「やってるみたいだな」
ライオさんがバーンデッド家の玄関扉を開ける。
その後ろにウォールバーグ校長とレインさん、さらにその後ろに俺が続くという形だ。
なお本日の俺はアルフスタイルでなんとシラフだ。でもやっぱ無理って思ったらお酒を飲む。
「兄さま、アルフさん」
「校長……ライオさん」
フィンくんとマッシュくんが迎えてくれた。マッシュくんの方はエプロン姿でシュークリームを齧っている
「今回の件、オレから改めて感謝を伝えたいと思ってな……」
と、ライオさんが感謝の言葉を続ける。鏡に向かって。
「許せマッシュ・バーンデッド。ライオさんは鏡を見つけると無条件で体が吸い寄せられてしまうんだ……」
そうライオさんの習性をレインさんが説明している。
「今回の件、オレから改めて――」
レインさんが咳払いをしてからライオさんの代わりに言葉を紡いでいる途中、外にある茂みからウサギが飛び出した。
レインさんは家の外へ駆け出し、ウサギを追いかけていった。
「ええと、ごめんねマッシュくん。レインさんはウサギを見つけると無条件で体が吸い寄せられてしまうんです」
で、良いのかな? みんな好き勝手にボケないで欲しい。対応に困るわ。今回は天丼だったからまだ良かったけど。
苦笑いしていると次はウォールバーグ校長が話し始めた。
先ほどのレインさんのように咳払いをしてから魔法界を代表してワシから1つと前置きをする。
「世界を救ってくれてありがとう」
「うす」
そんなやり取りを見てレグロさんはマッシュの成長を感じて泣き始めてしまった。
俺はレグロさんにハンカチを渡しつつ案内されるまま席についた。
「フィンくん、お久しぶりです」
挨拶の後、俺は今の生活についてフィンくんに語った。
俺自身はそう大きな罪を犯していなくても、さすがに無罪放免とはいかなかった。
発信機のように居場所が分かる魔道具や一定以上の魔力を使ったら報せが飛ぶようになっている魔道具を着けられている。
その上で神覚者の1人と行動を共にする要監視対象とされた。基本的にはレインさんと一緒に仕事をすることになった。たまにソフィナさんとも一緒になることがある。
他にも色々と制限はされているけど、問答無用で牢獄行だろうなと思っていたからその温情に感謝して仕事に励んでいる。
書類仕事などの時はアルフとして、戦闘になるような危険が伴う任務の時はデリザスタとして活動している。
危険が伴うといっても基本的には捕縛や調査で戦闘になる前に片が付くこともある。戦闘が発生したとしても、デリザスタとして培った説得(武力による脅迫)で対応できることも多い。
「まだ色々と覚えている途中ですが、以前の環境よりもずっと過ごしやすいです」
本当にありがたいことだ。
で、ファミ兄についても俺と似た感じでオーターさんと行動をしているそうだ。
オーターさんを困らせていないか非常に心配である。
「良かったです。兄さまのこと、よろしくお願いします」
「もちろんです。というか、僕の方こそお兄さんにはお世話になりっぱなしですから」
レインさん、不愛想だけど世話焼きっぽいんだよな。
めっちゃ丁寧に色々教えてくれる。ありがたや。
ひとまず話したいことはだいたい話したかな。
「今日はお酒を飲んでいないんですね」
次の話題をと考えているとフィンくんの方が話を振ってくれた。
「いつも飲んでるわけじゃないですよ。……フィンくんに会う時はいつも飲んでいますが」
言い訳にしか聞こえないせいで駄目な大人感が拭えない。
いやまぁ立派な大人かと問われたら自信はないけど、自分なりに正しいと思ったことをしながら頑張って生きてるから。
「お酒って美味しいんですか?」
「僕の場合は酔いたいから飲むって感じですね。普通のお茶とかジュースの方が美味しいと思います」
酔うのは楽しいけど飲みすぎるのは良くないから、お酒を飲めるようになっても気をつけてね。と、言っておく。お前が言うなって感じだけどな。
「アルフさんは今の生活を気に入っているんですね」
