ホロメンイレブン〜雷門をぶっ倒ぉおす!〜 作:たかしクランベリー
それは、唐突に訪れた。
放課後、
SNSをいつもの様に漁ってた時。
目に入ったのは
信じ難いビックニュースだった。
トレンド1位を飾る恐るべき文言。
『忍原来夏のラストダンスステージ』。
学校の屋上のような場所で
活き活きと舞い踊る彼女。
その表情は、次のステップに突っ走ると
言わんばかりに輝いていた。
日本のダンス業界を震撼させた
努力の秀才は、快晴の空の下。
華やかな終幕を下ろした。
回ってきた動画は数十分程度。
それだけでも、来夏たんの想いが
ひしひしと伝わってくる。
(本気だ……来夏たんは。)
一体何が彼女をそうさせたのか。
如何なる時も、一緒にダンス訓練を
楽しんでた好敵手が
どうして
こうした決断に及んだのか………
近頃、ダンスレッスンの誘いに
応じる回数が
グッと減ったのも疑問だ。
「くっ。」
……渦巻く数多の不安が、
はじめを駆り立てる。
もう、訊かずにはいられなかった。
気が付けば電話をかけていた。
プルルルル………カチッ。
『もしもし来夏たん。』
『おっ、はじめちゃんじゃん。
どーしたの、こんな時間に?』
『こりぇから時間取れる?』
『3日後の夕方ならいいよ。』
『分かった……』
プチ。
約束を交わし、電話を切る。
一先ず出会える事に安堵し、
その晩にあった不安は少し和らいだ。
そうして迎えた当日の夕刻。
はじめは南雲原の坂付近にある
公園へと赴いた。
約束通り来夏たんは公園のベンチで
座って待機していた。
さも大事そうに、
サッカーボールを抱えながら。
「来てくれつぁんだね、来夏たん。」
「勿論よ。はじめちゃんとは
そこそこ長い付き合いだし、
いつかはケジメを付けなきゃなって
思ってたんだ。」
「ケジメ……」
「横、座りなよ。
積もる話の一つや二つ……
わんさかあるでしょ。」
「う、うん。」
言われるがまま、来夏たんの
隣へと座り込んだ。
「ごめんね。
最近ダンス練習のお誘い断って。」
「来夏たんには来夏たんの
用事がある。
はじめが責め立てりゅなんて
筋違いかなってゃ。」
「気遣いありがとね。」
「はっ、話っていうにょは?」
なんだか小擽ゆくて、
つい話を進めるよう促してしまう。
すると、陰りを感じる面持ちで
彼女は吐露し始めた。
「あの金メダルを
掲げてた日からさ……
私ね、イマイチ
ダンスに身が入らなかったの。
ついには、ダンス部も
サボるようになっちゃった。」
「燃え尽き症候群ってやつきゃ?」
「分からない。分からないから
ずっと学校の屋上から街を見下ろして
自問自答してた……。
何も変わる訳ないのにね。」
確かに、来夏たんは努力が身を結び
日本一に辿り着いた。
けれどその後の事なんて、
気持ちなんて
はじめは知ろうともしなかった。
「じゃあ、今もその苦しみの中に
居るってことょ。」
「ううん。今は変われた。
いや、その機会を
〝彼が与えてくれた〟
と言った方がいいかな。」
「……彼?」
「――『笹波・雲明』っていってね。
私のこの心情を逸早く見抜いて
勝負を挑んで来た子よ。
あまつさえ、私にダンス勝負を
申し出たんだから。」
「え……?」
日本一の中学生ダンサーに
ダンス勝負を?
信じられない。一体どんな目的で。
「結果として彼は負けたけど、
〝試合に負けて勝負に勝つ〟って
奴かしら。……勝負を通じて、
彼らの想いに心動かされた。
今の私に、新しい目標が出来た。」
抱えてるボールの意味が、
そこでようやく理解できた。
「やった事もないサッカーで、
頂点を目指そうってことゃ?
