ある可能性のお話 〜名も無き少女に祝福を〜   作:wasirunoguchi

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時系列はデンジとレゼの出会いから学校直前までの話です。
よろしくお願い致します。


第14話 それぞれの道

 

 

カフェ「二道」にて

 

 

少し前から雨が降ってきた。今日はデンジ君がレゼちゃんと出会う日。私は姫野さんに無理を言って1週間程纏まったお休みを頂いて「二道」に来ていた。当然だがレゼちゃんはいない。私はカウンターの隅でコーヒーを飲みながら、溜息をついた。

 

 

マスター「どうした?元気娘から元気を取ったらただの娘だよ?隅っこにいるし、コーヒーしか頼まないし。」

 

 

玲世「いい加減、娘は辞めてほしいんですけど…。まぁ少し考え事をね。これからの事について色々考えてたんですけど、いい加減覚悟を決めるか〜。」

 

 

マスター「何悩んでいるか知らないけど、「案ずるより産むが易し」だね。いつもの元気でどうにかなんでしょ?きっと。」

 

 

玲世「………まさかマスターに諭されるなんて…。伊達に年は食ってないですね。」

 

 

マスターの気遣いに気持ちが少し軽くなる。どうやら色々考え過ぎていたようだ。ここまで来たらやるっきゃない。私の心を反映したかのようにいつの間にか雨は止み、日が差していた。そして、店に金髪の少年が現れる。

 

 

マスター「いらっしゃい。テーブル席で良いかな?」

 

 

デンジ君を頷き、テーブルへ座る。こちらには気づいておらず、私は声をかけた。

 

 

玲世「やっほ〜、デンジ君。君がこんな店に来るなんて珍しいね。どうしたの?」

 

 

デンジ「あ!?ナナシ?…なんでここにいんだよ。」

 

 

マスター「元気娘、知り合い?」

 

 

2人が同時に質問してきた。私は少し可笑しくなって、笑いながら説明した。

 

 

玲世「デンジ君、私はここの常連だからね。マスター、彼は私の仕事仲間でデンジ君。愛想は無いけど悪い子じゃないよ?」

 

 

説明すると同時にレゼちゃんがエプロンを締めながら裏口から店内に入って来た。デンジ君との出会いがあった為か、心なしか表情が明るい。よかった。無事に原作通りに行っている。

 

私もレゼちゃんを演じた身としては、内心が分かる気がする。電話ボックスの出会いで白いガーベラを貰った事で一目惚れしたんだったっけ。25の私には、あの時の演技は難しかったな…。

 

 

レゼ「よし!って玲世さん、いらっしゃいませ〜。」

 

 

マスター「元気娘に愛想振りまいても、遅刻した分は給料から引いとくからね。」

 

 

レゼ「ケチ〜〜。ねぇ、玲世さん、酷いと思いません!?」

 

 

マスター「ほらほら、4番テーブルにお水ね。」

 

 

レゼ「ぶ〜。ケチケチケチケチ〜。」

 

 

レゼちゃんとマスターの掛け合いを傍目で見ながら、私は不謹慎かもしれないがちょっとドキドキしていた。生でデンジ君とレゼちゃんの絡みが見れる。自分でもレゼちゃんを演じたが、あれは所詮まがい物だ。推しキャラが目の前でシーン再生してくれているのには感無量だった。

 

レゼちゃんがデンジ君の座っている方を向く。少し驚きの表情をし、

 

 

レゼ「って早〜!?ええ〜?私より早く来たでしょ!?」

 

 

デンジ「まぁそういえばそうかな。お礼貰いに来ただけだぜ。」

 

 

レゼ「ふ〜ん。じゃあ一緒に飲みますか〜。ヘイヘイ、マスター!私と彼にコーヒーを!」

 

 

マスター「店員でしょ。アンタ。」

 

 

レゼ「良いじゃないですか〜。モーニングにしか客なんて来ないんだし。」

 

 

玲世「こら、レゼちゃん〜。ここに客がいますけど〜?」

 

 

レゼ「………客が来ない訳じゃないけど、玲世さんしかいないし!お願いします!」

 

 

マスター「もお〜。………悪いね。」

 

 

マスターに手を振り問題無い事を示し、私は頬杖をついて2人を眺める。マスターがブラックのコーヒーを2人に渡す。

 

 

