勘違い戦士、ダンジョンを揺らす   作:お粥のぶぶ漬け

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第2話

 アイゼンの元を去ってから数週間。シュタルクはようやく、迷宮都市オラリオの巨大な城門をくぐった。

 

「……へぇ、ここがオラリオかぁ。すごい活気だな!」

 

 アイゼンのホラ話が全部嘘だったと知った時は絶望したが、いざ街に入ってみれば、見たこともない多種多様な種族が行き交う光景に、シュタルクの心は純粋に躍っていた。

 門を抜ける際、背負った無骨で巨大な斧を不思議そうに見る門番たちに、彼は人懐っこい笑顔で接した。

 

「あの、冒険者になりに来たんですけど、手続きって必要ですか?」

「……ん? ああ、ギルドに行け。だが君、その斧……かなり重そうだが、一人で持ってきたのか?」

「あ、これですか? 修行にはちょうどいい重さですよ。本物のドワーフの人なら、もっと重いのを使いこなすんでしょうね!」

 

 門番は首を傾げた。その斧は確かに重そうだが、シュタルクは「着痩せ」するタイプであり、一見するとただのガタイの良い青年にしか見えない。殺気も威圧感もない彼に、門番は「威勢のいい新人だ」と苦笑して通した。

 大通りを進んでいると、香ばしい匂いが漂ってきた。

 

(……この匂い。コロッケの匂い、 間違いない、ダンまち名物のじゃが丸くんだ!)

 

 匂いの源泉へ向かった先にいたのは、青いリボンが特徴的なツインテールの少女。

 

(……え、待って。本物のヘスティア様だ! すごい、実在してたんだ……!)

 

 内心は興奮でソワソワしていたが、必死に「田舎者のフリ」を装う。

 

「あ、あの! それ一つください」

「いらっしゃい! サービスだよ、お兄さん!」

 

 ハフハフと頬張るじゃが丸くん。その美味さに感動した

 

(……っ! 本当に美味い。アニメで見てた以上の感動だ……!)

 

「最高です! 美味い!」

「でしょ? 僕のバイト先自慢の一品なんだから!」

 

 ヘスティアは、美味しそうに食べるシュタルクを眩しそうに見つめた。垢抜けないが、その瞳には不思議な誠実さが宿っている。

 

(この子……いいね。どこにも所属してないなら……)

「ねえ、君。まだ入る『ファミリア』が決まってないなら、僕のところに来ないかい?」

(……勧誘きた!! ヘスティア様ってことは、もうベル君がいるんだよな。俺が二人目か。あの有名なファミリアに入れるなんて……!)

 

 シュタルクは内心の喜びを抑え、快諾した。

 

「神様だったんすね。後々ファミリアを探さないとと思ってたから、これも運命。お願いします!」

 

 ヘスティアは喜び、バイト先の馴染みの本屋の二階へ彼を連れて行った。

 本屋の二階でうつ伏せになり、ヘスティアに背中を預ける。彼女が指先に血を滴らせ、シュタルクの背中で神聖文字(ヒエログリフ)を紡いでいく。服を脱いだ彼の背中を見たヘスティアは、息を呑んだ。

 

「……ん? すごいね君、すごく鍛え上げてる良い体だ。とても着痩せするんだねぇ……これで冒険者じゃないなんておどろきだよ。……よし、できたよ」

 

 ヘスティアは羊皮紙にステータスを書き写したが、その手がわずかに震えていた。彼女はシュタルクに紙を渡す前、真剣な表情で彼の目を見つめた。

 

「いいかい、シュタルクくん。今から渡す紙の内容、特に《スキル》のことは、絶対に他人に話しちゃいけないよ。ギルドにも、他の冒険者にもだ」

「え、そんなにヤバいものなのです?」

「ああ。……『戦士の心得』。戦う度に成長を早めるなんてスキル、他人が知れば強引な引き抜きや、最悪消そうとする輩が出てくるかもしれない。この街の神様たちは、君が思っている以上に嫉妬深いからね。……約束だよ?」

「……分かりました。神様がそう言うなら、絶対誰にも言わないよ」

 

 そうして手渡された羊皮紙を、シュタルクは食い入るように見つめた。

 

シュタルク

Lv.1

力 :I 0 

耐久:I 0 

器用:I 0 

敏捷:I 0 

魔力:I 0

《魔法》

なし

《スキル》

戦士の心得:戦士であろうと足掻き、戦う度に、その歩みを加速させる(早熟)

 

(……おおお! ちゃんと数値が全部ゼロだ! 完璧なLv.1スタートじゃないか!)

 シュタルクは感動した。ヘスティアにスキルのことを注意されたが、彼は「成長を助ける便利な補助輪」を隠せと言われたのだと解釈した。

 儀式を終え、ヘスティアは彼を「自宅」へと案内した。そこは、ボロボロの古い教会の地下室。

 

「さあ、ここが僕たちのホームだよ!」

「……あれ?」

 

 シュタルクは首を傾げた。ベル君がいる形跡がどこにもない。

 

「……神様。他の団員とか、いないの?いやいないんです?」

「ん? 何を言ってるんだい。ここには僕と君しかいないよ?あと喋りやすい喋り方で喋っていいよ」

 

 ヘスティアは、誇らしげに胸を張って言った。

「それでだ!おめでとう、シュタルクくん! 君が僕の、最初の――たった一人の『家族』だ!」

(…………えええええええええ!?!?)

 

 シュタルクの思考がフリーズした。

 

(いない! ベル君がいない! 原作時期より早いの?!俺、たった一人のファミリアになっちゃったの!?)

 

 内心の絶叫は言葉にならなかったが、彼は必死に平静を装った。

 

「……あ、そう、なんですね。俺が一人目……。光栄です」

「あはは! さあ、まずはゆっくり休みなさい。明日から一緒に頑張ろう! ステータスは真っさらな0だけど、君には『戦士の心得』がある。これがあれば、君は誰よりも早く強くなれるはずだよ!」

「はい。頑張るよ、神様」

 

 ヘスティアは、シュタルクのステータスが「0」であることに何の疑いも抱いていない。彼女の目には、才能ある、しかし「まだ何者でもない」青年が映っているだけだ。

 こうして、ステータスは「最弱」、肉体は「最強」、そして成長速度は「あたおか」という、バグのような戦士がオラリオに誕生した。

 

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