俺たちの所長 IN 俺らの世界   作:暇人

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それでも生き足掻くのが人間ってものじゃない?

 

 

 

 オーケー。落ち着きなさい、わたし。

 

 私はカルデアの所長であると同時にアニムスフィアの魔術師でもある。時間の掛かる解析や考察など得意な者に委託すればいい。

 

 ただ在るがままに観察し、そして記録する。それが当家の流儀だ。目の前に在る物を否定するほど私は愚かではない。

 

 

「…………………」

 

 

 それでも、私はカルデアに連絡してしまった。藤丸が女の子になっちゃったんだけど、これって大丈夫なの、って……。

 

 

「……………………」

 

 

 メールの返事はすぐに届いた。所長には立香ちゃんが男の子に見えていたのかい、と書き込まれたビックリロリンチLINEスタンプが。

 

 

「…………どうやら何も問題は無いようね」

 

 

 斯くして私は事実を事実として認めた。認めるまでに相応の時間こそ要したが、これは妥協ではない。偉大なる一歩である。

 

 何か大事な物を引き換えにしたような気もするが、魔術世界の基本は等価交換。この犠牲なくして次なるイベントは発生しない。

 

 ……そう。食事を済ませ、食器を片したらお待ちかねのお風呂イベントの開幕よコンチクショー!!

 

 

 アニメでよく見る謎の光が仕事していると信じての脱衣シーンからして散々だった。

 

 

 まあ、裸になるのは構わないのよ。今は女の子しかいないし。

 

 藤丸が男に戻った時にこの記憶がどうなるか、まったく思い至らなかったワケじゃないんだけど……別にいいかな、と言うのが私の結論。

 

 藤丸も色々としんどい立場なわけなんだから、それぐらいの役得があってもいいと思うし、マシュ、じゃない、メカクレ後輩ネキも私以上に乗り気だしね。

 

 でもどうして私の下着を剥こうとするのよ。すごーい、きれーいじゃないわよ。ああもう、私を本気にさせたわね……!!

 

 

 そんなワケで報復がてら、馬鹿みたいにキャーキャー言いながら裸の付き合いをしてやったわ。

 

 さすがに前は洗わせなかったけど頭と背中は好きにさせたし、私も藤丸とマシュのシャンプーとトリートメントをした。

 

 

 ……しっかし藤丸のヤツ。元は男の分際で随分とスケベな体をしてるわね。

 

 最近の16歳ってこんなに発育がいいの? 私もそこそこ育ってるつもりだったけど、このままじゃ年長者の威厳が保てないわね……ちょっと豊胸グッズに手を出してみようかしら。

 

 

「あー、楽しかった。最初は他人と入浴を共にするなんて、公衆浴場に依存してた現代以前の文化だと思ったけど、これはこれで悪くないなわね」

 

「えっ、所長って女の子同士で入るのも初めてだったの? それじゃ、もしかしてずっとぼっ「先輩、先輩。私たち日本人は小中高の修学旅行で経験する機会がありますけど、所長は文化とお国柄が異なる外人さんですから、そんなふうに言っちゃダメですよ」

 

「うっ、ごめんなさい所長。わたしいま、もの凄く失礼なコトを言っちゃったかも」

 

「ふふ。その自覚があるなら叱言はナシにしてあげる。……って、言いたいけど悪かったわねぼっちで。ふぅーんだ、もう藤丸なんて知らないんだから」

 

「ううっ……じゃ、じゃあ、秘蔵のハーゲンダッツを進呈するってコトで、何卒……」

 

「……まさかミニカップを一つだけ?」

 

「うううっ、だ、だったらクリスピーサンドも持ってけコンチクショー!!」

 

「…………いいわ。それで手を打ってあげる」

 

 

 はい、私の勝ち。ガックリと崩れ落ちる藤丸に心の中で喝采を叫ぶ。こんなくだらない筈のやり取りがなんでか楽しくって仕方ない。

 

 

 そんなまったりとした休日を楽しんでいたときだった。あずきバーを片手にスマホを確認したマシュが意外そうな顔をする。

 

 

「所長、少しいいですか? 実は茄子さんが所長に話したいことがあるから、こちらに伺ってもいいかと連絡が……」

 

「茄子さん? ああ、原作者ね」

 

 

 ……珍しい事もあるものだ。あの男にとって私の存在は、私にとっての藤丸のようにトンチキの具現だろうに。

 

 初見の尋問以降、一切の交流を拒否してきたあの男が、マシュを通して接触してきた。どんな裏があるのかと勘ぐりたくなるが、ここは逆に考えよう。

 