レゼ「お礼はコーヒーでした!コーヒー好き?」

 

 

デンジ「う……、飲む…。……………うぇ…。」

 

 

レゼ「なにその顔〜!絶対強がってる!」

 

 

デンジ「だぁって、コーヒーってやっぱりマズくねぇか!?昨日も缶コーヒー飲んだけど、ドブ味だよ、ドブ!」

 

 

レゼ「あはははは!子供だ子供!あははははは!」

 

 

レゼちゃんが屈託の無い笑顔で笑っている。あれこそが年相応の表情だ。出来れば彼女にはデンジ君の隣で笑っていて欲しい。

 

 

レゼ「私の名前はレゼ。キミは?」

 

 

デンジ「デンジ。」

 

 

レゼ「デンジ、デンジ君。…デンジ君みたいな面白い人、はじめて。」

 

 

あのレゼちゃんに落ちない少年はいるだろうか。いや、いない。女優の自分だから分かる。あれは演技の顔ではなく、純粋な好意だ。

 

 

マスター「まったく、好き放題しちゃって。……どうしたの?嬉しそうな顔して。」

 

 

玲世「いや、青春って良いな〜と思いまして。ああやって少年少女が恋を育む。素晴らしいですよね。」

 

 

マスター「そう?言っちゃなんだけど、レゼちゃん美人だからあの子と釣り合うかね〜?…………まぁ、いい雰囲気なのは認めるけどさ。」

 

 

玲世「人の恋路を邪魔する人は馬に蹴られて地獄に落ちちゃいますよ?たまには年長者として若人を導いたらどうですか?」

 

 

地獄には悪魔が一杯だろうから、死んでも行きたくないが。闇の悪魔?論外です。

 

 

マスター「生意気言ってんじゃない。こっちからしたらアンタも変わんないよ。」

 

 

玲世「マスター、酷いなぁ〜。」

 

 

軽口を叩きながら、私は日付をお店のカレンダーで確認すると1週間後にお祭りと花火大会がメモされていた。Xデーはこの日だ。リミットを再認識すると、私は席を立つ。

 

 

玲世「さてと…。若い2人を邪魔しちゃ悪いから、私はお暇しますか。マスター、ごちそうさま。レゼちゃん、多分1週間は来れないと思うからデンジ君をよろしくね。デンジ君、レゼちゃんを泣かさないようにね〜。なんかあったらただじゃおかないよ〜!」

 

 

デンジ「お!?おお。…任せとけ。」

 

 

レゼ「お仕事忙しそうですもんね、玲世さん。また今度勉強教え下さいね!」

 

 

玲世「……うん。そうだね。また1週間後にね。」

 

 

私は「二道」を出る。振り向くと、窓越しに2人が談笑するのが見えた。私は2人に背を向け歩き出し、ケーちゃんで大家さんに連絡する。

 

 

玲世「大家さん、玲世です。いきなりで申し訳ないんですが、1週間で思いっきり私を鍛えて下さい。………………はい、死ぬ覚悟はしています。…………ありがとうございます。これから向かいますので。…………ケーちゃん、ありがとね。」

 

 

ケーちゃん「レーセ様。ワタシ達モ及バズナガラゴ協力致シマス。」

 

 

ボンちゃん「オレもだぞ!もう少しで変身出来そうだから一緒に頑張れ!レーセ!」

 

 

玲世「ありがと、みんな。頼りにしてる。」

 

 

残り1週間。泣いても笑ってもその時は来る。少しでもレゼちゃんを救う可能性を高める為、私は大家さんとの特訓に挑む為、道を歩いて行く。

 

 

 

 

 

 

 

デンジ「ご、ゴチソーさん。…じゃあな〜。」

 

 

レゼ「ありがとうございました〜。」

 

 

標的が店から出ていく。何故私はわざわざ標的を無事に帰してるんだろう。そもそも電話ボックスの中で標的を始末し、心臓を奪って作戦は完了。今ごろは専用機の中だったはず。………分かってる。電話ボックスの中で彼に1輪の花を渡された瞬間、胸が高鳴った。私も普通の女の子になれるんじゃないかと思った。そんなはず無いのに。今まで何人もの標的を殺してきた私が、まともな人間であるはず無いのに。……彼と楽しく話をして、夢を見てしまった。

 

 

マスター「レゼちゃん、あの子の事、好きなの?」

 

