(フィン視点)
フィンたちがアルフと別れて通路を進んで少し経つ。
ソフィナは確認することがあると言って別行動となった。
「アルフさん……」
アルフに対しての第一印象は、地味な装いでどこかオドオドとした気が弱そうな人だった。目は長い茶色の前髪に隠されている上に俯きがちで、人の視線を怖がっているようにも見えた。会話に詰まったり人と接することに苦手そうな様子を見せ、自分にも覚えのある言動をする彼に対してフィンは密かに親近感を覚えていた。
酒を飲みほろ酔いとなっていれば気が大きくなるようで比較的普通に話すようになる。
学生ではないし出会いも変わっていた。
みんなで遊び終わってそろそろ解散だというタイミングで突然泣き出してしまったことには驚いたけれど、何だか放っておけなくて離れようとするアルフを呼び止め連絡先を交換した。
それから機会があれば誘って交流を深めた。迷惑かもしれないと思ったこともあったが、なんだかんだとアルフは楽しそうに見えた。
(なのに、どうして?)
いや、わかっている。彼にも事情があったのだろう。
ともかく、アルフというのは偽名であり彼は悪魔の五つ子、四男のデリザスタとしてフィンたちの前に立ち塞がった。
本人はアルフであることを隠していたし、見た目や振る舞いも普段の彼とは似ても似つかないものだった。
伸ばされた背筋にしっかりと上げられた顔、前髪で目元を隠すこともない彼の顔は良く見えた。ハキハキとそれなりに大きな声量で紡がれる言葉は、流れるような軽口と冗談で、いきなり肩を組んでくるようなフレンドリーな対応さえ見せた。
それでも、変わらないところもあった。纏った酒の臭いに声や尖った歯。顔の輪郭はアルフと同じだった。
肩を組まれて飲むように勧められたワイングラスに入った液体からはワインの臭いはせずよくあるブドウジュースの匂いがした。レインへの攻撃も掠める程度の弱いものだった。どれも彼の優しさが残っていた。
デリザスタはアルフなのではないか。
その疑念が確信へと変わったのは、目からウロコが出たという状態を信じたレインに対してフィンがツッコミを入れた時だ。
あの時、彼は眩しいものでも見るように目を細めてとても穏やかな微笑みを浮かべていた。その微笑みが全員でスゴロクをしていた時やマッシュとドットが海で遊んでいた時にアルフが浮かべていた微笑みと重なった。
その後誤魔化すようにケラケラと笑っていたが、フィンには無理してそうしているようにしか見えなかった。
せっかく和解できたというのに、彼の裏切りに気づいたイノセント・ゼロが彼の魔心臓を止めてしまった。
フィンでは彼を治癒することはできず、かろうじてその命を繋ぐことしかできなかった。
なのに、その延命ですら彼は断ってしまった。
「フィン、集中しろ」
「……はい」
ここは敵の居城で後悔している時間はない。
フィンは1度小さく息をついて覚悟を固めた。
(視点なし)
最後の部屋に繋がる大きな扉を開けると下り階段があった。その階段自体もそうだが、部屋自体がひたすらに広く天井も高かった。
そしてその部屋の奥には上がり階段があり、階段の先には無邪気な深淵が座しているであろう部屋へ繋がる扉がある。
その広間には悪魔の五つ子、長男のドゥウムが大剣を携えて立っていた。ドゥウムの足元には倒れているドット、少し離れたところにあるひび割れた壁にはランスがいた。どちらも血を流しボロボロの姿だ。
そして、ドゥウムは倒れ伏しているドットへ向かってその大剣を振り被った。
その大剣を、レインのパルチザンが弾いた。
「神覚者の生き残りか」
ドゥウムが広間へとやってきたレインたちを見る。
「いくぞフィン、最初から全力だ」
「ハイ、兄さま!」
レインの指示でフィンは自身の魔力をレインへと譲渡する。
無数の剣を瞬時に生成するラピッドパルチザン、その全てをドゥウムに飛ばしても彼はそれを凌ぎ無傷であった。
「ラージパルチザン」
レインの大技である巨大な剣が生成される。
しかし、大技というのは得てして隙が大きくなるものだ。ドゥウムもこれまでの経験からレインが大技を発動した瞬間を隙と判断して彼へ向かって肉薄した。
「チャンジズ」
だがそれは隙のように見えて隙ではない。
ラージパルチザンの切っ先に立っていたフィンがチェンジズで自身の場所とドゥウムの場所を入れ替える。
それによってドゥウムはラージパルチザンの切っ先――回避不能な位置に立たされていた。
「なかなかやるじゃないか。敬意をこめて5割の力で相手をしよう」
5割までの力を解放したドゥウムは、レインのラージパルチザンでさえもいなしてしまった。距離を詰められ足にダメージを負わされたレインをフォローしようと駆け寄ったフィンにの目に血が飛ぶ。視界を潰され近づく気配になす術もなかったフィンだが、予想される攻撃は与えられなかった。
目を開けられるようになったフィンは、眼前に迫るドゥウムを砂が拘束し、彼の背後にオーターの姿を見た。
「砂の神覚者か。光の神覚者はまだ来ないのか?」
「安心しろ。その心配は必要ない。私で最後だ」
短いやり取りの後、オーターの大量の砂がドゥウムへと襲い掛かる。その一部は渦を巻き槍のようにドゥウムを貫かんとする。
ドゥウムはそれを剣で防ぐも勢いを殺すことはできずに後方へと押しやられた。
「レイン、次男が逃げた。奴の能力は透明化だ」
サーズにもなれば気配すら消え、奴の攻撃が当たる瞬間まで気づくことができない。
オーターは端的に必要な情報だけをレインに伝えた。
乱戦となってしまえばより厄介になる。
そうなる前にドゥウムを倒しておきたいところではあるが、そう簡単にもいかない。
オーターの砂の槍がドゥウムに当たっているが、魔力で体を覆っているのか非常に硬くダメージが通っているようには見えなかった。
「少しはやるようだな。6割だ」
そう言ったドゥウムは砂を掴み、それを投げることでオーターの砂槍を真正面から貫いた。
オーターの頬を砂が掠め血が流れる。
砂の槍が薙ぎ払われたことにオーターが微かに目を見開く。
その血を拭うこともせず、オーターは冷静に攻撃方法を変えた。正面からが駄目ならと、ドゥウムの足元から四方八方を砂で取り囲み砂の監獄を作り上げる。
「安心して眠れ」
そのままドゥウムを砂で覆って閉じ込めると一気に圧力をかけた。
ドーム状の砂の塊が収縮を始めるが、一定の大きさから縮まることがない。
砂の塊に人型が浮き上がったかと思えば、次の瞬間にはオーターの腕から血が噴き出ていた。
ドゥウムを押さえつけようとして体にかかっていた負担が許容量を超えて肌が割けた結果だった。
ドゥウムは囚われた砂の監獄から何事もなかったかのようにゆっくりと歩み出てくる。
「少しはやるようだと言ったが訂正する。ほんの少しの間違いだ」
次話は12時の投稿です。