ある可能性のお話 〜名も無き少女に祝福を〜 作:wasirunoguchi
楽しんで頂ければ幸いです。
私は今、夜の街に来ている。
何故かって?それは4課の新人歓迎会に突撃するため…、じゃなくて数日前の事件の詫びがしたいと、私が所属しているハンター事務所に姫野さんから連絡があったからだ。公安権限でわざわざ依頼として出され、こうして新人歓迎会にお呼ばれされた。公私混同じゃない?
「えーと、新歓って原作だとマキマさんがなんでデンジ君を気に掛けてるか、酔わせて聞いてみようって感じだったっけ。あとは……、まぁゲロチューか………。」
「レーセ。ゲロチューってなんだ?」
「ボンチャン様。ゲロチュート言ウノハデスネ…。」
「ケーちゃん、ストップ。ボンちゃん、世の中には知らない方が良いこともあるんだよ…。」
これから起こるであろう出来事に若干嫌気が差しつつも、私は指定された居酒屋へ向かう。一応、初めてマキマさんと会うはずなので、大家さんには連絡してある。向かいながら私はまた役作りとしてレゼちゃんになりきる。酔っ払ってボロが出ないように注意をしよう。
姫野「あ、おーい。七篠さーん。」
姫野さんの声が前から聞こえ、そちらを見ると姫野さんが手を振っていた。アキ君や他の公安の方がこちらを見て、会釈する。私は皆さんに近寄り、
玲世「姫野さん。今回はお呼び頂きありがとうございます。皆さんも、部外者ですが参加させて頂きます、七篠と言います。よろしくお願いします。」
私は姫野さんに声を掛けた後に、他の公安の方に自己紹介をする。男性の方は私を見て、少し嬉しそうにニヤけていた。フフ、私のレゼちゃんテクニックに死角は無いのだよ。
玲世「や。デンジ君もパワーちゃんも、ホテル振り。元気だった?」
デンジ「よ〜。ナナシ。ホテル出た後、寝ちまったんだけどなんかあったか?他のヤツに聞いても、なんか言いたがんねぇんだよな。ま〜、借りはいつか返すぜ。」
パワー「フン。あれしきでワシに勝ったと思うなよ。あんな悪魔如き、ワシの手に掛かれば一瞬だったわ。」
良かった。2人も特に問題無さそう。パワーちゃんも私の血の事は、頭に無いみたい。
姫野「じゃ、皆、コベニちゃんがまだ来てないけど、時間だからお店に入ろっか。あ、マキマさんは遅れて来るって!」
姫野さん先導のもと、私達はお店に入る。
席に着き、各自色々と注文したのが10分前。今はテーブルに料理が並び、各々酒やジュースを飲んでいる。私もチビチビとビールを飲む。皆色々と話をしているが、私だけ部外者の為、どうにも話に入りづらく、相槌だけ打っている。
コベニちゃんは遅れてやってきたが、私を見るや否や土下座する勢いで謝ってきた。どうやら私を刺してしまった事について始末書ものだったらしい。コベニちゃんが話しながら泣きそうになったので、頭を撫でて落ち着かせた。うん。小動物みたいだ。
少しするとガタイの良い方が、デンジ君に「新人は自己紹介!」と言い、年齢と契約悪魔、趣味を言う流れになった。デンジ君が16歳な事や、荒井さんがアキ君と同じ狐の悪魔と契約していること。コベニちゃんの契約悪魔は秘密な事など原作通りだ。ふと思ったが、コベニちゃんの悪魔って、悪魔の名前が秘密なのか、「秘密」の悪魔なのか明言されてなかったと思う。いつか聞いてみようと思った。
そんな事を考えていると、皆の目線が私に集中していることに気が付いた。え、なにこれ、私も言う感じ?
