俺たちの所長 IN 俺らの世界   作:暇人

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第一章『胡蝶幻想譚ファンダメンタル・コントラディクション』
そっくりさんってレベルじゃないって言われてもね


 

 

 

 ……ああ。私の人生など、所詮はこんなモノだ……。

 

 腹心であるはずのレフ教授に裏切られ、死を告げられた私の率直な心境がそれだ。

 

 

 恋人はおろか友人もおらず、やりたくもない仕事と負いたくもない責任を負わされた私の人生は何だったんだろう。さすがに泣けてくる。

 

 

「まったく、恥知らずにも程がある。……ああ、群体ならぬ貴様らが統制とは無縁の生き物であることは許容範囲だ。許してやろう。

 だが、貴様だ。貴様のような廃棄物が世に残っているなど許せるものではない。

 貴様は我が計画の汚点だ。せめて貴様の大事な天球を抱いて溺死するがいい。我が恥ずべき教え子よ」

 

「──所長!!」

 

「何故こんな事をするのですか! 私たちの所長を開放してくださいレフ教授!!」

 

 

 あ、前言撤回。ひとつだけ良い事があったわ。

 

 

「──君の立場でそれを言うのかね、マシュ・キリエライト。

 君の抱える不幸の大半はこの女とその父親にあるというのに。

 帰還すべき肉体を喪失したこの女に帰るべき場所など無いというのに、チリほどの価値もない自己満足のためにこの私と闘うつもりだと?」

 

「何か方法があるはずです! 私には思いつきませんが、ドクターたちなら所長の事をきっと……!!」

 

「ああっ、その通りだ! やるぞマシュ──キャスターの兄貴も力を貸してください!!」

 

「おうよ。任せなぁ」

 

 

 馬鹿、そんなふうに言われたら目頭が熱くなっちゃうじゃないのよ。

 

 

 ──私の人生にひとつだけ誇れる事があった。

 

 マシュ、藤丸──彼等の所長であった事は、私にとって胸を張って誇れる事だ。

 

 

 だから、レフ・ライノール。

 

 悪いんだけど、アンタの思い通りにさせるワケにはいかないのよね……!!

 

 

「ぬっ──悪足掻きを!?」

 

 

 そう、悪足掻きよ。アニムスフィアの魔術刻印はとことん戦闘向きにできてないからね。

 

 至近距離からガンドを数発叩き込んだところで、すでにカルデアスの重力に囚われている私が脱出するには足りない。

 

 でもね──こういうのは当事者の意思ってもんが重要なのよ。

 

 

 自分自身を助けないモノを誰が助けるというのか。

 

 私は最後まで生き足掻いた。だからたとえ結果が無惨だろうとも、胸を張ってこの瞬間を迎える事ができた。

 

 

「ダメだ、所長ォ──!!」

 

 

 ……レフの裏切りからこっち。さんざん醜態を晒しちゃったからね。

 

 要するに、最期ぐらい格好付けさせろって話よ。

 

 さて、なんて伝えようか……ってダメね。もう間に合わないか。

 

 

 なら仕方ない。せめて微笑(わら)って逝こう。

 

 そういうワケでこれはアンタたちの責任じゃないから、妙な勘違いだけはするんじゃないわよ。

 

 

「……愚か者め。どこまでも愚か者め。

 予定にない覚悟を見せると知っていたら、もう少し様子を見てやったものを……」

 

 

 ……最期に裏切り者が何か言っていたが、彼は驚いてるようだ。

 

 なんたる痛快。あの顔を見るに、私の選択が彼の痛手になったことは明白だ。

 

 

 こうして私ことオルガマリー・アニムスフィアは殉職した。

 

 享年20ウン歳。

 

 人理焼却なんて特大の厄ネタを前に何もできなかったのは痛恨事ではあるが、カルデアには『万能の天才』っていう人理の鬼札が存在するからね。

 

 まあ、後の事は、彼が何とかしてくれるでしょう──。

 

 

 

 

 

 なんて、自分なりに覚悟を見せたつもりだけど……長い人生、何があるかわからないものね。

 

 

「────おぉおおおっとォ!? なんたるサプライズだ!!

 なんとフェイト・グランドオーダー10周年フェス会場に、なんと、なんと……本物の所長が登場だぁ……!!」

 

 

 人理焼却まっしぐらのカルデアスに投棄されたはず私は、どういうワケか民間のゲーム会社(?)が主催するイベントのステージに墜落した。

 

 

「本物? 本物ですよね!? ここまで社長のデザインそのまんまの所長が実在するなんて思いもしませんでしたよ!!」

 

 

 しかも何故か、私がカルデアの所長であるコトも知られていて──怖い! 何で知ってるのこの人たち!!

