成り代わりデリザスタはシラフではいられない   作:月夜鴉

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本日2話の投稿です。
1話目を読んでいない方はご注意ください。


06話 テスト対策(2/2)

 個室の扉を閉めると、ワースさんは腕を組んで入口に最も近い椅子に座った。

 ワースさんは俺から目を離さず、片手をポケットの中に入れている。

 手には杖が握られているんだろうな。

 

 俺は彼の対角線上、個室の奥側に座った。

 警戒されたままではあるけど、その目には若干の呆れも浮かんでいる。

 

「で? 木彫り人形つったか? ガキのお使いじゃねぇんだぞ。しかもクソ兄貴かよ」

 

 今のところ木彫り人形にはあまり興味がなさそうだ。

 そんなことは想定済みだ。簡単に諦めるつもりはない。

 

「まずは実際の品を見てください」

 

 口で言うよりも見た方が早いだろう。俺は袋に入れていた木箱を取り出して机の上に置いた。

 蓋を開ければ綿の緩衝材の上に1/12スケールの立って杖を構えているオーター・マドルの木彫り人形が鎮座していた。

 

 ただの木彫り人形と侮るなかれ。木彫り人形とはいえ、髪の毛1本1本まで彫った上で塗装を施されたそれは、もはやフィギュア人形と見間違うようなクオリティーに仕上がっている。

 オーターさんの無表情も冷たい目も見事に再現できている。

 

「さ、どうぞ。実際に触ってもらっても大丈夫ですから」

 

 蓋を取り払い正面になるよう木箱を回転させてからワースさんへと差し出す。

 ワースさんは興味なさげに木箱を覗き込んだ。

 

「……は? これが木彫り人形?」

 

 木箱の中を見た瞬間、ワースさんは驚愕に目を見開いて木彫り人形を凝視し始めた。

 両手でそっと木彫り人形を取り出すとくるくると回してあちこちの方向からまじまじと眺める。

 

「……クソ兄貴の無表情、完璧に再現されてんじゃねぇか。眼鏡のフレーム、ブリッジまで細けぇし、杖の構え方も……あの時の試合のまんま……塗装も自然で、髪の流れまで……」

 

 ぶつぶつと呟くワースさんは明らかに動揺してる。木彫り人形を否定する言葉も出ず、目と手が離せなくなっているくらいだ。

 

 勝った!

 俺は勝利を確信し、内心でガッツポーズをとって笑みを深めた。

 

「いや、こんなもんもらっても……」

 

 口ではそう言っているが、未だに木彫り人形はワースさんの手の中にあり木箱へ戻そうとしない。

 葛藤していることが手に取るように分かる。

 あと一押しだ。

 

 俺は立ち上がり、ワースさんへ近づくと囁いた。

 気分は人を唆す悪魔だ。

 

「……実はそれ、眼鏡が外せるようになっているんですよ」

 

 俺の言葉に、ワースさんがピクッと肩を震わせた。

 

「――つまり、オーターさんの素顔が拝めるんです」

 

 俺がそう囁いた瞬間、ワースさんの視線が木彫り人形の眼鏡に釘付けになった。

 そしてゆっくりと、まるで壊れ物を扱うように指を伸ばす。

 木彫り人形の顔に触れ、眼鏡のフレームをそっと摘まんで――外した。

 

 無表情のオーターが、眼鏡なしの素顔を晒す。

 ワースさんの息が、一瞬止まったのが分かった。

 

「……っ」

 

 小さな声が漏れた。

 

「……クソ兄貴の素顔、こんなだったか……」

 

 ほとんど独り言みたいな呟き。

 声は低くて、苛立ってるようにも聞こえるが、どこか優しさも感じられた。

 

 俺は彼から離れて椅子に座り直した。静かに様子を見守りつつ、ニヤリと笑った。

 

「どうです? 気に入っていただけましたか?」

 

 ワースさんがハッとして顔を上げ、慌てつつも丁寧に眼鏡を戻した。

 

「そして今なら、予備の眼鏡にサングラス、猫耳カチューシャとダサダサ鼻眼鏡も付けよう! 本物にはとてもできないようなイタズラができるようになるぞ!」

「待て止めろ! 猫耳とか鼻眼鏡は絶対付けんな! ……サングラスなら……いや、余計なことすんな!」

 

 ワースさんはそう声を荒げていたが、少しだけ顔が赤くなっていた。

 

 その後、木彫り人形を眺めると舌打ちをして低く唸ったかと思うと、やがて小さくため息をついた。

 

「……分かった。今回だけだ。今回だけ、マッシュ・バーンデッドの勉強を見てやるよ」

「良かった。頼りにしています」

 

 俺は微笑みお礼を言った。

 

「それから、もしアドラの連中にどうやってオレを説得したか聞かれたとして、今回のことはぜってぇに言うなよ。分かったな?」

「もちろんです。絶対に口外しません」

 

 ワースさんは小さく息をつくと丁寧な手つきで木彫り人形を木箱の中に戻した。

 

「これはワースさんが預かっておいてください」

 

 俺は木箱の蓋を閉じると微笑んで言った。

 

「そして例えば、座っていたり眼鏡を上げている瞬間など他のポージングを望むのであれば教えてください」

 

 木箱を袋の中に入れてからワースさんへと差し出す。

 

「その時には、僕が改めて彫刻から塗装までを仕上げてお渡しします!」

「テメェが作ったのかよ!?」

 

 

 

 後日、フィンくんから伝言ウサギで連絡が入った。

 

「マッシュくんが無事に赤点を回避しました。アルフさんがマッシュくんの勉強を見て欲しいとワース先輩へ頼んだって聞きました。おかげでとても助かりました! あ、ワース先輩からの伝言があります。『報酬は前払いの分だけでいい』ということです」

「伝言ありがとうございます。力になれたようで良かったです。マッシュくんにもおめでとうって伝えておいてください。フィンくんも皆さんも本当にお疲れ様でした」

 

 フィンくんを労った後で伝言ウサギを切った。

 わざわざ言わなくていいのに、やっぱりワースさんは真面目だ。

 

 そう思いながら俺はベッドで横になった。

 

 いやー、魔法の精密操作や資金調達、その他様々な理由で培った技術だけど彫刻をやっていて良かったな。

 もっとも、今では訓練が趣味になっているんだけどな。

 

 さて、それはそうと次にフィンくんたちと会うとするなら、マゴル城か。

 

 俺は小さく息をついて目を閉じた。

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