私、リンディ、クロノがグレアム提督の下へ向かっている途中、闇の書について調べていたユーノから連絡が入った。
―――ピリリ
「ん?ユーノから連絡か?此方クロノだ、どうしたユーノ」
『もしもしクロノ?闇の書について新しい情報が分かったから、そっちに送信するよ』
「通信で話せないのか?」
『どこで傍受されるか分からないし、それに情報の内容が内容だしね』
「そうか、わかった。ならこちらのデバイスに送ってくれ」
『ん、了解』
その言葉が終わってすぐにクロノのデバイスに闇の書についての情報が送信される。
その情報を視たクロノは、
「な!?」
「どうしたの?クロノ」
「いえ、この闇の書の情報についてなのですが…実際に視たほうがほうがいいでしょう。艦長のデバイスにも送信します」
「クロノ、私にも送ってちょうだい」
クロノが視た情報が気になったので私にも見せてもらえるように頼んだ。
「分かった」
そうして送られてきた情報にはこう書かれていた。
【『闇の書』とは本来の名前ではなく、正式名称は『夜天の魔導書』。
本来の目的は各地の偉大な魔導師の技術を蒐集し、研究するために作られた『主と共に旅する魔導書』】
「この情報が正しいとして、なぜ守護騎士達はあの魔導書を『闇の書』と言ったんでしょう?」
私の疑問にクロノは、
「破壊の力を振るうようになったのは、恐らく歴代の持ち主の誰かがプログラムを改変したからだと思う。
多分ヴォルケンリッターもその時記憶をすり替えられたんだろう」
夜天の書についての情報にはまだいくつかのことが書いていたが、最も大きな情報が名前のことだった。
闇の書に変わってからのことはクロノやリンディさんのほうが詳しいだろう。
なので、いまさらながらクロノに闇の書が起こした破壊行動を聞いてみた。
「クロノ、闇の書と夜天の魔導書を比べて変わったところをわかる範囲でまとめてみましょう」
「そうだな…、まず名前は『闇の書』ではなく『夜天の魔導書』だったこと、これまでの破壊行動は歴代の持ち主のプログラムの改変ではないかのこと、
そして持ち主に対する性質の変化が最悪だ。一定期間蒐集が無いと持ち主自身の魔力や資質を侵食し始めるし、完成したら持ち主の魔力を際限なく使わせる。
無差別破壊のために……だからこれまでの主は完成してすぐに……」
そこまで聞いて私は思った。聞いた話によると前回起きた闇の書の事故は11年前。闇の書が転生してから10年以上経つのになぜ今まで蒐集が行われなかったのか。
そしてなぜ今、守護騎士達は焦ったように蒐集をしているのか。
クロノが話してくれた闇の書の改変で持ち主が蒐集しなかった場合、闇の書が持ち主を侵食するというのがあった。
つまり、現在の持ち主は今まで蒐集をしていなくて、その結果闇の書が持ち主を侵食しているのではないか?
そしてそれを知った守護騎士達は自主的に蒐集をしているのでは?
私はその考えをクロノに話した。
「それは…確かにあり得るかもしれない。…だとするともうあまり時間は無いかも知れないな…」
「でもそうなると、なぜグレアム提督は闇の書を完成させようとしたのかしら…」
リンディさんの言葉に私は憶測を踏まえて言ってみる。
「ただの憶測ですが、もしかしたらグレアム提督は独自に闇の書を何とかする方法を持っているのでは?
