成り代わりデリザスタはシラフではいられない   作:月夜鴉

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08話 戦闘の後で

 戦いは終わった。

 でも、のんびりしている暇はない。

 

 原作のお父様は俺たち悪魔の五つ子の戦闘を監視していた。

 つまり、俺が裏切ってフィンくんたち和解したこともバレた。

 裏切りがバレただけならいい。問題は俺の魔心臓だ。

 

 あのお父様が裏切り対策をしていないはずがない。

 手っ取り早いのは遠隔で魔心臓を止めることだろう。

 

「時間がない。移動しながら説明するから何も聞かずについてきて」

 

 俺は涙を拭うとすぐに行動を始めた。

 

「何だそれは」

「さっき言ってた豪華景品」

 

 自室を出て少し進んだところに置いていた、棺桶のような長方形の大きな箱。

 中身の説明をする時間も惜しい。俺はその箱の蓋をとった。

 

「ソフィナさん!」

 

 中には手足を縛り猿轡を噛ませた神覚者、ソフィナさんが横たわっていた。

 

 彼女と対峙し返り討ちにした後、俺が彼女の代わりに十字架へ張りつけたのは彼女にそっくりな人形だった。アスカロンで木を削り塗装しカツラをかぶせた、俺特製の木彫り人形だ。

 なお、本物のソフィナさんの頭にはウサ耳バンドをつけてある。

 

「何でウサ耳バンド!?」

「可愛いウサギが入ってるって言ったろ。レインさんはウサギが好きだって噂で聞いたから攻撃させないためにウサ耳バンドをつけた」

 

 これなら嘘にならないし。

 アルフとか偽名で活動してるくせに今更って感じかもしれないけど、できるなら嘘とかつきたくないじゃん?

 

 そう言って苦笑いすればフィンくんが痛ましそうな顔をする。

 そんなフィンくんの表情に気がついていない振りをして話を続けた。

 

「あとはこれ。魔力濃縮液。飲めばそれだけ魔力が回復する。2本ある」

 

 ソフィナさんの頭付近に置いていた小さなポーチを開けて中から2本の試験管を取り出す。

 

「どう割り振るかは任せるけど、1本はフィンくんに持ってて欲しいと思ってる」

 

 そう言いながら2本ともレインさんに渡す。

 理由はフィンくんだけが回復魔法を使えるからだ。

 

 レインさんは俺の言ったように1本をフィンくんに渡した。

 残り1本は空間収納にしまわれた。

 

「俺が言うのもあれだけど、レインさんも大概律儀だよな」

 

 俺はアスカロンでソフィナさんを縛っていた縄を切った。

 

 即刻ウサ耳バンドを外したソフィナさんから分厚い本の角での一撃を頭にもらったが、彼女はそれで俺のことを許してくれるそうだ。

 なお、ウサ耳バンドはレインさんに回収されていた。

 

「ドゥウム兄者は盲目だ。あと固有魔法は鏡魔法ミラージュ。実体のある分身を作れる。兄弟の中で桁違いに強い」

 

 他に話しておかなければならないことはないかと思考を巡らせていた時、胸を鋭い痛みが貫いた。

 俺は思わず声を上げて反射的に胸を押さえると倒れ込んでいた。

 そして気づく。

 

 早鐘を打つように激しく鼓動していた心臓が止まっている。

 

「アルフさん!? どうしたんですか!?」

 

 フィンくんがすぐにセコンズを発動させる。

 でも、止まっている心臓は動く気配がない。現状維持が精々だ。それでも十分に凄い。

 

「……心臓を止められた。裏切るところをお父様に見られてたみたいだ」

「そんな!」

 

 フィンくんが悲痛な声を上げる。 

 駄目だな。こんな状況なのに悲しんでくれることが嬉しいなんて。

 

「もういい。俺を置いて先へ進んでくれ」

 

 フィンくんは一緒に移動しながら魔法をかけてくれようとしたが、それでは移動速度が遅くなるし、貴重な魔力を余分に使ってしまうからと断った。

 

「でもそれじゃアルフさんは……!」

 

 死ぬだろうな。

 そう思っても言葉には出さずに微笑んだ。

 

 原作のイノセント・ゼロはマッシュくんに敗北した後、マッシュくんの説得に応じて亡くなった人たちを生き返らせる。俺たち悪魔の五つ子のその対象だ。

 しかし、デリザスタとしてイノセント・ゼロと接する機会が多かった俺としては、残念ながらその原作を信じ切ることができなかった。

 

 あのイノセント・ゼロだぞ? 想像を遥かに超えてくるようなクソ毒親だぞ? そんな高尚な玉か?

 

「……フィン、行くぞ」

「でも兄様!」

 

 優しいフィンくんには辛い選択だろう。

 その辛さを軽くする方法があればいいんだけど、今の状態じゃ何を言っても死亡フラグにしかならない気がする。

 というかすでに言った後だった。

 

「少しだけ猶予が欲しい。それで十分だから」

 

 俺はフィンくんに微笑みかけた。

 

 フィンくんは目に涙を浮かべ、唇を噛み締めながら強めの魔力を込めた蝶を残してくれた。

 

 俺は体を起こしてもらって壁にもたれながら座った状態で杖にありったけの魔力を込める。すでにサモンズを終え、杖は矛に変わっている。

 フィンくんたちの姿はもう見えなくなった。

 

 苦しい、いっそ意識を手放して楽になってしまいたい。

 そんな感情を振り払うように歯を食いしばった。

 

 信じますよ、ウォールバーグ校長。

 

 魔力を最大限まで込めたサーズなら、術者が死んだとしても消えることはなく魔法を放つことが可能なんですよね?

 

 練習では1度も成功しなかった。

 でも、今以上に必死なこともなかった。

 

 頼む頼む頼む! 少しでも助けになりたいんだ。死んで欲しくないんだよ!!

 

「アスカロンサーズ、アテナインクラネイション!」

 

 感じたのは確かな手応え。

 俺は成功を確信して叫んだ。

 

「頼むアテナ! 俺の親友を、みんなを守ってくれ!!」

 

 そしてもし可能なら、ファミ兄のことも助けて欲しい。向かえそうにないから。

 他人から見たら酷い人でも、俺にとっては大切な家族なんだ。

 

 そんな俺の思いに応えるように現れたアテナが激しい光を放つ。

 

 良かった。

 このまま何もできずに死んだら死んでも死に切れない。

 

 それもこれも全部――

 

「フィンくんのおかげだな」

 

 俺はボヤける視界の端で飛んでいたフィンくんの蝶を見て微笑んだ。

 

 届くことを期待しているわけではない自己満足の独り言。

 それでも言わずにはいられなかった。

 

「ありがとう、フィンくん」

 

 俺が言い終わると同時にその蝶は消えてしまった。

 

 途端に体は重くなり、遠くなる意識をそのまま手放した。




【おまけメモ】
・魔心臓の遠隔停止について

 本文中にデリザスタも言っていますが、原作にはない捏造設定です。
 ですがイノセント・ゼロならそういう仕掛けもしているだろうなと思いました。
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