成り代わりデリザスタはシラフではいられない   作:月夜鴉

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02話 マゴル城にて

 くっそ恥ずかしい醜態をマッシュくんたちに晒してしまった俺は、精神的に満身創痍となって自宅であるマゴル城へと帰還した。

 いい大人が感情を抑えきれずに泣いて年下の少年に慰められるなんてとベッドに寝転がって悶える。

 

 歳か? 歳のせいで涙腺が緩んでんのか?

 

 フィンくんから大丈夫かと尋ねられた時、本当に嬉しくて仕方なかった。

 そんなふうに心配されたことなんてないから。

 

 普段の殺伐とした環境とは違って楽しく遊んだ後だったことも精神に刺さる要因だった。

 1人で居る時よりも人混みの中にたった1人でいる時の方が孤独を感じるという話に似たことが起こったんじゃないかな。

 

 あ、駄目だ。また涙が出てきた。

 

 こういう時はお酒を飲んで気分を変えるに限る。

 1人でのんびり飲むのもいいけど、せっかくならファミ(にぃ)を誘おう。

 

 悪魔の五つ子(デビルクンタブレット)、次男のファーミン。原作だと悪魔の五つ子の中でも特にやべー奴認定されていた。

 殺されたくない。だったら仲良くなっている方がいいだろうと幼少期から関わるようにしたこともあって、今ではかなり仲良くさせてもらっている。

 本当はドミナとも仲良くしておきたかったんだけど、孤立させて育成するという方針のせいで関われる余地がなかった。

 

 さて、部屋から出る前に身だしなみチェックをしよう。

 マゴル城で過ごす時は原作デリザスタの恰好を正装として過ごしている。ただ、原作デリザスタの船の舵みたいな髪型は再現できなかったので諦めて三つ編みにしたんだけどな。服装はそれっぽいと思う。

 原作デリザスタとして行動する時も正装姿だ。

 戦う必要がある時にはお酒を飲む。どれも本来の俺と切り替えて行動するためだ。

 

 というわけで正装に着替えてお酒とツマミを用意してファミ兄の部屋へ向かった。

 ノックをするものの返事はない。仕方なく扉を開けた。

 残念ながらファミ兄はいなかった。

 

 じゃあまぁとファミ兄を待ちつつ俺は1人で酒盛りを始めた。

 

 

 

 目が覚めると酷い気分だった。気持ち悪いし頭がガンガン痛む。酒焼けしたのか喉も痛いし最悪だ。

 しかも、酒盛りの途中から記憶がない。

 

 酔い止めを飲もうと体を起こすとさらに頭が痛んだ。

 視線を感じてそちらへ目をやると、隣で横になっているファミ兄が俺を見ていた。

 

 すっごいガン見されてる。

 え、昨日何かやらかした? たぶんやらかしたよな!? 

 (なん)も覚えてねぇ! ファミ兄が帰ってきた時の記憶すらない。

 

 ファミ兄はいつもの無表情でじっとこちらを見ている。

 

「……おはようファミ兄」

「おはよう」

 

 ポケットからピルケースを取り出し酔い止めを口に入れて水と共に飲み込む。

 その間もずっと視線を感じて何だかいたたまれない。

 

 昨日何をやったんだ俺!?

 でも、それを聞くのも怖いしそもそも記憶がなくなるまで酔っていたことを知られるのも駄目だろう。

 

「起きるのか?」

「二度寝する」

 

 二日酔いのせいで何もする気にならない。

 それに、あまり寝た気もしなくて眠気がある。

 

 俺は再びベッドで横になった。ファミ兄はまだ俺の方を見ていた。

 

 そんな彼の首には、随分前の誕生日に俺が贈った手編みのマフラーが巻かれている。

 人から奪ったものでもすぐに投げ捨てるファミ兄が、俺の渡したマフラーだけはずっとつけてくれている。

 それが嬉しくもあり、どこかこそばゆくもあり、感慨深くもある。

 俺はこんな状況でもファミ兄を味方だと思っている。

 

「おやすみ」

「おやすみ」

 

 俺はファミ兄に微笑んだ後で目を閉じた。

 

 

 

(ファーミン視点)

 

 デリザスタはあっという間に寝付いたようで寝息を立てている。

 ファーミンはそんなデリザスタを眺めて昨夜のことを思い出していた。

 

 深夜、ファーミンが自室へ帰ってくるとデリザスタが酒を飲んでいた。

 

