ある可能性のお話 〜名も無き少女に祝福を〜   作:wasirunoguchi

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今回からレゼ篇に突入します。
よろしくお願い致します。


第13話 嵐の前の日常

 

襲撃犯捕縛作戦の明朝

公安会議室にて

 

 

公安の会議室に2人の人物がいた。1人は公安幹部の男。もう1人はマキマだ。公安襲撃事件の最終報告をしているようだった。

 

 

マキマ「今回の公安襲撃事件は沢渡アカネという元民間のデビルハンターが発端でした。彼女が銃の悪魔と契約し、銃をヤクザに渡しました。その対価として沢渡はチェンソーの悪魔の心臓を要求していたそうです。」

 

 

幹部「元民間の…。それで…なぜ沢渡はチェンソーの悪魔の心臓を欲しがった?」

 

 

マキマ「それが、聞き出す前に意識不明の重体となってしまい、調査が出来ていません。」

 

 

マキマは淡々と報告する。沢渡アカネは捕縛後、輸送中に事故によって意識不明の重体となっていたがこれは口封じにマキマが仕組んだ事だった。本来であればヘビの悪魔によって自殺する手筈であったが、姫野達との戦闘でヘビの悪魔が殺された事により、次善策として事故による死亡を企んだ。結果として死ななかったようだが、口封じとしては十分だった。

 

 

幹部「そうか…。敵とはいえ、意識が戻るのを願うまでだ。」

 

 

マキマ「なお、今回の捕縛作戦でビル内から銃の悪魔の肉片を1.4kg押収。我々公安が持っている5kgの肉片と合わせた結果、ついに肉片が本体に向かって動きました。」

 

 

幹部「遂に…か。何処に向かって動いた?」

 

 

マキマは僅かに口端の持ち上げた。それはまるで、世界を嗤っている様だった。

 

 

 

 

 

 

 

アキの部屋にて

 

 

私は朝日が入るアキ君の部屋で静かにコーヒーを飲んでいた。とは言っても缶コーヒーだ。テーブルの方には皆が寝ており、うなされるデンジ君、テーブルに頭を突っ込んでいるパワーちゃん、2人で抱き合っているアキ君と姫野さん、食べ残しが色々転がっており、地獄絵図の様相だ。

 

何故こんな事になっているかと言うと、アキ君の部屋で祝勝会を開いた為だ。本当はコベニちゃんも居たのだが、早めに車で帰ってしまった。あれが人気投票で7位だったコベニカーか…。

 

皆で楽しく食事していたがお酒が入り始めると、徐々に地獄が始まった。姫野さんが誰彼構わずキスし始めるし、デンジ君はトラウマで姫野さん殴ろうとするし、アキ君はタバコを5本纏めて吸おうとするし、パワーちゃんは缶ビール1本で泥酔状態になるし。血の悪魔だからアルコールに敏感なんだろうか?歓迎会の時は飲んでなかったし。

 

その結果がこの光景。お酒は飲んでも呑まれるな、と言うのがよく分かった。その光景を眺めていると突然、うなされていたデンジ君が飛び起きる。

 

 

デンジ「はぁ…!は…、はぁ…!」

 

 

玲世「おはよ。デンジ君。うなされてたけど大丈夫?」

 

 

デンジ「…はぁ…。なんか悪夢見てたみてぇだ…。ナナシ、なんか飲むモンねぇか?」

 

 

玲世「コーヒーで良いなら、はい。」

 

 

私は未開封の缶コーヒーを渡す。デンジ君はそれを一気飲みして顔をしかめる。

 

 

デンジ「なんだ…こりゃ…。ナナシ…舌が腐ってんじゃねぇか…?ドブみてぇな味すんぞ…?」

 

 

玲世「アハハハ。それが大人の味なのです。」

 

 

パワー「なんじゃうるさいのお…。」

 

 

私達の話し声でパワーちゃんが起きてテーブルから頭を出す。するとパワーちゃんの角が4本になっていた。原作にもあったゾンビ達の血を摂取し過ぎのパワーアップ状態だった。

 

 

デンジ「おう、パ、ワー…。ん〜………、まだこれ夢?」

 

 

パワー「何寝ぼけてるんじゃ!」

 

 

パワーちゃんがデンジ君を殴るとデンジ君が天井に吹き飛び、アキ君と姫野さんの上に落ちる。

 

 

パワー「なァんじゃ?このパワーは!?」

 

