「……ダメだ。この魔石をエイナさんに見られたら、確実にまたあの地獄の説教が始まる……。でも、これをお金に換えないと神様との生活が……」
シュタルクが魔石の袋を抱えて葛藤していると、物陰から一人の小柄な少女――リリルカ・アーデがその様子をじっと伺っていた。
「あのー、お困りですか? 冒険者様」
「えっ、わっ! びっくりした……」
振り返ったシュタルクの視界に、フードを被った小柄な少女が映る。その瞬間、彼の脳内は大パニックに陥った。
(……えっ、えええええええええ!? 本物のリリじゃん! ちっちゃい! 可愛い! アニメで見た通りだ! ってことはソーマ・ファミリアに搾取されてる時期か!? うわぁ、今すぐ助けれないかな…!?)
「あの……リリの顔に、何かついてますか?」
「あ、いや! なんでもないっす! ちょ、ちょっと見惚れてたというか……」
(落ち着け俺! 初対面で不審者だと思われるぞ! 彼女は今、冒険者を騙そうとしてる時期なんだ。自然に、自然に接するんだ……!)
「そんなにビクビクして……。その魔石、訳アリなんですか? もしよければ、リリが代わりに換金してきてあげましょうか?」
リリの下心たっぷりの提案に、シュタルクは内心で「きたあああ!」と叫んでいた。
「えっ、本当っすか!? 助かる! 実は、ギルドの人にバレるとちょっと面倒なことになりそうで……」
「ふふん、やっぱり。いいですよ、その代わりリリを『サポーター』として雇ってください。リリ、今すっごくお金に困ってて……所属ファミリアに稼ぎを全部取られちゃうんです」
リリの「悲劇のヒロイン」モード。事情を知っているシュタルクにとって、それは演技ではなく、胸を締め付けるような切実な事実に聞こえた。
(……あああ、やっぱり辛い思いをしてるんだな。よし、決めた。ベル君みたいに優しくできるか分からないけど精一杯のことをしよう!)
「……全部取られるのか。それ、すっごく大変だよな。よし、分かった! 俺のサポーターになってくれ。その代わり、条件があるんだ」
「(……きた。どうせ荷物持ちを全部やれとか、端た金でこき使うとかでしょう?)……はい、条件は何ですか?」
「まず、俺の代わりに換金をしてほしい。次に、売上の半分は君にあげる」
「……はい?」
「あと、口止め料に定期的においしいご飯を奢る。これでどうかな?」
リリの思考が停止した。
(……半分? 飯奢り? なんですかこの人、リリを騙そうとしてるんですか? それとも、ただの究極の馬鹿なんですか……?)
「……あの、半分って。リリ、荷物を持つだけですよ? 魔石を換金するだけですよ?」
「いや、俺も事情があって表立って換金できないし、君も困ってるんだろ? だったら半分ずつが一番公平じゃん。それに、一人で食べるより誰かと食べるご飯のほうが美味いしな!」
シュタルクは至って真面目な顔で、リリの手を握った。
(……うわぁぁぁ、リリの手、ちっちゃくて柔らかい……! じゃなくて! 助けるんだ、俺が彼女を!)
「……分かりました。その条件、リリが引き受けましょう! 私はリリルカ・アーデです。リリと呼んでください!よろしくお願いしますね、…ええーと?」
「ああ、よろしくリリ! 俺はシュタルクだ。これからよろしくな!」
こうして、リリは「とんでもないカモ(歩く金山)」を見つけたと確信し、シュタルクは「ベルくんが将来たすけるのかもだけど、早い方がいいだろうと」と心の中でガッツポーズを決めた。
だが、リリはまだ知らない。
この「お人好しの極み」のような戦士が、先ほど無遠慮にダンジョンを揺らした「人類のバグ」であることを。