成り代わりデリザスタはシラフではいられない   作:月夜鴉

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07話 エイムズ兄弟戦

 俺はデリザスタとしての正装で椅子に座り来客を待った。

 前髪に遮られない広い視界、酔いは十二分に、背筋は伸ばして軽薄な笑みを浮かべる。

 

 テンションをぶち上げろ。お前は悪魔の五つ子、四男デリザスタだ。

 

 そう自分に言い聞かせて待機していると、部屋の扉が開いた。

 そこに立っていたのは、原作同様にレインさんとフィンくんのエイムズ兄弟だった。

 

「俺っちはデリザスタ。いらっしゃい、侵入者諸君」

 

 俺は椅子に座ったまま2人を迎えた。

 

「ヤァヤァ、今日は楽しくいこう」

 

 そう言って立ち上がると酔いに任せて原作同様パーリータイムを演出。

 ワインボトルを持ってそれを一気飲みした。

 

 そして、容易しておいた転移ゲートでフィンくんの近くに現れると彼の肩を抱いた。

 

「瞬間瞬間、楽しんでこ。なぁ、そばかすくん」

 

 俺に驚いたフィンくんが小さく声を上げて体を震わせる。

 

「見た目ジミーなそばかすくんはこういう楽しいこと知らないでしょ~? というわけで呑も呑も」

 

 フィンくんの肩を抱いたまま中身の入ったワイングラスを彼の口元へ近づけた。

 なお中身はブドウジュースだったりする。

 アルハラは良くないしな。

 

 原作なら自分は未成年だからとフィンくんが断ったにもかかわらず「いいからいいから」とデリザスタがお酒を飲ませようとする。

 その直後にパルチザンが放たれ戦闘に入る。

 

 でも、そうはならなかった。

 フィンくんの台詞は続かず体をひねって俺の顔を見た。

 

 彼の顔は驚愕に彩られていた。

 

 すでに原作とちげーじゃん。やだなー、そういうの。

 

「そんな俺の顔を見つめてどしたー? あ、もしかして俺っちの美顔に見惚れてる感じ?」

 

 なーんて。普段より酔ってる俺はアドリブも何のその。

 軽口を叩きながらウィンクする余裕まである。

 

 フィンくんが何か言おうとしたところで俺の持っていたワイングラスをパルチザンが貫いた。

 

「べらべらとうるせぇぞ。その薄っぺらい口、オレが塞いでやる」

 

 レインさんがこちらに杖を向けていた。

 

 それに対してレインさんはいいね。原作の通りだ。

 

「ちょっとしたジョークだってのに。マジになっちゃって」

 

 ククッと俺が笑うとフィンくんはレインさんの隣に並んで俺へと向き直った。

 

 直後にレインさんのパルチザンがフィンくんを後方へ飛ばし、彼を剣の檻に閉じ込めた。

 その際に杖も落としてしまったようだ。

 

「お前は引っ込んでろ。邪魔だと言ったはずだ」

「さすが神覚者サマ。かっくい~。んじゃあ楽しく遊ぼうぜ」

 

 俺は軽薄な笑みを浮かべて杖をレインさんへ向けた。

 

 

 

 パルチザンが俺の肩に刺さり、俺のアスカロンがレインさんの腕を掠めた。

 刺さったパルチザンを抜くとその瞬間から傷が塞がり始める。対してレインさんの傷は回復しない。当然だ。

 

 というわけで説明ターイム!

 

「何で傷が塞がんのか不思議そうだな」

 

 俺は自分の胸を両手で掴んで引き裂くように開いた。

 こんなことをしても痛みは感じない。マジ化け物だわ。

 

 なんて自嘲を表には出さずに俺は魔心臓の説明をした。

 本当の心臓はお父様に預けていて、その代わりに埋め込まれたのがこの魔心臓であり魔力を元に体を治癒すること。

 

「つまり、魔力が尽きねぇ限り死なないってことだ」

 

 開いた胸から手を離せばすぐに塞がる。

 次に取り出したのは真っ赤な液体が入った注射器だ。

 

