月日は流れ、デリザスタは10歳となった。
ファーミンの誕生日が近づいているというのに、渡すものがまだ決められていない。
色々と考えてはいるものの、自由に使える金銭はなく外出することもできないため買ってくることもできない。
できそうなことと言えば、何かを作って渡すことだろう。肩たたき券のようなこれをしますという券が真っ先に浮かんだが、現時点でできることが少なすぎて書ける内容がしょぼくなってしまう。
うーんと考えた末、編み物で何か作るというのはどうかと閃いた。ファーミンの誕生日は2月でまだまだ寒い時期だ。贈り物として少し遅い気もするがそう悪くもないだろう。
善は急げとデリザスタは使用人へ編み物をしたいと要望を伝えた。
使用人に教えられ始めてみたものの、慣れないこともあって糸が絡まったり目を飛ばして穴が空いてしまうこともあった。
それでも複雑な形よりは慣れればやりやすくもなるだろうとマフラーを編むことに決めた。それなりに大きさが必要なため大変かもしれないが、デリザスタに諦める気はなかった。
「喜んでくれるかな」
小さく呟きつつも編み棒を動かす。色はファーミンが好きな紫色だ。
編み目を飛ばさないように、サイズが揃うように注意しながら根気よく編んで行く。
慣れない作業に指先が痛くなっても続けた。
そうして迎えたファーミンの誕生日。
デリザスタは完成したばかりのマフラーが入った包を両手で抱え、ファーミンの部屋をノックした。
中から返事が聞こえて扉を開けて中へ入る。
「ファミ兄、お誕生日おめでとう」
小さな包みを差し出す。
ファーミンは無表情でそれを受け取り開封した。
出てきたものは紫の、端が少し歪み横幅の長さも揃っていないやや不格好なマフラーだった。
ファーミンはそれを手に取って、じっと見つめた。
「自分で編んだのか?」
「うん。最近は特に寒いでしょ? 役に立つものを渡したくて」
そう言ってデリザスタは照れくさそうに笑った。
ファーミンはマフラーの両端を重ね合わせて幅が違うことを無言で主張した。
「……イジワル」
デリザスタはその意図を正しく理解し、唇を尖らせると拗ねるようにそっぽを向いた。
そんなデリザスタを横目にファーミンはマフラーを首に巻いてみた。
少し大きすぎて、肩まで覆ってしまう。
でも、温かかった。
「……悪くない」
ファーミンの声はいつもより少し柔らかかった。
デリザスタは振り返り驚愕そうに目を見開いていたが、すぐに笑顔で返事をした。
「良かった! よく似合ってるよ!」
ファーミンはマフラーを巻いたまま、デリザスタを見下ろした。
いつものように無表情だったが、目元がわずかに緩んでいる。
「次はもっと上手に編め」
そう言って、デリザスタの頭を軽く撫でた。
デリザスタは驚いたように数度まばたきをしたが嬉しそうに笑った。
「うん! 次はもっとすごいの作るね!」
ファーミンは何も答えず、ただマフラーを少し強く巻き直した。
その仕草は、まるで大切なものを守るように。
その日から、ファーミンは寒い日になるとそのマフラーを巻くようになった。
それから何年かに1度、ファーミンの誕生日にデリザスタがマフラーを贈るようになった。
贈られるマフラーは段々と上達し、使われる色も増え質も高くなっていった。
種類についても寒い冬に使える非常に暖かいものから薄めで普段使いもできそうなものなど多様だ。
どれもデリザスタなりに考えていることがわかる。
「今年は作るのか?」
ある時、デリザスタが部屋で寛いでいるとやって来たファーミンから唐突に質問を投げかけられた。
何を、がなかったがデリザスタには通じた。
「その予定だよ」
「作ってるところを見せろ」
デリザスタはファーミンが途中で飽きるだろうとも、誕生日プレゼントがどんなものかバレてしまうとも思ったが何も言わずに快く受け入れた。
収納魔法から編んでいる途中のマフラーと編み棒を取り出す。
そのまま慣れた手つきで続きを編み始めた。
その様子をじっと眺めるファーミンにデリザスタは居心地の悪さを感じたものの、苦笑いすると編み物に意識を集中させた。
ファーミンはというと、流れるように編まれていくマフラーに見入っていた。
随分と慣れたものだなと思って見ていたが、すぐに興味を失ってしまった。
「飽きた」
「んー、的当てでもして遊ぶ? あ、ファミ兄に教えて欲しいことがあったんだった!」
