アイドルが群雄割拠する世界にTS転生したので闇堕ちした天才アイドルみたいなムーブする   作:音塚雪見

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中郡智美

 はらぺこあおむしならぬ、はらぺこ小動物系アイドルを捕まえたものの、もう一人メンバーが増えないと大会参加資格が得られないため、APEXIAの三人は、今日も今日とて四角の風呂敷を提げて校内を練り歩いていた。

 

 

「──いや無理だよ!」

「どうしたの麻美。突然叫んで」

「異常。なんらかの病気の可能性がある。早急に通院することをおすすめする」

「貴女たちと喋ってると、高血圧で救急車が必要になるかも!」

 

 

 麻美は瞼を閉じて歯を食いしばる。

 

 

「やはり病気……」

「ねえ千絵先生。麻美は助かるんですか」

「残念ですが……」

「そんな……」

 

 

 出射千絵は真面目腐った態度で言った。

 雰囲気だけ取れば医者さながらだ。

 

 

 悲嘆に暮れた絢華は、目を見開き、口元に手を当て、心底ショックを受けたと言わんばかりに、くたりと廊下に腰を折り、およよとしなを作って、睫毛を涙に濡らした。

 

 

 即興のコントである。

 

 

「絢華のお弁当作戦が上手くいったのは、望外の僥倖っていうか、千絵が想定外のお間抜けさんだったからだよ!」

「む。遺憾の意を表明する。私はお間抜けさんではない」

「お間抜けさんじゃなければ、きびだんごよろしくお弁当で仲間になんてならないんですのよ!」

「きびだんごだって。千絵はお供だったらなんの動物かな」

「私は犬が好きだから、犬がいい」

「わー可愛い! 似合ってるよ!」

「ふふふ。絢華は解ってる」

 

 

 絢華と千絵はきゃっきゃと話している。

 完全にツッコミ役が板に付いてきた麻美は、真っ白に燃え尽きたボクサーみたいな微笑を浮かべて、そっと天井を見上げた。

 蜘蛛が這っていた。

 気分が悪くなった。

 

 

 APEXIAはもう一人のメンバーを必要としているため、なんとかして人員を増やさねばならぬのだが、出射千絵の例を踏まえて、お弁当をこさえて校内を歩き回っていれば、また運命の出会いがあるのではないかと、三人は活動しているのである。

 

 

 しかし、さすがに麻美は冷静だった。

 若干二名がお花畑すぎるから、彼女だけは冷静でなければならない。

 

 

 はらぺこちびむしが捕まったのは降って湧いた幸運であり、二匹目のドジョウとも云うが、同じ手法は二度も通じないだろうと。

 常識的な視点から二人を諫めたのである。

 

 

「だからもっと別の方法を考えて、地道にメンバーを増やす方向で──」

「あっ人が倒れてる」

「なんで!?」

「肉食獣の唸り声がごとき重低音。これはお腹の音と推察される」

「またはらぺこあおむし式ですのー!?」

 

 

 麻美はもう頭痛で頭が痛くなった。

 重複表現を二度重ねて繰り返してしまうほどに。

 

 

 現代日本において、死に瀕するほどの飢餓状態に陥ることなど滅多にないが、その滅多な例が目の前で、事もあろうに、有数の設備で知られる東京都第二アイドル育成高校で起きてしまった。

 

 

 病的なダイエットを実践しているというなら、まあ、話は分からなくもない。

 ところが廊下に倒れている少女は体格もよく、うつ伏せに倒れていたところを仰向けにしてみると、溌溂な印象の顔が現れる。

 とても常軌を逸したダイエットに挑戦する人間とは思えない。

 

 

 いや、見た目から性格を予測するなど不可能だが。

 

 

「大丈夫?」

 

 

 ひとまず絢華は少女の瞳を覗き込んだ。

 僅かな息漏れが返ってくることから、命に別状はないらしい。

 ただ、ひたすらに、空腹を訴える重低音が響く。

 

 

「……いい匂いがするな」

「あっ、案外元気そう」

「すまない……私は、倒れていたのか」

「うん。廊下を歩いていたらいきなり傷病者が現れるものだから、びっくりしちゃった」

 

 

 少女は苦笑した。

 申し訳なさそうな表情だ。

 

 

「傷病者か……言い得て妙だな」

「どうして倒れてたの?」

「実は、前回の食事から二十四時間が経過してしまったんだ」

「そんな──」

 

 

 絢華は迫真の声色で対応する。

 しかし、彼女の内心は、二十四時間なにも食べていないくらいで倒れないだろ、と至極当然の感想が浮かんでいた。

 如何なアホの子である絢華といっても、この異常事態、もとい珍事態に、常識を取り戻したようだ。

 

 

「どうも私は異常に代謝がいいようでな……前の食事から十二時間が経過すると体調が悪くなりはじめ、二十四時間を超えると、今のように意識を失ってしまうんだ」

 

 

 おもしろ人間である。

 けれども絢華は笑わなかった。

 シリアスな空気が笑うのを許さなかった。

 一貫して、真摯な表情を作り続ける。

 

 

「そうなんだ。……ところで、私の手元にはタイミングよく、お弁当があるわけだけど」

「もしや恵んでくれるというのか?」

「私の提示する条件を呑んでくれるなら」

「……私の身体は、期待に副えるものではないかもしれないぞ」

「別に身体を求めてるわけじゃないんだけどね」

 

 

 廊下に転がったまま、見当違いな発言をする少女に、絢華は我慢が利かずついツッコんでしまった。

 

 

 そうして、すぐ電池切れになるロボットみたいな生態を持つ少女、中郡(なかごおり)智美(ともみ)をメンバーにして、APEXIAは、大会参加資格の四人構成になったのであった。

 

 




第五章完結
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