ある可能性のお話 〜名も無き少女に祝福を〜 作:wasirunoguchi
刺客篇と銃の悪魔篇の幕間のお話となります。
※ご感想頂いた方からの御指摘により、誤字を修整致しました。御指摘頂き誠にありがとうございます。
カフェ「二道」にて
刺客達との戦いから数日後、玲世は1人で「二道」にいた。レゼとの1件以降、顔を出す機会がなく、時間が出来たので昼食を食べに来ていたのだ。
玲世「マスター、ご無沙汰です。元気そうで何よりです。」
マスター「お、元気娘じゃないか。そっちも変わりなくて何よりだ。」
玲世「嫌だな〜、マスター。この、私の、変化に、気が付かないなんて〜。」
玲世は髪をかき上げながらマスターに流し目をする。が、別段見た目の変化は無い。
マスター「はいはい、変わった変わった。で、今日はなににする?」
玲世「ぶ〜。つれないな〜。………スパゲティ大盛とコーヒーでお願いします!」
マスター「……そういうとこは変わんないね。珍しく他に客もいないしカウンターでちょっと待ってな。」
玲世「珍しく…ね。」
「二道」では特に珍しくない、客がいない店内で玲世はカウンターに座り、久しぶりの店内を見渡す。コポコポとお湯が沸く音と、裏のキッチンでマスターが奏でる料理の音が静かな店内に響く。
レゼが公安に入りアルバイトを辞めた後、新たに誰かが雇われた形跡は無い。原作ではレゼ篇以降、マスターが出て来る事は無いがこのまま静かに「二道」を続けてもらいたいと玲世は考えていた。
マスター「お待たせ。ご所望の大盛スパゲティとコーヒーね。」
玲世「きたきた。いただきます。」
マスター「……最近仕事はどう?レゼちゃんは上手くやってる?公安の仕事って結構危ないって聞くけど。」
玲世「元気ですよ。色々頑張ってますし、デンジ君とも仲良くやってます。ラブラブってヤツですね。」
マスターにはレゼが武器人間である事は知らせていないので詳細は言えないが、デンジとは上手くいっていることは伝えた。
マスター「上手くやってるなら良いけど…。どうせ来るなら連れてきなよ。売上に貢献してもバチは当たらないでしょ。」
玲世「いや〜、ちょっと前に大きな事件が解決して少しの間、皆休暇になったんですよ。それでデンジ君が仲間の人と先輩のお墓参り兼旅行に行くって事で、レゼちゃんもそれについてきました。」
マスター「デンジ君…ね。ちょっと不思議な少年だったけど、レゼちゃんにはああいう子が合ってたのかもね。なんていうか…、似た者同士?みたいな。」
玲世「……そうですね。色々ありましたけど、2人には幸せになって欲しいです。」
「二道」での2人の会話は静かな店内で静かに過ぎていった。
大家のアパートにて
クァンシ「おい、なんだこれは。」
大家「なにって鎌じゃない。言ったでしょ、草むしりだって。もう皆やってるわよ?」
黒いタンクトップに麦わら帽を被り、手には鎌を持ったクァンシがアパートの外に立っていた。自問自答する様な呟きに、同じく麦わら帽を被った大家が答える。
よく見ると、アパートの敷地内に同じ麦わら帽を被った男女が何人かいた。
ピンツィ「むむむ…、見えた!クァンシ様、見てください!この草、地面からは数cmしか出ていないのに根っこが50cmも埋まってますよ!見た目じゃ考えられません!」
龍「草なら燃やした方が早いよ。ふぅ~。」
コスモ「ハ〜ロウィン、ハロウィン、ハロハロウィン!」
ツギハギ「……………………。」
クァンシの魔人達もそれぞれ麦わら帽を被り外にいた。何をしているかというと、アパートの草むしりだ。
