ある可能性のお話 〜名も無き少女に祝福を〜   作:wasirunoguchi

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投稿に時間がかかり申し訳ありません。
今回でレゼ篇はだいたい終わりです。
よろしくお願い致します。


第20話 もう一度、あの場所で

 

海岸にて

 

 

デンジ「…ん、…あ?ここは…?あ!レゼ!?」

 

 

デンジが蘇り、勢いよく上半身を起こす。

 

 

玲世「おはよ、デンジ君。昨夜はお疲れ様でした。レゼちゃんなら隣で寝てるよ。」

 

 

デンジ「…おう、わりぃな。…………あんがとよ、レイセ。お陰でレゼをなんとか出来た。」

 

 

玲世「!…………………、フフフ、どういたしまして。こんなタイミングで名前を呼んでくれるなんて、デンジ君も女泣かせだ。…もしかしてレゼちゃんにもそうしたの〜?」

 

 

デンジが名前を呼んだ事で、玲世は少しフリーズしてしまった。恥ずかしさからおちょくる様な会話をしてしまったのは内緒だ。

 

 

デンジ「何言ってんだ、てめぇ。…ふん、てめぇなんかナナシだ、ナナシ!それ以外の名前なんか言ってねぇ!」

 

 

玲世「またまた〜。」

 

 

しばらくの間、そうして話しているとレゼが目を覚ます。人間に戻った際はパンツのみという青少年には刺激が強い姿だった為、比較的無事だったデンジのワイシャツを着せていた。ちなみに玲世は変身を解いたが、服装はそのままだ。多少の融通は利くらしい。

 

 

レゼ「…………信じられない…。どうして私を蘇らせたの…?」

 

 

玲世はデンジの肩を叩き、回答を促す。

 

 

デンジ「…オレは素晴らしき日々を送っている。何回もボコボコにされて酷い目に遭って死んでも、次の日ウマいモン食えればそれで帳消しにできる。でも……」

 

 

デンジ「ここでレゼを捕まえて公安に引き渡したら、なんか…魚の骨が喉に突っかかる気がする。素晴らしき日々を送っていても、時々ノドん奥がチクッてなりゃあ最悪だ。」

 

 

レゼ「今私に殺されても同じ事言える?」

 

 

デンジ「殺されるなら美女に、ってのが俺の座右の銘。」

 

 

玲世「っぷ、あはははは!デンジ君らしいや!……あ、ゴメンね、空気読んで黙ってたんだけど。…私も同意見かな?「二道」の美しい看板娘を失いたくはないな〜。」

 

 

レゼは2人を見ない。朝日が昇る海を見つめるだけだ。

 

 

レゼ「……はぁ、2人とも単純だね。もしかして、私がまだデンジ君を本気で好きだったり、玲世さんと本気で仲良くしてたと思っているの?玲世さんに会った時の表情もデンジ君に対する頬の赤らめも全部嘘だよ。訓練で身に着けたもの。」

 

 

レゼは2人に冷たく言い放つ。しかし玲世は分かっていた。今の言葉にはほぼ嘘だ。確かに頬を赤らめたり、仲良くする様に見せるのは訓練で身に着けたのだろう。しかし、「二道」での時間やデンジとの会話からあれが嘘だったとは思えない。

 

 

レゼ「私は失敗した。…キミ達と戦うのに時間をかけ過ぎた。………私は逃げるから。じゃあね、2人とも。」

 

 

デンジ「じゃあ一緒に逃げねぇ?俺も戦えるから逃げれる確率上がるぜ?」

 

 

レゼ「私は台風の悪魔と一緒にたくさん人を殺したよ?私を逃がすって事はデンジ君、人殺しに加担するって事になるけど分かってる?」

 

 

デンジ「えーと、その事なんだけどよ。ナナシ、何だっけ?」

 

 

デンジは玲世に話を振る。玲世は先程デンジに伝えた事を言う。

 

 

