ギャンブラー勇者の鉄壁なる「棺桶」管理術 作:ドラクエ風短編小説
物語の始まりは、王様から依頼された魔王討伐の旅路ではなく、アリアハンのカジノだった。父オルテガの影響もあり、世間は「魔王討伐の希望」だのと期待していたが、俺(34)には興味がなかった。今日も スロットのレバーを叩き続ける俺の隣で、ド派手な服を着た男が、すっからかんの財布を振りながら泣いているのが、遊び人のジェニー(21)だ。
「兄貴ぃ!今の目押し、神業だねっ!ボク、兄貴についていけばすぐに憧れの大賢者になれる気がするよ!」 調子のいい奴だと思ったが、俺はこいつが嫌いではなかった。ギャンブラーと遊び人、属性は違えど、まっとうな社会のレールから外れた者同士のシンパシーを感じたのだ。
「いいかジェニー。人生はギャンブルだ。期待値のない戦いには乗るな」
「へへっ、さすが兄貴! 深いなぁ!」
俺は王様から無理やり持たされた50ゴールドを全額スロットに突っ込み、そして見事に溶かした。残ったのは、旅の支度金という名の軍資金が底をついたという現実と、無駄にやる気だけはある遊び人の相棒だけ。 こうして、伝説(笑)となる勇者一行の旅が幕を開けた。
城を出て最初の草むら。現れたのは、一匹のひ弱なスライム。 「さあジェニー、景気付けに一発かましてやれ! お前の『遊び』で敵を翻弄するんだ!」 「任せてよ兄貴!必殺、ジェニー流・大爆笑……あだっ!」
威勢よく飛び出したジェニーだったが、何もない平地で自分の足をもつれさせて転倒した。そこへ、スライムのやる気のない体当たりがジェニーの後頭部を直撃する。『痛恨の一撃!』
――パリン。
乾いた音が響いた。 ジェニーの頭上に表示されたHPゲージが、一瞬でゼロになる。 「……え?」 わずか一撃。しかも相手はスライム。 ジェニーの体は淡い光に包まれ、次の瞬間には見覚えのある「派手な色が施された不気味な木箱」へと姿を変えていた。魔王討伐にでも行ってみようという生ぬるい考えの冒険は、一歩目にして「お荷物(棺桶)」を抱える羽目になった。俺は、目の前に転がる棺桶を見つめて、深いため息をついた。 「……開始、三秒かよ」
俺はジェニーを生き返らせるため、そして戦力を補充するために、仲間を求めてルイーダの酒場へ駆け込んだ。 「神官を呼んでくれ!あと、腕の立つ奴を……」
だが、そこで俺を待っていたのは「奇跡」の出会いだった。
「こんにちは、勇者様!武闘家のリンです。私、力には自信があるんですよっ!」 元気いっぱいでショートカットが似合う、とびきりキュートなリン(19)。
「はじめまして勇者様!私は賢者のセーラ。貴方の判断に従いましょう」 クールな眼差しと、知的な美貌が眩しいセーラ(25)。
俺は、手元の「ジェニー蘇生用ゴールド」を握りしめた。 (……待てよ。ここでジェニーを生き返らせたらどうなる? あのうるさい遊び人が、この美女二人との甘い時間を台無しにする……)俺は、静かにゴールドを懐にしまった。
「……勇者様、その派手な色の棺桶は?」 心配そうに覗き込むリンに、俺は最高に「切ない表情」を作って見せた。
「……彼はジェニー。俺の、かけがえのない相棒だ。だが、彼は今、大賢者になるための『魂の忍耐修行』の最中なんだ。
「修行……ですか? 棺桶の中で?」 セーラが怪訝そうに眉をひそめる。当然の反応だ。普通、死体安置用の箱で修行はしない。
「そうだ。彼は自ら志願したのだ。魔王の放つ邪悪な波動から世界を守るため、あえて『死の淵』に身を置き、この箱に魔を封じ込める生贄(デコイ)になると」
「そんな……! 自分の命を、世界のために?」 リンの瞳が、みるみるうちに潤んでいく。単純だ。
セーラも「……興味深い試練ね。私も見届けるわ」と納得した。期待値以上の反応で、俺は心の中でガッツポーズをした。
棺桶の隙間から、幽霊状態のジェニーが(兄貴ぃ!今の絶対嘘だよね!?ボク、修行なんて一言も……でも、兄貴がそう言うなら、ボク大賢者になるために頑張ってみるよ!)と健気に決意を固めている。俺は、美女二人に聞こえるように呟いた。 「いいかジェニー。絶対にお前の死を無駄にはしないからな!」
「さあ、行こう。ジェニーも、君たちのような美しい仲間が増えて、箱の中で喜んでいるはずだ」こうして、勇者と二人の美女、そして「修行中」という名の放置を食らった棺桶ジェニーの、奇妙な旅が幕を開けた。