 

レゼ「マスター!?な、なに言ってるんですか?そんな事………分からないです………。嫌いではないですけど…。」

 

 

マスター「ま、すぐにどうこうって訳じゃないんだし、交流してみたらどう?あの感じだと明日も来るでしょ、多分。」

 

 

マスターに直球を言われ慌ててしまった。こんなんじゃ工作員失格だ。………うん、嫌いではない。明日も来るなら作戦は焦らないでいいだろう。

 

 

マスター「仲良くなったら今度のお祭りと花火大会一緒に行ってみれば?いいスポットあるよ。」

 

 

レゼ「お祭りと花火大会…。………いいですね、それ。普通っぽくて。仲良くなったら誘ってみますかね〜。」

 

 

よし、決行は祭りの日だ。花火の音で私の爆弾の音も紛れるだろう。であれば、非常に仕方がないが一緒に行く為に仲良くならなくてはならない。私の得意分野だった。頑張って籠絡するとしよう。

 

夜、店を出て、私はベースに帰る。いつもは暗い道だけど、今日の道は何故か明るく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

町中にて

 

 

俺はポケットからタバコを取り出し火を点ける。ホテルの件から姫野先輩と一緒に吸うようになっていた。骨が腐るから要らないと言っていた昔の自分が懐かしい。少し煙をくゆらせていると、姫野先輩がアイスクリームを持ってこちらにやって来た。

 

 

姫野「はい、3個目のアイスクリーム。そんなに食べてお腹壊さない?ピーピーになるよ?パトロール行ける?」

 

 

天使の悪魔「アイス食べたら疲れた…。食べるのにも体力って使うらしいよ。今日はもう働きたくないんだけど…。」

 

 

姫野「あちゃ~。アキ君、どうしよ?」

 

 

今日から俺達2人と一緒に行動する事が決まった天使の悪魔に姫野先輩がアイスクリームを渡すと、働きたくないと言い始めた。姫野先輩が俺に助けを求める。

 

 

アキ「銃の悪魔の場所が分かったから遠征がある。それに参加するには、もっと悪魔を倒して強くなったり、悪魔を倒した成績が必要だ。俺達2人と組むようになったのなら協力してくれ。」

 

 

姫野「私は銃の悪魔にアキ君が殺られちゃわないかが1番心配なんだけどね〜。まっ、協力してよ。仕事しないと怖ーい人に殺されちゃうよ〜?」

 

 

天使の悪魔「ん〜………働くくらいなら死んだ方がマシなんだけど………。分かったよ…。お姉さんに免じて協力してあげる。アイスクリーム買ってくれたし。」

 

 

姫野「ホント!?やった〜!終わったらアイスクリームもう1個買ってあげる!」

 

 

アキ「姫野先輩………。はぁ、行くぞ。」

 

 

俺が先頭で歩き出す。後ろでは姫野先輩が天使の悪魔と話しながら歩いているが、俺はパトロール前にマキマさんに言われた事を思い出していた。

 

曰く、怠け癖があるが、4課では岸辺先生の次に強いこと。

 

曰く、自分が産まれた場所の村人を全員殺していること。正確には寿命を吸い取り、武器に変えてしまったこと。

 

曰く、フリでも良いので仲良くすること。

 

 

1つ目は先生より強い人は居ないと分かっているが、中々に信じられない。マキマさんが言うからには本当なんだろうが。

 

注意すべきは2つ目で、これは布越しなら力は発揮されない事が分かっている。姫野先輩も先程は手袋をしてアイスクリームを渡していた。武器も先生から聞いているし、俺も使っているから言わずもがなだ。

 

3つ目はマキマさんの言葉でも難しい。俺は悪魔が嫌いだ。七篠さんの様な例外もいるかも知れないが、あれはあの人が例外中の例外なだけだと思っている。悪魔の思考じゃない。

 

 

わぁぁぁぁぁ!!!