「さらに、お父様の血を体に入れることで魔力が尽きることはねぇ。でもまぁ、そこまでする必要もないか」

 

 クルクルとペン回しの要領で注射器を手で弄んだ後にケラケラと笑って空間魔法にしまう。

 

「マジ弱すぎてびっくりだわ。ほらみろ、目からウロコがこんなに出た」

 

 痛々しいほどの沈黙。

 

「……本当か?」

「兄様!?」

 

 根拠として人間は元々海の生物だったからそのなごりだと答えればだったらオレからも出るのかと会話が続き、最後にフィンくんのツッコミが入る。

 

 こんな時に思うようなことじゃないけど和むわ~。

 

 おっと、和んでる場合じゃない。

 俺はケラケラと笑い声を上げて原作の台詞をなぞった。

 

「こんな冗談信じるなんてお前マジメだろ~」

 

 そういう真面目をからかってから殺すことが好きなこと。これまで300人のマジメくんを殺したこと。

 それを己の武勇伝のように話す。

 

 ま、全部嘘なんだけどな!

 

「あ、そうそう。万が一にでも俺に勝ったら豪華景品があるから忘れずに開封しろよ~? 中には可愛いウサギが入ってるから間違っても攻撃しないようにな」

 

 言いながら両手を頭の上に立ててウサギの耳を作る。

 

「うるせぇ奴だ」

 

 レインさんが多数のパルチザンを放つ。

 俺は手にしたアスカロンでそれを全て叩き落とした。

 

 お返しとばかりに魔力を強めに込めた1本のアスカロンを彼へと放つ。

 それは何本ものパルチザンで作られた盾を容易に貫き、レインさんの肩を掠めた。

 

 レインさんが僅かに眉を寄せた。

 俺を睨むその目には疑念が浮かんでいた。

 

「お前……何を躊躇っている」

 

 低く、静かな声。

 これは殺意がないことがバレたっぽいか?

 鋭すぎてヤーね。

 

 でも大丈夫。この日のために考えた言い訳誤魔化しは大量にある!

 

「ふは、何言ってんの? 俺っちはただ時間を稼げばいいだけ。で、せっかくなら楽しみたいわけよ」

 

 そもそもの目的が違う。悪魔の五つ子としての役目は防衛、レインさんたちはお父様の計画を阻止することだ。

 

「すぐ殺すなんてつまんねーだろ?」

 

 ククッと笑ってアスカロンを持っていない方の手を上に向けると、人差し指だけを伸ばしてクイクイと挑発をする。

 レインさんが微かに眉をひそめた。

 

「マジメくんこそ、余計なこと考えてる場合か? こうしてる間にもお父様の計画は進んでるんだぜ~」

 

 そう答えればレインさんはチッと舌打ちをした。

 

 レインさんの攻撃が加速する。

 無数のパルチザンが俺に迫った。

 それを全て防いだはいいが、反撃は致命傷を避ける軌道になってしまった。

 

 それらしい言い訳はしたが、これ以上怪しまれるのはまずい。

 こうなったら肩か腕を貫くつもりで攻撃するしかないか。

 そもそも、俺にすら勝てないならそこまでなんだから。

 

 うん、レインさんなら大丈夫。神覚者だし、魔力で体を覆ってるし。

 

 俺は小さく深呼吸をして口を開いた。

 

「もうこんなことは止めてください、アルフさん!」

 

 檻の中から、フィンくんの叫びが響いた。

 声が震えていて、涙混じりだ。

 

 今アルフって言った? 言ったよな。

 え、バレた? 早すぎて笑えねー。

 

 俺はフィンくんを見ることもなくレインさんを見たままわざとらしく笑った。

 

「はー? 誰それ。そばかすくんてば、もう俺っちの名前忘れた?」

「……そう、ですか。知らない振りをするんですね」

 

 その声に、少しだけ胸が締めつけられる。

 

 でもそんなんじゃ酔った俺は止まらない。

 戦いを止めるわけにはいかない。

 

「アスカロン」

 

