お父様がマッシュにボコられ改心してからしばらく経った。
俺は要監視対象としてレインさんや他の神覚者と共に業務へ励んでいる。
そんな時、ふとセルくんのことが頭を過ぎった。
(セルくんは今、どこで何をしているんだろう?)
俺たちが復活した時、近くにセルくんの姿はなかった。
落ち着いてからファミ兄に聞いてみれば、オーター戦離脱の時にかっさらって適当に転移魔法で町へ逃がしたそうだ。
俺は嬉しかったけどなんでそんなことをと聞いてみれば、眠っている俺をセルくんが運んでいるところを見たことがあったり、俺がセルを気にかけていたから気に入っているのだと思ったからだと答えてくれた。
ファミ兄にお礼を言うと頭を撫でられた。
ほんと、原作と比べてファミ兄は丸くなってるよなと嬉しくなった。
原作のセルくんはイノセント・ゼロがマッシュに敗れた後、牛乳屋で仕事をしているようだった。
うちにいた時はいつも目の下にクマを作って様々な雑務処理を行っていた。なのに、休日もあるのか不明で他の兄弟からの扱いも酷いしで俺なりに気を遣ったり労ったりしていた。
……まぁ、酷く酔った時の翌日なんかはかけた記憶がないのに伝言ウサギの履歴にセルくんの名前があって俺も迷惑をかけているのは確かなんだけどな!
そう多くないことではあるけど、酔っ払いの相手させてごめんよセルくん。
伝言ウサギで済む用件もわざわざ会いに来てくれるし、褒めたり頭を撫でたら嬉しそうにしてくれるので慕われているとは思う。
少なくとも組織にいた時は。今はどうかわからない。
「全然足りねーとは思うけど、これまでお父様や俺たちに尽くしてくれてありがとう」
ともかく、セルくんはこれまで尽くしてくれていた。新生活のための住まいや家具を揃えたり、食費や何やらで先立つものは必要だろうと用意しておいた預金通帳を渡して終わりにするつもりだった。
「じゃ、元気でな」
セルくんから見れば俺はお父様を裏切った大罪人。慕われていたとしてもセルくんには許せないことだろう。むしろ慕っていたからこそ許せないかもしれない。伝言ウサギもとっくに捨てられたと思っていたし、戦闘になるかもと思ってほろ酔いにもなっていた。
「……デリザスタ様も僕を捨てるのか」
なのに、蓋を開けてみれば自分を捨てるのかと泣かれてしまった。
それも、まるで世界の終わりを宣言されたかのように顔面蒼白になっていた。
なぜそんなことになっているのかわからないまでも、セルくんを傷つけてしまったことだけはわかった。
半ばパニックになって色々と言ってしまったがセルくんは何も言わなかった。
それでも、俯いたセルくんは助けを求めるように俺の服の裾を摘んだ。
その仕草はまるで迷子のようで、俺の良心は激しく痛んだ。
こんな状態のセルくんをそのままにしておけない。助けられるなら助けたい。
でも、お父様に忠誠を誓ったままのセルくんを連れて行くわけにもいかない。
「なぁセル坊、このままじゃどうにもならねぇってわかってんだろ?」
俺の問いかけにセルくんは答えず、かといって裾を離すこともしなかった。
厳しいことを言っているのはわかってる。それでも必要なことなんだ。
「セル坊、お前はどうしたいんだ? お父様のもののままでいるか、それとも俺のところへ来るか」
もしこれでセルくんがお父様のことを選ぶならそこまでだ。お互い、もう関わらない方がいいだろう。
それでももし俺を選んでくれたなら、全力でセルくんを助けよう。
俺はセルくんを安心させるように自信満々といった感じに笑みを浮かべた。
「――もしセル坊がお父様より俺を選ぶってんなら、その時は俺がちゃーんと面倒見てやるよ」
セルくんは小さく声をもらし、俺のことを見つめていた。
顔を上げたセルくんの顔色は少しだけ赤みが戻っていた。
これまでのセルくんの反応を見ればこの誘いが断られることはまずない。
思った通り、口を開いたセルくんは微かに震える声で俺を選んだ。
「いい子だ。これからもよろしくな、セル坊」
俺は微笑むと優しくセルくんを抱きしめ頭を撫でた。
セルくんは抵抗せず、おずおずと俺の背中に手を回して抱きしめ返した。
酔った思考の中、どこか冷静な俺が言う。
心の拠り所を失って弱っているところにつけ込み、その心に空いた隙間を埋めるように入り込む。
正常な判断ができない時に優しくして俺以外にはいないのだと思わせる。
それ、洗脳じゃね?
いやいやまさかと言い訳を探すが見つからない。
……ま、まぁ、お父様のことを思ったまま鬱々として過ごすよりはいいだろう。
それに、洗脳かもっていうのも俺の考えすぎかもしれないし。
俺は自分にそう言い聞かせることにした。
その後、俺はセルくんにひとまずは待機を命じて準備ができたら伝言ウサギで呼び出すと言って、いくらかの金銭を渡してからその場を後にすることにした。
酔いを醒ますためにも歩きながら移動する。
「こんな時間に付き合わせてしまってすみません。でもこれで、セルくんを引っ張り込めたと思います」
俺は少し遠くで待ってもらっていたレインさんへ事の顛末を報告した。
説得というか洗脳というか、依存対象が俺に代わった気がするけどそれは黙っておく。
「プレゼンも考えておかないと。まぁ頑張ってみます」
苦笑いする俺をレインさんがじっと見つめている。
変なことは言ってないはずだけど何だろう?
「今のお前はアルフともデリザスタとも雰囲気が違う。どういう心境の変化だ?」
今のような俺は前にも1度、フィンくんにシラフへと戻された後がそうだったと言われた。
失敗したらどうしようと恐れておどおどすることもなく、かといってハイテンションな酔っ払いでもない。
どちらの俺も知っているレインさんからしたら今の俺は不思議に見えるかもしれない。
「ある程度レインさんに慣れてきたのと、少し酔っていること、あとは眠くて少し頭が回らなくなっているので素に近い状態になっているのかもしれません」
なので別に多重人格とかではないですよと言えば、レインさんはそうかと短く返事をした。
「無理をしているわけじゃないんだな?」
「えぇ、ご心配ありがとうございます」
相変わらず仏頂面だけどその気遣いが嬉しい。
後日、セルくんがいかに有能かプレゼンテーションしたところ、俺の部下としてきちんと責任を取れるならと許可が出た。
その時にワースくんの外出先の調査を半日もかからず終えたということも織り交ぜた結果、オーターさんに聞かれていてワースくんへ接触した理由を尋問されるという大変な事態に陥ったりもしたが、それはまた別の話である。