「ごめん、マッシュくん。僕たちがもう少し早く着いていれば……」
あの後、イノセント・ゼロに奇襲が行われ、その隙にマッシュを運び出した。
ドットに運ばれているマッシュにはまだ微かに息があった。
フィンが絶えずセコンズを発動しているが、回復させることはできずに現状維持することが精いっぱいだった。
ファーミンを置いていくことに抵抗はあったが、そんなフィンの迷いをファーミン本人に見透かされ「バカか」と一喝されてしまった。
「とにかくこの建物から出てメリアドールさんに引き渡すんだ」
それまでになんとかイノセント・ゼロから逃げ切る必要がある。
ライオの言葉にドットが短く返事をする。
「絶対になんとかしてやるからなマッシュ!」
ドットが励ますようにマッシュへ声をかけた。
ライオもオーターが肩を貸すことでどうにか動けている状態。全員が満身創痍だ。
けれど諦める者はいない。
そうして必死に通路を進んでいると黒い煙のようなものがフィンたちの前に立ちはだかった。
「なんだこれは……! 闇の魔法?」
いけるだろうとドットが煙に突っ込む。煙に触れたドットのローブの袖と靴がジュッという音を立てて溶けてしまった。
「ドットくん!」
フィンは慌ててドットを煙から引き離した。
「ギャァ、推し戻ってくる!」
煙から距離を取ったはいいもののこれでは先へ進めない。
それどころか、停滞していた煙がフィンたちへ向かって流れ始めてしまった。
しかし、その直後に煙は薄くなりやがて消えた。
なぜ煙が消えたのか、フィンたちには分からなかった。
だがライオには心当たりがあった。
イノセント・ゼロに捨てられ、自身が犠牲になることも厭わずにマッシュを逃がしたドミナ。
彼の危機を救ったのはライオで、そのこともあって今回の作戦にドミナは手を貸してくれた。そして今もイノセント・ゼロの足止めをしてくれている。
先ほどの煙もイノセント・ゼロの差し金だったのだろう。それをドミナがどうにかしてくれた。ライオにはそう思えた。
「これで先に進める! 急ぐんだ!」
一同が再び走り始める。
少しでも早くメリアドールへとマッシュを届けるために。
「道が塞がってる! こんな質量、並の魔法じゃ……」
それを阻むように通路が瓦礫によって塞がれていた。
オーターは砂魔法でライオをレインへ押し付けると瓦礫に向かって杖を構えた。
オーターなら瓦礫を排除できるだろう。だがそのためにはかなりの魔力を消費することになる。
フィンはアスカロンを握る手に力を込めた。
「……力を貸してください。アルフさん!」
フィンはアスカロンを瓦礫へ向かって投げつけた。
願いを込められた一投は真っ直ぐに瓦礫へと飛んで行く。
その途中でアスカロンは巨大化すると、瓦礫の山を貫き退路を切り開いた。
思った以上の威力でフィンの顔に苦笑いが浮かぶ。
これほど強力な攻撃魔法を持っていたにもかかわらず、アルフはフィンたちの戦闘で1度も使用しなかった。
しかし今、アルフはその力を惜しむことなく貸してくれている。
都合の良い解釈かもしれないが、フィンはそう感じた。
「よし、行こう!」
一同が駆け出した直後、背後から無数の雄叫びが聞こえた。
フィンが振り返れば、そこにはイノセント・ゼロが集めたオークなどの人ならざる種族が向かって来ているところだった。
手負いで移動速度の落ちているフィンたちでは確実に追いつかれる。
「グラビオル!」
ランスが重力魔法で押しつぶそうとするが、膝をつかせることすら叶わなかった。
魔力がもう残っていないせいだ。
逃げるにしても戦うにしても分が悪い。
「やべぇ! もう追いつかれる……!」
もうそこまで敵はやって来ていた。
背後から近づいてくる雄叫びと足音、その音に混じってパラパラと何かをめくるような微かな音が正面の瓦礫の陰から聞こえた。
その直後にフィンたちの横をすり抜けていったのは、文字が連なる無数のロープだった。そのロープは追手に絡み、動きを封じ始めた。
「出口はすぐそこです。行ってください!」
現れたのは、別行動になっていた神覚者の1人、ソフィナだった。
【おまけメモ】
・ソフィナの魔法について
今回、ソフィナが文字をロープのように連なって追手を拘束しましたがこちら捏造設定です。
というのも原作でソフィナさんが魔法を使っているシーンは少なく呪文すら不明だからです。