ベルが加入した翌朝。シュタルクとリリは、緊張で顔を真っ白にしているベルを連れてギルドを訪れていた。
「いいかベル、まずはエイナさんの講習を受けるんだ。俺も一年前、あれを聞いたおかげで助かったことも多いんだからな」
「は、はいっ! 頑張ります、シュタルクさん!」
シュタルクはエイナにベルを預けると、「新人の基本をしっかりお願いします」と頭を下げた。ベルがエイナに伴われて講習室へと消えていくのを見届け、二人はロビーのベンチに腰を下ろした。
1. リリの辛辣な、しかし正しい指摘
「……さて。シュタルク様、ベル様が講習を受けている間に、一つ大事な相談があります」
リリが真剣な表情で、シュタルクの背負う巨大な斧を見上げた。
「なんの話?昼飯なら…」
「食事ではありません。シュタルク様の戦い方の話です」
リリは指を一本立てて、これまでの不満を吐き出すように語り始めた。
「シュタルク様の斧は、威力がありすぎます。格上の相手(そもそも格上たる相手がいない)ならともかく、上層の弱い魔物に使うと、魔石ごと粉砕してドロップアイテムが残りません。それは理解していますよね?」
「あー……まあ、そうだな。加減が難しいんだよ」
「問題はその先です。斧を使えば壊れるからといって、シュタルク様、最近は手近な魔物を素手で殴ったり蹴ったりして片付けているでしょう?」
「え? ああ、そっちの方が早いし」
「それがダメなんです! シュタルク様の拳や脚は、斧以上に加減が効いていません! 殴れば魔石ごと砕け散り、蹴れば壁まで飛んでいって肉片も残りません。リリが回収する手間ばかり増えて、稼ぎとしては最低です!」
シュタルクは「うっ」と言葉に詰まった。加減しているつもりだが「とりあえず全力で叩く」癖が、経済面ではマイナスに働いていたのだ。
2. 「先輩」としての自覚
「いい加減、ベル様という新人も入ったんです。いつまでも『斧で粉砕するか、素手で粉砕するか』の二択では、彼に教えられることがありません。もっと繊細な、加減の効く武器……サブウェポンを持つべきです」
リリの言葉に、シュタルクはしおしおと肩を落とした。
「……リリの言う通りだ。ベルは細身だから恐らく短剣か短刀だし、俺が別の武器の扱いを知っていれば、あいつの練習相手にもなりやすいもんな。なれない武器でも、少しは使えるようになって戦闘での立ち回りくらい教えられないと……」
「話が早くて助かります。では、ベル様が出てくる前にバベルへ行きましょう」
3. バベルの武器店にて
二人はバベル内にある武器店へと向かった。
シュタルクは店内に並ぶ武器を眺めながら、片っ端から手に取ってみる。だが、彼が握るとロングソードですら頼りない細枝のように見えてしまう。
「……どれも、すぐ折れそうで怖いな。あ、これなら……」
シュタルクが選んだのは、サブウェポンとしては少々大ぶりな、厚みのある肉厚のブロードソードだった。装飾こそないが、頑丈さだけが取り柄のような無骨な剣だ。…名前はハバヒロ丸(…使いやすそうと思ったのになにこれだせぇ)
「それなら、シュタルク様が少し力を込めても、すぐには折れないでしょう。これからは弱い魔物相手にはそれを使って、丁寧に『魔石を避けて』倒してくださいね?」
「分かったよ……。修行だと思って、頑張ってみる」
新しい相棒の重みを確かめながら、シュタルクは少しだけ表情を引き締めた。
ベルという「後輩」ができたことで、シュタルクもまた、ただの戦士から「導く者」へと成長しようとしていた。