ピンツィは自身の見る能力で草の観察を行い、龍は面倒くさそうに口から小さい炎を出して草を灰に。コスモは楽しそうに鎌を振り回していた。意外にもツギハギだけが黙々と草むしりをしている。
クァンシ「お前達…………。いいや、何でもない。」
クァンシはそんな4人を見て、片手で頭を抱えた。何故この様な状況になったかはクァンシ達の処遇が決まった後に遡る。
数日前、公安会議室にて
大家「クァンシは私と岸辺君で監視…、何かあったら即刻、ねぇ。言い出しっぺの責任、てとこかしら。」
岸辺「すいません、姐さん。こっちの都合に巻き込んでしまって。」
刺客達との戦いから数日後。公安会議室にて岸辺と大家がクァンシ達の決まった処遇について話していた。
サンタクロース戦の後、公安に投降したクァンシは中国の内情をリークする見返りとして自分達の人権と4人の魔人の義務教育を要求。また有事の際には公安に協力する事を約束した。
これに対し公安上層部は要求を飲む代わりに特異課での監視を前提に所在を常に分かるようにし、異常な動きがあれば即処分を行う、とした。
大家「で、白羽の矢が立ったのが私と岸辺君、か。……まぁ、公安もクァンシに対しては悪魔の力やなんやらで監視や対処法は有るのでしょうけど、あの様子なら大丈夫でしょう。昔からクァンシは変なとこ義理堅いものね、岸辺君。」
岸辺「…………そうでしたかね…。何分昔の事なんで忘れてしまいましたよ。」
岸辺は誤魔化す様に懐からスキットルを取り出し、酒を飲む。いつからだろうか。こうして酒を飲み出すようになったのは。
バディを組んだクァンシに俺の女になれと言えば無理と殴られ、告白しては嫌だと殴られ、戦いに生き残れたらと言えばイヤと殴られ、慰めて欲しいと言えば甘ったれるなと殴られ続け、気付けば傷心を誤魔化すために酒を飲むようになっていた。
柄にもなく昔の事を思い出しながら酒を飲み、自嘲気味に岸辺は笑う。
大家「素直じゃないんだから。…さてと、監視って事なら私のアパートに住んでもらうのが適任ね。部屋の準備をしなきゃ。岸辺君の部屋もいる?」
不器用な弟子の様子に、大家は提案をする。クァンシと岸辺が結ばれる事はほぼ無い。しかし、不器用な2人をこのままにしておけばいざという時に支障が出かねない。
岸辺「監視ならしょうがないですね…。ただし、アイツらの部屋とは真逆の部屋にしてください。騒がしいのは苦手なんですよ。」
大家「あ、じゃあついでに敷地内の草むしりでもしてもらおうかしら。この歳になると大変でね〜。」
しょうがないと承諾する岸辺と頼み事を口にする大家。師弟は話しながら部屋を後にする。その表情に柔らかな笑みを浮かべながら。
大家のアパートにて
岸辺「おい、クァンシ。サボってないで手を動かせ。」
作業をしている魔人達を見て、頭を抱えているクァンシに岸辺が声を掛ける。その姿はいつもの公安スーツにコートという季節感の欠片もない姿だったが、それに拍車を掛けて頭の麦わら帽と手の鎌が異様さを醸し出していた。
大家、クァンシ、魔人4人の他に、岸辺、コベニ、暴力の魔人がアパートの草むしりに駆り出されていた。
クァンシ「岸辺か…。安心しろ。お前の馬鹿さ丸出しの姿にうんざりしてたとこだ。狂犬岸辺が首輪を付けられて、いよいよ尻尾まで振り始めたか。」
岸辺「ほう。そういうお前は手下に作業させていい気なもんだな。お山の大将としては100点だ。働かざる者食うべからず、って言葉知ってるか?」
クァンシ「なに?」
岸辺「なんだ?」
コベニ「どど、ど、どどど、どうしましょう…!」
