成り代わりデリザスタはシラフではいられない   作:月夜鴉

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本日3話目の更新です。
1話目、2話目がまだな方はご注意ください。


12話 ドゥウム戦(3/3)

 広間にデリザスタの姿はない。

 すでに亡くなってしまっているであろう彼の魔法がどのような原理で発動したのかもわからない。

 それでも、ファーミンの攻撃から守るように降ったアスカロンにフィンはデリザスタらしい優しさを感じた。

 

 しかし、感傷に浸っている時間はない。

 

 フィンは突然現れた道化師を見た。

 オーターの発言で彼が五兄弟の次男であることは確定している。幹部を尋問した時に聞いた話によると、イノセント・ゼロや長男ですら警戒しているという強欲で見境のない人物だ。

 そんな次男がデリザスタを殺したのはレインだと勘違いしている。

 

「兄さまはデリザスタさんを殺していません! デリザスタさんは僕たちを助けようとしたことでイノセント・ゼロに心臓を止められてしまったんです」

 

 フィンはファーミンへ事実を告げた。ファーミンは敵ではあるが、デリザスタを殺したと思っているレインに対して殺気立っていたことやアスカロンを見て動揺する様子を見るにデリザスタを大切にしていたことが窺える。

 だからこそ、デリザスタが亡くなったことへの誤解を解いておきたかった。

 

「デリザがお父様やオレを裏切ってお前らを助ける理由がない。くだらない嘘だ」

 

 ファーミンはレインのパルチザンを躱しながら再び透明化し姿を消した。

 

 その時、コツコツと広間の中央へと近づいてくる靴音が響いた。

 

「お前たち、よく耐えたな。オレが来たからにはもう安心だ。そう、オレ様こそ人・類・最・高・傑・作!」

 

 そこへ光の神覚者であるライオ・グランツがやってきた。

 決め顔で名乗ろうとしたところでドゥウムの拳が叩き込まれ吹き飛ばされるが、砂煙の中から鋭い光の線が迸りドゥウムの顔へ命中した。

 

「全く、良い演出だ。全てこの、ライオ・グランツを引き立てるためのな」

 

 そう言ってドゥウムへ人差し指を向けたライオは無傷だった。

 

 レインがライオへドゥウムが盲目であることを伝える。

 ライオは情報共有に礼を言った後、絶好調な様子で自身が現役最強であり魔法界一の男前でもあるとパフォーマンスと共に決めポーズをとった。

 その言葉にドゥウムを始めオーターとレインですら言葉を失っていた。

 

 しかし、ひとたびライオが攻撃を始めるとその連射速度をもってドゥウムを後退させた。

 

 ライオとドゥウムが戦闘を始めた一方でレインたちは姿を消したファーミンを警戒していた。

 フィンはどうにかしてファーミンを止めたいと必死に思考を巡らせた。

 

 そうして浮かんだ案は、成功すれば説得力があるが失敗すればより説得が難しくなるような方法だった。

 しかし、それ以外の案が浮かばないことも事実だった。

 

「聞いてください! デリザスタさんは僕の友達なんです!」

 

 フィンは懐から1枚の写真を取り出して頭上へと掲げた。

 アルフとしての姿で出会い、一緒に遊んだ時に撮った集合写真。

 ファーミンがデリザスタのアルフとしての姿を知っていれば良いが、知らなければ騙されたとしか思えないような代物だ。

 

 掲げた写真は引っ張られ、フィンが手を離すと空気に溶け込むように透明となった。

 

「……お前、名前は?」

 

 フィンたちから少し離れたところに姿を現したファーミンの手には、先ほどまでフィンが持っていた写真があった。

 

「フィンです。フィン・エイムズと言います」

 

 フィン……。と吟味するようにフィンをじっと見たままファーミンが呟く。

 気のせいかもしれないが、それまであった殺気は感じなくなっていた。

 

 その直後、ズズズという音と共に空中に炎が広がった。

 その炎は中心から外側に向かって円形状に広がるとその中心にイノセント・ゼロを映し出した。

 

『ファーミン、何を遊んでいる』

 

 ファーミンはイノセント・ゼロへと視線を移した。

 

「お父様……デリザスタを殺したのはあなたですか?」

 

 イノセント・ゼロと会話を始めたファーミンにフィンがゴクリと生唾を飲み込む。

 

『確かにデリザスタの魔心臓を止めたのは私だよ。デリザスタは神覚者を匿っていただけでなく、侵入者を始末することなく通したからね。しかし、ファーミンがそれほどデリザスタを気に入っているなら生き返らせようか。その侵入者たちを排除したら、の話だけれどね』

 

 私も親としてデリザスタの躾をするが、あとはファーミンの好きにすればいい。

 イノセント・ゼロは、まるで子どもに玩具を与えるかのように告げた。

 

 ファーミンはもう1度フィンから受け取った写真を見た後で懐にしまうとイノセント・ゼロを見た。

 

「……わかりました」

 

 ファーミンの返答に説得は駄目だったかと緊張が走る。

 その中でオーターは即座に反応し、砂の牢獄にファーミンを閉じ込めた。

 