 

 

俺が色々と考えていると、前方から人達の悲鳴が聞こえてきた。不意に肩を後ろから叩かれる。

 

 

姫野「ほら、アキ君!考え事してるとこ悪いけど仕事の時間!天使ちゃんも行くよ!!」

 

 

姫野先輩が俺を追い抜いていく。先輩は襲撃事件からなにか吹っ切れた感じがある。俺への好意もそうだ。あんなグイグイ来る人だったろうか。……突然、七篠さんの影響かと考えがよぎった。姫野先輩の好意は嬉しいが、まだ俺は答えを出せてはいない。あの好意に答えていいのか、と。

 

 

天使の悪魔「お姉さん、行っちゃったよ。キミは行かないの?」

 

 

天使の悪魔が俺に問う。何故か癪に障った。……悪魔が先輩に懐きやがって。

 

 

アキ「行くに決まってんだろ。行くぞ。」

 

 

先輩が道を切り開くように走っている。俺と天使の悪魔は先輩が切り開いてくれた道をなぞる様に走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

アキ「悪魔は処理しました!皆さんは血や肉に触らないようお願いします!」

 

 

俺は豚の悪魔を討伐した事を周囲に伝える。こいつがどんな力を持っていたか分からない為、血や肉に触らないようにも注意をした。

 

 

天使の悪魔「わぁ…美味しそう……。…?お姉さん、人間君、ちょっとこっち来て。」

 

 

天使の悪魔が俺達を呼ぶ。なんで先輩がお姉さんで俺が人間君なんだ。謎のイラつきと共に、天使の悪魔に近寄る。そこには下半身がない人が瀕死だがまだ生きていた。

 

 

天使の悪魔「こいつは民間のデビルハンターみたいだね。この悪魔に食べられていたみたいだけど、下半身無いしもう死ぬね。」

 

 

ハンター「おっ、こっ、こっ、こおして…、ころして…、こお…」

 

 

アキ「お前の力なら楽にしてやれるだろ。死なせてやってくれ。」

 

 

天使の悪魔「…え?ヤダよ。…僕は天使である前に悪魔だよ?人間は苦しんで死ぬべきだと思ってる。」

 

 

これだから悪魔は嫌いだ。どんなに人の形をしていても、人らしい感情がありそうでも、根っこの部分で人とは相容れない。俺は瀕死のハンターを楽にしてやろうと刀を構える。

 

 

姫野「でもさ、もうこの人は苦しんだんじゃない?天使ちゃんだって悪魔に食べられて下半身無くなって、ずっと悪魔の腹の中だったら嫌でしょ?ねぇ、嫌でしょ?苦しいでしょ?死にたいでしょ?」

 

 

先輩が天使の悪魔に顔を近づけ問い詰める。

 

 

天使の悪魔「う……。いや、確かにそうだけど…。………、…はぁ…、分かったよ。やればいいんだろ。」

 

 

姫野「ありがと!あとでアイスクリームもう1個追加ね。」

 

 

………先輩は悪魔使いかなんかだろうか。悪魔が言う事を聞いた。天使の悪魔はハンターの目に手をかざす。

 

 

天使の悪魔「大丈夫…。君は天国に行くんだ。…お疲れ様。」

 

 

ハンター「あ…り…、が………と……………う……」

 

 

ハンターの目を隠す様に天使の悪魔が触れる。ハンターは最期に礼を言い、息を引き取った。天使の悪魔が手を離すと苦しさで目を見開いていたハンターの顔は、苦しみから解放され、目を閉じ寝ているかのように安らかなものだった。

 

 

姫野「悪いね。なんか汚れ仕事を押しつけちゃって。でも、この人にとってはなによりの救いだったと思う。」

 

 

天使の悪魔「どうでもいいよ、そんな事。……こんな事、いつもの事だし。……………頭撫でないでくれるかな。」

 

 

姫野先輩が天使の悪魔の頭を撫でる。俺は2人に近づく。

 

 

アキ「フリでもお前とは仲良くなれないが…、先輩に免じてよくやったと言っておいてやる。」

 

 

天使の悪魔「は?なにそれ?そっちこそ僕の武器を使ってるんだから、もう少し上手く戦えないの?」

 

 

姫野「ほらほら、2人とも。引き継ぎの部隊が来たから私達の役目は終わりだよ。…よし、頑張った2人にはアイスクリームを買ってあげよう!」

 

 

天使の悪魔「いる。」アキ「いらないです。」

 

 

天使の悪魔と声が被る。だいたい姫野先輩はこいつに甘い。道の先を行く2人の後についていきながら、やっぱり仲良くはなれないな、と思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

町中にて

 

 

暴力の魔人「はい、アイス。気を付けてな。」

 

 

