勘違い戦士、ダンジョンを揺らす   作:お粥のぶぶ漬け

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第20話

廃教会の空き地。朝日を浴びながら、シュタルクの指導でベルの特訓が始まった。

 

「いいかベル、腰を落とせ! 敵の動きをよく見るんだ!」

「は、はいっ!」

 

 シュタルクの指導は、かつてのアイゼンほど苛烈ではないが、実戦に基づいた重みがあった。

 

1. ベルの初陣と同伴

 特訓後、三人はダンジョンの低層へ向かった。

 

「ベル様。まずは一匹ずつ、焦らずに」

 

 シュタルクとリリが見守る中、ベルは必死に短刀を振るい、苦労しながらも数匹のゴブリンを討伐した。

 

「やった……倒せました、シュタルクさん!」

「ああ、上出来だ! ベル、今日はここまでにして一度エイナさんに報告してきな。初めての戦闘は疲れる。今日はゆっくり休むのも修行のうちだぞ」

 

 ベルを地上へ送り出した後、シュタルクの瞳から「兄貴分」の優しさが消え、一人の「戦士」の飢えが宿った。

 

2. 二十七層への全力疾走

「……リリ。アンフィスバエナ、もう再リポップしてる時期だよな?」

「ええ、計算では。……まさか、行くつもりですか?」

「悪い。この一年、手加減ばかりで体が鈍りそうなんだ。全力でやりたい。……マッピングの確認はできてるか?」

 

 リリはため息をつきつつ、以前購入した三十層までの精密地図を広げた。

 

「人目はリリが警戒します。その代わり、置いていかないでくださいよ!」

「ああ、しっかり掴まってろよ!」

 

 シュタルクはリリを抱えると、その場で地を蹴った。

 全力疾走。

 人目を避ける隠密ルートを維持しながらも、シュタルクは壁を走り、崖を跳び、常人なら数日かかる階層をわずか数刻で踏破。二十七層「水迷宮」へとたどり着いた。

 

3. 解放される一撃と、崩落の先

 目の前には、巨大な双頭の龍『アンフィスバエナ』が巨躯を揺らしていた。

 

「リリ、そこで隠れててくれ。……久しぶりだな、この感覚」

 

 シュタルクは巨大な斧を引き抜く。一年間溜め込んだ「全力」が、闘気となって溢れ出した。一撃ごとに龍の鱗が砕け、水面が爆ぜる。そして戦士の興奮が最高潮に達した時、テンションに任せて彼は最大の奥義を放った。

 

「これで……最後だ!! 『閃天撃』!!」

 

 眩い閃光と爆音。巨龍は一瞬で消滅し、その余波は二十七層の厚い壁を紙細工のように粉砕した。ダンジョン全体が鳴動し、崩落した壁の向こう側に、隠されていた「未踏域」が姿を現す。

 

「……あちゃ、ちょっとやりすぎたか?」

「やりすぎどころじゃありません!」

 

 駆け寄ったリリが説教を始めようとしたその時、暗闇から複数の気配が立ち上がった。

 

「……ま、待ってくれ! 俺たちは戦いに来たんじゃない!見逃してくれ!」

 

4. 異端児(ゼノス)との接触

 土煙の向こう側。そこには、武装したリザードマン――リドと、彼を庇うように立つ数体の「喋るモンスター」たちがいた。中には負傷している小さな魔物の姿もある。

 

「そこまでだ、冒険者! ……くそっアンフィスバエナを一撃で沈める化け物を相手に、俺たちがどこまでやれるか…」

 

 リドが苦笑交じりに剣を構える。

 

「喋った……!? 罠かもしれません、シュタルク様、下がりましょう」

 

 パニックになるリリを片手で制し、シュタルクは無造作に一歩前へ出た。

 

「リリ、待て。こいつら、殺気がないぞ」

 

 戦士の直感が、目の前の存在が「ただの魔物」ではないと告げていた。

 

「あんたがリーダーか? 俺はシュタルク。……仲間が怪我してるな。リリ、ポーション持ってないか?」

「なっ、モンスターにポーション!? 本気ですか!?」

「でも、怯えてるぞ。言葉が通じて、怯えてるやつを叩くほど、俺は戦士として落ちぶれちゃいないんだ」

 

 シュタルクのあまりに真っ直ぐな言葉に、リドは拍子抜けしたように構えを解き、豪快に笑い出した。

 

「カッカッカ! あんた良い奴だな! 気に入ったぜ!」

 二十七層の深淵で、戦士と異端児。オラリオの運命を揺るがす奇妙な邂逅が、今ここに果たされた。

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