 彼が自身の忌避感を飲み込むほどの何か(・・)があった──しかもそれは私の存在と無関係ではない“何か”だ。こう考えればあの男が態度を改めたのも説明がつく。

 

 

「……いいわ。昼食が終わってからなら何時でもいいって伝えてもらえる」

 

「わかりました。それでは午後1時以降にお願いしますってお伝えしますね」

 

「ええ、よろしく」

 

 

 さて、そうなると、それまでにやらなきゃいけないのは……露骨に新イベントの開幕に目を輝かせる藤丸の教育よね。

 

 コイツにこの世界の常識やら、私たちの世界との因果関係やらを叩き込むのは骨が折れそうだけど……ま、なんとか頑張りましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずは急なお願いを聞いてくれてありがとうね、所長。あとせっかくの休日に押しかけてきてごめんね、三人とも」

 

 

 原作者──本名・茄子シイタケ氏は、以前とは比較にならないほど柔らかい物腰で私たちに接してきた。

 

 ……いや、変わったのは態度だけではない。顔色も優れず、眼の下には隠しようのないほど大きな隈がある。

 

 

「いえ、私たちは大丈夫ですけど、茄子さんは、その……」

 

 

 マシュも思わず気遣い、チラチラとこちらを見てくる。今からでもこの会合を中断して、あの男を休ませてやりたいと言わんげに……。

 

 

 とりあえず、藤丸の性別を男に戻しておいて良かった。

 

 先輩スタッフニキの身に何事が生じたか、いつかは伝えなきゃならないだろうが今はダメだ。私もアイロン掛けを済ませた制服の襟元を直し、まずは相手の出方を伺う。

 

 

「……とりあえず、ね。まずはコイツを確認してもらいたいんだ」

 

「これは、FGOのメインストーリーでの記録、ですか……?」

 

「うん、ちょっと変わったコトになっててね……ここだ、ここ。序章の最後でレフ教授が本性を表すとこ……」

 

 

 ……ここは今さら説明無用だろう。裏切り者が私を散々に罵倒してカルデアスに放り込もうとするところだ。

 

 あまりの事態に錯乱した私が惨めに泣き喚くのも同じ。藤丸たちが救助の動き見せるのも同じ。それが間に合わず、私が消え失せるのも──いえ、待ちなさい。なんで急にやる気を出してるのよ。

 

 それ向こうの──カルデア世界の私の話。

 

 こっちの世界でプレイした序章のラストはこんなんじゃなかったでしょ……!!

 

 

「茄子さん……ひょっとして、こちらの世界にいらした所長に配慮して、問題となりそうな箇所の修正を……?」

 

「ううん、俺たちは何もしてない。そこで所長に確認なんだけど……これ君の世界で実際にあった出来事なのかな?」

 

「……ええ、その通りよ」

 

「やっぱりそうだったか……これで最低でもFGOの内容と君たちの世界がリンクしてる事が証明されたけど、一体化の動きがこれ以上拡大しないと思う?」

 

「思わないわね。少なくとも先輩スタッフニキは手遅れよ。藤丸立香というトンチキ野郎に汚染されて、今では自分の性別を自在に変更できるからね」

 

「……やっぱり。初見の感動も露わにFGOをプレイしてるから、そうじゃないかと思ったけど……ちなみにこの世界とカルデアの関係性も説明済み?」

 

「ええ。本人は無邪気に喜んでたけど……他にも藤丸と似たような症状が確認されてるのね?」

 

「うん、確認済み。本当に参ったね、どうも……」

 

 

 ……お互いに“何が”起きているのか正確に把握しているのだろう。原作者の顔色は気の毒なほど真っ青だ。

 

 

「──世界の衝突(コリジョン)と、平均化(アベレージング)

 

 

 私の呟きに原作者が頷く。

 

 

「並行世界の名が示すように、世界の向きは並行よ。本来なら決して交差せず、衝突なんて発生するはずもない。ただし──二つの世界を連結するアンカーが撃ち込まれたなら話は別。アンカーを触媒に双方の情報が混在し、平均化が始まってるのが今のトンチキなのね……」

 

「あの、私はFGOの設定にそこまで詳しくありませんが、先ほど衝突と仰っていましたよね? それって所長の世界と私たちの世界がぶつかって、どちらも粉々になるってコトでしょうか……?」

 

「いいえ。最終的に半分ずっこの世界が二つできるか、それとも完全にごちゃ混ぜになった世界が一つになるか分からないけど……最低でもこのまま行けば、こちらの世界でも魔術が使えたり、サーヴァントが現れたりするようになるわね」

 

「うん、俺も同意見。南米にもORTが出現するだろうなぁ……いや、その前に人理焼却の火の手が迫ってくるかな? どっちにしろ最悪だな……」

 

