瞼に眩しさを感じてゆっくりと目を開ける。
呼吸は苦しくないし痛いところもない。手首に2本の指を添えると規則正しく脈打っていた。
生き返った。ということはイノセント・ゼロは改心したのか。
良かった。
……マッシュくんは原作と同様に大陸ビート版とかやったんだろうか。
体を起こして見回せばそこはマゴル城の広間で、近くには兄者たちがいた。
視線を感じてそちらを見やると、横になったままのファミ兄と目があった。ファミ兄はじっと俺の方を見ていた。
既視感があるなと思ったら、ファミ兄と飲もうとして記憶ぶっ飛ばした時と似てるんだ。
あの時と状況はまるで違うけどな!
「おはよう、ファミ兄」
なんて考えながら俺は微笑んだ。
言った後でいや、おはようってのはおかしいのか? とか思ったけどまぁ別にいいか。
ファミ兄はいつもの無表情でじっとこっちを見ている。
何となく気まずくなって指で頬を掻いていると、体を起こしたファミ兄に抱きしめられていた。
マジで!?
俺から抱き着くことや抱きしめ返してくれることはあったものの、ファミ兄から能動的に抱きしめられた記憶はない。
なのに何で? 嬉しいけど疑問の方が勝つわ。
「……おはようデリザ。生き返ったんだな」
ファミ兄の微かに震えた言葉でその疑問も解けた。
何でか分からないけど、ファミ兄は俺の遺体を見てしまったらしい。
「悲しませてごめん。でも、俺のこと抱きしめるほど喜んでくれたのは嬉しいな」
俺はファミ兄を抱きしめ返した。
「……ねぇ、ファミ兄。何で俺が不要な殺しはしないでくれって言ったかわかる? ファミ兄が俺のことを大切に思ってくれてるように、ファミ兄が気まぐれで殺した人にも大切な人がいたかもしれないからなんだよ」
ファミ兄なら自分には関係ないって思うかな。でも、今ならわかってくれるんじゃないかとも思った。
親の因果が子に報う。という言葉があるように、恨みつらみがどう巡るかなんて誰にも分からない。
大切な人を奪われた恨みがファミ兄や俺を殺すかもしれない。そういうことを少しでも減らしたい。
そんな俺の言葉をファミ兄は黙って聞いてくれていた。
でも、それだけじゃない。
「やっぱり命って大切だと思うから」
命っていうのはそれだけで尊いはずなんだ。いたずらに奪っていいものじゃない。
もっと気が利いた言葉があるかもしれないけど、俺にはこれが限界だ。
伝わって欲しいなと思いながら俺はファミ兄を抱きしめた。
「……わかった。デリザが生きてる間は、もう不要な殺しはしない」
「ありがとう。そういうことなら、死なないように俺も頑張らないとな」
俺はファミ兄の言葉に嬉しくなってファミ兄を抱きしめる力を強くした。
「よし! じゃあ何か色々終わったっぽいし飲むか!」
俺はファミ兄を離すとわざと明るい調子で言って酒瓶とグラスを収納魔法から取り出した。
ファミ兄を始め、他の兄弟にもグラスを渡しつつお酒を注ぐ。
なぜかって? 正装スタイルでシラフなのがきついんだよ。やっぱこの恰好の時は酔ってないとな。
……まぁ、素でファミ兄に道徳的なこと言った後じゃ遅いかもだけど。
そう思いながら俺はファミ兄と乾杯してグラスの酒を飲み干した。
「アルフさん!」
酒盛りを楽しんでいると名前を呼ばれた。
見れば神覚者一同とフィンくんがいた。
俺とファミ兄以外が捕縛される。戦意はないようで兄者たちは大人しく連行された。
俺についてはレインさんやフィンくん、ソフィナさん辺りがいい感じに言ってくれたとすればまぁわかるんだけど、何でファミ兄も除外されたんだろう?
「やったんだな。おめでとう! それに、お父様のことも止めてくれてありがとな」
色々と疑問はあるけど、それよりもまずフィンくんに祝いと感謝を伝えた。
俺は新しく取り出した空のグラスを満たしてフィンくんに近づくと彼の肩に腕を回した。
「というわけで呑も呑も」
「自分、未成年なんで」
対峙した時には行われなかった原作のやり取りが思わぬ形で再現された。
フィンくんが苦笑いしている。
「これ、ブドウジュースだから」
「それならいただきます」
フィンくんがグラスを受け取り俺と乾杯した後で同時に飲んだ。
「ところで、何でファーミンの兄者も放置されてんの?」
そう尋ねれば、フィンくんは俺と別れた後に何が起こったかを説明してくれた。
最初は俺を殺したのがレインさんだと勘違いしたファミ兄がレインさんへ襲い掛かったけど、その誤解が解けたらイノセント・ゼロの指示に従う振りをして不意打ちをかましたそうだ。
「超かっけーじゃん! さすがファミ兄!」
何よりそこまで怒ってくれたことが嬉しい。
笑顔でファミ兄を見ていると視線に気がついたファミ兄に頭を撫でられた。
「てか、お父様人望なさすぎてウケー!」
俺はケラケラと笑った。
ドゥウム兄とエピデム兄以外の4人に敵対されてんじゃん。
「えっとね、それもあるんだけど……」
なるほどなぁ。とうんうん1人で頷いていると、フィンくんが何か言いにくそうに人差し指を天井へ向けた。
何だろうとその指の先を見ると、胴体に1つ目がある蝙蝠のような生物が飛んでいた。
……あれって確か、カメラみたいに見たものを投影魔法に表示する生物だったはず。
「その、ここでのやり取りも全て投影されていて、ファーミンさんが不要な殺しをしないと言ったことも全部流れたんです」
民衆は悪魔の五つ子について大したことは知らないだろう。
そんな中で亡き兄弟を思ってイノセント・ゼロへ反旗を翻し、生き返った兄弟と再会。そしてその兄弟に諭されて自らの行動を改めると宣言した。
何という美談。
そんな美談が生まれてしまったファミ兄を無理やり連行するっていうのは世間体的にまずいんだろうなぁ。
お偉いさんとか頭を抱えてそう。
まぁ、それは俺の考えることじゃないか。
「フィンくん、色々とありがとね」
俺は改めてお礼を言うと立ち上がった。
「ファミ兄。俺たちもそろそろ行こうか」
「満足したか?」
ファミ兄の言葉に俺は笑顔で頷いた。
「ファーミンさん」
立ち上がったファミ兄をフィンくんが呼ぶ。
「僕が渡した写真、返してください」
「イヤだ」
その後、返す返さない、くれよあげないと2人は譲らなかったが、元々のをフィンくん、複製したものをファミ兄が受け取るということで話がついた。
これもフィンくんなりに気を遣ってくれた結果だったのかもしれない。ファミ兄も話が通じる相手なんだってことを世間に伝えてくれたんじゃないかな。
「そんじゃ、元気でなフィンくん」
「はい。アルフさんも元気で」
こうして、俺たちは握手をして別れた。
【おまけメモ】
・デリザスタのサーズについて
原作でデリザスタはサーズを使用していないため捏造設定です。
効果としては、アスカロンの出現範囲の拡大です。
原作でのエイムズ兄弟戦だとアスカロンはどれもデリザスタの近くに出現していますが、サーズ使用後だとレインの背後にアスカロンを出現させることも可能。といった感じです。