幸い、記憶を吹っ飛ばすくらいに飲むというやらかしの後もファミ兄の態度は変わらなかった。
うん、あれだな。実は何もやらかしてないのかもしれない。
ファミ兄が帰ってきた時にはもう俺は寝落ちてたとか。そうであって欲しい。いや、俺の精神衛生上そうだと思おう。
そんなことを考えながら自室で
俺の伝言ウサギは基本的には鳴らない。だからこそ、かけてきた相手がフィンくんだということは簡単に予想できた。
ゴクリと生唾を飲み込んで伝言ウサギを耳元に当てた。
「アルフさんですか? フィンです。今大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。どうしたんですか?」
何だろうとドキドキしながら話を聞けば、マッシュくんが実家へ帰るので一緒に行かないかというお誘いだった。
それも、マッシュくんからのお誘いだという。
「え、マッシュくんが?」
「はい。マッシュくんに代わりますね」
ファ!? と思っていれば次に聞こえてきたのはマッシュくんの声だった。
「もしもし」
「ど、どうも。ええと、どうして僕を誘ってくれるんですか?」
正直に言えば、なぜ誘われるのか理由が思いつかなかった。
「親近感、ですかね。僕もイーストンに入るまで友達がいませんでした。だからこそ、友達は大切にしたいんです」
マッシュくんが優しくて仲間想いなことは原作知識で知っていた。
でも、それが俺に向けられるとは微塵も思っていなかった。
ヤバイ、超嬉しい。その反面、正体を隠している罪悪感が突き刺さる。
動揺しながらも俺は原作がどうなっていたかを考えた。
原作ではレイン VS マカロン 戦が行われる。
だったら行かない方が良さそうだが、万が一にでもレインさんがいなかったらマカロンさんがマッシュくんたちを襲撃することになる。
そんな状況で断るなんて俺にはできなかった。
「予定は合いそうですか?」
「その日なら大丈夫です」
不安要素はあるものの、俺はマッシュくんの誘いに乗ることにした。
そして、その日を迎えた。
俺は今、マッシュくんの実家から少し離れたところにいる。
1度深呼吸をして収納魔法から酒瓶を取り出した。飲む飲まないをギリギリまで悩んだ結果、飲むことにした。
万が一にでもマカロンさんと戦うことになった時のため、ということもあるが、ほろ酔いにでもなってないと緊張して仕方ないという理由からである。
「アルフさん? 今お酒飲みました? なんかアルコールの匂いが……」
よし、と気合を入れてマッシュくんの家へ歩みを進めようとした時に背後から声をかけられた。
「え、あ、いや! 緊張してて……友達の家に来るの初めてだからちょっとだけ飲んじゃって……! 臭いですよねごめんなさい!」
これは、駄目な大人として認識されてしまったのでは?
不安に思いながらも俺は慌てて香水を自分に振りかけた。柑橘系の爽やかな香りが辺りに広がる。
「いえ、大丈夫ですよ。僕も緊張すると胃がキリキリするので、気持ちはわかります」
フィンくんは苦笑いしながらそう言ってくれた。
良い子や。
そうこうしているうちにランスくんたちもやってきた。
いざマッシュくん家へ!
