勘違い戦士、ダンジョンを揺らす   作:お粥のぶぶ漬け

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第22話

二十七層の崩落した壁の向こう側。静寂の中に、骸骨の賢者フェルズの乾いた声が響く。

 

「……魔導書(グリモア)か。よかろう、口止め料としては妥当なところかもしれん」

 

 フェルズは骨だけの手をローブの奥へ差し込み、一冊の古びた本を取り出した。その本からは、心臓の鼓動のような、禍々しくも神聖な魔力の波動が漏れ出している。

 

「だが、勘違いするな。製作者(わたし)からすれば、これは知識の断片を形にしたに過ぎぬ大層なものではない。しかし、今を生きる者にとっては世界の理を一つ書き換える品だ。いかに口止め料とはいえ、一方的に利(ちから)を与えすぎるのは、世界のバランスを損なう」

 

 賢者の空虚な眼窩が、リリを射抜くように見つめる。だが、パルゥムの少女は一歩も引かなかった。

 

「世界のバランス、ですか? おかしなことを言いますね、賢者様」

 

 リリは不敵に、そして強気に言い返した。

 

「モンスターが言葉を話し、死人が八百年も生きている。そんな世界の常識を乱すような存在を隠し通そうというのです。なら、対価として頂くものが常識外れであっても、釣り合いは取れているはずですよ」

 

 フェルズは、感情の読めない骸骨の顔でしばし沈黙した。そして、微かに笑ったような気配を見せる。

 

「……ふむ。強欲だが、筋が通っている。」

 

1. 賢者からの「依頼」

 フェルズはグリモアをリリに手渡しながら、今度はシュタルクの方を向いた。

 

「シュタルク。君の規格外の強さを踏まえて、一つ頼みがある。……今後、我々『異端児(ゼノス)』やギルドの暗部において、どうしても解決せねばならぬ問題が起きた時、君にクエスト(依頼)を出したい。その時は、力を貸してほしいのだ」

 

 シュタルクは後頭部を掻きながら、少し困ったように笑った。

 

「クエストか。俺、あんまり難しいことは分からないけど……。よっぽどの事じゃないと、断る理由はないかな」

 

 そこへ、すかさずリリが割って入る。

 

「シュタルク様、安請け合いは禁物ですよ。……フェルズ様、今の話、リリも承知しました。今後の活躍、期待しておいてください」

 

 リリは手に入れたグリモアを愛おしそうに撫でながら、商売人としての厳しい目をフェルズに向けた。

「いつかそのクエストとやらを受ける日が来るでしょう。ですが、それはそれ。これはこれです。秘密を守るのはグリモアの代償ですが、クエストは別途の仕事です。当然、その時には相応の『報酬』も用意していただきますよ?」

「……ククッ、徹底しているな。交渉成立だ。いつか君たちが、この迷宮の真実を背負って立つ日が来るのを願おう」

 

2. 地上への帰還

 フェルズに見送られ、二人はゼノスたちが教えてくれた隠し通路を通って地上へと引き返した。

 夕闇の迫るオラリオの街並みが見えた頃、リリは大切に抱えていたグリモアをシュタルクに見せた。

 

「シュタルク様、リリはやりますよ。あなたが語ったあの魔法使いの少女のように。リリも、あなたの隣に立って戦える、敵を一撃で消し飛ばす力を手に入れます」

「ああ。楽しみにしてるよ、リリ。……あ、でも、あまり怖い魔法はやめてくれよ?」

「それはリリの願い次第、だそうですよ」

 

 そう言って笑うリリの瞳には、かつてないほどの希望が宿っていた。

 その日の深夜。廃教会の自室で、リリは震える指でグリモアの表紙を開いた。

 そしてヘスティアによってステータスに刻まれる。

 

 それは、最速で、最短で、ただ敵を穿つためだけの魔力砲。

 『ゾルトラーク』。

 サポーターという殻を破り、魔導師として覚醒する少女の、最初の一歩だった。

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