コベニ「いつもなんか奢ってくれてありがとうございます!」

 

 

暴力の魔人「ははは。遠慮しない、遠慮しない。」

 

 

私は不思議なマスクを被った人にアイスを奢ってもらっている。マスクを被ってると言っても不審者ではなく、暴力の魔人さんだ。なんでも強すぎるからこんなマスクを着けているらしい。凄いなぁ。

 

 

暴力の魔人「俺はほら、マスクがあるから食べられないし。食べてる幸せそうなコベニちゃんを見てたいんだ。」

 

 

コベニ「わ〜…。じ、じゃあ遠慮しません!はむ……………、ちょうおいしい!ソフトクリーム食べたの人生で2回目です!小学生の誕生日に1度だけ買ってもらったけど、一口食べておいしくて…。おいしすぎて走って転んで落としちゃいました…。」

 

 

暴力の魔人「ははは!!コベニちゃんらしいな〜!」

 

 

暴力さんは私の過去を笑い飛ばしてくれた。バディを組んでから疑問があったので聞いてみよう。

 

 

コベニ「暴力さんは暴力の魔人だけど…なんか暴力っぽくないですよね。」

 

 

暴力の魔人「俺?ああ……、そう!そうなんだよな〜。…魔人には珍しく人間の脳みそがあるんだって。子供の時に通ってた学校だったり、好きな定食屋だったり趣味が俳句は覚えてるんだけど。」

 

 

コベニ「ふぁえ〜…。」

 

 

暴力の魔人「暴力なんて好きじゃないけどな。平和が1番。平和が。」

 

 

コベニ「私も平和の方が好きです…。」

 

 

私はアイスを食べながら、懐かしい感じのまま暴力さんと道を歩き、巡回を続けて行った。

 

 

 

 

 

 

6日後

大家アパート地下訓練所にて

 

 

大家さんのアパート地下で私と大家さんは向かい合う。こんなアパートの地下に訓練所があるとは思わなかった。とはいえ、私は左腕と両足が付け根から無く、うつ伏せに倒れており、大家さんは服に着いた錫や埃を払っていた。

 

 

玲世「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」

 

 

大家「うん。格闘術含めた力の使い方も上手くなったし、ボンちゃんとの変身も両手足が出来るようになった。これでそんじょそこらの悪魔には負けないわね。はい、血。」

 

 

玲世「………あ、ありがとう、ござい、ます…。」

 

 

私はあれから大家さんと武器人間化の様なボンちゃんとの変身の特訓をしていた。サムライソード戦で分かった事だが、生身の状態では武器人間に太刀打ち出来ない。差はあれど、悪魔の身体能力は人間には対処が難しく、だからこそデビルハンターは悪魔と契約してその力で戦っていく。武器はあれど、その身ひとつで悪魔を屠れる岸辺さんやクァンシ、大家さんがおかしいのだ。根源的恐怖の悪魔ならぬ、根源的恐怖の人間だ。

 

 

大家「ふふふ。また失礼な事考えてるでしょう?…まぁ、それはさておき、変身の感覚はどう?」

 

 

玲世「そうですね…。だいぶボンちゃんとは息が合ってきたように感じられるんですが、私の最後の何かが邪魔してるというか…。それを超えることができればなんとか出来そうなんですが。」

 

 

ボンちゃん「そうだな。私もそう思う。なんていうか、私はもっと先に行きたいのに、レーセがついてこれてないというか、こう引っ張られるというか。多分それで手足しか変身出来ないんだと思う。いや、レーセの事悪く言ってるわけじゃないぞ!」

 

 

大家さんに変身の事を聞かれ、私とボンちゃんは感じている事を口にする。何かが邪魔しているのは自分でも分かっている。でもその何かがなんなのか分からない。私達の言葉に大家さんは少し考え込み、口を開いた。

 

 

大家「ねぇ、玲世ちゃん。貴女のいた世界って悪魔がいないのよね?実物の。」

 

 

玲世「は、はい。想像上の話です。実物はいないと思います。」

 

 

大家「じゃあそれが原因の1つかも。私達の世界は悪魔と密接に関係しているわ。それこそ悪魔がいない世の中なんて想像出来ないくらいにね。でも貴女はそれが無い。想像上のモノで自分がそれになる事が想像出来ない、とかね。あとは…」

 

 

