リリから受け取った革袋は、シュタルクの手をずっしりと沈ませるほどの重みがあった。
「……待てよ。半分引いてこれか? 13階層の魔石、高すぎないか?」
「当然です。上層と言っても中層に近い場所、上層の浅い階層のゴミのような魔石とは、ギルドの評価も需要も天と地ほど違うんですから」
リリは自分の懐に入った「もう半分」の重みに、これまでの苦労が嘘のように消える快感を覚えながら、すました顔で言った。
「それじゃ、また明日。遅れないでくださいね、シュタルク様」
「ああ、助かったよリリ! また明日!」
鼻歌交じりに去っていくリリを見送り、シュタルクは我に返った。
(……これ、このままヘスティア様に見せたら絶対不味い。「ゴブリン一匹倒してきた」って顔で帰るつもりなのに、変に稼いでたのが知られたら……。)
シュタルクはホームである廃教会の地下へ入る前、周囲を慎重に見渡した。
そして教会の隅、瓦礫が積み上がった床の隙間を見つけると、斧の柄で器用に床板をこじ開けた。
(……よし、ここに隠そう。四分の三くらい……いや、これでも多いか。これくらいなら「運良くちょっと多く倒した」で通せるはずだ!)
シュタルクは革袋の中身の大半を床下の穴に放り込み、残った「四分の一」だけを懐に忍ばせて、いかにも「新人の初給料です」という控えめな顔を作って地下室への階段を下りた。
「ただいま戻りました、ヘスティア様!これ、今日の稼ぎです!」
シュタルクがテーブルに置いたのは、ほどよい重さの小さな袋。それでも、中から溢れたヴァリスにヘスティアの目は丸くなった。
「おおっ! シュタルク君!君、初日からこんなに稼いだのかい!? さすがは僕が選んだ眷属だね!」
「あはは……運良く、ちょっと強い奴を倒せまして。サポーターの子が上手くやってくれたんですよ」
(……ふぅ。これでなんとか誤魔化せた。隠した分は、いつか神様に素敵な服とか美味しいものを買ってあげる時の内緒の貯金にしよう)
「よし、それじゃあステータスを更新しようじゃないか。これだけの稼ぎを出したんだ、成長が楽しみだね!」
ヘスティアは期待に胸を膨らませ、シュタルクの背中に指を走らせる。
シュタルク
Lv.1
力 :I 0 → I 9
耐久:I 0 → I 8
器用:I 0 → I 5
敏捷:I 0 → I 6
魔力:I 0
数値が浮き上がった瞬間、ヘスティアは「おおっ、いいじゃないか!」と満足げに頷いた。
「すごいよシュタルクくん! 初日で各項目が8から9も上がってる! 普通の冒険者なら軽い探索で一気にこれだけ上がることは稀だよ。やっぱり『早熟』スキルの恩恵は伊達じゃないね!」
「おお、ホントか!? さすが『早熟』……めちゃくちゃ効率いいな!」
二人は手を取り合って喜んだ。
ヘスティアは、「新米がスキル補正で、通常の3倍近い速度で成長している」という、極めて「順調で微笑ましい」ペースに目を細めた。
一方のシュタルクは、(……小型とはいえドラゴンとか、周りのモンスターと比べると強い方だったジャガーノートを倒してこれだけなのか。恩恵の世界って、シビアなんだな。もっと気合入れていかないと!)と、これまた「納得」し、より一層の精進を誓っていた。
「これなら、少しずつ慣れていけば立派な冒険者になれるよ!」
「はい! 明日からはリリと一緒に、慎重に、丁寧に頑張ってくるよ!」
ヘスティアは潤った懐と、愛し子の「着実な」成長に上機嫌で話に一瞬出たもう1人の名前に気づかずじゃが丸くんを頬張る。
そして廃教会の床下には、シュタルクが「Lv.1の新人」を演じ続けるために隠した、大量のヴァリスがひっそりと眠っていた。