なのはの胸から腕が生えている光景を見た私は危うく我を失いそうになった。
それをギリギリのところで引き戻してくれたのは精霊達だった。
『落ち着け主よ、あの娘はまだ死んではいない。あ奴からリンカーコアを剥き出しにされているだけだ。
身体そのものは無事である』
『樹さん、死んでさえいなければ私達で癒すことができます。落ち着いてください』
シェイドとドリアドの呼びかけで何とか冷静になってきた。
そして、改めて目の前にいる人物に話しかける。
「誰ですか?貴方は」
「そのようなことお前には話すつもりはない」
そう言って仮面の男はヴィータに向かって視線を流す。
それを受けたヴィータはなのはから蒐集した魔力を持ち去ろうと転移魔法を発動させようとする。
(まずい、逃げられる)
私はとっさに自身が使える結界のなかで、内側からは脱出困難な魔法を発動させるべくシェイドにシフトする。
(間に合え!【エレメンタル・シフトシェイド】!)
「【スィーマーバンダ・アイソレイション 】!」
私の魔法が僅かに早く発動し、新たな結界が展開される。その直後ヴィータの転移魔法が発動するが、私が張った結界にはじかれ移動は失敗する。
「なんだ!?この結界は!」
「これでそう簡単にはこの場からは逃げられませんよ」
私の言葉にヴィータは苦虫を噛んだような顔をし、仮面の男も表情は分からずとも多少動揺していた。
*************
樹がザフィーラを倒して結界内に侵入したその後。ザフィーラのそばに金髪で優しそうな女性が現れる。
「ザフィーラしっかりして、大丈夫!?」
女性の声に気絶していたザフィーラは意識を取り戻す。
「……っ、う、シャマルか?」
「よかった無事なのね」
「う、む…なんとかな…、!そうだ奴はエルナトはどこに行った!?」
ザフィーラの問いにシャマルが言いにくそうに答える。
「エルナトというあの魔導師は、私の結界を破壊せずに結界内に侵入したわ…」
「侵入だと?お前の結界を破壊せずにか?」
「ええ、そうよ」
シャマルの答えに「ありえん…」と呟くザフィーラ。
だが結界はいまだ存在し、そしてシャマルはこのような嘘は言わないことはよく知っていた。
そんな中、結界内でなにか動きがあったのか、シャマルの顔が強張る。
「どうかしたのかシャマル?」
「いえ、結界内で新たな結界が張られたの」
「どういうことだ?」
ザフィーラが不審がっているとそこにやや聞き取りにくい念話が聞こえてくる。
《…ャマル聞こ…るか?聞こえたら返事を…てくれ》
「ヴィータ!?よかった無事なのね!?」
「ヴィータよ、そっちにエルナトが向かったはずだが今どうなっている」
シャマルとザフィーラの問いにヴィータが応える。
《そのエルナトってやつ…妙な結界を張って転移魔法…妨害しやがった。私ひと…じゃどうにもなりそうにない。
シャマル何とか外…ら干渉できないか?》
「やってみるわ、少しの間待ってて」
念話を終えたシャマルは早速結界に対して探査と調査を開始する。
その様子を眺めながらザイーラは、
「シャマル、私に出来ることはないか?」
「そうね、ヴィータ一人だと転移出来なかったと言っていたから、もしかしたら私でも干渉が難しいかもしれないわ。
もし魔力が足りなさそうだったらザフィーラも手伝ってちょうだい」
「うむ、分かった」
その言葉を最後にシャマルは探査に没頭する。
*************
「クソ、なんだこの結界は!?」
仮面の男は私が張った結界を何とかしようと魔法を何度もぶつける。
しかし、それぐらいではシャドウを用いて張った【スィーマーバンダ・アイソレイション】は破れない。
この結界は内側からはそれこそなのはのスターライトブレイカー並みの威力がなければ傷をつけることさえ難しいのだ。
ただ外側からは内側と比べるとそこまでの強度は無い。
シャドウにシフトしていたので、ヴィータが結界の外にいる仲間と念話で連絡を取っていたのはシャドウの付加効果で盗聴していたので分かっていた。