 

デンジ「夢じゃ……ねぇ……。」

 

 

アキ「な、何だ!?敵か!?」

 

 

姫野「………ウップ……。」

 

 

玲世「あ~~~!!姫野さん、ストップ、ストップ!!アキ君に抱き着いたまま、それは駄目〜〜〜!!!」

 

 

こうして祝勝会の翌朝は慌ただしく過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

カフェ「二道」にて

 

 

朝の騒動の後、デンジ君とパワーちゃんはマキマさんにパワーちゃんの事を相談しに行き、アキ君と姫野さんは岸辺さんに特訓をお願いしに行った。そして私も仕事中だが自由時間となり、最近来れていなかった「二道」に来ていた。

 

 

玲世「マスター!お久しぶりです!カレーとコーヒーで!」

 

 

マスター「お、元気娘。ビシッとスーツなんか着てどうしたの?デビルハンター辞めて就職活動かい?」

 

 

玲世「ふふ〜ん。これは公安の制服。つまり今の私は民間ではなく公安のデビルハンターなのです!」

 

 

私は胸を張ってマスターに報告する。マスターは民間と公安の違いが分かっていなそうで、「へぇ、そう」なんて素っ気なかった。まぁ、普通の人はそうか。

 

 

玲世「あれ?そういえばレゼちゃんは?マスターがイジメ過ぎて辞めちゃった!?」

 

 

マスター「何言ってんだい。あの娘なら買い出し行ってもらってるよ。はい、カレーとコーヒー。」

 

 

相変わらず微妙な味のカレーを食べながら、私は内心で安堵する。まだ心の準備が出来ていなかったからだ。公安襲撃も終わり、遂にこの時が来た。目標はレゼちゃんの救済とデンジ君との恋の成就。

 

レゼちゃんはマキマさんの目的であるデンジ君と逃げようとした事、公安の人達やデンジ君との町中の戦いで人を殺し過ぎた事でマキマさんに粛清される。これだけはなんとしても防がなくてはならない。ただ、デンジ君との恋も応援したい為、戦いまではあまり介入が出来ない。2人には原作通りに惹かれ合ってもらわなければならないからだ。

 

最初はレゼちゃんと仲良くなって戦い自体を止めようとしたが、これまでの事で多分無理だと分かった。原作で描写された事件は必ず起こる。永遠の悪魔然り、公安襲撃然り、サムライソード然り。しかし襲撃時の姫野さんや公安の人達みたいに結果を変えることは出来るはずだ。十中八九レゼちゃんと戦うことにはなるだろうが、私の全てをかけて被害は0にする。それでも粛清になるようであれば最悪、マキマさんとの戦闘も辞さないつもりだ。

 

カレーを食べながら、私は思考の渦に呑まれていった。

 

 

 

 

 

「……さん。…世さん。玲世さん!」

 

 

突然肩を揺さぶられる。私は思考の渦から引き上げられ横を見る。そこにはいつの間にかレゼちゃんが居り、レゼちゃんとの戦いを考えていたからか、何故かチョーカーのピンに目が行ってしまった。

 

 

玲世「…あ、レゼちゃん…。チョーカーのピン…。」

 

 

レゼ「え?このピンですか?」

 

 

レゼちゃんが不思議そうな顔でピンに触れる。しまった。私は何を言ってるんだ。慌てて言い訳を言った。

 

 

玲世「いや、あの、ほら、あの…め、珍しい装飾だな〜、なんて。ほら、チョーカーってなんていうか、鎖とか付いてて拘束具って言うの?そんな感じがしちゃって。最近若者の間でファッションとして流行ってるらしいけど、レゼちゃんはそんなイメージないからさ〜。」

 

 

レゼ「…拘束具……ですか…。………アハ、バレました〜?実は私、拘束するの好きなんです!なんちゃって!」

 

 

早口でまくし立てる私にレゼちゃんが戯けた様に笑い、なんとか誤魔化せたようだった。

 

 

レゼ「ファッションと言えば、玲世さん、今日はスーツなんか着てどうしたんですか?就職活動?」

 

 

玲世「マスターといい、レゼちゃんといい、普段私をどんな目で見てるのやら…。これは制服。私、民間から公安のデビルハンターになったのです!公務員よ、公務員!…まだ協力者って形だけどね。」

 

 

レゼ「こ、公安の…。………えっと、じゃあ町中に民間の人じゃ敵わない強い悪魔が出たら戦ったり…、するんでしょうか。」

 