そしてそのために闇の書を完成させる必要があるのでは…」
私の言葉に二人は言葉を発することもなく沈黙をする。やがて、
「ここで話していても埒はあかないわ、グレアム提督に会いに行きましょう」
その言葉を機に私達はグレアム提督の下へと再び歩き出す。
*************
「お父様、アースラからリンディ提督とクロノ執務官、そして魔導師のエルナトが訪ねてきました」
アリアの言葉にグレアム提督は一瞬眉を顰め、
「リンディ提督だと?訪ねてくる連絡などあったか?」
と聞く。それに対しアリアは、
「いえ、特に連絡は受けていません。ただ重要な話があるということです」
アリアの話にこんどはロッテが反応する。
「お父様、アースラが現在行っているのは闇の書に関してです。もしやそのことで何かあったのでは?」
「まさか私達の変装がバレたのかしら?」
アリアとロッテは様々な憶測を話しているが、グレアム提督は、
「いえ、わざわざ会いに来たのだ。無碍にするにもいかないだろう。二人ともリンディ提督と他2名を通してくれ」
「お父様がいうなら…分かりました」
*************
「お久しぶりですグレアム提督」
「失礼します、グレアム提督。アリアも久しぶりだな」
「失礼します。初めまして、エルナトと申します」
私達は部屋に入るなりそれぞれ挨拶をする。
「リンディ提督とクロノは久しぶりだな、そしてエルナトといったな、初めまして私はギル・グレアムだ」
私達の挨拶を返したのは温厚そうで物腰穏やかだが、とても威厳のある人物、この人がギル・グレアム提督だった。
「突然の訪問で申し訳ありません。現在私達が関わっている案件にてグレアム提督にも関係がある為参上しました」
「ふむ、一体それは何かね」
「闇の書です」
リンディさんの言葉に一瞬だけグレアム提督は反応するが、
「詳しく話してくれるかね?」
と、こちらを促した。
*************
一通り話したところで、
「そうか、闇の書が再び活動を開始したのか…」
「はい、それと守護騎士とは別に仮面の男が蒐集に協力しています」
「仮面の男とはなんだね」
「先程話した協力してくれている魔導師を後ろから襲い、リンカーコアを抜き出した男です」
仮面の男の話になるとアリアとロッテがほんの少しだけ顔が強張る。だがそれに気づかないようにして話を進める。
「一度エルナトが捕獲したのですが、何者かの手に因ってアースラのシステムをダウンさせられ逃亡されました」
「つまり仮面の男には他にも協力者がいると?」
「私達はそう考えています」
仮面の男の正体には触れずにすべてを話した私達に、
「分かった、こちらでも調べてみよう」
「ありがとうございます」
そう言って私達は部屋から出る。その直前、私だけ独り言のように言う。
「あぁそうです、もし仮面の男に会ったらこう言ってください。次は手加減はしないと」
*************
三人が部屋から去ってから暫くして。ふと見るとアリアが物凄い汗を掻いていた。
「ど、どうしたのアリア!?」
「い、いえちょっとエルナトに捕まった時のことを思い出しただけよ…」
「それにしたって物凄い汗よ、そんなに酷かったの!?」
「私じゃ多分どうやっても勝てないと思うわ」
「それほどなの!?」
アリアとロッテ、二人の話を静かに聞いていたグレアムが口を開く。
「リンディ提督と去り際のエルナトの言葉、あれは恐らくこちらのことを既に知っているのだろう」
「まさか!そんな!?」
グレアム提督の言葉に否定をしようとするロッテ、だがアリアも、
「いえ、恐らくお父様の言っていることは合っていると思います。エルナトが去り際に放った言葉と共に私に殺気を放っていましたから…」
「嘘!?気づかなかったわよ!?」
「このまま作戦を続けてもいいが、間違いなく次は正体を暴かれ、さらには闇の書の封印もままならないだろう」
「それではお父様の悲願も叶いません」
「だが、現在の闇の書の主は何の罪もない。私一人のために闇の書もろとも封印してはいけなかったのだ」
グレアム提督の言葉に部屋にいる二人も静かになる。そしてアリアが、
「では今後はどうしましょうお父様」
「うむ、こちらの手の内を明かすしかないだろう。そのうえで彼方がどのような判断をするかは分からないがな…」
「分かりました、お父様がそう判断したのならば私達はそれに従います」
「では明日にでもリンディ提督にアポイントを取り付けます」
「あぁよろしく頼む」
後日、グレアム提督から連絡を受けたリンディ提督とクロノは、現在の闇の書の主を数年前に発見しその時から監視と生活の援助を行っていたと聞かされた。
そして現在の主が八神はやてだということがその時に分かった。
グレアム提督が計画していた闇の書封印は、闇の書が完成すると起動までに一時的にわずかな隙が発生し、その時に新しく開発した新デバイス、デュランダルで永久凍結封印を施すというものだった。
だが、やはり現在の主であるはやてには何の罪も無いのに封印してしまってもよいのか、今までも悩んでいたらしい。
しかしもし、はやてを救うことができるならこちらも最大限手を貸すと言った。
リンディさんとクロノは悲しい事故が起きないよう絶対に阻止して見せますと答える。
そしてグレアム提督はクロノに新デバイス、デュランダルを手渡し「頼む」と言った。
その横で私は一度はやてに会ってみようと考えていた。
第56話終了です
今回はグレアム提督とアリア、ロッテの話になりました。
少々強引な形になりましたが今後はアリア、ロッテが戦力に入ります。
次回から闇の書との戦いが始まる予定になります。
今回もずいぶんと遅くなってしまいました。