玲世「ああ、えっとね、岸辺さんって言ううちの隊長に聞いたんだけど、町の被害は大きいが、4課の皆や対魔2課、他公安の人の尽力で早期避難指示が出て、人的被害は軽症者のみ。この軽症者も瓦礫で転んだとか避難の時の怪我。あとの大きい被害はデンジ君や私がズタボロになったくらい?まぁ、これは当事者本人から報告ないからノーカンってところかな。」

 

 

デンジ「だそうだ。別に誰も殺してねぇなら仕方ねぇな。まだ俺ぁ好きだし。全部嘘だっつーけど、俺に泳ぎ方教えてくれたのはホントだろ?」

 

 

デンジとレゼは見つめ合い、レゼはデンジの首の後ろに手を回す。まるでキスをする距離感だったが、

 

 

ゴキッ

 

 

デンジの首の骨が折られ倒れる。デンジや魔人はほぼ不死身だが、首の骨を折ることで行動を封じれる。

 

 

デンジ「あっ……」

 

 

レゼ「もう少し賢くなった方が良いよ。」

 

 

玲世「それがレゼちゃんの答え?デンジ君と一緒じゃなくて良いの?」

 

 

レゼ「………答えもなにも、私にはこうするしかありませんから。玲世さんも今までありがとうございました。マスターには上手く言っといて下さい。」

 

 

玲世「それは聞けない相談だ。マスターに言うなら自分で言ってね、私は言わないよ。」

 

 

一瞬、悲しそうな顔をしたレゼは2人に背を向けて歩いて行く。

 

 

デンジ「レゼ!!なあっ、レゼ!!今日の昼に…!あのカフェで待ってるから!!」

 

 

海の波音が虚しく響いていく。レゼは振り返る事無く歩いて行った。玲世はそれを見届けた後、デンジの胸のスターターを引き、復活させる。デンジは倒れたまま、

 

 

デンジ「なぁ、ナナシ…。レゼは来てくれっかな。」

 

 

玲世「それは……分かんないかな…。デンジ君はレゼちゃんが来たら本気で逃げる気?公安…というかマキマさんが追ってくるよ。多分…文字通り地獄の底まで。」

 

 

デンジ「それは逃げてみねぇとわかんねぇだろ。レゼは隠れる場所があるって言ってたけどよ。」

 

 

玲世「………なら、レゼちゃんがもし来たら私に考えが有るんだけどどうかな?それで今までの借りはチャラで良いし、上手く行けば逃げなくても済むかもよ?」

 

 

玲世はケーちゃんを取り出し、誰かに連絡をする。嵐の夜は越えた。次は哀しき昼に対処しなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

レゼのベースキャンプにて

 

 

レゼ「こちらボンバ。作戦は失敗。離脱の為、規定の位置に回収を要請。以降、安全圏に離脱するまでは通信は行わない。」

 

 

通信を切ると通信機を破壊する。これで後は国に帰るだけ。恐らく昨日の夜で私の正体は判明している。指定の回収位置まで移動をする為、帽子を深めに被り、私はベースキャンプを出る。ここは証拠隠滅の為、爆破する予定だったが半年前から使っていたからか、愛着の様なものを感じそのままにした。……爆破して問題起こしてもあれだしね。

 

 

レゼ「さて…、回収位置は北、移動は電車…。駅までバレない様、気をつけないと…。」

 

 

私は町中を歩く。なるべく人通りが多い道を歩いて人混みに紛れる。「木を隠すなら森の中」だ。玲世さんと勉強した甲斐があった。途中、悪魔被害の募金活動をしている数人が目に止まった。祖国では募金と言えば「徴収」だったが、日本では本当に活動に使われるらしい。今まで生きてきて初めての事だったので驚いた事を覚えている。

 

 

レゼ「珠には、善行してみようかな…。良いことがありますように。」

 

 

全くの気まぐれだが募金をした。すると1輪の赤い花が手渡される。その花には見覚えがあった。それは作戦開始の日。電話ボックスでデンジ君から貰った白い花と一緒だった。まるで彼みたいな純粋な白い花に対して、私は血に塗れた様な赤い花。自嘲気味に私は笑い、移動を再開する。手に1輪の花を持ちながら。

 

 

