ある可能性のお話 〜名も無き少女に祝福を〜   作:wasirunoguchi

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第2話 夢か現か

 

 なんじゃこりゃ?ーーーー

 

 

 玲世は目の前に広がる光景に漠然とそう思った。下はまだ良い。起伏がある草原が広がっている。しかし上は。

 

 

「沢山の……扉?……………ちょっと待って。ここって…。」

 

 

 見渡す限りの無数の扉がひしめき合うように広がっていた。この光景は印象的だったからとても覚えがある。とは言っても漫画の中でだが。現実にこんな光景はあり得ない。

 

 

「地獄?」

 

 

 チェンソーマン第8巻に出てくるロシアのサンタクロースとの戦いでデンジ君たちが地獄の悪魔に落とされた場所。

 

 

「なんでこんな場所に?…ってそうか。これ夢だ。」

 

 

 寝る前に映画の事を考えていたからだろうか。この状況は夢を見ている。そう結論付けた。新年の初夢が地獄の風景とはなんともいえないが、どうせならデンジ君やレゼちゃんに会いたかったと玲世は思った。

 

 

「凄いリアルな感じ。一ファンとしては地獄に来た!って喜ぶんだろうけど…。夢だとしてもさすがに気味が悪いなぁ。次の刺客篇の映画が出来たら地獄はこんな感じ?」

 

 

周りを見渡し、そう呟いた。上空にひしめく無数の扉なんてCGを使わなければ描写は不可能だ。レゼ篇の撮影の際もチェンソーマンや爆弾の悪魔ボムもCGの爆発や特殊メイクやマスク、特注のスーツを着て撮影したけど、チェンソーマンもボムも顔が顔のため、前が見にくくて大変だったのを覚えている。

 

 

「しかし私の想像力も捨てたもんじゃないわね。そのうち悪魔でも出て来るのかな?………地獄だと闇の悪魔か。うん、それはお断り。」

 

 

根源的恐怖の闇の悪魔。作中でも一瞬で地獄に落とされた全員のの両腕を切断し、暴力の悪魔を穴だらけにした。ビーム君とかもここでやられちゃったんだっけ。あんなのに会うなんて夢でも嫌だ。しかし

 

 

 

そんな事を考えていたからだろうか。

 

 

 

 

 

爆音とともに。

 

 

 

 

 

視界の端に映る無数の扉の1つが開いた。

 

 

 

 

 

 

ドカァァァン!!!

 

 

 

「びゃ!!!!!!」

 

 

あまりの轟音に耳に手を当て、しゃがみ込みながら爆発した扉を見る。何かが私の方向に落ちてきた。

 

 

ドザァァァァ!!!

 

 

玲世の遥か前方でそれは墜落し、土煙を上げて滑って来た。玲世の5メートル前方でそれは止まる。土煙が酷く、それが何なのかははっきりとは見えない。

 

 

「え………………………何?」

 

 

驚きのあまり少し放心し、なんとか言葉が出た。土煙が次第に収まり、落下して来た物体が徐々に露わになっていく。

 

 

それは人の形をしていた。ただ、頭は無誘導爆弾にキバが生えたのような形をし、全身傷だらけで両腕と両足は切断されているらしく、血が噴き出していた。

 

 

「いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

 

突然の出来事に腰を抜かし、玲世は尻餅をつく。腰から下が無くなったかのように力が入らない。

 

 

「なん、な、な、な、なんなんなん?あれ?これ爆弾の悪魔?なに?ドッキリ?誰かがマスクかぶってる?だけど血だらけでこれじゃあ死んでる?でも此処は地獄だから死んだら現世に行く?現世に行ったらレゼちゃんになる?じゃあ嬉しいかも?」

 

 

パニックになり過ぎて早口でわけの分からない事を口走る。爆弾の悪魔と分かったのは特徴的なその頭。映画の撮影の際に自分も作り物のマスクとして身に付けていた。

 

 

半ば現実逃避のようにうわ言を喋っていたが、状況は待ってはくれない。

 

