・クリア後設定/ネタバレあり
・外伝小説の内容は含まれていません
・原作設定を踏まえた独自解釈・捏造表現あり
・シリアス寄り、心理描写重視
・明るくて楽しいおっさん像を求めている方はご注意ください
誹謗中傷・転載は禁止。転載はご遠慮ください
・ファッションショー
ここは帝都ザーフィアス、市民街の服屋。様々な服が並ぶ帝都でも有数の店だ。今そこには、シュヴァーンがパーティーの女性メンバーと共に訪れていた。
数日前、シュヴァーンがダングレストへ訪れるために変装する必要があると聞いたエステリーゼが、「私たちに任せてください!」と喜び勇んで請け負ったのだ。その結果が今である。
「今日は貸し切りです!好きなだけ選べます!」
「エステリーゼ様?どうやって貸し切りなど……」
まさか副帝の権力を使ったのではあるまいかと、彼は不安になった。
「あの『英雄』シュヴァーン・オルトレインの衣装を選ぶと言ったら快く貸してくれました!」
(そっちか!)
「人払いも済ませてありますし、早速始めましょう!」
女性陣がエステリーゼとリタ、パティ、ジュディスに分かれて店内を物色し始めた。
(服のことなどさっぱり分からんからな。身の置きどころがない……)
シュヴァーンはなんとなくそわそわしながら、彼女たちの嬉々とした様子を眺めていた。
いくつかの服を手に取り、女性陣が戻って来る。
「楽しみです。みんなどんな服を選んできたのでしょう!」
「期待するのじゃ!」
「あら、負けないわよ」
「ふん、アタシが選んだのが一番よ」
こちらを向いた女性陣が、満面の笑みで見つめてきた。シュヴァーンは思わず身構える。
(……獲物を見る目だ)
「さあ!始めましょう!!」
*
●エステル
「あの…エステリーゼ様?」
「やっぱり!似合ってます!」
シュヴァーンが着ているのは黒のタキシード。高級そうな布地で作られた、今すぐ夜会にでも行きそうな格好だ。
「シュヴァーンは夜会でもいつも隊服ですから。以前から着て欲しかったのです!」
「夜会は護衛で参加しているので……」
目を輝かせているエステリーゼには悪いが、ここははっきり言わなくては。
「却下です。ダングレストでは目立ち過ぎます」
●リタ
「どうよ、おっさん!」
今度は平民が着るような服ではある。だが、色が原色で統一されている。赤・黄色・青と目に痛い配色だ。ついでに余計なトゲやヒラヒラが付いている。
「ダングレストでギルドの連中になめられないようにしたわ!」
(警告色か。俺は猛毒のヘビではないぞ)
「却下だ。警戒させてどうする」
●ジュディス
「似合っているわよ、おじさま」
「これは…ちょっと…」
今度は色は地味である。寒色系でまとめられている。
問題は布地の少なさだ。上半身は袖無しで腹部が露出していた。下半身はゆったりとしたズボンだが、サイドに大きくスリットが入っていて足首で結ばれている。
「動きやすさを重視してみたわ」
「すまんが却下だ。風邪を引く」
●パティ
「却下だ」
「うちはまだなにも言うとらんぞ!!」
「サメの着ぐるみのどこに理由がある」
*
「う〜ん、困りました」
「おっさん、わがまま過ぎ!」
「どれも似合っていたのにね」
「でも、何かピンとこないのじゃ」
女性陣がシュヴァーンそっちのけで相談を始めた。
(もっと普通の服にしてくれればそれでいいのだが)
しばらく女性陣だけで話し合っていたが、急にエステリーゼが大きな声を出した。
「そうです!ひげが問題なんです!」
(!?)
「無精ひげがあるからピンと来ないんです!シュヴァーン!剃りましょう!」
(何でそうなった!?)