 

 

 

 

「11時8分山形行き新幹線つばさ。まもなく発車します。」

 

 

新幹線のドアの前で花を持ちながら私は佇む。この新幹線に乗れば帰還はもうすぐだ。なのに私の足は動かない。まるで天国と地獄の境目。あと一歩で天国だ。この辛い気持ちともお別れ。デンジ君達とは死ぬまで会うことはないだろう。私もいつもの日常に戻っていく。だけど、だけど、

 

 

あと一歩が動かない。

 

 

分かってる。このままでは地獄に留まるだけ。デンジ君には見つからない場所があるって言ったけどそれは嘘。逃げた場合は公安はおろか、祖国も追ってくるだろう。多分私は殺される。デンジ君はどうだろう。それでも彼と一緒に居たかった。マスターも言ってたけどこれは理屈じゃなくて。名も無い私が初めて得た、人間らしい心だった。

 

 

「11時8分山形行き新幹線つばさ。発車致します。」

 

 

タイムリミットが来た。目の前でドアは閉まっていく。これで天国ヘの道は無くなった。私は今までの私と決別して、デンジ君と一緒に居る。時間ももうすぐ昼。「二道」で彼が待っている。帽子を脱ぎ去り、駅から「二道」までの道を歩く。いつも油断無く歩いていたけど、今は無理。

 

いつもの階段を登り、路地裏に入る。これが近道。路地の先に「二道」が見え、窓にデンジ君の後ろ姿があった。

 

 

レゼ(…居た…。)

 

 

その時、無数のネズミが私を追い抜き、路地裏を塞ぐ。その中から最重要警戒人物が姿を現す。私と首元のピンに指を掛けるが、変身を躊躇してしまった。この先には「二道」がある。マスターが居る。そして……デンジ君が居る。私達の日常の風景を壊したくはなかった。

 

 

マキマ「私も田舎のネズミが好き。友達が田舎の方に畑を持っていてね。毎年秋頃に少し手伝いに行くんだ。畑の土の中には作物を荒らすネズミ達が潜んでいて、雪で土が隠れる前に駆除しておかなきゃいけない。」

 

 

ここまで来て死ぬ気は無い。私はもう一度、あの場所でデンジ君と会うんだ。ピンに指を掛けつつ、機をうかがう。

 

 

マキマ「だから土を掘って中のネズミを犬に噛み殺して貰うんだけど…。………どうしてだろうね。それを見ているととても安心するの。」

 

 

直後、上から槍の様なものが降って来て私の右腕が切断される。やるしかない。私は腰からナイフを抜き、目の前の女の後ろに回り込む。が、再度、上方から槍の様なものが私の心臓を貫く。…やられた。態勢が崩れる私は最後の力を振り絞り、ピンに指を掛けようとするが、すくそばに居た女がそれを邪魔する。

 

 

マキマ「だから田舎のネズミが好き。」

 

 

意識が朦朧としてくる。やっぱり世の中不公平だ…。少しくらい普通の少女みたいにしても良いじゃない……。ピンチを助けてくれるヒーローなんていない…。私はデンジ君に会えないで死ぬ…。イヤだなぁ……。今まで良いことなんか何にも無かった…。子供の頃から殺してばかりで…。因果応報、なのかなぁ…。ヤだなぁ…………死にたく、……ないよ…………。

 

 

誰か………、誰か………。

 

 

レゼ「たすけて………。」

 

 

無意識にそう呟いた。

 

 

「やっと助けを呼んでくれた。」

 

 

誰かの声と同時に、目の前で閃光が走る。一瞬で視界が真っ白になったと思ったら、誰かに抱き抱えられた。それと同時に傷の痛みが引いていく。

 

 

レゼ「…だ、誰…?………デンジ君…?」

 

 

視界が徐々に元に戻っていく。すると、目の前にあの人が居た。

 

 

玲世「うーん、王子様じゃなくてゴメンね。だけど言ったでしょう?助けを呼んだら必ず助けてあげるって。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裏路地にて

 

 

