ならもう俺が魔法少女になるしかなくね?   作:来宮 エリカ

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「俺の決意」

 そうして場は静寂に包まれた。

 空から聞こえ始める、鏃が空を切る音を除いて。

 

 ユウキは分かっていた、それを回避する手段は一つだけあると。

 賭けにはなるし、それをすること自体には忌避感があることも。

 

 だがここで死ぬわけにはいかないことも、また理解していることだった。

 

 数の多さから、それを能力で避けるなんてのは到底不可能。

 

 故に、二者択一。

 

 この鏃の雨を受け切るか。

 もう一つ、傘を立てるか。

 

 もはや選択肢は残されていない。

 

 ならば、非道の傘を立てるべきだと思うな☆

 

 

「く、そったれぇぇえええええええッッッ!!!!」

 

 

 ユウキは走り出した。

 唯一傘となる、鋼鉄と化した魔法少女に向かって、()()()()

 

 外に向かって走り出した。

 

 彼は普通の人間だ。

 普通の人間であるが故に、善良であった。

 

 善良であるが故の選択。

 

 開いた壁から飛び出そうした、が。

 突然何かに足を掴まれ、身動きが取れなくなる。

 振り返ると、そこには半身が鋼鉄となったはずの魔法少女が、右手だけを人間のそれに戻し、ユウキの足を掴んでいた。

 

 

「ま、まさか……!? そこまでの執念で──!?』

 

 

 だが、そこで取った行動に、ユウキは思わず困惑する。

 

 彼女は突然ユウキの足を引っ張ったかと思うと、自身の身体の下に移動させ、鏃から覆い隠すように身体を丸めた。

 

 そう。

 自身が放ったはずの攻撃から、ユウキをまるで守ろうとするかのように動いたのだ。

 

 

「……!? な、なに、を……!?」

 

 

 少女は何も語らない。

 ユウキが何かしら聞こうと、視線を少し上げようとした。

 

 その直後、凄まじい勢いの無数の矢がまるで雨の如く振り注ぐ。

 一本一本の勢いは凄まじく、ビルを次々と削り取っていくほど。

 

 それが致死の攻撃となると、ユウキは目で見ずとも音で理解できるほどだった。

 

 だからこそ理解できなかった。

 何故、庇われているのか、と。

 

 しかしその疑問は予想だにしない声によって解消されることとなる。

 

 

「……そうだ、思い出した」

「っ──!?」

 

 

 声の主はユウキの頭上。

 その身の殆どを剣と化した、黄色の魔法少女その人であった。

 

 彼女は矢の雨に全身を晒されながらも、言葉を紡ぎ続ける。

 

 

()()()()、私たちに……言った……人を、みんなを、()()べき、だと」

「ま、待てっ、一体何の話をっ……!?」

「……だから、私たちは、()()()()()()()()()、と、言って……でも、それは……あいつは、正しくて……そうだ。だから、一人に……」

 

 

 紡がれる言葉はもはや無茶苦茶であったが、ユウキはなんとなくそれが意味ある言葉だと理解していた。

 

 そうして雨は止み、周囲に広がるのは凄惨な光景。

 穴に満たされ、一歩進むことすら困難なビル。

 

 そこにいたのは背に幾つもの屋を背負った少女と、それに庇われた一人の魔法少女だけであった。

 

 ユウキが彼女の下から這い出ると、彼女は遂に全身から力が抜けて膝をつく。

 

 元々限界だったのだ。

 精神も、肉体も、その器も。

 

 

「……お願いが、ある」

「……なんだ? 死ねとか言われても、聞けねぇぞ」

「エリカを、止めてくれ……どうか、この物語に、終幕を……」

「……俺に止められると?」

「その力があれば、不可能ではない、はずだ……」

 

 

 そう言って、彼女は自身の胸元に手を突っ込む。

 グチャッ、という肉を掻き分ける音と共に出てきたのは、なにやら黒い玉のようなもの。

 

 それをユウキへと押し渡す。

 

 

「こ、これ、は……?」

「私の、力の、源……それを魔換変機に、取り込めば、私の、力、が……」

 

 

 崩れ始める肉体。

 もはや言葉を紡ぐことも難しいようであった。

 だが、だがそれでも、彼女は言葉を続ける。

 

 目の前の希望に、最後の希望に、全てを託すため。

 

 

「頼、む。止めて、くれ……次、は……としょ、かん──」

 

 

 そう言って、完全に肉体は朽ち果てた。

 そこには肉片すら残らず、もはや人という存在であった塵しか残っていない。

 

 ユウキはしばらく呆然としていたが、ふと変身が解けると同時に膝をつく。

 

 

「なんなんだ、一体……この世界に生まれ落ち、何が起きてるんだ……!?」

 

 

 それは当然の疑問。

 だが一つ分かっていることはあった。

 

 少なくとも、エリカの支配が崩れ始めている、ということだ。

 

 

「影……おい、影! 教えろ!! なんなんだよ、これは!!」

「……軌条 ユウキ……最後の、希望なんだ、お前が……」

「だからっ、なんなんだよ……!? なんで俺が希望なんだ!?」

「お前だけが、この世界の行く末を、変えられる」

 

 

 そう告げた影は、突然ユウキの背に触れるように現れる。

 後ろから覆い被さった影は、黒い玉のようなものをユウキから取ると、ユウキの左手に持っていた懐中時計へと押し当てた。

 

 すると、黒い玉は懐中時計に飲み込まれていき、そうしてあっという間に玉はなくなって消えてしまった。

 

 

「これでお前に、武装の力は託された……戦う力を、お前は得た……」

「……俺はなにをすればいいんだ? お前は、なにをさせたいんだ?」

「戦え、戦って……魔法少女を討ち、力を蓄えろ……時は、いずれ、訪れる……」

 

 

 そうして影は消える、今までと同じように。

 一人取り残されたユウキは塵となった魔法少女を背に歩き出す。

 

 心の内に様々なものを抱えて。

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