小竜(インファントドラゴン)を壁ごと粉砕したすぐにダンジョンに異変が起きた。
破壊された壁から、おぞましい叫びが響き渡る。迷宮そのものが怒り、涙を流すかのように。
そこから現れたのは、装甲に覆われた紫色の恐竜の化石のような巨躯。体高3メートル、長く鋭い尾。逆関節の脚を持つ、迷宮の掃除屋――『ジャガーノート』。
通常、上層で現れるはずのない絶望の化身を前にして、シュタルクは再び斧を構えた。
(……え、また新しい奴? 今度のはなんだか……すごく怒ってるみたいだぞ。さっきの竜の親戚か何かかな?)
シュタルクは情報の規制により、この個体が「冒険者を皆殺しにするための殺戮装置」であることを知らない。
「よし。次は手加減して、急所を丁寧に狙って……」
シュタルクはジャガーノートの超速の爪を紙一重でかわすと(彼からすれば、少し速い猫のパンチ程度だ)、斧で軽くその胴体を刻んでみた。
バキッ!! と装甲が弾け、ジャガーノートの半身が吹き飛ぶ。だが、魔石を持たないこの怪物は、砕け散った破片さえ武器にして再び襲いかかってきた。
「……ええっ!? 何このしぶとい奴! 半分なくなったらくたばれよっ!?」
どれだけ刻んでも、叩き潰しても、執拗に立ち上がってくるジャガーノートにシュタルクは焦る。
「ああもう、これじゃキリがない! もっと派手にやらないとダメなのか!?」
二度目の全力、『閃天撃』。
再び13階層を轟音が揺らし、壁がさらなる広範囲で消失した。ジャガーノートを塵ひとつ残さず消滅させたが、その過剰な破壊がさらなる迷宮の怒りを買い、別の壁から二体目のジャガーノートが出現する。
「……えええ!? 増えた!! まさかこれ、無限ループってやつか!?」
シュタルクは引きつった笑いを浮かべた。
「はは、面白いなダンジョン! 一体倒すと次が出るなんて、稼ぐにはもってこい……じゃねーよ! 魔石が一個も出てこないんだけど!」
三度目の破壊で三体目が出現したところで、シュタルクはようやく冷静になった。
(待てよ。こいつ、倒しても一銭にもならないぞ。……おまけに、これ以上ダンジョンを揺らしたら、流石にヤバいだろっ!)
四体目を通常の攻撃で動けなくなるまで急いで解体し、倒す。シュタルクは全速力でその場を離脱した。
道中、急いで地上に撤退したいが運悪く遭遇したキラーアントの群れを、今度は「魔石を壊さず稼ぎにする」という鋼の意志を持って、優しく斧で倒し、全滅させる。
「よし、こいつらはちゃんと魔石を落とす。……でも、待てよ?」
手の中にある、13階層のキラーアントの魔石。
(……これ、そのまま換金所に持って行ったら、『なんでLv.1のお前が13階層の魔石を持ってるんだ?』ってエイナさんに問い詰められるんじゃ……。それもやっぱりまずいだろ……!)
換金所の窓口を遠目に、シュタルクは冷や汗を流しながら立ち尽くした。
手元には大量の魔石。だが、それを金に換えた瞬間、エイナさんによる地獄の小言が始まる予感に、彼はダンジョンを揺らしてしまった事実よりも激しく震え出すのだった。