ふぅ、危なかった。色々と準備してたら遅くなっちゃった。私はマキマさんからレゼちゃんを救い、路地裏に立っている。案の定、レゼちゃんは怪我をしていたのでクーちゃんで傷を癒している。ちなみに閃光手榴弾を参考に光で目潰しをしてレゼちゃんを救ったが、レゼちゃんまで閃光を喰らってしまったようだ。…ゴメン、レゼちゃん。

 

 

マキマ「…………貴女は確か…七篠さん、でしたよね。この状況、どういう事でしょうか?「答えなさい」。」

 

 

マキマさんの「支配」の力が私を襲う。今ならはっきり分かる。これが「支配」。頭にチクリと痛みが走ったが、居酒屋の時と同様に私には通じていない様だ。

 

 

玲世「いや、私はなんでマキマさんがこんな可愛い少女を襲ってるのか知りたいですけど。」

 

 

マキマ「………。」

 

 

マキマさんが上を見上げる。天使の悪魔に攻撃させる気だ。だけどね、残念でした。

 

 

大家「あらやだ、こんな可愛い子が物騒な物持ってちゃ危ないわよ?おばさんに頂戴ね?」

 

 

大家さんが天使の悪魔を後ろ手で拘束し槍を奪っていた。私はレゼちゃんと海岸で別れた後に2人の人物に協力をお願いした。その1人が大家さん。

 

 

マキマ「…………その少女にはソ連のスパイであり、昨夜、町の破壊、及び人に傷害を与えた悪魔の疑いがあります。よって上の彼に協力してもらい捕縛、または始末をする予定でした。」

 

 

玲世「でも町を破壊ってあのデッカイ悪魔のせいですよね?それに人に傷害って避難の時の怪我って聞きましたけど?本当にこの子がやったんですか?」

 

 

マキマ「……その少女は爆弾の武器人間です。アキ君、デンジ君や貴女も戦ったのでしょう。町で爆発などが起こっていたと報告もあります。なら、分かることだと思うのですが。」

 

 

玲世「いや〜、爆弾の武器人間?とは戦いましたけど、彼女がそうか、って言われると変身する所を見てないんですよ。だから分かんないですね…。誤認捕縛?とかの可能性もあるし……。あ、丁度あのカフェにデンジ君いるから聞いてみます?」

 

 

レゼ「ちょ…!玲世さん…!」

 

 

マキマ「………………。」

 

 

のらりくらりとマキマさんの追求を躱し、あまつさえデンジ君に確認を求める私の言葉にレゼちゃんが慌てる。マキマさんも威圧感が増していく。ここが分水嶺かな。私はもう1人の協力者を呼ぶ。

 

 

玲世「大丈夫…。私に任せて。……それとも、私なんかの新米の言葉じゃ信用出来ないなら、隊長に聞いてみますか。そうですよね~、岸辺さん!」

 

 

岸辺「ああ、あいつの言う通りだ。町の被害は台風の悪魔とやらが暴れたのが原因。爆発はそこの七篠が不用意に武器人間と戦った影響。一般人の傷害は避難時の転倒等の事故だ。襲撃があった対魔2課もその少女が変身する所は見ていない。もちろん、早川や姫野達4課の奴も同様だ。疑いだけでは始末はおろか捕縛も出来ん。」

 

 

私が呼ぶと岸辺さんが路地の反対側からマキマさんが言ったレゼちゃんに対する疑いを晴らす様に現れる。

 

 

岸辺「マキマ、俺は言ったな。人間の味方でいる内は見逃してやると。その少女を疑いだけで始末しようとするのは人間のためか。もし、私的な理由で始末しようと言うのなら、見逃してはやれんぞ。」

 

 

マキマ「では、どうしろと?その少女がソ連のスパイである事は周知を事実です。何かあった時、責任が取れますか?」

 

 

よし、かかった。その言葉が聞きたかった。私は笑みを誤魔化し、一世一代の博打に出る。

 

 

玲世「なら、パワーちゃんみたく4課に入れて監視する、というのはどうですか?何かあった時、監視中であれば直ぐに対処出来ると思うのですが。………もしこの子が何かしてしまった時は、私がこの子を殺して、貴女の言う事を何でも聞いてあげますよ。気になるでしょう?私の体質。」