「あ、これもどうぞ」
ランスくんがアンナちゃんのグッズを渡した後で俺がレグロさんに差し出したのはコーヒー豆とコーヒーに合うクッキーだ。
「ええと、あなたは?」
「アルフと申します」
実は
もちろん、良い感じに省いて泣いてしまったやこっそり後をついていて見つかったことは話していない。
「マッシュくんも、彼の友人も本当に優しい人です」
と、微笑むとレグロさんは泣いてしまった。
そして始まるすごろく。
原作通りのイベントを引き起こす面々。
「えーっと、魔法が使えないことがバレる。ゲームオーバー」
「スゴロク、あくまでもスゴロクだから!」
慌てたフィンくんがフォローする。
「も、もちろんです」
そう答えて俺も賽を振った。
「父親に逆らい処刑される。ゲームオーバー」
マッシュくんが止まったマスも酷かったが、俺が止まるマスも酷かった。
そして、心当たりしかない。
フィンくんたちはスゴロクだからとマッシュくんと同じように俺を慰めてくれた。
なお、2回目も俺はゲームオーバーとなった。しかもその理由は父親の指示に従い戦死。逆らっても従っても死ぬってか。渇いた笑いしか出なかった。
「ちょっと外の空気吸ってくる」
そう言ってマッシュくんは家を出た。
「あの、僕も気分を変えたいので少し外へ行きます」
お辞儀をしてから家を出るとすでにマッシュくんの姿はなかった。
家から少し離れて収納魔法を使う。取り出した箒に乗って向かうのは、でかい魔力反応が2つある方角だ。
そう、魔力は探知することができる。だから俺も自分の魔力を誤魔化す魔道具を身に着けていたりする。
結果から言うと原作のようにレインさんとマカロンさんが戦っており、それをマッシュくんが見ていた。
そんなマッシュくんを発見した俺という構造である。
箒をしまって茂みの陰なら様子を見ていると、マカロンさんが一緒にいた2人を担いで撤退するところだった。
マッシュくんとレインさんが会話を始めたので俺はマッシュくんの家へと戻ることにした。
が、足元にあった木の枝に気づかず踏んでしまい、バキッと分かりやすい音を鳴らしてしまった。
なんつーベタなやらかしを!
「誰だ」
「アルフくん。友達だよ」
レインさんの言葉に答えたのはマッシュくんだった。
「ご、ごめんなさい。ぬぬ、盗み聞きをするつもりはなかったんです。大きな音が聞こえて様子を見に来ただけで……」
両手を上げて降参のポーズをする。
嘘は言っていない。話を聞くつもりはなかったし、音が聞こえたから来た。
だから見逃してくださいお願いします!
ここで怪しまれて魔法を使わされたらマゴル城での戦闘で正体がバレるんです!
そうなったら色々やりにくいんです!
魔法を使わされたらさすがに魔力探知妨害の魔道具でも誤魔化しきれないだろう。
俺は必死に祈った。
そんな祈りも虚しく、レインさんの隣にスススっと魔力測定ができる蜘蛛が現れる。
あ、これ駄目なやつだ。
「パルチザン」
「ひぇっ!」
俺は情けない声を出して頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「いきなり攻撃するの。よくないよ」
そのパルチザンをマッシュくんが叩き落としてくれた。
「あ、あの、僕はマッシュくんが魔法不全なこと誰にも言いません!」
これだけじゃ根拠にかける。何か納得できるような理由を答えないと。
俺は必死に考え、そして閃いた。
「――僕にはマッシュくんたち以外の友達がいません! やっとできた友達なんです。だから僕はマッシュくんの味方でありたいんです!」
友達ということもそうだけど、マッシュくんについては俺の弟でもある。実際に接して優しくて強いこともわかった。でも、その強さに関係なく守りたい。できることはしておきたいんだ。
レインさんが表情を変えないまま俺をじっと見る。
「魔法不全者を匿うことで犯罪者として処罰を受けることも考えられる。それでもか?」
そんなレインさんの問いかけに、俺はレインさんを見つめた。
「それでもです」
それについては今更だからな。
こちらとら世界的犯罪者組織の幹部なもんでね。……辛い。
レインさんは俺をじっと見た後で右手を胸に当てて頭を下げた。
「非礼を詫びよう。申し訳なかった」
「そ、そんな頭を上げてください。こちらこそ盗み聞きするような形になってしまって申し訳ありませんでした!」
慌てて俺も頭を下げる。
「だがもし、その言葉を違えるようなことがあれば容赦はしない」
頭を上げたレインさんは鋭い眼光で俺を睨んだ。
その後は原作と同じようにマッシュくんを激励してレインさんは去った。
ホッとした途端、足から力が抜けて座り込んでしまった。
「アルフくん、大丈夫?」
「ありがとうマッシュくん」
俺は差し出されたマッシュくんの手を掴んで立ち上がった。
「僕の方こそありがとう。味方でいたいって言ってくれて嬉しかった」
そう言うマッシュくんは微かに微笑んでいた。