 

 

「ああもう、ヒトが悪いな茄子さんは。こんな逸材見つけてたんだったら内緒で教えてくださいよ」

 

「いや、待って、タケ太郎くん。俺知らないから。こんなサプライズ仕込んでないから」

 

「え? それじゃ、メッセの天井に穴を空けたのも……?」

 

 

 おかげで周囲はひどい騒ぎだ。

 

 会場の空気もだんだんと不穏になり、私はスタッフに連行されたわ。宇宙人よろしくね!

 

 

 威力業務妨害。刑事裁判。有罪。民事訴訟。巨額の賠償金──そんな不吉なワードに脳内を占領された私だったが、弁明の機会が得られたのは幸運だった。

 

 

「……つまり本気で言ってる? ご自分が時計塔の十二君主の一人にして、国連所属の人理保証機関カルデアの所長だと、心の底から真実を申し上げてらっしゃると……?」

 

「……はい。貴社のイベントを妨害した事は、私の意図したものではありませんが、償う機会を得られれば真摯に対応するつもりです」

 

 

 私の尋問官は、原作者と呼ばれる男性と社長と呼ばれる男性の二人組でした。

 

 彼は、しきりに「何で民間のゲーム会社のシナリオライターがそんな事を知ってるの!?」と言いたくなるような質問をして私を驚かせましたが、本当に彼ら(・・)は何者なのでしょうか……?

 

 

「ほら茄子さん、やっぱり本物の所長だって。僕が見えないところ描いたホクロの位置まで知ってるんだもん。どう考えたって本物だって」

 

「嬉しそうだね、タケ太郎くんは……どうせ本物の所長が実在するなら、そのうち本物のアルトリアを拝めるかもしれないって思ってるかもだけど、それは無いからね」

 

「……なんで?」

 

「剪定事象なんて最初から無いって言ったろ? 無いものは観測できない。つまり実在しない! だからカルデア側もこっちを観測できないし、都合よくレイシフトして来れません! はい論破論破ァ!!」

 

「でも所長いるじゃん。見えないところにあるホクロの位置もピッタリだったし、茄子さんしか知らない所長の設定もバッチリだったでしょ? いい加減認めたら?」

 

 

 ……私には分からない。明らかに()りすぎている彼らが何者なのかという疑問は、この際だ。封印しよう。

 

 だが、彼らはカルデアの所長である私が此処に存在する事を、随分と問題視しているように聞こえる……。

 

 

「あの、少しいいかしら……? 貴方たちがなぜカルデアのことを知っているのかは問わないけど……貴方たちの反応は、私が此処に存在する事が、カルデアに何らかの問題が生じた事を意味するって、議論しているようにも見えないのよね……」

 

 

 彼らの正体は、おそらくは民間に出向した国連の元職員──そんな私の推測はものの見事にはずれた。

 

 

「とりあえず、これやってみて?」

 

「なにこれ、スマホゲーム?」

 

「うん。こっちの方には手をつけてないから、最初からね。序章だけでいいんで、とりあえず驚いたりするのは後回しにしてプレイしてほしいな」

 

「え、ええ……わかったわ……」

 

 

 とりあえず。とりあえず、そうね。私は言われたとおり、あらゆる疑問に蓋をしてプレイしたわ。

 

 

 時間にして、ざっと二時間ほどかしら。

 

 原作者が「お疲れさん」と差し出してきたペットボトルを受け取る頃には、喉がカラカラに渇いていた。

 

 

「で、感想は?」

 

「……あなたゼルレッチね。並行世界を好き勝手に覗き見るのは第二魔法の使い手たる貴方の特権だもん。辞めろとは言わないわ。

 でもその記録を自分の創作として売り出すのはどうなのよ。私もプライバシーの侵害を然るべき筋に訴えたいんだけど……?」

 

「言うと思った。でも俺はゼルレッチじゃないし、ヤツはこの件に無関係です」

 

「……根拠は?」

 

「そんなもん、カルデア時空自体がマリスビリーの暗躍で生成された異聞帯(ロストベルト)だからだよ。剪定事象はヤツの魔法も及ばないんだよね」

 

「──、まさか」

 

「そのまさか。そもそも『マリスビリーが2004年冬木の聖杯戦争に勝利した』って歴史自体が、汎人類史の“あり得たかもしれない選択”ではなく、アニムスフィアの全財ブッパで強引に捏造された“ある筈もない記録”なんだよね。だから所長がカルデア世界じゃなくこっちに落ちてきたのもヤツの仕業じゃありません」