 今度はちゃんと致命傷にはならない程度に、しかしこれまでよりも速く鋭い軌道を描くように放つ。

 

「パルチザン」

 

 互いの魔法が正面からぶつかり、アスカロンがパルチザンを貫く。

 アスカロンがレインさんの肩へ突き刺さるという瞬間、俺とレインさんの間に魔力の柱が立ち上り、俺のアスカロンを消し飛ばした。

 

 魔力の出どころはフィンくんの杖で、その杖に呼応するように彼自身も異様な魔力を放っていた。その魔力に耐え切れず、彼を閉じ込めていたパルチザンの檻が壊れた。

 落ちていた杖がフィンくんの手元へと飛んで行く。

 

「チェンジズセコンズ、バタフライサニタテムズ!!」

 

 杖を手にしたフィンくんが叫び声を上げながらセコンズを発動させる。

 美しい光の蝶と蝶の羽を持った天使のような人が現れた。

 

 あぁ、良かった。この戦いで1番重要な目標は達成した。

 

 気は抜かずに様子を眺める。

 その天使が両手を合わせると光の蝶が俺の近くを飛び回った。

 

 ふわふわとした酩酊感が、体内の酒精がまるで吸い取られるように消えた。

 

 俺は後方へ大きく跳んだ。アスカロンを構えたまま、硬直する。

 

 待って。フィンくんのセコンズって傷ついた細胞を新しい細胞に入れ替えることで傷を癒す回復魔法じゃなかった?

 なのに、酔いが醒めた。完全にシラフへ戻された。

 

「……何をしたのかわからねぇけど、俺っちはピンピンしてるぜ」

 

 口では強がったが、手足が震えないようにするだけで精一杯だ。

 シラフでデリザスタモードはしんどいって! 

 

「僕は……アルフさんのことを信じます」

 

 フィンくんが静かに言う。

 これ以上フィンくんに何か言わせるのはまずい。

 俺は咄嗟に叫んだ。

 

「アスカロン!」

 

 無数のアスカロンがフィンくんへ一直線に飛ぶ。

 庇うように前へ出ようとするレインさんをフィンくんが止めた。

 

 ──フィンくんはその場から一歩も動かない。

 

 くそっ、駄目だ!

 

 アスカロンはフィンくんから大きく逸れ、壁や地面に突き刺さった。

 

「どうしたんですか? 僕は一歩も動いてませんよ」

 

 フィンくんが静かに指摘する。

 そして、地面に刺さったままのアスカロンを見て小さく微笑んだ。

 

「それに……この矛、刃がありません」

 

 当たり前だ。シラフの俺じゃ刃のないアスカロンを飛ばすだけでやっとなんだから。

 当たったら痛いだろ。刃がなくても頭なんかに当たったら危ないだろ。

 

 フィンくんがゆっくりと近づいてくる。

 俺は後ずさりしながら、真っ白になった頭を働かせようとした。

 

 落ち着け。第1目標は達成したんだ。このまま撤退してファミ兄のところへ合流すればいい。

 

 転移ゲートの準備を始めた時、フィンくんは俺の目の前で立ち止まって優しく微笑んだ。

 

「アルフさん。今からでも、あなたのことを教えてくれませんか? あなたが何を背負っていて、何を悩んでいるのか。その苦しみを、少しでも軽くしたいんです」

 

 その笑顔に、もう駄目だった。

 

 溢れ出す感情を抑えることができなくなった。涙が頬を伝い、手が震え、持っていたアスカロンは力なく床に落ちた。

 

「……フィンくんには、敵わないな」

 

 それだけ言うのが精一杯だった。

 フィンくんはそっと、俺の震える手を握ってくれた。

 

 ──戦いは、終わった。




【おまけメモ】
・フィンのセコンズ(酔い覚まし効果)について

 作中でフィンのセコンズによってデリザスタをシラフに戻しましたが、これは捏造設定(拡大解釈)です
 細胞を入れ替えて怪我を回復させることができるなら、血中のアルコールも入れ替えて取り除けるのでは? と考えた結果です。
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