 

玲世「うん、それが公安の仕事だからね〜。レゼちゃんがアルバイトして、学校で頑張ってる間、悪魔から町を守っているのです!………どう?安心した?」

 

 

レゼ「アハハ…。そうですね。…安心しました。じゃあもし私が襲われたら、玲世さんが助けてくださいね。」

 

 

玲世「任せて!もしそうなったら、ちゃんと助けを呼ぶのよ!必ず助けてあげるから!お姉さんとの約束!」

 

 

私はレゼちゃんの雰囲気を確認しつつ、話に没頭する。やっぱり良い娘だと思う。任務なんか無ければ、モルモットとして悪魔の心臓なんか埋め込まれなければ、普通の女の子だったはずなのだ。

 

私は今後の事に不安を感じながらも、レゼちゃんとの一時を楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カフェ「二道」にて

 

 

レゼ「じゃあマスター、お疲れ様で〜す。」

 

 

マスター「はいよ。気を付けて帰ってね〜。」

 

 

私はマスターに挨拶して「二道」を出る。もう夏だ。暑い。玲世さんと久しぶりに話したからか、少し考え事をしながら帰る。まさか玲世さんがチョーカーのピンを気にするとは思わなかった。拘束具、と玲世さんは言っていたがあながち間違いでもない。実はチョーカーではなく私の首から直接ピンが出ているのを隠す為のチョーカーだ。これがある以上、私は爆弾の武器人間で祖国の道具である事を否応なしに認識させられる。

 

公安に入っている事もそうだ。これから始まる作戦の目標も公安の1人。初手で目標を達成し、離脱出来れば良いが、もし手間取れば確実に公安が出て来る。そうなれば玲世さんも来る。どうしよう。

 

…………なんだろう、今まで任務で仲良くなった相手でも作戦の際は躊躇無く始末してきた。でも…玲世さんにそれが出来るかと言われたら…私はどうするんだろう。殺す?それとも見逃す?私が危険な武器人間である以上、玲世さんは追ってくる。私から町を守る為に。あの人はそういう人だ。

 

助けを呼んだら来てくれるって言っていたけどどうだろう。見逃してくれるだろうか。それとも許してもらえず戦いになるだろうか。現実にヒーローなんていないのは分かってる。もしいたら、私はこんなふうになっていないはずから。

 

どうしよう。今程、爆弾の武器人間である事を恨めしく思った事は無かった。思考のループに陥っていた私は道の階段に躓き、転んでしまった。

 

 

レゼ「…いた。膝擦りむいちゃった…。」

 

 

膝から血が出る。追い打ちをかけるように雨が降ってくる。雨に濡れながら、陰鬱とした気分でホームに帰ったの私を、暗い部屋の中で点灯する通信機のランプが更に追い打ちをかける。溜息を付きながら、濡れた身体で私は通信に出る。

 

 

「こちらシュトゥルモヴィーク。ボンバ、応答せよ。」

 

 

レゼ「………………こちらボンバ。通信は良好。」

 

 

「む?通信のラグか?まぁいい。明日、作戦を開始せよ。作戦完了の通信があり次第、指定時刻に専用機で回収する。通信は怠るな。」

 

 

レゼ「………………ボンバ、了解。作戦準備の為、通信を終了する。」

 

 

私は通信機を切る。そうだ。私は爆弾。攻撃機から発射される、作戦を遂行する為だけの名も無き道具。今回はイレギュラーが多いだけの只の作戦。これまで通り作戦を完了して祖国に戻り、次の作戦に移行するだけだ。

 

雨が降り続く。雨脚は強くなり、雷が鳴っている。部屋の中が度々雷で照らされる。

 

擦りむいた傷が疼く。私は冷蔵庫からパックに入った血を飲む。膝の擦り傷は最初から無かったかのように消えた。

 

 

 

 

 

だけど

 

 

 

 

私の心に浮かんだ気持ちは

 

 

 

 

雷に照らされた私の酷い顔と共に消える事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チェンソーの悪魔の心臓を狙った作戦が始まるーーーー

 

 

チェンソーの少年と爆弾の少女ーーーー

 

 

2人の行く末は悪魔のみが知っているーーーー

 




姫野さんがゲロキャラに…。姫野さんファンの方がおりましたら申し訳ありません。

次回も宜しくお願い致します。
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