「……ファミ兄おかえり」

「ただいま」

 

 デリザスタの目は赤くズビズビと鼻をすすっていてつい先ほどまで泣いていたことがわかる様相だった。

 近くには空の酒瓶がいくつも転がっており、すでにかなり酔っているがわかる。デリザスタは酒飲みだが、ここまで酔うことは珍しい。

 飲めば泣くと決まっているわけでもないため、何かあったのだとファーミンは察した。

 

「ファミ兄も飲も」

 

 渡されたグラスを受け取り一息に飲む。

 デリザスタは酒が好きであるからこそ、勧めた酒が飲まれることを好んでいる。断ったとしても怒ることはないが悲しむ様子を見せる。

 だからこそファーミンは勧められた酒を飲んだ。

 

 そんなファーミンを見て少しだけ微笑んだデリザスタは今日友人ができて一緒に遊んだと話し始めた。

 泣いている原因がその友人なら殺せば解決するんじゃないか。そう思ったファーミンだが、そのやり方ではデリザスタが喜ばないこともわかっていた。

 

「シュークリームの買い食いとか初めてしたし、誰かに服を選ぶのも初めてだった。しかも、選んだ服を気に入ってくれたみたいなんだ」

 

 そう話すデリザスタの声は穏やかで眩しそうに目を細めて嬉しそうだった。

 しかし、ぐっと唇を噛み締めるとハラハラと涙を流し始めた。

 

「なのに俺、いきなり泣き出して彼らのこと困らせた」

 

 情けなくなって逃げ出したのに逃げきれず、さらに心配されて連絡先まで交換したという。

 だったらそれでいいんじゃないか? とファーミンは思ったが、こういう時に下手に口を出すとろくなことにならないとこれまでの経験から学んでいたため何も言わなかった。

 

「特にフィンくん。すげー優しくて俺のこと心配してくれて嬉しかった。フィンくんマジ天使」

 

 酔いによって感情に振り回され、堪えきれなくなったらしいデリザスタはファーミンに抱きついて泣き始めた。

 ファーミンはデリザスタの好きにさせ、頭を撫でてやった。

 

「俺、彼らと戦いたくない。そもそも、誰かと戦うのやだ」

「そうか」

「でも、俺がやらないと兄さんたちに殺されるかもしれない。それもやだ」

「そうだな」

「兄さんたちが殺されるのもやだ。ドミナにも辛い目にあって欲しくない」

「オレたちは強いから大丈夫だ」

 

 ファーミンはどう答えていいのか分からずただ彼の話を聞いた。 

 

「ファミ兄は強いけど、神覚者の中でも強いオーターさんと当たって生き埋めにされる」

 

 そんな中、デリザスタはとんでもないことを言い始めた。

 ファーミンはデリザスタの言うオーターと会った記憶がない。

 酔っ払いの戯言かもしれないが、少なくともデリザスタが本気で言っていることには間違いない。

 

「お父様の魔法で生き返れるかもしれないけど、そうならないかもしれない。ファミ兄はオーターさんとの戦いで満足したみたいだったけど、ファミ兄に死んで欲しくない。でも、オーターさんのことも殺して欲しくない。オーターさん、カッコよくて好きなんだよ」

 

 揺るがない信念とか、ファミ兄との戦いとか、1人残って仲間を逃がすところとか。とデリザスタはオーターをカッコイイと思った理由を告げる。

 

 ただ話したいことだけを垂れ流しているためわからないことも多いが、1つわかったこととしてはデリザスタがオーターをカッコよくて好きだと言ったことだった。

 

「そんなオーターさんでも弟との関係を改善しようと本を読んだりするんだ。そのギャップがなんとも言えなくて」

「デリザ、オレとオーター、どっちが好きだ?」

 

 そう尋ねるファーミンにデリザスタはキョトンとした。

 

「ファミ兄に決まってんじゃん」

 

 デリザスタは一転して輝くほどの笑顔で即答した。

 

「オーターさんへの好きっていうのは、憧れとかファン的な意味の好きだからな。ファミ兄のは家族愛とか兄弟愛とかそういうので、俺はファミ兄が大好きってこと」

 

 ぎゅうぎゅうとファーミンを抱きしめた後、彼はそのまま眠りへと落ちてしまった。

 

「それならいい」

 

 ファーミンはそう言ってデリザスタの頭を撫でてやると彼をベッドへと寝かせて自分も就寝した。

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