 俺は命を狙われないし、このままいつもの日常に戻れる。

 

 

 

 

 

 

 だが──

 

 だが、それでいいのだろうか。

 

 本当にこれを渡して終わりで、それで済むのか。

 

 非合理的な考えが頭の中を駆け巡る。

 

 そうこうしている間にも、奴は遂に腕を振り上げた。

 もうここまでか──そう思った瞬間のことだ。

 

 

「懐中時計、を! 胸の前に、掲げろ!」

 

 

 突如、影の声が大きく荒れる。

 

 俺は咄嗟のことに言われるがままに行動。

 すると懐中時計の蓋が開き、何故か光り輝き出す。

 

 

「『トランスアップ』と、叫べ!」

「えっ──こ、こうか!? トランスアップ!」

 

 

 俺の声に意志も感情もないはずの魔法少女がの動きがこわばる。

 と言うよりも明らかに動揺していた。

 

 だがそれよりも。

 俺の掛け声に懐中時計はより強さを増していく。

 

 

『OK! Ready!?』

「な、なん──」

 

 

 その先は、影に言われずとも理解できた。

 何故かと問われると、答えづらいが……こう答えるとしよう。

 

 

 

 直感だ。

 

 

 

「ッ! 変身ッ!!」

 

 

 俺の声が響くと同時に魔法少女が飛び出す。

 それよりも先により強く、更に強く光り出す懐中時計。

 

 そうしてその光は、あっという間に周囲の光景を飲み込んでしまったのだった。

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