無謀すぎるでゃ。」
「でもさ、こうして夢を抱いて
突き進んで……私もはじめちゃんも
トップダンサーになれた。
きっと不可能じゃないわ。」
「…………。」
「それに、雲明くんや彼らとなら
成し遂げられる。
そんな気がするの。」
「………………。」
変わっちまったな。
この真っ直ぐとした瞳は、
何を言っても
はじめじゃ変えられそうにない。
「サッカーって凄いんだよ。
パスされたボールには、想い想いの
気持ちが込められてて……
ダンスにはない
心地良い一体感があるの。
続けてたら、また新しい何かを
見つけられるんじゃないかって
ワクワクしてる。」
「ふーん。」
「はじめちゃんには悪いけど、
みんなと頂上に立つまで
待っていて欲しい。
私、今は全力で
サッカーに打ち込みたいんだ。」
それが、来夏たんの見つけた
新しい目標か。
もっと居て欲しかったけど、
邪魔するのはきっと良くない。
友人が抱いた真っ直ぐな志に対し、
背中を押す事が
友として正しいんだ。
今ままで付き合ってくれたお礼として
はじめが出来るのは、
精々それくらいしかないから。
「分かった。頑張ってゃね。
サッカー。」
「そうだ! はじめちゃんも
ひと蹴り遊んでみない!?」
「……はじめはいいよ。」
「え、ちょっと待ってよ――」
*
〜SIDE『綺々羅々ヴィヴィ』〜
「――そんにゃ感じで、今に至る。」
「何も悪くないやん。サッカー。
待て言われとんのに待てへんの?」
「はじめ、せっかちなのかにゃあ。」
「どーやろな。
いっそサッカーに触れてみたら、
来夏ちゃんの気持ちも
ちったぁ分かるんやないか。」
「でみょ、
サッカーボールにゃんて無いし……」
「ちょい待ってぇな。
すぐ見つけたる……!」
「えっ!?」
幸いにも体育館に居て良かった。
確率は五分五分やが、
体育館倉庫が近場にあるのは確認済み。
針金一本ありゃ、充分モノは探れる。
カチカチ……ガチャ。
ほらほら、案の定あるやんけ。
サッカーボール。
「お待たせ〜はじめ先輩〜♪
持ってきたで、サッカーボール!」
「にゃんでありゅんだよッ!」
「まぁまぁ、前は急げや。
体育館裏へカモーン♪」
「勝手に話進めんな!」
反抗的な言葉を返すものの、
ヴィヴィの読み通りはじめ先輩は
体育館裏へ来てくれた。
「……来てやってゃぞ。」
「お待ちしてましたぁ♪」
シャッシャッシャッ!
倉庫の床に転がってた
チョークを利用し、壁に枠を描く。
これで準備は整った。
「ヴィヴィたん、一体にゃにを……」
「決まっとるやろ、サッカーの準備や。
じゃっじゃーんっ♪」
「自慢されても困るって……」
タンッ!
サッカーボールをはじめ先輩に
向かって蹴り飛ばす。
そのボールはいとも容易く
両手でキャッチされた。
「いきなり何すんだぁ!」
「流石ダンス番長や……
いい反射神経しとるな。」
「はじめを試したにょか?」
「せやで。
やけど本番はこれからや。
サッカー部の入部を賭けて
ヴィヴィと勝負せぇ!
ちな、ボールに触れた時点で
拒否権はないで!」
「勝負でゃと……。」
「ルールはシンプル!
制限時間10分以内に
この枠内にボールを蹴り入れれば
先輩の勝ち。
ヴィヴィは両手を使わずに
それを妨害する……で、どや!?
勿論、負けたら強制入部させるで!」
ふっ、丁度いい機会やわ。
そろそろ小慣れてきた頃やし、
自分のパスカット力やトラップ力を
再確認し、鍛える事も出来る。
負ければぺこら先輩からの
痛いお仕置きが来るやろが、
何事も挑戦が大事……
なんとかしたるで!!
「受けて立っちやりゅ。」
ヒュゥウウウウ!!
戦いの狼煙を広げる様に、
涼しげな風が吹き抜ける。
……火蓋は、すぐに切られた。
「――ぅぉおりゃぁあああッ!」
タンッ!
ボールは真っ直ぐ枠内の
上部分を征く軌道で迫った。
(うせやろ……
初見プレーでここまで
正確に狙い撃ち
できるモンやないで。)
ちゃう。そもそも
その考えが甘ちゃんやった。
彼女は帆呂雷中で
『ダンス番長』と謳われる程の
トップダンサー。
身体の動かし方を、
常人よりも遥かに理解し
それぞれの筋肉、関節が
最善のムーヴを自然に導き出してる。
ぺこら先輩は、この手腕を
見抜いて引き込もうとしてたんか。
やが、幸いにも威力は可愛い。
胸トラップで受け止めたる。
タッ!