 

 

見逃す対価は私の存在。「支配」が効かない私の存在をマキマさんは見過ごせないはず。彼女の計画に、私という不確定要素がない方が良いはずだろうから。マキマさんの返答次第で戦闘になる。私、大家さん、岸辺さんに緊張が走る。

 

 

マキマ「……はぁ、いいでしょう。ここは私が引き下がります。別にそこまで彼女に執着していませんから。何かあったら貴女が私の言う事を聞く、という方が重要です。……約束は守ってもらいますよ。不思議な新人さん。…大家さん、彼を離してもらえますか?」

 

 

大家「わかったわ。天使さん、ちょっとごめんなさいね。」

 

 

天使の悪魔「え?…うわ!」

 

 

大家さんが天使の悪魔を担ぎ、上から飛び降りてくる。先程奪った槍を壁に突き立てながら…。

 

 

大家「はい、到着。私も鈍ったわね。この程度の高さで道具を使うなんて。」

 

 

天使の悪魔「……、…、……」

 

 

大家さんから降ろされた天使の悪魔が引いている。その言い方だと昔は地上5階くらいなら普通に飛び降りれたと……。

 

 

マキマ「ではこれで。岸辺さん、彼女の事を含め、後はお願いします。」

 

 

岸辺「ああ、お前の手は煩わせない様にしてやる。安心しろ。」

 

 

マキマさんが岸辺さんの横を通り、路地裏から出ていく。天使の悪魔もついて行った。

 

 

玲世「…………ぶは〜〜。緊張した〜…。大家さん、岸辺さん、ありがとうございました。ミッションコンプリートです。」

 

 

大家「良いのよ。未来ある若者の役に立ったんだから。ね、岸辺君?」

 

 

岸辺「…まぁ、そうですね。問題は無い、とは言えませんが。」

 

 

レゼ「あの…玲世さん、どういう事ですか?私が公安って…。」

 

 

おっと、いけない。当の本人を差し置いて話を進めてしまっていた。私はレゼちゃんに事情を説明する。

 

デンジ君と逃げるのは現実的でなく、何か別の手段が必要だった事。監視という名目で公安に入ってもらえば、デンジ君と一緒に居られるし、逃げる必要がない事。私の存在を担保にした事。大家さんと岸辺さんに根回ししてもらい、町の被害は台風の悪魔のせいにしてもらった事。その他、色々説明した。

 

 

レゼ「そんな、私の為になんでそんな…。」

 

 

玲世「まぁまぁ、それは私の自己満足って事で…。」

 

 

大家「ほらほら、お嬢さんはカフェに用があったんじゃないの?服が血だらけだし、路地裏で丁度良いから着替えて着替えて!」

 

 

レゼ「あっ…はい!」

 

 

レゼちゃんは大家さんが持ってきた服に着替えようとする。だが、レゼちゃんが中々着替えを始めない。チラチラと岸辺さんを見ている。…あぁ、そっかと私は岸辺さんに着替えを見な

 

 

大家「おい、岸辺。お前なに堂々と女性の着替えを見ている…。死にたいか…?」

 

 

大家さんの口調が変わり、背中に般若が見えた。おかしい、顔はニコニコといつもの笑顔なのに寒気が止まらない。岸辺さんも青ざめ、見たことも無い速さで後ろを向く。

 

 

大家「さ、今の内に。……………………うん、ぴったり。よかったわ、サイズがあって。」

 

 

うん、いつもの大家さんだ。恐らく般若とか口調がおかしい大家さんは見間違いだろう。めちゃくちゃに強いけど、あんな男勝りで怖い声なんて聞いていない。岸辺さんが青ざめたのも見間違いだ。

 

 

大家「よし、じゃあ行ってらっしゃい。アナタの事、応援してるわ。…………岸辺く〜ん、思ってたより身体が訛ってるから、一緒に付き合ってくれる〜?」

 

 