暴力「うーん、2人共俺より強いからどうにもならないね。でも大丈夫かな?ほら。」
売り言葉に買い言葉で険悪な雰囲気の2人を見て、草むしりをしていたコベニが震えながら暴力の魔人に助けを求める。暴力の魔人も2人には敵わないと見るやどうにもならないと達観していたが、視界の隅に般若を捉え、大丈夫とコベニに言う。
クァンシ「!」岸辺「!」
険悪な2人に対し、その首元に鎌が振るわれる。首を刈り取るが如き斬撃にクァンシと岸辺は揃って身を屈め、それを避ける。
そこにいたのは笑顔だが背後に般若を背負った大家だった。その手には今しがた振るわれた園芸用の鎌があったが、それはまるで死神の鎌を彷彿とさせる妖しい煌めきを放っていた。
大家「うふふふ。2人共いい加減にしなさいね。魔人ちゃんやコベニちゃん達の方が貴方達よりよっぽど頑張ってくれてるわ…?年長者として恥ずかしくないのかしら…!?」
岸辺「はい、すみません姐さん。直ぐに作業に戻ります。」
クァンシ「おい、岸辺。卑怯だぞ。」
そそくさとその場を離れ作業に戻る岸辺。クァンシはそれを追おうとするが、大家に肩を掴まれる。
大家「ク〜ァ〜ン〜シ〜?」
クァンシ「チッ。わかったわかった。やればいいんだろ、やれば。」
クァンシは面倒くさそうに舌打ちし、その場から消えたと思いきや周囲の草が一瞬で刈られた。襲撃の時も使っていた超速での移動。あの時との違いは人形を狩るか草を刈るかの違いだった。
クァンシ「はっ。これでいいん」
大家「良くないわよ。ちゃんと根まで刈りなさい。昔っから細かい所を面倒くさがるんだから。ほら、魔人ちゃん達を見習いなさい。」
まるでドヤ顔している悪ガキを嗜める母親の様な大家にクァンシはぐうの音も出ずそっぽを向く。
クァンシ「……クソ。いつか殺してやる。」
大家「なんか言っ」
クァンシ「言ってない。……おい、岸辺と可怪しなお前等2人。そこは私達のテリトリーだ。他に行け。」
お返しとばかりに大家の言葉を遮り、草を毟っている岸辺とコベニ、暴力の魔人を追い払いながら魔人達の方に向かうクァンシ。
ニャーコ「にゃ〜?」
やれやれと腰に手を当てる大家の足元に一匹の猫がすり寄って来た。パワーの愛猫であるニャーコだ。アキから旅行の為、数日間預かってほしいと言われ、アパートで面倒を見ている。
大家は鎌を置き、優しい手つきでニャーコを抱く。
大家「ふふ、心配してくれたの?大丈夫よニャーコちゃん。あの子はね、元バディに似て素直じゃないの。これくらいへっちゃらよ。」
ニャーコ「な〜」
大家「あの2人はね、私の子供みたいなもの。不器用で傷だらけで、だけど生きてくれてる。」
デビルハンターとして生きる以上、死と隣り合わせの人生となる。今日いた者が、明日いない。大家にとってそれは日常茶飯時だった。
ニャーコを大家の手が優しく撫で、ニャーコは気持ち良さそうに眼を細める。その時、ニャーコの頭を雫が落ち、ニャーコが上を見上げる。
大家「……だから、そう、へっちゃらよ。またこんな風景を見られたんだから……。」
かつて自身が見出し、そして道を違えてしまった2人。それがこうしてまた道が交わった。二度と戻らぬであろうと諦めていた風景。言い争いをしている2人を見つめる瞳には、一筋の涙が流れていた。
可能性は語る。こうした未来があっても良いとーーーー
可能性は語る。それは1人の行動があった故だとーーーー
あり得ざる景色を見た女性は、1人喜びの涙を流すーーーー
刺客篇後の大家達のお話でした。
次回は早川家の旅行のお話を予定しております。
よろしくお願い致します。