ホロメンイレブン〜雷門をぶっ倒ぉおす!〜 作:たかしクランベリー
――GW。
年に一度の自由。
言わずと知れた、日本の大型連休である。
フットボールフロンティア予選も
サッカー協会の意向により
一時休戦。
皆は長期休暇に伴い。
各々の望むプライベートに、
注力する事だろう。
それは只の堕落……
五月病をもたらすのか。
はたまた、連休明けに待つ
『現実』を乗り越える為の
リフレッシュ期間となるか。
どう転ぶかは
各自の裁量次第である。
……何はともあれ。
心の赴くまま、己を整える。
悔いのない選択肢を選ぶと良い。
あなたはあなたの宜しいように。
〜SIDE『輪堂・千速』〜
GW1日目。早朝。
千速はこよりに頼み込み。
朝早くから、
holoXアジト内・ブラックルームにて
キーパーの
特訓に勤しんでいた。
彼女を駆り立てていたのは、
これまでの試合の惨状である。
失点を何度も許す自分に、
喝を入れる為の戒めでもあった。
「うっ……ぐぐっ。」
シュポオンッ!
「また失点だ…………。」
シュミレートされた砂漠の
ど真ん中で、立ち尽くす。
(こんなので良いのか。ちは。)
かれこれ数時間やってるのに、
まだキーパーとしての
成長をまるで感じない。
見つけなくちゃ。
バーニングキャッチなんていう
会得難易度Cの技なんかじゃなく、
強力且つ唯一無二の……
自分自身のキーパー技を。
「もう一回だ。
掴んで見せるだよ……!」
シュンッ。
この手で――掴む。
「はぁああああっ……!」
シュゥウウウ。
キャッチ成功だ。でも。
(なっ、何だ今の感覚……)
無意識だけど、動きが洗練されて
今までより数段早く
ボールを掴み取れた。
あともう少しで、
何か新しい技が
芽生えそうな不思議な感じ。
ざわつくけれども、
良い兆候だ。
プシィー
「ん?」
ブラックルームのドアが
突如として開かれる。
ドアは、
『YMDカードキー』もしくは
帆呂雷中のイレブンライセンス
による認可アクセスが
無いと開閉しない。
holoXer社員の方が定期点検に
来たのか……はたまた、
こより先輩が
様子を見に来たのだろうか。
「おっ、見つけたで千速ぁ。
こより先輩の言う通り、
張り切っとるなー。」
「ヴィヴィたん!?
どうしてちはのトコにッ!!」
堂々とした面持ちで、
ヴィヴィは答える。
「決まっとるやろ、デートや!
パパッと身支度しぃや自分!」
「待て待て待ってぇ!?
どういう風の吹き回し!
ぺこら先輩はどうしただよ!」
ヴィヴィが早朝から会いにくるって
だけでもミラクルだっつうのに、
更にはちはとデートぉ!?
特訓のやり過ぎで
都合の良い蜃気楼でも見てるのか。
「細かい話は追々や!
とりま行くで!!」
「何でよ!?」
グイッ。
混乱するちはに構わず、
ヴィヴィたんは手をぎゅっと握り
グイグイ引っ張る。
「往生際が悪いで千速!
いつもだったら目をハートにして
飛びつく所やろがい!!」
「うっ……違うだよ。
コレには深い訳があって……」
「ヴィヴィより特訓が好きなんか!
なぁ!?」
そうじゃない。違うんだ。
本当は跳び上がりたい程嬉しい。
でも、特訓続きの
この身体じゃ……
「実はちは、今汗だくでさ。
ヴィヴィたんとお出かけしたら、
最悪のコンディションかなって……
やっぱ、万全の状態で一緒に
デートしたいっていうか……」
「あっははっ♪ あっさ!
一緒に銭湯で洗い流しゃ
ええやんか。」
「えぇっ!? 服はどうすんのさ!
てかヴィヴィたんは
気にならないの!」
「心配要らへん。
ヴィヴィのジャージ貸したる。
それにダチなんだし、
背中流し合うくらい
普通のスキンシップやろ?」
いや、普通っちゃ普通だけど……
これまでのヴィヴィに対する
ちはの言動を見て起きながら、
身の危険を感じないのか。
それとも、ゴールデンウィーク
ならではの
1日使った特大ドッキリか。
……もしや、
ちはを試そうとしてるのか……。
何はともあれ。
ヴィヴィたんと2人で
デート出来る千載一遇のチャンス。
丁度いい。
ここらでヴィヴィたんを
メロつかせれば、
ぺこら先輩より関係をリード出来る
可能性も大いにある。
汗だく問題もついでに解決する。
(断る選択はないだよ……!)
「分かった。
行こう、ヴィヴィたん。」
チャプン。
帆呂雷町のとある銭湯。
朝早いのに、子連れ親子が
アヒルオモチャを湯船に
浮かして楽しんでる。
懐かしいな。ちはも数年前は
あんな感じだった。
「なんや千速……
アヒルのオモチャに興味あるんか。」
「んや、別に。」
「バイクのオモチャとか
浮かせられたらおもろいよな。」
「そこまでガキじゃないよ、ちは。」
「あっははっ♪
わーるかったよ。すまへんな。」
「…………。」
くっ。
なんて無愛想なんだちはは。
これじゃぺこら先輩と同じじゃないか。
本当は、ありったけの好きを
伝えまくって仲良くなりたいのに。
「せや!