 

「!!!!」

 

 

強烈な悪寒が玲世を貫き、爆発で開いた扉からもう一つ何かが降りてきた。

 

 

それは黒い液体のように見えた。コールタールのようにドロリとした液体。それが扉から垂れている。ゆっくりと地面に向かって垂れている。そして液体が地面に着いた瞬間。

 

 

 

 

 

周囲を闇が包んだ。

 

 

 

 

胴体から真っ二つになった11人の宇宙飛行士達が合掌し並んだ状態は、レッドカーペットの両脇で整列する人のよう。

 

 

玲世の歯がカチカチとなる。身体がガクガクブルブルと震える。それは人の根源的恐怖の現れである。それは漫画ではこう言われていた。

 

 

 

 

「闇の悪魔」と。

 

 

 

 

怖い恐いコワイこわい

 

 

 

ほぼ無意識に震える手で爪を立てながら自分の頬を引っ張り抓る。古典的な方法だが夢から覚めたい一心で。

 

 

「いひゃい…。…………なんでぇ。夢でしょ、これぇ…。うぇ~ん!!」

 

 

 思い切り抓ったせいか、それとも恐怖のせいか、涙が出てきた。

 

 

玲世が泣き出しても闇の悪魔は動かない。動かないからこそ尚更怖いと感じた。

 

 

恐怖とパニックとで情緒が乱高下し、感情が抑えきれず更に泣き出した瞬間。

 

 

「おい!人間!なんでこんな所にいる!?」

 

 

小さい女の子のような声が聞こえた。玲世は泣きながら声の方を見る。そこには爆弾の悪魔の頭部に手足が生え、デフォルメされたかのような不思議な生物が浮いていた。

 

 

「おい!聞いてるのか!?泣いてないで答えろ!」」

 

 

「知らないわよ〜〜〜!!なんなのこれぇ!?これ夢でしょう!?なんでこんな怖いのよ〜!……ヒック、ヒック、誰か、」

 

玲世は恐怖に耐えかね限界だった。誰でも良い。この悪夢から助けて欲しい。その一心だった。

 

 

「おい、馬鹿!……………マズい!!」

 

 

不思議な生物はこれから起こる事を察知したかのように慌て出し、玲世の服へ潜り込む。そして玲世は

 

 

 

 

「たすけて」

 

 

 

 

地獄でその言葉を口にした。

 

 

ヴィィィィィィン!!

 

 

チェンソーの音と共に周囲の闇が切り払われる。同時に玲世を蝕んでいた恐怖が薄れていく。あれだけパニックを起こし、怖くて泣いていたのが嘘のようだった。

 

 

「チェンソーマン………。」

 

 

黒い異形に、腸をマフラーのように巻いた姿。主人公デンジが変身した姿ではなく、チェンソーの悪魔「ポチタ」の真の姿だ。地獄で助けを求める悪魔を周りの悪魔ごと切り殺す地獄のヒーローが、玲世の助けを求める声に応えた。

 

 

周囲の闇が消え、チェンソーマンと闇の悪魔が対峙する。しかしかき消えるように闇の悪魔は消え去った。

 

 

しばらくチェンソーマンの姿に目を奪われていた玲世だったが、ハッと我にかえりお礼を述べた。

 

 

「あ、ありがとうございました!」

 

 

チェンソーの頭が玲世の方を向く。目は無いが何故か玲世の腹部辺りを見ているようだった。

 

 

「……?あの…」

 

 

ギュル

 

 

チェンソーマンのマフラーが伸び、玲世に巻き付く。

 

 

「えっ、はぇ、うぇ?」

 

 

いきなりの展開に困惑する玲世をよそに、マフラーは玲世を持ち上げ、上空の爆発で開いた扉に伸びていった。

 

 

「うにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」

 

 

 

 

 

そして玲世は扉に放り込まれ、扉は閉まるーーーー

 

 

扉の先でこれから起こる体験を、この時の玲世はまだ知る由もなかったーーーー

 

 

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