 

「なんてコトなの……」

 

 

 私も知らなかったアニムスフィアの闇──まさか人理焼却の真っ最中にこんな厄ネタまで抱えるコトになるなんて。

 

 

「とりあえず君が知っておくべき事は山ほどあるが、真っ先に押さえておくべき事はふたつ」

 

「……ええ、言ってちょうだい」

 

「この世界には神秘も魔術も無い──つまり時計塔はただの博物館だし、所長の実家も財産も存在しないってコト」

 

「うっ!?」

 

「そしてこの国は戸籍もない不法滞在者に決して優しくないってコトだ」

 

「世知辛い世の中ね……あといきなり話のスケールを小さくしすぎないで。身構えちゃったからズッコケそうになったわよ」

 

「でも重要でしょ?」

 

「それは認めるわ」

 

 

 ……まずいわね。私がイベントで騒ぎを起こした事は大勢の観客に目撃されている。

 

 この世界でもカルデアの所長として自分にできる事をしようと思っていたんだけど、不法滞在者として収監される私にできる事って何かあるのかしら……?

 

 

 と、あらためて自分の人生のドン詰まりぶりに頭を抱えたところで、これまで無言を貫いていた社長が提案した。

 

 

「とりあえず、所長をウチの子にしちゃうってのはどうかな?」

 

「ダメです。少なくともタケ太郎くんの手の届くところに所長は置けません」

 

「なんで?」

 

「なんでじゃねぇよ、何でさっきから所長ガン見しながら液タブ使ってんだよ。リアルアルトリア顔の再現しか頭にない男のところに所長なんて置けねぇだろうが」

 

 

 ……リアルアルトリア顔?

 

 私にはこの二人が何で揉めてるのかさっぱりだったが、とりあえず内緒で匿ってもらえなさそうなのは理解した。

 

 

「そんな……何とかしてあげられないんですか?」

 

「そうですよ。ようやく所長が救われそうな展開になってきたんですよ。守ってあげましょうよ」

 

 

 そんな私のために動いてくれたのは、私をここまで案内してくれたイベントスタッフの二人だったが……なんだろう。よく見ると藤丸とマシュに似てるわねこの子たち。

 

 

「──話は聞かせてもらった!!」

 

「あ、貴方は──不動産王な大統領ニキ!?」

 

「ナイスリアクションだ先輩スタッフニキ。……さて、話を聞かせてもらったが、所長に戸籍が無いなら作ればいい。私の権限で我がステイツの戸籍とパスポートを用意しよう。それで万事解決だ」

 

「ふん、貴様らしい短絡さだな」

 

「ぬ──貴様は吾輩と袂を分った自動車王な資産家ニキ!? 吾輩のパーフェクト・プランのどこが短絡的だ!!」

 

「知れた事。所長に戸籍と旅券を与えようとも、それを使わず日本の土を踏んだ密入国はどうにもならん」

 

「そんな……何とかならないんですか自動車王な資産家ニキ……」

 

「フッ、案ずるな。このテスラの名を冠する私に任せておけ。当局に鼻薬を嗅がせるなど造作もないことだ」

 

「ふん、下劣な。やはり貴様を追放して正解だったようだな」

 

「スマートと言ってもらおう。大統領の権限を笠に着て、他者を脅迫することしか知らん貴様には理解できないだろうがなァ」

 

「なにおうッ」

 

 

 ……なんだろう。こういうのを混沌(カオス)と言うのだろうか。

 

 相変わらず、私は彼らが何で揉めてるのか半分も理解できなかったが……世界は私の想像よりも優しくできているのだろうか。

 

 彼らが私の未来を少しでもマシなものにしようと奮闘しているのは理解できた。

 

 

 だったらサンドイッチのひとつでも頂けないかしら……そう申し出ることもできない私は相変わらず臆病だったが、彼らの話がまとまったら、私も私なりに動いてみよう。

 

 

 とりあえず衣食住の確保が最優先だけど、カルデアとの通信手段の確立も急がなきゃね。

 

 あの原作者という男が世界を自由に生成する根源接続者か、それともゼルレッチの弟子なのかは、まだ判断がつかないけれども……私の運命を見事に言い当てた預言者であることは間違いない。

 

 ならば、カルデアとの通信手段さえ確保できれば……私は今度こそみんなの役に立てる。

 

 

 待ってなさいよ、レフ・ライノール。

 

 まんまと一杯喰わされたこの借りは、 熨斗(のし)を付けて返してやるんだからね。

 

 

 

 

 

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