お互い髪洗いも終わった事やし、
順々に背中流しやろうや。」
「いいのぉ!?」
「ええで。寧ろ、
その為に来たまである。」
「お……おう。」
「そんじゃ先、ヴィヴィが
手本見せたる。」
ワシャワシャ。 ピタ。
ヌリヌリヌリ……
よっしゃ、来た来た。
ヴィヴィたんが、ちはの
背中を塗り塗りしてる。
メイク好きを自称してるだけあって、
手先の動きや力加減が器用で
気持ちがいい。
なんたる幸福……
この感覚、噛み締めなくては。
シュワァァ。
お楽しみの時間はあっさり
終わった。
シャワーの湯が背の泡を洗い流す。
そののち、当然背中以外の部位は
各自で
洗わなければならない。
しかし、これだけでも
充分楽しめた。
「やり方は分かるな千速。
石鹸の泡を手に馴染ませて
ヴィヴィの背に塗り広げるんや。」
「わ、分かってるだよ……」
おいおいおい……
R18ギャルゲーの大イベントかよ。
タダでさえヴィヴィたんの素肌見放題
っていうユートピアなのに、
遂にお触りまで。
ぺこら先輩といえど、
ここまでの事は
してないんじゃないか。
(うわぁ、ドキドキするなぁ。)
ヌリヌリヌリヌリ。
って、ドキドキしてる場合かっ!
ここで、ヴィヴィたんに負けない
素晴らしい背中泡泡テクを
披露し……メロつかせてやる。
ピト。
うぉおおお!
柔らかっ、スベスベ!
ちはの比じゃないぞコレは。
コスメ好きはスキンケアも
自然と上手くなるらしいが、
肌ケアまでめちゃ丁寧じゃないか。
羨ましい。
今度みっちり聞いとこう。
「どしたん、ぼーっとして。
基地に忘れ物でもしたんか?」
「あ、あー。違うよ。
まっ、取り敢えずちはの腕前を
みせてあげるだよ。」
「期待しとるで。」
ヌリヌリ……シャァアア。
チャプン。
終わったぁ。
結果はあんまよろしくないけど。
でも、この湯船に浸かってると
そんな悔しさも和らぐなぁ。
「千速、動きぎこちなかったで。」
「う゛っ……すまん。
考え事してて全力出せなかった。」
「あっははっ♪ だろーと思った。
次は真剣に頼むで。」
言えない。真剣にドキドキしてて
力がイマイチ
入らなかったなんて。
いや、それより
気になってた事がある。
「わーかったよ。」
「ヴィヴィのセリフやんそれ!」
「ところでヴィヴィたん。
ぺこら先輩の話、
今してもらってもいいかな。」
「あー、そういや
話す言うとったな。」
「うん……」
ヴィヴィは銭湯の天井を仰ぎ、
口を開いた。
「ぺこら先輩。いつも通り
引き篭もってると思っとったらな……
信じられへん事に、
旧友2人と高尾山登りに行った
そうやで。
ぺこらマミー直々のタレコミや。」
旧友か。
「どんな友達なんだろうね。」
「1人は内気かつ玉ねぎみたいな子で、
もう1人は
生意気な魔女っ子らしいで。」
やばい。聞けば聞くほど
カオスな面子だ。
「ふふっ、それは愉快な友達だね。
個性だけなら、ウチらのチームにも
負けてないかも。」
「……せやな。」
ザパアン!
区切りがついたかの様に、
ヴィヴィが湯船から上がった。
「おっ、もう行くのかい
ヴィヴィたん。」
「当然やろ。
のぼせて出かけられへん……
とかなったら本末転倒やないか。」
「だね。」
「「――ご利用
ありがとうございました。」」
ヴィヴィとの
楽しい銭湯タイムも終え、
無事銭湯スタッフに見送られる。
気分も汗も綺麗さっぱり
吹っ飛び。
最高のGWデートが幕を開けた。
カラオケで熱唱し合ったり
デュエットしたり。
餃子好きなのを知ってたのか……
中華料理店でランチもした。
コスメショップで、
今月オススメの
コスメをヴィヴィたんに
紹介して貰ったり…………
ヴィヴィたんが近くで
笑ったり話してくれるだけで
何もかもが幸福で楽しかった。
……が。
そういう楽しい時間というのは、
あっという間に過ぎる。
夕刻だ。
名残惜しいが、
1日が幕を閉じようとしている。
だから、
これだけは伝えておきたい。
「ヴィヴィたん……」
「なんや、千速。
急に立ち止まって。」
「大好きだ。今日は
デートしてくれてありがとう。」
「気にせんといてや。
千速と遊びたかっただけやで。」
「違うでしょ。
……正直に教えて欲しいな。
ちは、素直なヴィヴィたんが
1番好きだから。」
「…………。」
ヴィヴィは少し沈黙し、
白旗を上げる様に返答した。
「バレたならしゃーないか。
流石千速や。ヴィヴィのこと
よー分かっとる。」
「…………。」
「似とるんや、
ついこの前のヴィヴィと。
独りで抱え込んで、
苦しみながら足掻いてる所が。」
「――!!」
そんな事まで分かってたんだ。
そうだ。
ちはは失点ばかり決められて
負い目を感じていた。
そんな自分を打ち破る為に
鞭を打ち続けた。
痛みから逃避行するように。
でもそれは、
痛みの蓄積にしかならなかった。
「失点はちはだけの所為やない。
サッカーはみんなでやるモンや。
せやから、こうやって仲間と
好き勝手遊んで
心の膿を吐いたってええ。
爆発したら、
それこそおじゃんや。」
「……そうだよね。
ちは、焦るあまり
大事なこと見落としてただよ。
ありがとう。ヴィヴィたん。」
「ええて。明日から一緒に
サッカー頑張ろうや!
ほな、グータッチいくで。」
「うん……!」
ゴツンッ。
誓いのグータッチを互いに交わす。
気が引き締まって、
とても良い気分だ。
「フッ、ヴィヴィのクセに
良い事言うぺこじゃねェか。
成長したな。」
「「――ぺこら先輩っ!?」」