 その直後、砂の牢獄の天蓋をアスカロンが突き破った。天井へ向かうアスカロンはそのまま消え去り、穴の開いた天蓋はすぐに塞がった。砂の牢獄はそのまま収縮するが、その中にファーミンはいなかった。

 

 警戒を続けていれば、突如として現れたアスカロンが広間の最奥へと通じている扉を貫いた。扉が大きな音を立てて崩れ落ちる。

 

 この3度目のアスカロンにフィンは違和感を覚えた。

 これまでのアスカロンは2度とも何かの攻撃を防ぐように現れたというのに、3度目のアスカロンだけは扉を攻撃するように現れた。

 その違和感を確認するように振り返れば、ファーミンの攻撃からフィンを守るように現れたアスカロンは未だに床へ刺さっている。

 

『まったく、デリザスタの反抗期にも困ったものだ』

 

 フィンの違和感を裏付けるように、イノセント・ゼロが突然吹っ飛んだ。

 その直後に映像が移したのはチャクラムとそれを掴む手、白と紫のラインが入った袖だった。

 

 その光景に広間にいた全員が息を飲んだ。

 

 そこに現れたのは、ファーミンだった。

 両手にチャクラムを持ち、それを構えた状態で立っている。

 

 あぁ、やっぱりとフィンは思う。

 2度目のアスカロンはファーミンによって透明化され、3度目のアスカロンに見せかけられたのだろう。

 イノセント・ゼロからの指示に了承を返したのも、全てはイノセント・ゼロの不意を突くためだったのだ。

 

 イノセント・ゼロは壁に叩きつけられた体勢のまま、ゆっくりと立ち上がった。

 

『……ファーミン。自分が何をしているのかわかっているのか。私が死ねばデリザスタを蘇らせることもできなくなるぞ?』

 

 ファーミンは無表情のまま、チャクラムを構えた。

 

『デリザは、友達を殺してまで生き返ることを望まない。お父様はそんなことも知らないんだな』

 

 ファーミンは再び透明化するとイノセント・ゼロに肉薄した。

 左右に持ったチャクラムを交差させてイノセント・ゼロの首を狙う。

 その刃はイノセント・ゼロの首を浅く切り裂き血を飛び散らせた。

 

 だが、それだけだった。

 

『タイムズ ダイアル』

 

 イノセント・ゼロを中心に時計を思わせる文字盤が広がった。縦横無尽に回転する鋭い針が透明化したファーミンを横薙ぎにし、ファーミンが張ったシールドごと腹部を切り裂く。ファーミンはそのまま吹き飛ばされて壁に激突すると血を吐いた。

 

『見えなくとも広範囲に攻撃すれば当たる。私に勝てないことなどわかっていただろう。デリザスタに悪い影響を受けて愚かなことをしたものだ』

 

 蔑むように言ったイノセント・ゼロがファーミンに杖を向ける。

 

『お父様にはデリザの暖かさも面白さもわからないだろうな。カワイソウに』

 

 それだけ言ってファーミンは力尽きた。

 

『――ドゥウム。残りの侵入者の始末は任せたぞ』

「わかりました。父さん」

 

 イノセント・ゼロとファーミンが戦っている間も広間では戦闘が行われていた。

 既に全員がボロボロとなっているが未だドゥウムを切り崩すことはできずに苦戦を強いられている。

 

 それでもライオはドゥウムへと立ち向かっていく。

 

 オーターとレインがドゥウムの足止めをしている間にライオはサモンズを唱え、杖を変化させた。

 

「ライツサーズ、ヒュペリオンインクラネイション!」

 

 召喚される光の神は神々しく、光を背負っている。

 ライオの魔力を全て消費して発動する諸刃の剣ではあるが、その分威力は凄まじい。

 

「ジェネシスクライシス!」

「8割だ」

 

 しかし、そのライオのサーズでさえもドゥウムの力を込めた一振りで切り裂かれてしまった。

 

 当然ながらライオにも斬撃は届いており、血を吹き出させながら倒れた。

 かろうじて生きてはいるが、誰が見ても瀕死とわかるほどの重傷だ。

 

 しかし、それでもライオは立ち上がる。

 ドゥウムがこの場の誰かに留めをさすために離れようとすれば、ドゥウムのズボンを掴んで引き留める。

 

 ライオはドゥウムに殴られ、蹴り飛ばされても立ち上がった。

 ドゥウムは淡々とその抵抗を無駄だと告げた。

 

「これ以上やっても自慢の顔がひどくなるだけ、せっかくの男前が台無しだぞ」

 

 そう言ってドゥウムはライオの顔を殴った。

 ふらつきながらもしゃがんだままの体勢を維持してライオは小さく笑った。

 

 ライオの言う男前とは顔の良し悪しではない。

 

「男前っていうのは、どれほど敵が強く、自分が無力だと思い知ったとしても仲間のために立ち向かっていける男のことだ」

 

 そう言ってライオは立ち上がり杖を構えた。

 呪文を唱えるべく声を出すも、ドゥウムに当たっただけで彼は崩れ落ちた。

 

 そんなライオの姿にドゥウムも彼を真の強者と認めた上で、彼に止めを刺すべく剣を振り上げた。

 

 その時、コツコツという足音が広間の入口から響いてきた。

 

「おまた」

 

 階段を下りてきたのは、マッシュだった。

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