ホロメンイレブン〜雷門をぶっ倒ぉおす!〜 作:たかしクランベリー
「フッ、ヴィヴィのクセに
良い事言うぺこじゃねェか。
成長したな。」
「「――ぺこら先輩っ!?」」
「バカなっ!? 先輩は確か、
登山に行ってた筈じゃ……」
「バカタレが、
時間を見ろ時間を。
もうとっくに解散してんだよ。」
言われてみればそうだ。
日の沈みかける時間まで
登山してる方が謎まである。
「千速ちゃん。アンタの
戦いはこれからだ。」
「打ち切り漫画のラストページ
みたいなセリフやな。」
「シャラァーーップ!」
ヴィヴィたんのツッコミが
割と効いてるようだ。
いや、待てよ。
今の言い方、何か違和感があるぞ。
「あ、あのぅぺこら先輩。
戦いはこれからって
どういう意味ですか?」
ぺこら先輩は待ってましたと
言わんばかりに口角を上げ
答えた。
「千速ちゃん、アンタは
予選ラストマッチに備えて
秘密の特訓をやって貰う。
拒否権はないぺこ。」
「待てやぺこら先輩!
予選ラストマッチって何や!?
まるで次の戦いが
勝つ前提みたいやないか!」
「当然ぺこだろ。
それに、次のキーマン2人は
決めてある。」
「「――!!」」
*
〜SIDE『風真いろは』〜
ダメだ。果てしない。
壁は高い、想定よりもずっと。
――彼を好きになったのは、
中学一年が始まってすぐの頃。
上京して帆呂雷中に
入学した風真は、右も左も
分からない田舎っ子だった。
山でピクニックし、
独楽を回し、缶蹴りする。
友達なんてそんな感じで
出来ると思っていた。
生憎ここは都会。
今までとはまるで違う世界。
ピクニックに向いた山も
なければ、簡素な遊びに
付き合う人も現れなかった。
彼らの生活基盤はSNS。
真面目に食べもしない
映えスイーツを
写真に収めアップロード、廃棄。
許可や場所などなりふり構わず、
爆音の音楽を鳴らし、
適当に踊ってアップロード。
バイトテロ。
などなど……
SNSを媒介として発生する
道徳の崩壊感染が
多々見られる。
……電子的な尺度に取り憑かれた
成れの果て。
『インプレッションゾンビ』とは
よく言ったモノだ。
人のライフスタイルは十人十色。
風真は、それを
否定するつもりは無い。
……けれど、
『いいね』という
謎の指標で自己顕示欲と幸福を
満たす彼ら彼女らとは、
根底から価値観が合わなかった。
しかし。コミュニティの
向き不向きに対する
嗅ぎ分けは得意な様だ。
話を適当に合わしてるのが
みんなに見透かされ、
気がつけば孤立。
そんな中――〝彼〟は違った。
孤独になってた風真を見捨てず、
色々教えてくれた。
名前は、茶倉・裕也。
整った顔立ち。先生が一目置く
好成績優等生。
ふわふわとした印象の茶髪男子で、
クラスメートからの支持も高い。
いわゆる『クラスカースト一軍』
という立ち位置。
玉の神輿じゃないが。
いつしか風真は、
彼の優しさに惚れ込んでいた。
想いを伝えようと
悶々としながら……
かれこれ悩んで一年が過ぎた。
もう1年引き摺ろうとすれば、
その甘えに溺れて
本当に機会を失ってしまう。
(それだけは、
絶対にダメでござる……!)
賽は投げられた。
意を決して、ラブレターで
茶倉くんを屋上に呼び出す。
何度も姿見の前で
リハーサルしたんだ。
……成功させる。
「――風真さん。
放課後に僕を呼び出して、
掃除当番の欠員埋めかい。」
やっぱり言わなくちゃ。
このまま誤解されて
終わるなんて嫌だ。
伝えるまでがミッションなんだ。
「茶倉くんっ、好きです!
もしよければ。風真と
お付き合いお願いします……!」
「………………。」
彼は数秒沈黙した。
でもそれが、好意的な
反応じゃないのは
冷たい視線で分かる。
発せられるため息までもが、
凍てついていた。
「……はぁ。君さぁ、
顔が多少良いからって
勘違いしてない?
ちょっと異性に優しくされた程度で
脈アリだと思ってんの。
んな訳ねーじゃん。
リアルなめんなよ。」
「……え?」
勘違い……だったの。
「あーもう。君鈍臭いし
面倒臭いからハッキリ言っとくよ。
風真さん。君ね。
僕のバリューを上げる為の踏み台。
これで分かった。」
「踏み台……? 茶倉くん、
なんかの冗談でござるよな。
だって今まで優しかったし……」
「おいおい、冗談はその口調だけに
しとけよ。僕は本気さ。
あとそれ、ウケてないから
辞めた方がいいぞ。」
「――!!」
「生憎僕モテるからさ、
顔の良い女には困ってないんだ。
なんせ、みんなの王子様だからね。
他者への優しさは
見返りの要求なんかじゃあない。
〝自分への投資〟なんだよ。」
「自分への……投資。」
「ああ、そうさ。
周囲の目は想像の5倍は敏感だ。
容姿と学歴だけじゃ決め手に欠ける。
そこでだ。
見えない善人より、
目立つ偽善者として振る舞えば
好印象というアドバンテージが
増えるだろう。
これは、まごう事なき『得』だ。」
「少なくとも今、風真は
いい思いしてないでござる。」
「得になるなら、フォローするさ。
けどね。君の場合は、
する利点が無い。
それに僕だってさ、一般人の
お気持ちに寄り添ってやる程
暇人じゃあない。
仮に表沙汰になったとして……
僕の言葉と君の言葉。
どちらの効力が
上かは明白だろ。」
そうだ。彼とは、学生生活に
対する積み重ねの厚みが違う。
風真よりも人知れず座学に打ち込み、
周囲に気を配って確固たる
立ち位置を築いている。
どんな理由であれ、
その積み重ねに文句を言える
立場ではない。
「………………。」
「話はそれだけかい。
あーあ、無駄な時間食っちゃった。
まァ、これからも
僕の踏み台としてよろしく頼むよ。
――風真いろはさん。」
ポンと肩を叩き、
茶倉くんは通り過ぎる。
ギィィィイッ。
古びた金属音を立てて、
ゆっくりと閉まる屋上の扉。
楽しいと思っていた日々にすら
シャッターを閉めていく。
ガシャンッ。
空虚な気持ちと闇だけが
濃霧のように己を囲い支配する。
あまりにも大きなショックなのか、
そこから直近の
記憶は残ってない。
次に目が覚めたのは、
holoX基地の
リビングソファだった。
「起きたか。いろは。」
「あ、ラプ殿……」
「酷ェ顔だな。3日間徹夜で
座学に勤しんだ様な顔付きだ。
ま、オメーに限ってそりゃねェか。」
「…………。」
「言い返さないのか?
