成り代わりデリザスタはシラフではいられない   作:月夜鴉

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01話 マーチェット通りにてマッシュ一行と遭遇

 質の悪い風邪にかかって自宅で休んでいたら意識が遠くなり、気がついたら赤ちゃんになっていた。

 目の前には特徴的な痣を持った長い銀髪の男、イノセント・ゼロことシリル・マーカス。

 

 夢なら覚めてくれと願いながらも叶うことなく過ぎ去る日々。

 そんな俺は悪魔の五つ子(デビルクンタブレット)、四男のデリザスタに転生していた。

 陰の俺とは真逆と言っても過言ではない陽の者。

 

 転生するならなぜモブになれなかったのか。そもそもなぜマッシュルの世界に転生したのか嘆いたこともある。

 それでもこの世界で生きて行くしかないと覚悟を決めた。

 

 そんな俺ももう27歳。前世と同じ歳になった。熱心なファンなら年齢で原作開始が分かるかもしれないが、一般的なファンである俺にはわかりゃしない。

 

 俺の日常としては、お父様の指令がある時以外は好き勝手にさせてもらっている。身バレ防止のため外出する時には茶髪のカツラを被り、長い前髪を垂らして目が隠れる状態にしている。背中を丸め一般的なローブを纏った地味な格好はまさに陰キャのそれだろう。

 顔の痣も前髪で隠しているのであまり目立たずに済んでいる。痣が顔の上半分にあって良かった。

 

 そして今日、ストレスフルな日常の中で日用品や嗜好品を購入するためマーチェット通りへとやって来たところだ。

 そこで槍を持った全身鎧を見つけた。何かの催しがあるのかと思って歩みを進めれば、その近くには三日月の夜を模したような髪色の少年、フィン・エイムズの姿があった。

 

 すー……。

 

 深呼吸しながら思わず物陰に隠れて様子を窺う。少ししてトレーニングウェアを着たマッシュくんがコロコロを使用しながらやって来た。

 次に現れたのは一見まともに見える姿のランスくん。彼は妹さんのプリントされたシャツをフィンくんに見せていた。

 

 まさに原作通りの展開が目の前で繰り広げられて俺は言葉を失った。

 

 

 

「ずっとオレたちについてきているようだが、何か用か?」

 

 遠くからマッシュくんたちを見ながらついて行ったのがまずかった。

 ランスくんに見つかってしまった。

 

「あ、いやその僕は」

 

 ランスくんはマッシュくんたちと一緒にいるわけで、多数の目が俺に向いた。

 

「何か言えないことでも企んでいたのか?」

「めめめめ、滅相もありません!」

 

 悲しいかな。陰キャかつコミュ障なせいで上手く言葉が出ない。

 

「最初は凄い格好の人たちが集まってるなと思って見ていたんです。その後は仲良く遊ぶあなたたちが微笑ましくて見ていました。ぼ、僕には友達がいないから、友達と遊ぶのってこういう感じなのかなと想像しながらついていっていました」

 

 嘘は言っていない。ただ、話すこと自体に必死になって余計なことまで言ってしまった。

 俺に友達がいないとか、友達と遊ぶことを勝手に彼らで想像していたとか話す必要はなかったと言った後で気がつく。

 

「あああっ! 気持ち悪いですよね。すみませんでした! も、もうつきまとったりしないので許してください!」

 

 これ以上墓穴を掘る前に離脱するべく、彼らにお辞儀をした後で反転して走り出す。

 

「そう慌てなさんな」

 

 しかし、気がつくとマッシュくんに腕を掴まれていた。

 抵抗するが、まるで万力のようなマッシュくんの手を外せる気がしない。

 

「みんなどうかな? この人も一緒に遊びたいって」

 

 待って。何でそうなるの。

 俺は遠くから見てるだけで良かったんだ。下手にかかわって原作と違うことになっても怖いし、楽しそうだなとは思ったが一緒に遊びたいとまでは思ってない。

 

「いいんじゃねぇか」

「うん、多い方が楽しいと思うよ」

 

 と言ったのはドットくんとフィンくんだった。

 さすがに断れられるだろうと思っていたのに、受け入れられそうだ。

 

「ランスくんは?」

「敵意は感じなかった。遠くで何をやっているかわからないよりは目の届く範囲にいてくれる方がいい」

 

 嘘だろ!?

 反対されると思っていたランスくんにまでOKされてしまった。

 いやまぁ、言ってることはもっともなんだけども。

 

 その後、それぞれから自己紹介された。

 この流れで断ることなんて俺にはできなかった。

 

「ぼ、僕はアルフと申します。よろしくお願いします」

 

 さすがに本名は名乗れないのでこの姿の時に使っている偽名を名乗らせてもらった。

 前世でファンタジー系のゲームをする時に良くつけていた名前だ。

 

「じゃあ行きますか」

 

 こうして、俺はマッシュくんたちとマーチェット通りで遊んだ。

 俺としては落ち着かなくて、しきりに前髪を触ってちゃんと痣が隠れているかを気にしてしまった。

 

 途中でレモンちゃんとトムさんも合流したが、その2人にも受け入れられてしまった。

 

 マッシュくんたちと一緒にシュークリームを食べた後は服屋へと行った。

 あまり私服を持っていないマッシュくんにランスくんやトムくんが服を見繕っている。

 

「マッシュくんは髪の毛が黒いから黒っぽい服装が似合いますね。でも目が金色だから黄色なんかの差し色があってもいいかもしれません」

 

 俺は黒を基調として裾や袖口に黄色のラインが入っているパーカーと黒いズボンをマッシュくんに差し出した。

 そして、差し出した後にハタと気づく。

 

 服のこと考えるのに必死で距離感間違えた!