「よっと♪」
「!?」
咄嗟に跳ね上がりボールを受ける。
はじめ先輩は
若干悔しそうな顔を見せた。
「いいシュートや。
得点を入れるっちゅー
強い気持ちがボールに篭ってたで。」
「偉そーにょしゃぎゃって。」
「えっへん!
やけど、まだ足りひんな。
気持ちではヴィヴィの方が
まだ勝っとる。」
「…………。」
「全力の気持ちをぶつけるんや。
そこに、先輩の心の答えが
あるかもしれへん。」
コロコロコロ……
適当なアドバイスをしながら
ボールを返す。
特に深い意味は無い。
「言ったにゃ?
後悔すりゅんじゃあなうぃじょ。」
「来いや……!」
「帰ってきやがれっ、忍原来夏ッ!
――うぅおりゃぁああああっっ!!」
来た……って待て待てェ。
この軌道、カーブシュート!?
ジャイロもかけてあるし、
威力もかなり強いやん!
今のトラップ練度じゃ間に合わへん。
マズイで……このままじゃ、
ヴィヴィがやられる。
対処法はただ一つ。
全力であのボールを蹴り飛ばすのみ!
ガッ。ギュルルルル!
「負けへん!
ぅうぉぉおおおおおっ!!」
パァンッ!
ボールは明後日の方向へ
飛び去った。
蹴り入れた部分がヒリヒリとする。
正直ヴィヴィは甘く見ていた。
先輩の抱えた執念とやらを。
予想を遥かに超え、
ボールに宿った彼女の気力は
凄まじいモノだった。
「ハァ……ハァ。
本気のお気持ち。
ヴィヴィの足によォ届いたで。」
「次はきゅめりゅ!」
「それは大賛成やが、
いかんせん遠くに飛んでもーた。
回収しに行くから、
ちょい待ってぇな。」
「――その必要はないぺこだぜ。
ヴィヴィちゃん。」
「俺も忘れてくれちゃあ困るぜ!」
「ちはも居るだよ。」
「ふっ、世話の焼けるダチだな。
ニコたんがぁ〜、来タ★」
「ぺこら先輩、木曽路、
ちは……ニコたん!
なんでこんな所におるんや!?」
ぺこら先輩は
はじめ先輩にボールを蹴り渡し
返答する。
「アンタを放置しとくと
何しでかすか分からんしな。
だからぺこーらが
様子を見に来たって訳。
……案の定、早速トラブル
起こしてんじゃねぇか。」
「起こしてへんわ!
決闘の
一つや二つしたってええやろ!」
「負けたら
どうするつもりだった?」
「それは……その……ま、
ぺこら先輩が
なんとかしてくれるやろ。」
「ふざけんなッ!!」
「いつみゃでお喋りするつもりでゃ?」
「「「――!?!?」」」
てっきり忘れとった。
ヴィヴィ、決闘の最中やないかい。
「す、すまへんはじめ先輩!
時間稼ぎしようとか
そういうつもりじゃないんや……
なんなら仕切り直しても――」
「いいにょ。どの道あと1発で
きゅめりゅ予定だってゃから。」
「後1発で!? ホンマか!」
「ああ。ボールの勝手はもう覚えた。
今度こそ全力の全力でゃ
枠内に叩き込みゅ。」
たった2発で覚えた云うんか。
ダンス番長……恐るべし。
「うぉぉおおおっ!」
ズポ ズポズポッ。
「!?」
今、一瞬地面からペンギンが
3匹ほど顔出さんかったか?
「これが、はじめの120%だぁッ!
でりゃあああああああっ……!!」
ドォオオン!
いや、今はそないな幻影に
気を取られてる場合やあらへん。
あの強烈な
ストレートシュートを切り抜ける。
相手が120%っていうんなら、
ヴィヴィは200%の
気持ちで跳ね返す。
空気を切り裂いてでも、
自分の道を切り開くんや……!
「私、へこたれへん!
でゃああああああっ…………」
シャッ! ズゾゾゾゾ!
