アイドルが群雄割拠する世界にTS転生したので闇堕ちした天才アイドルみたいなムーブする   作:音塚雪見

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隠匿されし絶望の左目(カラーコンタクト)

「──CRYSTAΛは天喰伽藍に匹敵するわ」

 

 

 判官贔屓の入った素人考えを披露すると、会場にどよめきが走った。

 ジョルダーノ・ブルーノが地動説を唱えたときの学会みたいに、常識の埒外から殴られたみたいな反応。

 あるいは子供のたわごとを眺めるような。

 

 

 しかし伽藍はその例に当てはまらず、「くはっ」と腹の底からの笑いを漏らすと、眼帯の上から掌を翳した。

 

 

「霜月絢華よ……正気か?」

「ええ」

「くくっ、くっははははは!」

 

 

 哄笑。

 腹を抱えて。

 まるで悪魔の笑い声。

 

 

 俺を含めて周囲の人間が固唾を呑んでいると、彼女は涙の浮かんだまなじりを拭って、我慢できないというふうに喉を震わせる。

 

 

「どこまで……どこまで我を楽しませてくれるというのだ、霜月絢華。最強無敵で孤影悄然のみなしごたる我に、そこな六人は匹敵すると?」

「あるいは凌駕するかも」

「くっくっく、ふはっ、あっはっははっははっはあはは! これは傑作だ、大傑作だ!!! 駄目だ、笑いを堪えきれん。霜月絢華よ、貴殿は笑いのセンスにも長けているのだな」

 

 

 ええ~こわ~(困惑)。なんだって急に笑い出したんすかこの人。怪しいキノコとか食べたんじゃないでしょうね。

 

 

 俺はワライタケでも摂取したんじゃないかってくらい不審な反応をする伽藍を眺めながら、しかし超然とした雰囲気を崩さなかった。

 ここまで来ると癖だ。意識的に呼吸をする者が居ないように、俺は自然と闇堕ち天才アイドルムーブができるようになっていた。

 

 

「そうか、そうか、そうか。霜月絢華よ。もしかすると貴殿は我に敗北を与えるために現れたのか?」

「さて。どうかしら」

「常に勝利に溺れ、後塵を拝したことのない我にッ!!」

 

 

 突如として目を見開く伽藍。

 眼帯を外して、その双眸を露わにする。

 隠されていた左目は──燃えるような紅だった。

 たぶんカラーコンタクトだろう。

 

 

「この封印を解くことになろうとはな……くくく、我が本気を出すなど初めてだぞ、霜月絢華」

「もう貴女の番は終わったんだから、点数とか変わらないんじゃないかしら」

「……絢華さん絢華さん」

 

 

 すん、と表情を消した伽藍が近づいてきて、耳元に顔を寄せてくる。

 

 

「あの、こんなことを言うのもなんなんですが、絢華さんも意味深な振る舞いしてるじゃないですか。同じ中二病仲間じゃないですか。テンションが上がって意味のない行動をしているのは確かなんですけど、その、あんまり水を差してほしくないっていうか。羞恥心で燃えそうです」

 

 

 見ると彼女の頬は真っ赤だった。

 左目と同じくらいの紅。

 俺の指摘が相当堪えたようだ。

 

 

 中二病仲間だと思われていることには少し文句を言いたいが、傍からすれば闇堕ち天才アイドルごっこも結構痛々しいので、苦情を申し出るにはどうやら立場が弱いようである。

 

 

「……ごめんなさい。了解したわ」

「ありがとうございます」

 

 

 するすると離れていく伽藍。

 ごほんごほんと咳払いし、

 

 

「CRYSTAΛの実力──魅せてもらおうかッ」

 

 

 盛大にマントを翻した。

 あれいつの間に現れたんだ? さっきまでマントとか纏ってなかったよな。

 

 

 けれども、そんな茶々を入れるような発言は慎んで、俺は伽藍に付き合い、含みのある笑みを浮かべたのであった。

 

 

     ◇

 

 

 絢華さんと伽藍さんが意味深なやり取りをしている。

 これがアイドルのことなど何も知らない素人の発言であれば、まったく取り沙汰されずに無視されるだろう。

 しかし「CRYSTAΛが天喰伽藍に匹敵する」と断言したのは、当の本人である伽藍さんと、その伽藍さんと対等に渡り合う謎の人物なのだ。

 

 

 周りから私たちに視線が向けられる。

 あいつらが……? と疑っているような、どこか希望に満ちたような、不思議な眼差しだった。

 

 

「ねえ、絢華さんの言葉、本当かしら」

 

 

 実千が唾を飲み込む。

 とても信じられない、と言いたげな様子だった。

 

 

「私たちの不安を取り除くための嘘……だと思うよね。普通なら」

「うん。普通ならね。でも普通じゃない」

 

 

 そうなのだ。

 だって、あの霜月絢華さんだ。

 詮索はしないけれど、きっとあの人には深い、深い過去がある。

 そんな人が私たちのことを伽藍さんに匹敵すると評しているのなら、もしかすると、自分たちでも気付いてない何かがあるのではないだろうか、と。

 

 

 不思議とそんな気がするのだ。

 

 

     ◇

 

 

 俺と伽藍が意味深に睨みあっていると。

 背後から、六つの足音が聞こえてきた。

 

 

「伽藍さん」

 

 

 堂々と胸を張る紗英。

 その姿は、先程までビビり散らかしていた彼女のものではない。

 表現が適切かどうかは判らないが、まるで艱難辛苦に立ち向かう勇者のような。

 見る者に勇気を与える毅然とした態度であった。

 

 

「雨森紗英か」

「名前、憶えてくれたんですね」

「我の記憶力は前世由来のものでな。三千世界の重箱の隅を突くような些末事でさえ、この脳内に記録されておる」

「凄い……」

 

 

 一から十まで中二病の妄想じみた妄言なのだが、純粋な紗英は信じ込んでしまったようだ。

 宇宙飛行士に憧れる子供みたいに瞳をキラキラさせる。

 

 

 さすがに真正面から尊敬の眼差しを向けられるのは初めてなのか、伽藍は思わずといった様子で一歩後ずさり、頬に一筋の汗を垂らした。

 

 

「私たち、頑張ります。怖がりません。絢華さんが信じてくれた私たちの実力をすべて出し切って、伽藍さんに勝ってみせます」

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