少しずつ少しずつ距離を取っていた岸辺さんの肩に手を回し、2人も路地裏から出ていく。哀愁漂う岸辺さんの背中を見て、何故かド〇ドナが脳裏に流れていた。

 

 

玲世「えっと……。じゃあ私もこの辺で」

 

 

レゼ「待ってください!玲世さん、一緒に来て…!私1人じゃ、デンジ君にどんな顔で会えば良いか!」

 

 

顔を真っ赤にして私に来てほしいと頼むレゼちゃん。しょうがない、ここはあの新世紀で有名な少年の言葉を借りよう。

 

 

玲世「わかった、一緒に行く。…あと表情はね、笑えば良いと思うよ。」

 

 

レゼ「笑えば……。」

 

 

2人で「二道」の扉を開ける。店内に居た花束を持ったデンジ君の顔が驚きと喜びの表情となる。

 

 

デンジ「……レゼ!!」

 

 

レゼ「デンジ君!!」

 

 

レゼちゃんはデンジ君の横に行く。私はカウンターの奥の席に座る。そこに裏に居たマスターが入って来た。

 

 

マスター「あ、元気娘。いらっしゃい。レゼちゃん、また遅刻。給料から…。…なにあれ?」

 

 

玲世「まぁマスター。若い2人を邪魔しちゃ駄目だよ?ようやくくもう一度、この場所で会う事が出来たんだから。」

 

 

マスター「なに?元気娘。泣いてんの?」

 

 

1週間前と同じ様に、頬杖をつく私の頬を涙が伝う。その姿に魅了され、主人公デンジとの純愛に引き込まれ、儚い最期に涙した。それが今こうして幸せな2人を見ている。生きてきてこれほど嬉しい事は無かった。

 

涙を拭い、2人に声を掛ける。

 

 

玲世「ねぇ、2人とも。童話のネズミの話、知ってる?」

 

 

デンジ「ん?あぁ、田舎のネズミと都会のネズミって奴だろ?俺は都会のネズミがいいって言ったぜ。」

 

 

レゼ「え〜、やっぱり田舎のネズミがいいよ。」

 

 

玲世「私は思うんだけど、私達は人間だし色々出来るんだから、美味しい物が食べたければ都会に出て、ゆっくりしたければ田舎に行く。どっちか片方なんて勿体ないよ。」

 

 

デンジ「……そうか…。別に俺らはネズミじゃねぇ。邪魔する奴がいるならぶっ飛ばしてウマいモン食って、疲れたら静かな所でゆっくり休む。…今より素晴らしい日々じゃねえか!…やるぜ、レゼ!!俺は人間だ!都会と田舎、両方選ぶ!!」

 

 

レゼ「それは贅沢だね…。でも、デンジ君らしい。私もついて行こうかな、一緒にね。」

 

 

2人は楽しげに、幸せそうに笑っている。ふと見るとレゼちゃんがデンジ君が渡した花束と一緒に赤いガーベラの花を持っていた。確かあれは「二道」に来る時に受け取ってた募金の花。デンジ君がレゼちゃんに渡したのは白いガーベラ。白いガーベラの花言葉は「純潔、清らかな心」、赤いガーベラは「情熱」「限りなき挑戦」「前向き」だっけ。映画の時に調べたなぁ。そして1本のガーベラは

 

 

「一目惚れ」「あなたが運命の人」

 

 

デンジ君は花束から白いガーベラを抜き取り、出会った時の様にレゼちゃんに渡す。レゼちゃんはそれを受け取り、手に持っていた赤いガーベラを渡す。

 

それはまるで花言葉で会話をするように、2人の気持ちは通じ合っていた。

 

 

 

 

 

名も無き少女は約束の場所で少年と再会するーーーー

 

チェンソーの少年は花束を少女に渡すーーーー

 

爆発の悪魔の女性は2人の幸せな時間を見るーーーー

 

願わくばこの幸せが長く続くようにと3人は祈るーーーー

 




次回はレゼ篇のエピローグ的なものと次々回はレゼ篇までの人物紹介を考えております。
次回もよろしくお願い致します。
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