ギャンブラー勇者の鉄壁なる「棺桶」管理術 作:ドラクエ風短編小説
ルイーダの酒場でリンとセーラという最高の手札を引き当てた俺は、意気揚々とアリアハンの地を後にした。目指すはレーベの村。道中の魔物など、今の俺たちには敵ではない。なぜなら、俺たちのパーティーには、物理法則を超越した「究極の防具」が同行しているからだ。
「リン、左だ! セーラ、呪文の援護を!」
草原の向こうから、不気味な金属音を響かせて『さまようよろい』の群れが姿を現した。俺はさっそうと剣を抜き、指揮官のように鋭い指示を飛ばす。その実、俺の意識の九割は、背後に引きずっているはでな棺桶に集中していた。
さまようよろいが重い剣を振り上げ、こちらに突進してくる。通常なら盾で受けるか、回避を選択する場面だ。だが、俺はあえて「無防備な隙」をさらけ出した。
「しまっ――うわあぁっ!」
わざとらしく足をもつれさせ、地面に転がる。俺を狙っていた鎧の剣は、勢い余って俺のすぐ隣にある『それ』に直撃した。
ガギィィィン! と火花が散り、強烈な衝撃が棺桶を襲う。
「ジェニィィィーッ! 大丈夫か、ジェニー!」
俺は悲痛な叫びを上げた。その声は、森の奥まで響き渡らんばかりの熱演だった。 俺の窮地、そして仲間の棺桶が攻撃された光景に、リンの正義感が爆発する。
「なんて卑怯な……! 修行中のジェニーさんを狙うなんて! 勇者様、ここは私に任せてください!」
リンの怒りの飛び膝蹴りが鎧の胸板を貫き、鋼鉄の身体を粉砕した。彼女の瞳には、仲間を案じて叫ぶ俺の姿が「情に厚い理想のリーダー」として映っているようだった。期待値通りの反応だ。
一方、棺桶の中では、阿鼻叫喚の地獄が展開されていた。 (兄貴ぃ! 今の絶対わざとだよね!? ボク、今ので三半規管がシェイクされて、幽霊なのに吐きそうだよぉ! っていうか、今の剣がちょっとズレてたら、ボクの本体(死体)が真っ二つだったからね!?)
ジェニーの魂の叫びが木箱を揺らす。だが、それを見たセーラは、眼鏡の奥の瞳を潤ませてこう解釈した。
「……見て。衝撃を受けてなお、ジェニーさんの魂が共鳴しているわ。勇者、貴方の声が彼に届いているのね。なんて強い絆かしら……」
セーラが杖を掲げ、棺桶にベホイミを唱えようとした。
「待て、セーラ! 」俺はセーラの細い肩に手を置いた。呪文の詠唱が途切れ、彼女の意識が俺の方へ向く。
「ジェニーの修行は、外部からの魔力干渉を極限まで拒むことで成立しているんだ。彼の魂が自力で立ち上がるのを待つのが、真の優しさだと思わないか?」俺はもっともらしい嘘を吐きながら、まっすぐな目でセーラを見つめた。 「……そうね。安易な救いは、彼の覚悟を汚すことになる。貴方の言う通りだわ、勇者」
セーラは納得し、涙を浮かべながら俺の胸に顔をうずめた。俺はさりげなくセーラを抱き寄せ、棺桶をニヤリと見下ろす。
(兄貴……! 今のセーラさんのベホイミ、ボクめっちゃ欲しかったよ! っていうか、どさくさに紛れてセーラさんとイチャついてるよね!? ボク、箱の中で全部見てるからね!?)
ジェニーの憤慨でガタガタと揺れる棺桶。それを見て、リンはさらに感動を深くする。 「見てください、ジェニーさんが『気にするな、先へ行け』って言ってます! 私、感動しちゃいました! 行きましょう、勇者様!」
こうして、一行はレーベの村へと続く道を歩み始めた。 勇者の好感度は上がり、ヒロインとの距離は縮まり、消耗品(薬草やMP)は一切使わず、すべてのダメージは棺桶が肩代わりする。 これ以上の「期待値」があるだろうか。
俺は背後の棺桶を引きずる手に力を込め、鼻歌を漏らしそうになるのを必死でこらえた。