「「「!?」」」
「――〝真空魔〟っ!」
裂かれた空気の亀裂が
ボールを吸い寄せて包み込んだ。
勢いのままにやった必殺技が、
力を発揮したようだ。
「うしょ……でゃりょ。」
バタンッ。
はじめ先輩は驚いた顔を浮かべると。
宣言通り全てを出して
力尽きたのか、
背を地に向けて倒れ込んだ。
「これで、入部確定やな。」
「……参ったよ。
キミ中々やるじゃないか。」
負けたというのに、
その顔と声音はとても朗らかだった。
「先輩も凄かったで!
これから同じグラウンドで
戦う後輩として、改めてよろしくや!」
「うん。」
先輩の全身全霊に敬意を讃え
手を差し伸べる。
こうしてまた一歩握手を交わし、
サッカー部再興の道を進めた。
ぺこら先輩も鼻が高いやろ。
「どや、ぺこら先輩。
押せば案外イケるもんやろ。」
「何言ってんだよ。一個でも
やり方ミスったら
終わりぺこだったろーが。
それに……」
「?」
「これでようやく
『フェーズ1』って所だ。つまり、
次の戦いが正念場って奴ぺこ。」
「…………。」
含みのある言い方に、
益々疑問が膨らむ。
「どういうこっちゃ、ぺこら先輩。」
「明日ウチらは、
野球部第二グラウンドの所有権を
奪う為に、サッカー勝負を
野球部に申し出るぺこ。」
「「「ええーーーっ!?」」」
誰もが聞かされてなかったようで、
ヴィヴィと同じように
一同が驚愕の声を上げた。
「――それはァ、
聞き捨てならない話こよねェ。」
「「「!?!?」」」
突如現れた
不穏な気配に目を向けると、
制服の上に白衣を着込んだ
怪しげなケモ耳女生徒が居た。
「………誰や自分。
野球部の関係者か?」
「如何にも。ぼくは『博衣こより』。
野球部のマネージャーだよ。」
ぺこら先輩がニヤリとして
マネージャーさんに声をかける。
「そりゃあ話が早くて助かるぺこ。
生徒会に取り合って
話をつけてくれねェか。」
「ははっ♪ 何を言うかと思えば
勝負の手続き依頼かぁ。
しかも野球部にサッカー勝負だって?
……笑わせてくれるね。
一体ぼくらに
何のメリットがあるんだい。」
「アンタの素性をぺこーらが
知らないとでも? なァ、
悪の秘密結社『holoX』さんよォ。」
「…………ふっ、バッドマナー兎田の
名は伊達じゃないね。
情報収集や卑劣な手段は、
お手のものって訳か。はたまた、
闇商人ミミーチンから
情報でも買ったのかい。」
「馬鹿言え。
アイツ経由で何か買うくらいなら
くたばった方がマシだ。
それより……さぁ、どうするよ
こよりちゃん。」
凄いでぺこら先輩。
マネージャーを
言葉巧みに追い詰めとる。
これはイケるんやないか……!
「その宣戦布告、乗った。」
おし。ナイスやぺこら先輩。
やってくれると信じてたやで。
「但し、野球部にサッカーさせるのは
大分勝手が違うし不利だ。
よって。こよちゃんの特設チームが
野球部代表としてサッカー勝負に
応じる。……それでどうかな。」
「構わねぇぺこ。
おいお前らァ、分かったか!」
「「「はいっ!!」」」
「ふふ。キミ達が
どう足掻こうと無駄さ。
勝負は1週間後のお昼休み。
場所は校庭。
もちろん昼メシは抜きだよ。」
「昼メシ抜きやて!? ホンマかいな!」
「試合時間が足りなくなるからね。
1日くらい我慢して貰うよ。」
「ぐぬぬぅ……」
「腹を括れヴィヴィちゃん。
これもサッカー部のためぺこ。」
勝利を確信したように
マネージャーさんは微笑み、
背を向けて校舎に戻っていく。
「adiós、未来のサッカー部諸君。
当日の試合、楽しみにしてるよ。」
【後書き】
どうも、たかしクランベリーです。
お待たせしました。
次はいよいよサッカーバトル開幕です!
(3456……4話ぶり)
ナギさま……お前は無事でいてくれ。
という訳で、最近のマイブームは
新世界構文です。
よろしくお願いします。