良かったと呟きフィンくんは微笑んだ。
「アルフさんが何かを隠していることはなんとなくわかっていました。僕たちに対して負い目のようなものを持っていることも」
うぐ、バレてたか。
それでも聞かずにいてくれた。
そしてきっと、今も。
「……フィンくん、ちょっと外で話しませんか?」
俺が言うとフィンくんは誘いに応じてバーンデッド家を一緒に出てくれた。玄関先で話すことでもないので少しだけ家から離れる。
緊張してきた。お酒飲みたい。
でも駄目だ。これについてはちゃんとシラフでいたい。
俺は1度深呼吸をした。
「その……色々なこと、黙っていてごめんなさい」
そうしてフィンくんに頭を下げた。
「……うん。アルフさんにも事情はあることはわかるし、僕たちが頼りなかったのかもしれないけど、できれば相談して欲しかったな」
頭を上げた俺が見たのは、フィンくんの少し悲しそうな微笑みだった。
「アルフさんが僕たちのことを助けてくれたみたいに、僕もアルフさんのことを助けたかった」
罪悪感で胸が苦しくなる。
俺だって何度も考えた。言ってしまった方がいいんじゃないかって。
でも、俺はこの選択を後悔していない。
だからといってこのままフィンくんとの関係が気まずくなることも嫌だ。
都合の良い言葉で誤魔化したくもない。
「……この先も話せないことはあると思う。でも、相談できることは相談するようにする。だから、これからも友達でいてくれないかな?」
だからこそ、出来る限り誠実に俺の考えを伝えることにした。
フィンくんは目を少し見開いてから、柔らかく微笑んだ。
「うん! 僕もアルフさんの力になれるよう頑張るよ」
その輝くような笑顔に俺も微笑んだ。
そろそろ戻ろうかということで俺たちはバーンデッド家へ向かって歩く。
その間にお互い丁寧語を止めようという話にもなった。
「ええと、話が変わるんだけど、僕は要監視対象ではあってもある程度問題なく過ごしたら休暇とか1人行動もとれるようになるらしい」
申請書を提出する必要はあるらしいけど、自由時間を1人で過ごせるのはありがたい。
「だからもし、ある程度自由に動けるようになったらだけど……またみんなで遊びに行かない?」
「もちろん! みんな喜ぶよ」
少し緊張しながら尋ねると、フィンくんは笑顔で了承してくれた。
俺はホッとして思わず小さく息をついた。
そんな俺を見てフィンくんは小さく笑った。
俺たちはバーンデッド家へと戻り、マッシュくんが作ってくれたシュークリームを食べた。
サクサクとした生地にたっぷり入ったシュークリームは程よい甘さでしつこさもない。続けて食べたくなるようなシュークリームだった。
「このシュークリーム、凄く美味しいです」
「良かった。また食べに来てよ」
「えぇ、ぜひ」
「おかわりいる?」
少し悩んでもう2つもらうことにした。シュークリームを取りに行くマッシュくんの背中を見送る。
マッシュくんにはまだ俺の正体も兄弟であることも話せていない。単純に話す機会がなかった。
「どうぞ」
シュークリームが2つ乗ったお皿が目の前に置かれた。
お礼を言ってその1つを手に取って食べ始める。
考えてみたものの、別にマッシュくんと兄弟であることを言う必要はない気がする。
マッシュくんにはすでにレグロさんという立派な家族がいる。それに、友達だと思っていた人から突然兄弟だなんて言われても反応に困るだろう。
「マッシュくん、何か困ったことがあったら言ってくださいね。僕にできることなら協力しますから」
「ありがとう、アルフくん」
これから先どんなことが起こるかなんてわからない。
それでも俺は、これからも必死にこの世界で生きていく。
アルフとして、デリザスタとして。
みんなと一緒に。
これにて完結です。
ここまでお付き合いくださりありがとうございました!
いくつか考えている番外編があるのでまた投稿するとは思いますが、いつになるかは未定です。気長にお待ちいただければと思います。