燦々と照りつける太陽。息を吸うだけで咽せそうになる砂埃。
肺を焼きそうになる程熱された空気。
アビドス砂漠でシユウは機械仕掛けの大蛇と対面していた。
この蛇、機械のクセして神秘と呪力をもってやがる。
つまり心があるって事か?いや、キヴォトスじゃそれは普通か。
問題は神秘がある事、神秘は生徒以外持っていないはずだ。
ならこいつは生徒?それとも中に生徒が入っているだけ?
そうだとしても神秘の量が尋常じゃない。前のアビドス生徒にも迫る莫大な量だ。
しかも蛇全体に神秘が張られている。ならこの機会自体が神秘を持っているのだろう。
しかし生徒でもない、まず生徒は人間だ。蛇じゃない。
蛇の背中からミサイルが膨大な量射出された。
「考えても仕方ねえか!」
――玉犬・渾!!
「ヴォフ」
「足止めしろ!!」
――鵺
「ガアア」
「飛べ」
鵺の足につかまり上空に飛ぶ。50メートル上空へ移動。
地面から足を離したことで影に接触する部分がなくなる。
それを分かっていたシユウはくるりと回り鵺の上に立ち、鵺の背中にできた影を使い鵺を影に戻した。
口の中の影を使い実体化させる。そのまま影を増大させ象の形をかたどる。
――満象
上空から落下した巨大な質量、それは重力を受け加速しビナーの上に堕ちた。
「ガアアアアァァァァァ!!!」
刹那、ビナーを襲う衝撃。莫大な量の砂が舞い散り世界は揺れた。
「今のは効いたろ」
満象を影に戻し、鳥の形の影を作る。そして鵺を召喚した。
鵺は鳥の足でシユウを掴み、ゆっくりと地上に降りる。
生徒は殺すとマズいが、機械ならギリセーフだ。線引きはしっかりとしている。
水色の髪の生徒に声を掛ける。
「おいアンタ大丈夫か?」
…
「おーい」
…
「ダメそうだな、病院連れてくか」
純白一面で埋め尽くされた壁、窓から照りつける太陽、ベッドとベッドの間を遮る藍色のカーテン。
黒髪の男と、ベッドに座った水色のロングヘア―をした少女が対面していた。
「で、あんたはアビドス生徒のクセして遭難した上にあんな化け物と遭遇したと」
「う…ぅう…」
「もしかして馬鹿なのか?」
「えっと、その、助けてくれてありがとう」
話逸らしたなこいつ。
まあいいか、他に聞きたいことがある。
「あの蛇は前からアビドス砂漠に居るのか?」
「わかんない…かな、あったのは初めてだし」
「そうか…あのデカさの蛇が他の所に居たらすぐばれるだろうし元から居たっぽいな」
「確かに!頭良いんだね…頭良いって言えばね、うちの後輩がね!」
そっから小一時間、自慢の後輩ちゃんの話が続いた。
好きすぎだろ、その後輩の事。ていうかその後輩俺が殴り倒したやつじゃね?