「そうなったら、コリジョンの切っ掛けとなった私は間違い無く人類の戦犯ね。今のうちに死んでおいた方がいいのかしら……死にたくないけど……」

 

「俺もだよ。だからもう出し惜しみはしません。全財ブッパでこの問題を解決します」

 

 

 私の弱音に原作者が応じる。

 

 その表情は悲壮であっても悲観とは無縁。死んでたまるかという強い決意にあふれていた。

 

 だから私は微笑(わら)った。至極同感だと──この瞬間、私と原作者は共犯関係になった。

 

 

「──具体的なプランは?」

 

「まずはこれ。こちらの誠意ね」

 

 

 ほれ、と共犯者が手元に投げ込んできたのは数冊のノートだった。

 

 なんの変哲もない、端の擦り切れた年代物の大学ノートは、しかし、最初の1ページ目を流し読みした私を絶句させて有り余った。

 

 これは魔術師が存在を知れば、最後の一人になるまで殺し合ってもおかしくない代物よ……!!

 

 

「いま読んでるのはFGOも含めた、すべてのFate時空に関する設定集なんだけど、藤丸がこっちに来てるってことは、もうカルデアと連絡がついてるってコトでしょ? とりま全ページ写真に撮って、ダヴィンチちゃんに送ってほしいんだけど、できる?」

 

「え、ええ……それで、添付するメールの本文は?」

 

「タイトルは、追加の冠位指定:コリジョンによる並行世界群の連鎖崩壊を回避せよ。本文は全特異点最速RTAのフルチャートを掲載」

 

「大盤振る舞いね」

 

「それだけじゃないよ。ついでにこちらでも強権を発揮してガチャを廃止します。すべての英霊を聖晶石30個と引き換えの指定召喚制にして、冠位英霊もすべて解放します」

 

「……それ、本当にできるの? 聞いた話じゃ、あのゲームは別の会社が運営してるそうだけど……?」

 

「できるよ。大半の権利はこっちが持ってるからね。ヤダって言ったら今の会社が運営してるサービスは停止するわけだし、飲まないならそっちの権利も丸ごと買い取って別の会社に運営させるだけだよ」

 

「うわぁ……どっちの世界からも恨まれるわよ、貴方……」

 

「別にいいよ。それよりも最速で人理焼却を解決して、所長を送り返すほうが重要じゃん」

 

 

 ……なんてえげつない男なのだろうか。

 

 あまりの頼もしさに私は笑う以外の事ができなかった。

 

 

「というワケで、君を送り返すプランも完成しています。ちょっと長くなるけど、大事な話だからしっかり聞いてね」

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

 ロマニ・アーキマンは賭けに勝った。そう断言できるほどに、ロード・エルメロイⅡ世から引き出した情報は有用だった。

 

 

「そうか、冬木の聖杯戦争は根源を目指す真っ当な魔術儀式だったのか」

 

「ああ、その通りだ。中身が汚染されていた為に解体するしかなかったがね」

 

「ヒヒヒ、言うに事欠いて汚染か。違いねえや」

 

「だがそうなると、この孔の向こうには君の本体もいる事になるが……」

 

「ああ、だがソイツはセイバーの聖剣で砕かれてね。オレ自身も含め、天の逆月から出て来れないという過去が確定してるから危険はない」

 

「うむ。つまりオルガマリー嬢は、カルデアスの重力に引かれて落下したが、最後の抵抗が功を奏して突入角度に狂いが生じ、むしろカルデアスの重力に弾かれて世界の外側に飛び出してしまったと見るべきだな」

 

「……盲点だったよ。まさかそんな事になっていたなんて──」

 

 

 と、そこでロマニの首が動いた。卓上に灯る光は緊急事態を意味するものだった。

 

 

「こちらロマニ・アーキマン。レオナルド、何があった……?」

 

「……ああ、急に呼び出して済まないね。実はつい先ほど、所長からかなり大掛かりな命令書と、添付資料が届いてね。君も一緒に確認してほしいのだよ」

 

「早いな──了解した。すぐそちらに向かう」

 

「うん、頼むよ。……すまないね。私とした事が、メールのタイトルを見ただけで臆してしまってね。どうしても地獄の道連れが欲しかったんだよ」

 

 

 ……これはいよいよ尋常ではない。

 

 自信家のレオナルド・ダヴィンチにここまで言わせるとは、この世界を観測できると申告した所長のレポートに期待がいや増すばかりだ。

 

 

 そして、その期待は決して裏切られなかった。

 

 真っ白に燃え尽きたロマニ・アーキマンは、見るんじゃなかったという後悔を胸にカルデアの天井を眺めるのだった……。

 

 

 

 

 

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