武器店をあとに。シュタルクの手には、装飾こそないが頑丈さだけが取り柄のような、無骨なブロードソードが握られていた。
「よし、これでいいな。リリ、これを携えて一度ギルドに戻ろう。ベルの様子も見たいしな」
「そうですね。ちょうどエイナさんの講習も始まっている頃でしょう」
二人はギルドのロビーへと戻った。講習室の扉は閉ざされており、中からはエイナの熱心な説明と、時折ベルの「は、はいぃ……っ」という、いっぱいいっぱいな返事が聞こえてくる。
シュタルクは窓口にいたエイナが小休止で出てきたタイミングを見計らって声をかけた。
「エイナさん、すみません。ベルの講習、やっぱり夕方遅くまでかかりそうですか?」
「ええ、そうですね。覚えることが山積みだわ。基礎の『き』から全部叩き込むから、なんだかんだで夕方遅くまではかかると思っておいて。この子、放っておくと誰かさんみたいに危なっかしくて見ていられないもの」
エイナの言葉に、シュタルクは苦笑いしながら頷いた。
「……分かりました。じゃあ俺たちは、夕方まで少しダンジョンで新しい武器の試し斬りをしてきます。ベルのこと、よろしくお願いしますね」
「任せて。しっかり教育しておきます」
1. 蟻の群れと「手加減」の極致
二人が向かったのは、数で攻めてくる『キラーアント』の生息域だった。リリは腕を組み、厳しい表情でシュタルクの前に立つ。
「いいですか、シュタルク様。最近のあなたは、斧を使わない時は素手で魔物を殴り飛ばし、魔石ごと粉砕しています。それは稼ぎとしても、新人の教育としても最悪です」
「うっ……分かってるって」
「ですから、その慣れない剣で、魔石を傷つけずに仕留めてください。折れないように気を使うのも修行だと思います」
シュタルクは「折らないように、かつ力を込めすぎないように」と、極限まで神経を研ぎ澄ませてブロードソードを構えた。
迫りくる大蟻に対し、シュタルクの体がしなやかに動く。
シュッ、と鋭い風切り音が響き、剣の切っ先が蟻の急所を正確に射抜いた。
「……あ、これ、いけるかも」
驚くべきことに、シュタルクは数回の振りのうちに「武器を壊さない最低限の致死量」を流し込むコツを掴んでしまった。修行で培われた戦士の勘が、慣れない武器という制約を、逆に「精密な身体制御」へと昇華させてしまったのだ。
2. 才能という名のバグ
一時間も経つ頃には、シュタルクの周囲には傷一つない魔石を抱えた蟻の死骸が山を築いていた。
(……やっぱり、この人はおかしいです。慣れない武器を使うことで、逆に自分の体の制御を完璧にこなしてしまいました。戦士としての才能がバグりすぎています……)
リリは呆れ半分、感心半分でその光景を眺めていた。当初は空振りしたり剣を折ったりして苦戦すると思っていたのに、シュタルクはあっさりと「高度な手加減」を自分の技術にしてしまったのだ。
「リリ! これなら合格か?」
シュタルクが振り返り、少年のように笑う。その剣は、激戦の後でも刃こぼれ一つしていない。
「……ええ、完璧です。リリが『花丸』をあげます。これなら魔石もドロップアイテムも潤って大助かりですよ」
リリの合格点をもらい、シュタルクはホッと胸を撫で下ろした。
「よし! それじゃあちょうどいい時間だし、ギルドにベルを迎えに行こう。あいつ、魂抜けてなきゃいいけどな!」
腰に新しい剣を差し、背中にいつもの大斧を背負い直したシュタルク。一年前よりもずっと頼もしくなった背中で、彼は夕暮れのギルドへと意気揚々と引き返していった。