笑顔で迫りくるエステリーゼたちにシュヴァーンは思わず後ずさる。
「「「さあ、剃ってしまいましょう」」」
女性陣に取り囲まれ、シュヴァーンは壁際に追い込まれてしまった。逃げ道を失った彼はついに覚悟を決めた。
「……分かりました。せめて自分でやらせて下さい」
ハイタッチをして喜ぶ女性陣を遠い目で見つめてから、シュヴァーンは大きなため息をついた。
*
その後、何時間経っても決まらず、結局は疲れ果てたシュヴァーンが自分で選んだ衣装を採用することにした。女性陣からは地味過ぎると不評だったが、貸し切りの時間が終わってしまったため渋々納得したようだった。
「また、やりましょうね」
そう楽しそうに言ったエステリーゼに、二度と御免だと思いながらも、頼まれたら断われないのだろうな、と彼は思うのであった。
・お片付け
レイヴンの部屋は、床に本や服、見たことのない道具が散らばっている。改めて見るとカオスだ。これはカロル大先生でなくとも片付けろと言いたくなるな。
「……どこから手をつければ良いのかしらねぇ」
部屋の持ち主が途方にくれている。その手に『誰でもできるお片付け』という本を開いて立ちすくんでいた。
「レイヴン、本は置いていいよ。まずはこれ!」
カロルが大きな箱を二つ、デンッと置いた。それぞれに『捨てるもの』『残すもの』と書いてある。
「最初に全部を要るものと要らないものに分けるんだよ。それから収納し直すんだ」
「おっさん、明らかに壊れている物は捨てて良いか?他は確認してくれ」
「そうね、分かったわ」
カロル大先生が大きく胸を張って宣言した。
「それじゃあ、始めるよ!!」
*
「おっさん、これなんだ?魔導器っぽいが」
小型の金属でできた球体を見つけて、聞いてみる。
「どこかの遺跡で拾ったもの、かしらねぇ。……あ、思い出した!それ、兵装魔導器よ。爆弾型の」
びっくりして思わず落としそうになるのをどうにかこらえる。
「何物騒なもん拾ってんだよ!!」
「それ、特に珍しくもない奴で、なんとなくポケットに入れて忘れてたのよ」
「んなもん忘れるなよ……」
オレはおっさんのいい加減さに呆れてしまった。
「もう核はないし、安全だから捨てて良いわよ」
そう言われて、球体を『捨てるもの』へと放り込んだ。
「レイヴン、この服は?女性ものだけど?」
カロルの手には女性用のワンピース。フリルたっぷりのかわいいやつだ。……まさかレイヴンの女関係か?
「あ〜、まじか〜。まだあったのね……」
ため息をついたレイヴンの方を見ると、大きく肩を落としてうなだれていた。
「え、なにかマズイものだった?」
「少年、大人には思い出したくないことの一つや二つあるものなのよ……」
これは面白そうだ。ちょっと突っ込んで聞いてみるか。
「おっさん、ちゃんと教えてくれないと分別できないぞ。ほら、言ってみろ!」
「……ユーリのいじわる」
レイヴンはもう一度大きなため息をつくと、観念して話し始めた。
「おっさんが『天を射る矢』に入ったばっかりの頃、宴会があってね……。それを着て出し物をやれってドンに押し付けられたのよ……」
「レイヴン、着たの!?」
「知ってるでしょ、あのじいさん人の話を聞きゃしないんだから。強引に着せられたわよ……」
レイヴンの女装。フリルたっぷり、無精ひげあり。しっかり想像して思わず笑ってしまった。
「だから、言いたくなかったのよ!もう!」
「はははっ、悪かった、悪かった」
「おっさんの黒歴史よ……」
レイヴンが拗ねてしまった。しゃがみ込んで床に『の』の字を書いている。
「あ、えっと、これはなに、レイヴン?」
いたたまれなくなったのかカロルが慌てて何かを見せてきた。白い表紙の本だ。
「ほ、ほら、写真が一杯貼ってあるよ」
「…写真?あらま、そんなとこにあったのね〜」
レイヴンの機嫌が急によくなった。何の写真だ?