そのためヴィータの仲間や、仮面の男の仲間が来る前に決着を付ける必要があった。
「さて、あなた達の仲間が来る前に拘束させていただきます」
私の言葉にそれまで結界に魔法を撃っていた仮面の男と様子を窺っていたヴィータはこちらを振り向く。
「ちぃ、こんなところで捕まってたまるか」
「クソ仕方がない戦うしかないか…《ロッテ聞こえる?こちらはアリアよ。作戦は半分成功、現在傭兵魔導師のエルナトによって結界内に足止めされているわ。
こちらは何とかして結界から脱出を試みてみるけど、万一を想定して貴女はあの人に報告をお願いするわ》」
仮面の男の念話は私には筒抜けである。念話に出てきた名前らしきものに思考が逸れそうになるが、今はその時ではないと思考を戻す。
「【ダークサイス】」
シャドウを用いた魔法、ダークサイスを発動する。
私の周囲に闇色の鎌が発生し浮かび上がる。威力こそザフィーラに使ったイフリート・エッジには及ばないが発生する数がそれより多い。
私は仮面の男とヴィータに向けてダークサイスを飛ばす。
二人は必死になって躱し、弾き、逸らす。本来のヴィータなら以前の雪辱を果たすために向かってきただろうが、今はなのはの魔力を蒐集したため撤退が第一目標になっている。
そのため仮面の男よりも必死になって避けている。
何度か魔法を放ちそれを二人が避けていると、先ほどヴィータの念話盗聴で聞こえたシャマルと思われる念話が聞こえた。
《ヴィータ聞こ…る?今から結界に干渉…試みるわ、少し辛いかも知れな…けど座標を特定するのに足…止めてちょうだい》
《分かった、何とか耐えて見せる》
私はその念話が聞こえたため若干ヴィータに向ける魔法を多くする。だが防御に徹しているヴィータにはダークサイスの攻撃では威力が足りないのかヴィータの防御を突破できない。
そんなことをしていたらシャマルの念話が聞こえてくる。
《ヴィータ、いくわよ【旅の鏡】発動!》
念話が聞こえるとほぼ同時にヴィータの後方に円形の魔法が発生する。そしてそこから女性の腕が伸びヴィータを掴むと勢いよく引っ張り込む。
僅かに遅れてダークサイスが通過するがすでに円形の魔法は消えており何もない空間を切り裂くだけの結果になった。
「逃げられたか……」
私は逃げられた悔しさよりも、結界に干渉した魔法の腕に感心していた。
そして残った仮面の男だけは何としても捕まえると改めて心に決めた。
その後、樹の魔法を避けたり迎撃していた仮面の男は、最終的には樹の魔法にて捕まることになるのだった。
捕まる直前、仮面の男の声はなぜか涙声だったとか…
*************
無事に脱出できたヴィータは結界の外でシャマルとザフィーラに合流できた。
「助かったぜシャマル、それにザフィーラもな」
「いえ、無事に脱出できて何よりです。何とか結界に干渉できましたが、もう一度やれと言われたら難しかったでしょう」
シャマルの答えにヴィータは吃驚する。
「シャマルでもそんなにきつかったのか!?」
「ええ、ザフィーラが居たので何とかなりましたが、一人では魔力が足りなくて干渉できなかったでしょう」
「本当にギリギリだったんだな……いったい何者なんだ?あのエルナトいう魔導師は……」
「とにかくいつまでもここにいるのは危険だ、移動するぞ二人とも」
ザフィーラの意見に反論は無い二人は速やかに移動していく。その場にもう一人の仮面の男がいたことも知らずに……
第53話終了です
今回は結界内で起こった出来事を焦点にしました
仮面の男の正体が既にばれていますが、この後の話で背後関係を突き止める予定です
魔法紹介
スィーマーバンダ・アイソレイション ほぼ直訳で隔離結界、まんまですね。内側からでは脱出困難ですが外側は内側よりも強度が低くシャマルぐらいの補助魔法の腕と二人分の魔力があれば干渉可能
ダークサイス 闇色の鎌が大量に発生する。威力自体はサラマンダーのイフリート・エッジよりもかなり低いが、威力の低さを数で補う魔法