……珍しいな。
気力まで死んじまったのか。」
自分が今見てる世界は、
本当なのだろうか。
改めて、優しさって何だろう。
上っ面で
できた平和な世界なのかな。
「なぁ、ラプ殿。
ラプ殿にとって
風真はなんでござるか。」
「大事な仲間だ。」
「都合の良い手駒じゃなく?」
「どうした、何かに裏切られたか。
柄にもなく
ヘラってんじゃねぇの。」
「……そうかも。」
プシィーッ。
基地のスライドドアが開いた。
「みんなみんなぁーっ!
緊急こよーーっ!!」
「「!?!?」」
急ぎ気味にやってきた
こよりに一瞬びっくりした。
「もうっ、クロたんとルイ姉は
どこほっつき歩いてるのさ!
と・に・か・く……!」
「「?」」
パァン!
こよりちゃんは
両の手をピッタリ合わせ
懇願する。
「お願いっ!
来週、holoXのみんなで
サッカーしてくれないかな!!」
………………。
…………。
思えば、あの突拍子のない
お願いから。
新しい風真の
青春が始まったんでござるよな。
サッカーに触れる度
その楽しさと奥深さに
魅了されてって……
今は、みんなと頑張れる
サッカーを心の底から楽しんでる。
「いろはちゃん、ラミィちゃん。
準備は良いぺこか。
アンタ達2人は、
予選2ndステージマッチの
キーマンだ。
いい加減な特訓は許さんぺこ。」
「「はいっ!!」」
遂に予選の重要プレーヤーとして
抜擢された。
(多分コレ、重要な事だ……!)
ブラックルームとやらに
呼び出されたのも
秘密の特訓をする為だろう。
ポチポチ ヴヴーン。
ぺこら先輩がリモコンを操作する。
すると重低音が室内に響き渡り、
寂れた中華街が構築された。
車両が通行しにくそうな
露店だらけの街並み。
そこら中剥き出しになってる
鉄骨の数々。
大凡、サッカー訓練には
向かなそうな酷い地形だ。
「えーと、ぺこら先輩。
こんな中華街で
何を鍛えるんでござるか?」
「ホントですよ。」
「……対応力の向上、瞬発力、
並びに柔軟性。
アンタ達に今からやって貰うのは
名付けて……
『デス・パルクール・サッカー』。
地形ギミックを乗り越えるコツは、
息の合ったツーマンセルぺこ。」
「いや、だから何をどうやって……」
「習うより慣れろ。
百聞は一見にしかずだ。
ほら、ポチッとな。」
ゴゴゴゴゴ……
「「――!!」」
背後の空間から亀裂が入り、
異空間の巨大な怪物が
ヌルッと顔を出した。
全長は約18mだろうか。
まん丸とした目と六つの足。
蜘蛛と巨人を織り交ぜた
ようなクリーチャーが、
舌舐めずりをして
ウチらを見つめている。
「何なんでござるか……
アイツは。」
「冗談でしょぺこちゃん!」
「冗談じゃないぺこ。
1時間逃げ切れ。
じゃなきゃ食われて終わりだ。
『びっくタランちゃま』は
とことん腹空かしてっから……
ま、がんばれよー。」
「「ええっ!?」」
フッ。
あ、テレポートで逃げた。
「ウバシャアアアアッ!」
ズズン ズズズン!
先逃げしたぺこら先輩に
悪態つく暇すらない。
びっくタランちゃまは
ノソノソと六つの足を進めて
周辺の建造物を薙ぎ倒している。
「とりま逃げるでござるよ
ラミィ先輩っ!」
「うん!」
ダダダダダ……
(ん、妙でござる。)
逃げてる最中、所々に
サッカーボールが
落ちてるのが目に入る。
もしや、障害物を破壊したりして
優位にパルクールをしろという
メッセージなのだろうか。
確かに、うまく利用すれば
距離のアドバンテージが
多く稼げる。
闇雲に走っても、
道中スタミナ切れで
お互い餌食になるだろうし……
やる価値は、充分あるな。
「ラミィ先輩っ!」
「どったの!?」
「風真がボールシュートで
イージールートを開拓するから、
そこへ突っ走ってください!」
「いろはちゃんは
どうすんのさ!?」
「フィジカルで追いつくッ!」
ラミィ先輩は風真を一瞥し、
頷いた。
「分かった。
絶対に食われんなよ!!」
「はいっ!」
*
『ladies'&gentlemen
お待たせしましたァ!
今、キックオフですッ……!』