「それ、ハリーの子供の頃の写真よ。かわいいでしょ〜」
カロルからそれを受け取ったレイヴンがにこにこしながら写真を見せてくる。
覗いてみると、やんちゃそうな顔をした少年が写っていた。今のカロルより幼い感じがする。
「昔、ドンが孫のハリーの写真をよく撮っててね。色んな人に配ってたのよ。たくさん溜まったから、それにまとめたの」
「へぇ、あのじいさんがねぇ」
3人で写真を眺めていたら、部屋のドアがノックもせずに開いた。入ってきたのはハリーだった。
「おい、レイヴン。この書類……。お前ら、がん首そろえてなに見てんだ?」
一瞬だけ3人で顔を見合わせた。すごいタイミングで来たな、ハリー。
「片付けてたらね、ハリーが子供の頃の写真が出てきたの。かわいいわよ〜。今とは大違いだわ〜」
「な!?てめえ、よこしやがれ!!」
顔を赤くしたハリーが、すごい勢いでレイヴンから本をひったくって、部屋を乱暴に出て行った。
「おっさん、いいのか?持っていかれたぞ」
「いいのよ、これで」
「そうか。じゃ、続きに戻るか」
3人は再び片付けへと戻る。まだまだ終わりそうにないな。時間はある。ゆっくりやるか。そう思いながらオレはカオスな部屋を眺めるのだった。
・エステルの思い出
ザーフィアス城の騎士団長執務室。フレンからの提案により、皆で昼食を摂ることになった。ユーリがエステリーゼとリタも誘ったため、とても賑やかに食事会は進んだ。
皆で食後の紅茶を楽しんでいると、エステリーゼが話しかけてきた。
「ねぇ、シュヴァーン。10年以上前に、私と二人で食事を取ったことがあるのですが、覚えていますか?」
「はい、もちろんです」
(随分と懐かしい話だ)
エステリーゼからの問いかけに、彼の中の遠い記憶が蘇っていく。
「10年以上前って言ったら、『人魔戦争』より前か?」
その話に興味を持ったらしいユーリが、エステリーゼに続きを促した。
「はい。その頃、私はいつも一人で食事をしていました。でもその日は無性にそれが寂しくなって、泣き出してしまったんです」
「その頃ってエステルはまだ6つくらいよね。仕方ないんじゃない」
リタの言葉にエステリーゼが頷く。昔を思い出しているのか、遠くを見るようにしていた。
「その時の護衛に付いてくれていたのがシュヴァーンだったんです。泣きじゃくる私の隣に座って、何も言わずに懐に持っていた携帯食料を食べ始めたんです」
エステリーゼが楽しげにくすくすと笑う。
「不敬をお許し下さい」
「そんなことはありません。最初は驚きましたが、とても嬉しかったです」
頭を下げたシュヴァーンに、エステリーゼは笑顔で首を振った。
「その頃からシュヴァーンは変わらず無口だったんだな」
「そうですね。変わらないです。他にもたくさん優しくしてもらいました」
(優しく?何の事だ?)
彼は思い出そうとしたが、特に変わったことをした覚えがなかった。
「エステリーゼ様。シュヴァーン隊長の昔の話、もっと聞かせて頂けませんか?」
フレンがキラキラした目でエステリーゼに催促した。
「はい!まずは、私が話しかけると、他の大人の人たちと違って、いつも目線の高さを合わせて聞いてくれました。どんな話でも真剣に聞いてくれたんです!」
(子供と話す時に目線の高さを合わせるのは、当たり前のことじゃないのか)
フレンが嬉しそうに、「さすがシュヴァーン隊長…」と呟いているのが目に入った。
「図書館で一緒に本を選んでくれました。シュヴァーンが選んでくれた絵本はどれも素敵なお話ばかりで、今でも大好きです!」
(市民が読むような絵本しか分からなかったのだが)
フレンがますます嬉しそうにこちらを見て話しかけてくる。
「シュヴァーン隊長は絵本にもお詳しいのですね!」
「……偶然だ」
彼は段々といたたまれない気持ちになってきた。
「そうです!あれがありました!」
エステリーゼまでキラキラした目でこちらを見つめてきた。
「私、あの頃ダンスが下手だったんです。先生にもたくさん叱られて……。落ち込んでいたら、練習相手になってくれました!とても紳士的でした!」
(あれは、遊びに付き合ったようなものだろうに)
ユーリまでもが関心したような顔でこちらを見てくる。
「エステルの理想が騎士様なのはおじさまの影響かしらね」
「そうかもしれません!……その後、戦争が始まって、会えなくなった時はとても悲しかったです……」
その時の感情を思い出したのか、エステリーゼが泣きそうな顔をした。しかしすぐに笑顔になるとシュヴァーンに話しかける。
「でも、今こうしてまた一緒にいられて、とても嬉しいです!」
エステリーゼの昔と変わらない陽だまりのような笑顔にシュヴァーンの心が温まるような気がした。
「私もです。エステリーゼ様」