玲世「えーと、七篠 玲世です。25歳で民間のデビルハンターをしています。契約している悪魔は布の悪魔と空気の悪魔です。趣味は……。えーと、趣味は…………。」
ダメだ。趣味が出てこない。女優は趣味じゃないし、運動なんてデビルハンターやってれば当たり前だし。漫画なんて以ての外。この世界に来て、それ以外でやってた事は…。アルコールもあってか、頭の中が無駄にグルグルし始め、
玲世「地獄の特訓…かな?」
とんでもない事を口走ってしまった。趣味が地獄の特訓。うん頭がおかしいヤツだ。案の定、皆の顔がポカン、となったが、そこに笑い声が響いた。
姫野「あっはっはっは〜!趣味が地獄の特訓とか、七篠さん、最高〜!!」
アキ「先輩もう酔ってるな。」
姫野さんのお陰で、冗談だと思われたみたいだ。助かった。災い転じて、じゃないけどこれで一気に皆と仲良くなれた。ハンターになった経緯やら、悪魔との付き合い方を聞かれ、ホテルでの事件の話にもなった。
姫野「それで七篠さんをコベニちゃんが刺しちゃって。いや〜、あれは頭が真っ白になったわ。あ、また死んだってね〜。」
荒井「いや、七篠さん生きてるじゃないですか…。って言うか公安はそんなに簡単に人が死ぬんですか…?」
姫野「デンジ君は私とキスしたいから死なないモンねぇ。」
姫野さんがデンジ君に話しかけ、姫野さんがキス魔の話になった。それを合図に頭を切り替える。楽しんでいる皆には悪いけど、私にとってこれから気が抜けない状況になる。デンジ君の後ろからあの人が姿を現す。
マキマ「キス?」
来た。マキマさんだ。デンジ君の上司であり、4課のリーダーであり、内閣官房長官直属のデビルハンター。
そして
チェンソーマンに関わる全ての黒幕「支配の悪魔」。
正直言って色々能力有りすぎてチートキャラだ。「支配」の力に目が行きがちだが、他の力もとんでもない。こうして実際に見ると綺麗な女性だが、原作を知る私には到底そんなふうには見えなかった。
マキマ「えっと、彼女が?」
姫野「そうですよ〜。報告書にも書いたホテル内にいた協力者さんです〜。」
玲世「どうも。民間デビルハンターの七篠 玲世です。4課の方々にはホテルの件でご協力させて頂きました。」
マキマさんに自己紹介をする。いくら黒幕といえど、警戒し過ぎてボロを出すわけには行かない。普通に会話しなくては。
マキマ「報告書は読みました。なんでも部下が迷惑を掛けたとか。民間の方に申し訳ありませんでした。
『ところで、随分変わった匂いがしますが、どういう事か教えて下さい。』」
直後、頭痛が走り、私の中でボンちゃんが慌てだすのが分かった。なんだ、今のは。
マキマ「どうしました?『答えてください。』」
また痛みだ。……まさか、「支配」!?内心ヒヤヒヤしながらも、私は答える。
玲世「匂い、ですか?お風呂は入ってきたんですけどね?それか色々料理を頼んでいるから匂いが付いたのかも知れませんね?」
マキマ「………………そうですか。変な質問をしてすみません。」
姫野「マキマさ〜ん。デンジ君とキスして良いですか〜。」
姫野さんがマキマさんに絡んでくれたお陰で、緊迫した空気は霧散した。危ない。会話内で自然に「支配」を使われた。幾らそういう力があると知っていても、防ぐ事が出来ない。でもなんで私は「支配」を受けなかったんだろう。天使の悪魔の様に記憶改竄も無さそうだし。もしかしてあの頭痛は「支配」を弾いた時の反動みたいなものかもしれない。
だけど少し話して分かった。やっぱりマキマさんは私を見ていない。原作でデンジ君が言っていたように、匂いで認識している。気になる人物の匂いしか認識せず、今話しているのは「人間」であり、「七篠 玲世」を認識していない。私の話す言葉など特に気にしていない。私にとってはありがたいが。
マキマ「それでキスって?」
マキマさんと私の会話は早々に終わり、姫野さんに絡まれながら、マキマさんはデンジ君に話しかけていた。そこからは、姫野さん、アキ君、マキマさんの飲み対決に始まり、デンジ君へのゲロチューで新人歓迎会は幕を閉じた。
マキマ「早川家は私が送っていくよ。荒井君は姫野ちゃんをお願いね。って、あれ…?デンジ君は?」
荒井「デンジなら姫野先輩が背負って連れていきましたよ?酔ってるから危なそうだったんですけど、七篠さんが同行していきました。」
マキマ「………そう。」
