翌朝。シュタルクはヘスティアの「行ってらっしゃい!」という元気な声と、少し多めに持たされたじゃが丸くん弁当を胸に、意気揚々とホームを出発した。
「よし、今日もリリと合流して、しっかり稼いでこよう!」
ダンジョン入り口の広場で待っていたリリは、シュタルクの姿を見つけると、営業用の愛想笑いを浮かべた。
「おはようございます、シュタルク様。今日はどこまで行きますか?」
「おはようリリ! 今日は昨日よりもっと稼ぎたいんだ。だから、一気に下まで行こうと思うんだけど……リリを歩かせると時間がかかっちゃうよな」
「えっ、まあ、リリの足では限界が……ひゃわっ!?」
言い終える前に、シュタルクはリリの小さな体を「ひょい」と軽々とお姫様抱っこで抱え上げた。
「え、ええええ!? シュタルク様、何をご乱心ですか! 下ろしてください、恥ずかしいっ!!」
「ごめんリリ、急ぎたいんだ! 振り落とされないようにしっかり捕まっててくれよ!」
シュタルクはそう言うなり、地面を蹴った。
ドォンッ! という爆音と共に、シュタルクは風になった。
リリの視界は一瞬でブレ、景色が濁流のように後ろへ流れていく。
(は、早い! 早すぎます! これ、本当にLv.1の速度なんですか!?)
リリはあまりの風圧と恥ずかしさでシュタルクの胸に顔を埋めた。シュタルクの体温と、鍛え上げられた胸筋の硬さに顔を赤くしている間にも、彼は迷わず「15階層」を目指して爆走を続けていた。
「シュタルク様、何か、何かにぶつかったような音が――」
「ああ、今のは『アルミラージ』かな。邪魔だったから蹴っ飛ばしておいたよ」
「えっ?」
シュタルクはリリを抱えたまま、一切足を止めずに、進路上に現れた魔物をサッカーボールのように蹴り殺していた。
「あ、今のは『ヘルハウンド』っすね。……リリ、魔石もったいないから、一瞬だけ止まるよ!」
シュタルクがピタッと急停止すると、そこには火を吹く暇もなく「粉砕」されたヘルハウンドの残骸があった。
リリはフラフラになりながらも、本能的に魔石を回収する。
(……今の、本当にヘルハウンドだったんですか? 影すら見えなかったんですけど……!)
そんな異常な「移動兼・狩り」を繰り返し、わずか数十分。
二人は、中層の入り口である「15階層」へと到達していた。
「よし、着いた! ここが15階層かぁ。……リリ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫なわけないでしょう……死ぬかと思いました……」
リリは震える足で地面に降り立ち、周囲を見渡した。
そこは、上層とは明らかに空気の重さが違う、薄暗い迷宮。
「……シュタルク様、ここは15階層。中層ですよ。普通、Lv.1が足を踏み入れていい場所じゃありません。出てくるのは……ミノタウロスなどの化け物たちです!」
「へぇー?ミノタウロスかぁ…確か角をドロップするよね」
シュタルクは恐怖……ではなく、まるで獲物を前にして高額の稼ぎを期待に目を輝かせた。
(……よし。15階層なら、昨日よりも稼げるはずだ。ここでしっかり稼いで、2階層辺りで適当にゴブリンの魔石を確保して偽装もしなきゃな)
一方のリリは、この「ヤベー奴」が次に何を仕出かすのか、恐怖と少しの期待が入り混じった複雑な表情で、手の中にある「爆速で集まった魔石」を握りしめていた。