そうだ――
「あんたアビドスの生徒会長なんだろ?」
「え?うん、そうだよ」
「俺の事雇わないか?仕事として傭兵やってんだ」
「お誘いは嬉しいんだけど…アビドスは今お金なくて…」
あー…そういえばそんな話だったな。生徒会長だっつってたから金持ってると勘違いしちまった。
ならどうするか。俺の目的はあのチビともっかい合いたいんだが。
「なら、俺がアビドスを雇う。お前が言ってた後輩を貸し出せ、日給百でどうだ」
「ちょっとそれはホシノちゃんに聞かないと分からないかな…ホシノちゃんを借りて何する気なの?」
「ああ、それはな――
「ユメ先輩っ!」
病院の前で俺と小鳥遊ホシノは対面した。
小鳥遊ホシノは随分と慌てているようで、息を切らしていた。
肩で息をしているホシノに近づく。
「随分焦ってるな、小鳥遊ホシノ」
「あなたはっ…ユメ先輩をどうした」
おお、怖い怖い。
「ユメは無事さ。今は寝てる」
「何故、お前がここに居る」
一切信用されてないな、当然と言えば当然だが。
「俺が助けたからだよ、梔子ユメをな」
「お前は前アビドスを襲撃していただろ。目的を答えろ、何故ユメ先輩を助けた!」
「困ってる人が居たら助けるべきだろ?」
一瞬の静寂、そして逡巡。
「やっぱり信用できません。ここで倒してユメ先輩から話を聞きます」
「舐めんなよ」
さて、なんで俺は小鳥遊ホシノに喧嘩を売るような真似をしたのか。
それは修行の成果を確かめる為だ。自分の実力が今どのくらいなのか知るべきだと思った。
ホシノが銃口を向け、発砲。
発射された銃弾を避け、手影絵を片手で結ぶ。
玉犬・渾を半実体化させ頭だけ部分召喚した。
何故手影絵を片手で玉犬を召喚できたのか。それは修行中に結んだ縛りにある。
『完全に実体化させず部分召喚までしかできない代わりに、手影絵を省略して召喚できる』
原作でも両面宿儺がやっていた事だ、試してみたらできた。
大事なのはできると信じる事、ハンターハンターにも書いてた…気がする。
「ガウッ!」
「邪魔です…っ!?」
ホシノの放った弾丸が玉犬を撃ち抜く。
しかし、そこには何もなかったかのように噛みついてきていた玉犬が居た。
片手で召喚する場合の玉犬は部分召喚であり、
弾丸は当たったが、透かされた。
呪力の操作を集中すれば弾丸が当たる瞬間だけ実体をなくす事も可能なのだ。
弾が当たらなかった事を認識したホシノは人間離れした速度で玉犬の噛みつきを回避。
空中で身を翻し、銃口を本体であるシユウに向ける。シユウは影に避難することによって銃弾を避けた、弾丸は空を舞い地面を穿った。
影を操り、ウサギの形を作る。
『脱兎』
一瞬で数百匹のウサギが召喚される。それがなお増え続け膨大な量になっていた。
脱兎を目くらましに、ホシノに気付かれないよう手だけを影から出す。
それは式神の能力だけを引き出す応用。
それは贋作、しかし力は本物。
「満象、穿血」
手の中で水を圧縮する。
呪力により通常ではありえないほど圧縮された水は、水風船に穴をあけたように一直線に射出される。
その初速は、音速を越えた。
「なっ!?」
それに直撃したホシノは体勢を崩す。
それを狙っていたシユウは影を操作しカエルの形を作り出す。
「蝦蟇、拘束しろ」
「ゲコ」
蝦蟇の口から飛んできた舌が、ホシノの持っていたショットガンを弾き飛ばし両手を縛った。
「小鳥遊ホシノ、お前本調子じゃないだろ」
「…何のことですか」
「虚勢張ってんじゃねえよ、明らかに弱かったぞ」
考察にしかならないが、こいつは昨日寝てなかったのだろう。相当ユメ心配と見た。
その上推定アビドス校舎からここまで全速力で走ってきたのだ、そりゃ疲れるにきまってる。
「まあ、ガチでユメは無事だ。なんなら俺が助けた」
「…そう……ですか」
「そうだな、俺の依頼を受ければ今すぐお前を解放してやらんでもない」
「殆ど強制じゃないですか…」
「傭兵なんてそんなもんさ、さて肝心の依頼内容だが――
「いいでしょう、それで解放してくれるなら。引き受けました、報酬も高いですし」
「助かる、お前はどうしても必要だと思っていた」
「…言い方が女たらしですね、気持ち悪いです」
マジ?泣くけど。そこまで言わなくてよくない?
「さて、じゃあユメの所に行くか」
「まってください、先に拘束を解いてください」
「俺は絶対に拘束を解くとは言ってない」
「なっ!?撃ち殺しますよ!」
「拘束を解かなければ撃ち殺されない、完璧だな」
決してこれは暴言の報復じゃない、違うぞ。違うって。