私はデンジ君を背負った姫野さんと歩いている。店の前では酔って千鳥足で危ないと思い同行したが、会話が無く、沈黙に耐えられ無いため、私は気になっていた事を聞く。
玲世「あの。姫野さんと早川君って付き合ってるんですか?」
姫野「え?なんですか〜?いきなり〜。」
玲世「いや、ホテルの時に吸っていたタバコを早川君に渡してデンジ君が間接キスだって騒いだじゃないですか。その時にお二人とも平然としてたから、日頃からああいう感じなのかと…。」
原作では付き合っていた描写はないが、確かデンジ君にアキ君とくっつけてもらうように協力を要請していた。その直後に襲撃があって姫野さんは亡くなったけど。
姫野「うーん。そうだったら良いんですけど。かっこよくて真面目で優しいから公安内でも人気あるしな〜。」
玲世「ライバルは多い、ですか?」
姫野「そうですね~。」
2人で他愛もない話をする。少しすると会話が途切れ、しばし無言だったが、不意に姫野さんが口を開く。
姫野「さっきマキマさんと話してる時、様子が変だったから絡みに行っちゃいました。マキマさん、苦手ですか?」
玲世「いや、あの雰囲気が少し…。こっちを見る目がなんか、ホントに私映ってるのかな?って…。」
姫野「分かります。あの人、私達を見てるようで見てないんですよ。うちの師匠も同じ事言ってました。」
姫野さんが同意する。顔を見るとさっきまで酔っていたのが嘘の様にシリアスだ。
姫野「七篠さん、あー、玲世さんって呼んでいいですか?玲世さんって、……なにか私達に隠し事してます?マキマさんが来る直前に凄い気を張り詰めた感じになってたので。マキマさんと会う人って、緊張はしても気を張り詰める人はいないから。」
姫野さんは唐突に話しだす。
姫野「ホテルの時もそうです。私達が来ると分かっていたように、階段で声をかけ、ループしていることを伝えた。私と師匠トークしている時も、なにか優しい目で私を見ていたでしょう?まるで死んだ人を懐かしむように。何故ですか?」
私は姫野さんの質問に言葉を失う。姫野さんを馬鹿にしていた訳では無い。しかし、姫野さんがここまで鋭いとは思わなかった。失礼ながらお酒飲んで酔っぱらいのイメージが強かった。それに原作で死んでしまった人の見えなかった一面を垣間見た事で、彼女をそういった目で見てしまっていた。姫野さんも伊達に岸辺さんに鍛えられていない。凄い観察眼だ。
玲世「それ…は。」
姫野「……いえ、ごめんなさい。別に問い詰めてる訳じゃないんです。こんな世の中ですからね。いつ誰が死ぬか分からないから、聞いちゃいました。………玲世さん、優しい貴女にこんな事言うとあれかもしれないですけど、」
そうして姫野さんのマンションに着く。姫野さんはマンションの入り口に向かい、こちらに振り返った。
姫野「玲世さんは死なないでくださいね。私が死んだ時に、泣いてほしいから。」
それは、原作で彼女が死ぬ間際、アキ君に伝えた言葉。死に慣れ、泣くことがなくなるのが当たり前のこの世界で、泣くことができるアキ君に泣くほど思ってもらえたら嬉しいと心に秘めながら消えていった彼女の想い。
そう言い残し、彼女はデンジ君を背負ってマンションに入っていった。
私は知らず知らずに涙を流していた。原作では明日、特異課は襲撃に遭い、彼女は死ぬ。アキ君に想いを伝えず、アキ君を助けて。今日楽しく飲んだ皆もそう。デンジ君、アキ君、パワーちゃん、コベニちゃんを残し、皆死んでしまう。ここで皆を救えないと、レゼちゃんを救うなんて出来ない。私は涙を拭き、マンションに背を向け歩き始める。
「ケーちゃん、大家さんに繋いで。イーちゃん、盗聴対策よろしく。クーちゃん、私の痕跡を消していって。」
眷属の3人に指示を出す。念の為、マキマさんの小動物を使った監視、盗聴対策を行う。そして、ケーちゃんから大家さんの声がする。
「大家さん、至急、お願いしたい事があるんですが。」
明日、事件は起こるーーーー
死する者、助かる者。全て知るのは玲世のみーーーー
死の運命を変えるため、玲世は1人動き出すーーーー
新人歓迎会の話でした。
玲世に対してのマキマさんや姫野先輩の口調が難しく、皆敬語になってしまいました。外部の人と話す時は敬語が基本のイメージです。
なんか話の流れで姫野先輩がアキ君にいう台詞を玲世に言っちゃいましたが、前話といい、今回といいアキ君は泣いてよい。姫野先輩がヒロインっぽくなってしまった…。
キャラの口調について意見がある方は感想頂ければ幸いです。次回も宜しくお願い致します。