大家「自分の意思で殺す、という事に慣れてない。守る為に殺す事はあっても、殺意を持って殺す事に躊躇いがある。」

 

 

大家「武器、というのは守る為に使われる事もあるけど、本質は敵を殺す為のもの。爆弾なんて尚更ね。そんな武器だった概念に変身するんだもの。殺意を持たない武器の概念。その矛盾が最後の邪魔をしてるのかもね。」

 

 

大家さんの言葉にハンマーで頭をガツンと打たれたようだった。確かに私は悪魔を倒してきた。でもそれは全て人を守る為だ。自らの意思、殺意を持って殺していた訳ではない。要は受身だ。

 

武器人間はその武器の悪魔になる。守る為とか抑止力などがあるかも知れないが、武器という性質は基本殺す為だ。爆発、という概念も基本的に被害を出すイメージが強い。

 

元の世界でも格闘技はやっていた。だけどそれは誰かを殺す為じゃない。演技のためだ。急に私はこの世界で一人ぼっちの感覚に襲われていた。

 

 

玲世「……………。」

 

 

ボンちゃん「………レーセ。オオヤさんの言う通りかも知れない。私は悪魔だから殺す事に躊躇いなんかない。殺らなきゃ殺られるからな、悪魔って。………不思議に思ってたんだ。レーセの今までの戦い方って殺意が薄い。色々悪魔を「爆発」の力で殴ったり、倒して来たけど、進んで殺す様な事は無かった。最初の悪魔の時に私が代わりに戦ったみたいに、相手に触れて爆発させるなんて1番簡単だけど、ぬいぐるみの悪魔の時の遠隔起爆とかホテルの時に使った空気弾で遠くから攻撃するだけだ。安全なのは分かるけど。」

 

 

大家「まぁ公安に余計な疑いをかけられたくはないのは分かるけど、それでもね。…ごめんなさい。私にも責任はあるわ。本当なら最初に教えないといけないことだったけど…。孫みたいで、つい甘やかしちゃったわね。」

 

 

そう。私は4課の皆と知り合う前はハンターとして悪魔を倒してきたが、進んで殺す様な事はしていないし、無意識に私の正体がバレるわけにいかないと、受身の姿勢で戦っていた。

 

 

玲世「……わ、私は…、どうしたら…。」

 

 

大家「…そうね。………貴女はどうなりたい?私に聞くのも良いけれど、貴女はどうなりたいの?」

 

 

私の頭にこの世界に来てからの事がよぎる。最初は無我夢中だった。どうしていいか分からなかった。だけど、半年経って思った事は原作で亡くなってしまった人を助けたい。大好きなレゼちゃんを助けたいという思いだった。実際に4課の皆やレゼちゃんと関わり、なおさらその気持ちは揺らがない、それだけは譲れない。

 

 

玲世「私は……亡くなる人を救いたい。レゼちゃんを救いたい。殺す為じゃなくて救う為、守る為に戦いたい。それがこの世界に来て、大家さんに戦い方を教わって、決意した事だから。……ボンちゃん、ごめんね。私なんかと一緒にいるから大変な思いばっかりさせて。」

 

 

ボンちゃん「……殺すんじゃなくて、守る為か…。そんな事、考えた事も無かったなぁ。…………うん、いいんじゃないか。こちとら心臓が2つに別れた普通の悪魔じゃないんだ。殺す為じゃなくて守る為に戦う変わり者がいてもいいだろ!」

 

 

大家「ふふ、若いっていいわね。しっかりと意思が宿った目だわ。………じゃあ、そのままでも十分戦えるよう、今日はずっと変身状態で戦闘訓練ね。私を殺す気…じゃない、止める気で来なさい。」

 

 

玲世「わかりました!行きます!!ボンちゃん!!」

 

 

ボンちゃん「はいよ!レーセ!!」

 

 

私とボンちゃんは両手足を変身させる。進む道は決めた。その道がどこに行くかは分からないが、せめて後悔無く歩き続けよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デンジとレゼは惹かれ合うーーーー

 

 

玲世と爆弾の悪魔は進む道を定めるーーーー

 

 

レゼと玲世は殺す為、守る為に力を振るうーーーー

 




今回はここまでとなります。コベニと暴力の魔人の話は誤記ではありませんのでご了承下さい。

次回も宜しくお願い致します。
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