今思い出したとばかりにデリザスタは声を上げた。
「何もないところから何かを取り出す感じの手品を覚えたい!」
ファーミンはベッドの端に腰を下ろしたまま、両手を広げて何も持っていないことをデリザスタへと見せた。
その後で左手を軽く数度振って、最後に1度素早く振った直後に手を握り込むとその手の中には1本のバラが出現した。
「こういうのか?」
デリザスタは目を輝かせて身を乗り出した。
「そうそれ! どうやったの!?」
凄い! 教えて! とはしゃぐデリザスタにファーミンは小さく鼻を鳴らした。 いつものように無表情だが、どこか得意気だ。
仕掛けは単純で指の間に茎を挟んで手の甲側に隠していた造花を、左手を振って握り込んだ瞬間に手の平側へ持ってきただけである。
すぐに種を教えてしまうのはもったいない気もした。だが、お手玉の時のように苦戦するデリザスタを見られるのであればこれくらいならいいだろうと判断してのことだった。
「全然わからなかった」
「当たり前だ。わからないようにするのが手品だ」
ファーミンは淡々と答えながら、持っていた造花のバラをデリザスタの髪に挿した。
「やる」
その行動はマジックショーを披露していたマジシャンが観客の女性に同じことをしていたことを思い出したからだ。ファーミンにとってなんてことはない、ただの気まぐれだった。
「え」
対してデリザスタは驚き呆然としていた。
なぜなら、ファーミンから何かを贈られたことは初めてだったからだ。
デリザスタにとってそれが何よりも嬉しかった。
そのままそっと挿された造花に触れる。
触れたことで実感できたのか、次の瞬間には満面の笑みになった。
「ありがとうファミ兄! 宝物にする!」
そして、勢いよくファーミンへ抱きついた。
ファーミンは一瞬固まったが、すぐにデリザスタを引き剥がしにかかった。
「重い。離れろ」
「えー、もうちょっと!」
「うるさい」
そう言いながらもデリザスタを引き剥がし、不満そうに見上げるデリザスタの頭を軽く撫でてやった。
「次はお前がやってみろ。見てやる」
「ほんと!? じゃあ見ててね」
デリザスタは飛び跳ねるように喜んだ。
ファーミンはマフラーを巻き直しながら、デリザスタを見た。
嬉しそうに微笑むデリザスタの頭にはさっき挿してやった造花が揺れている。
首に巻いた紫のマフラーは、今日も暖かかった。
本編直後
「何で手品を覚えようと思ったんだ?」
「『目からウロコが落ちる』って諺あるでしょ? それを言う時に目からウロコが出たように見せたくて」
デリザスタの言葉にファーミンは何も言えなかった。
ギャグのセンスが酷い。
マフラーのデザインはまともで良かった。
ファーミンはマフラーのデザインがおかしな方向に向かわないことを願った。
現在
「あ、ファミ兄! 俺ついにアレやった!」
「アレ?」
「『目からウロコが落ちる』ってやつ!」
そういえばまだ子どもだった頃にそんなことを言っていたなと思い出したファーミン。
それと同時にアレをやったのかといくつかの疑問も生じた。
「そしたらレインさんてば『本当か?』なんてマッジメーな顔で聞き返してくんの! だから面白くなって『人間は元々海の生物だからそのなごりだ』って言ったんだわ」
そう言ってからデリザスタは噴き出した。
「今思い出してもウケるわー! それも信じちゃって『つまりオレからも出るのか?』って聞いてくんだよ?」
そこへフィンくんがツッコミを入れてスゲー面白かった。とデリザスタは笑う。
「良かったな」
ファーミンの言葉にデリザスタは微笑み楽しそうに頷いた。
その後で何か閃いたようにデリザスタが収納魔法を使った。
取り出されたのは1本の造花のバラだった。
「あの時にファミ兄がくれたバラ、今でも俺の宝物なんだ」
なんてことはないただの造花。
それを嬉しそうに眺めるデリザスタの頭をファーミンが撫でた。
なんとなくそうしたいと思った。
自覚はなかったが、ファーミンは微かに微笑んでいた。
「ファミ兄、大好き!」
ファーミンの変化を見逃さなかったデリザスタは、感極まったようにファーミンへ抱き着いた。
すっかり酔っていたデリザスタはそのまま寝落ちした。
「……不自由なのは嫌いなんじゃなかったのか?」
翌日、出勤してこないファーミンを迎えに来たオーターは、デリザスタに抱き着かれたまま動けなくなっているファーミンを発見した。