 

 馴れ馴れしく思われていないか恐る恐るマッシュくんを見ると、なんでもないようにお礼を言ってくれて服を受け取り試着室のカーテンを閉めた。

 

「どう?」

 

 俺の渡した服を着たマッシュくんの表情は変わらないが、何となくキラキラしている気がする。

 

「とてもカッコいいです!」

「良く似合っていると思いますよ」

 

 俺が答える前にレモンちゃんがマッシュくんの恰好を絶賛する。

 レモンちゃんに続いて俺も感想を伝えた。

 

 服屋へ行った後は記念写真を撮ろうということになった。

 さすがにぽっと出の俺がその写真に混ざるのは申し訳ないので遠慮した。

 

「え。一緒に撮ろうよ」

 

 しかし、マッシュくんにそう言われてしまって断り切れなかった。

 結局俺はフィンくんの隣でピースして写ることになった。

 

 気は遣うし気まずさもある。緊張もするしで精神的に疲れはしたが、それ以上に楽しかった。

 

「またみんなでこようね」

 

 マッシュくんの言葉に僕以外の全員が頷いた。

 

 本当に楽しかった。マッシュくんもそうだけど、他の人たちも良い人たちばかりだ。

 だからこそ、いずれ敵として相対することを考えると苦しくなる。

 

 ……戦いたくないな。

 

 そうは言っても、俺は原作のようにフィンくんたち兄弟の前に立ちふさがるつもりでいる。

 フィンくんたち兄弟の成長のためだ。フィンくんのセコンズは非常に重要で、そのセコンズはデリザスタ戦で覚醒するからだ。

 

 これ以上仲良くなってしまったら戦いづらくなる。

 彼らとの交流もここまでにしなければならない。

 

「今日は凄く楽しかったです。ありがとうございました!」

 

 頭を下げて俺は彼らに背を向けて歩き始めた。

 

「アルフさん!」

 

 フィンくんに声をかけられて振り返る。

 

「その、大丈夫ですか?」

 

 彼はとても心配そうな顔でそんなことを聞いてきた。

 

 ……誰かに心配されたのっていつぶりだっけ。

 

 世界的な犯罪組織にそんな優しい言葉はない。

 考えてみたけど、前世でもあまり思い出せない。

 

 心配されるのって嬉しいな。

 だから俺は「大丈夫です」と答え微笑もうとした。

 

 しかし、声は出ず喉は震え顔は引き攣っている。

 気がついたら涙を流していた。

 

「っ……すみません。ちょっと仕事が大変で情緒が不安定になっていて。皆さんと今日一緒に遊べて本当に楽しかったんです」

 

 慌てて目元を拭って顔を背ける。

 

 あぁ、駄目だな。幸せすぎて痛い。苦しくて呼吸が乱れる。

 

 目を閉じ深呼吸して気持ちを落ち着かせている間、フィンくんは優しく背中を摩ってくれていた。

 恥ずかしすぎる! どんなメンヘラだよ!

 

 少しして落ち着き、フィンくんの方を向いて顔は見ないまま微笑んだ。

 

「ありがとうございます。もう大丈夫です」

 

 頭を下げた後、返答を待たず逃げるようにその場から駆けだした。

 ドン引きされていたらと思うと怖くて彼らの顔を見ることができなかったからだ。

 

「待ってください!」

 

 フィンくんの呼びかけも無視して俺は走った。

 

「待って」

 

 が、またしてもマッシュくんに腕を掴まれ動けなくなる。

 

「離してくださいっ……!」

「ごめん。でも、フィンくんが何か言いたそうだから」

 

 マッシュくんは手を離さず、そうこうしている間にフィンくんがやってきてしまった。 

 フィンくんはマッシュくんにお礼を言うと俺の方を見た。

 

「アルフさん、連絡先を教えてくれませんか?」

 

 正気か!?

 自分で言うのもあれだけど、俺ほど怪しい奴もそうそういないぞ!?

 

 戦いにくくなるってこと以外にも、下手に交流して原作を壊したくないという理由からもう会わないつもりだった。どちらも話すわけにはいかないし、そもそも何かを断ること自体が苦手だ。

 その上フィンくんの目は純粋に俺を心配してくれているようで、気がつくと伝言ウサギの番号を教えてしまっていた。

 フィンくんが伝言ウサギの番号を教えてくれる。

 

「良かった。これで連絡が取れますね」

 

 そう言ってフィンくんが笑った

 

 こうして、俺はフィンくんと伝言ウサギの番号を交換してしまった。

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