ある可能性のお話 〜名も無き少女に祝福を〜   作:wasirunoguchi

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この話には数字の桁数の話が出てきます。話が掴めない方は「なんかとんでもない桁数なんだな」程度に捉えて頂ければ幸いです(笑)


第3話 そして物語は動き出す

 

 

地獄にてーーーー

 

 

玲世を上空の扉に投げ入れた後、チェンソーマンことポチタはその扉を見つめていた。自らが投げ入れた人間がどうなったかを確かめているように。

 

 

その背後に人型の黒い靄が立ちのぼり、頭部となる部分に金色の目が浮かんだ。玲世が自宅で眠った後に部屋の闇に現れていた謎の人物。

 

 

 

彼は「可能性の悪魔」と呼ばれるもの。

 

 

 

玲世の今の状況を作り出した張本人。悪魔の中で最も不可解であり、不可侵であり、不可思議である悪魔。本来であれば玲世が陥っている状況など現実にはあり得ないと皆、口を揃えて言うだろう。万に1つ、億に1つの可能性もないと。

 

 

しかし可能性という概念は時に不可能を可能にする。万に1つ、億に1つがなくとも、兆や京、那由多に1つの可能性があれば、可能性の悪魔には十分だった。

 

 

そこに可能性があるならば。

 

 

故に可能性の悪魔には決まった姿がない。人間の姿でもあれば、名状し難い怪物のような姿もある。はたまた日本を覆い尽くすよう巨大な何かかも知れない。どれも可能性があるのだから。

 

 

故に彼と戦う悪魔は少ない。自ら戦いを挑む事は無いが、それを理解しない低級の悪魔だけが戦いを挑み、無残にも殺されていく。勝つ可能性が僅かにでもあれば、それを引き寄せ、最終的に可能性の悪魔が勝つのだから。

 

 

故に「超越者」。この地獄に生まれ出でて一度たりとも死を経験しておらず、地獄にあり続ける悪魔。「可能性」というあまり恐怖のイメージが無い概念でありながら、根源的恐怖の悪魔達とは別ベクトルに超越した悪魔である。

 

 

そんな彼がポチタの横に立つ。ポチタも解っていた。爆弾の悪魔との戦闘中に可能性の悪魔が介入、地獄の扉で爆弾の悪魔を別の場所に移動させ、人間と引き合わせた。闇の悪魔が出てきた事は想定外のようだったが、人間が助けを求めたお陰で自分が闇の領域に干渉出来た。………助けを求める可能性を、こいつが引き寄せたとも言えるだろうが。

 

 

「良いのですか?爆弾の悪魔の割れた2つの心臓と彼女を共にさせて。本来であれば悪魔の心臓を2つに分け、片方を喰らい、片方は現世へ送る。そうすることで悪魔は消滅するが、概念は残る為、現世への影響は少ない。そう言う話だったはずですが?」

 

 

可能性の悪魔は語る。かつてポチタが悪魔を喰らいすぎて、地獄と現世のバランスが崩れたこと。「監理の悪魔」と呼ばれる最古の悪魔の1人に説教をくらい、渋々半分喰らうようになったこと。それから喰らわれたのが「火炎放射器」「槍」「剣」「刀」「弓」「鞭」の6人ということ。

 

 

「さすがの貴方も「監理」の翁の説教はよほど身に染みたとみられる。まさか倒した相手を喰らわず、人間と共に現世へ送るとは。まぁ、「闇」や「老い」、「落下」などではなく、物の悪魔であれば現世へ送ろうと些細な事ですが。」

 

 

ヴィィィィィィン!

 

 

隣にいる可能性の悪魔の話を聞きながら、ポチタは段々苛々してきていた。理屈っぽいし、嫌味っぽいし、馬鹿にしている感じがする。その感情に合わせてチェンソーのエンジンが唸りを上げ始める。

 

 

「おお、怖い怖い。ここは退散する事としましょう。…………さて、もうすぐ厄介な連中が現れます。4人の騎士と武器の悪魔達が。貴方が生き残れる可能性は露ほどにもありませんが……。」

 

 

前方の空間が歪曲する。強大なプレッシャーが場を「支配」していく。

 

 

ヴィィィィィィィィィィィィィィン!!!!

 

 

チェンソーのエンジンがフルスロットルになる。そして歪曲した空間へポチタは突撃していく。その姿を見送る可能性の悪魔は一言呟き、一礼した。

 

 

「無限の可能性の先で、また御会いましょう。」

 

 

可能性の悪魔はかき消える。チェンソーマンは死地へ赴く。この戦いの後に、瀕死のポチタは現世にてデンジと出会うのだが、それはまた別の話ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なにがどうなってるの?ーーーー

 

 

玲世は不思議な空間にいた。水平線まで続く扉の床に晴天の青空。扉に放り込まれた後に、気が付けばこの場所に立っていた。

 

 

「えーと……。これは夢の続き?いい加減起きたいんだけど……。普通なら飛び起きてるでしょ、これ。」

 

 

謎の爆発、墜落してきた傷だらけの爆弾の悪魔、いきなり現れた闇の悪魔、そして助けくれたチェンソーマン。とびきりのびっくり要素が津波の如く発生し、最後にはこの風景。状況を掴めという方が無理だった。

 

 

「しかし闇の悪魔はヤバかった……。本泣きしちゃったし、少し漏らしちゃったし…。これ、おねしょとかしてないでしょうね?この歳でおねしょとか本気でヘコむ…。」

 

 

そう言いながら、自分の下半身を見る……が、自分の腹部が盛り上がっており、見えなかった。何かが服の中で動いている。

 

 

「うきゃ〜〜〜!!なにこれ!?なにこれぇ!?」

 

 

服をめくり上げると、そこには闇の悪魔に会った際に話しかけて来たデフォルメ物体がいた。

 

 

「うぅ~。ヤバかった。本気でヤバかった。危うくチェンソー野郎に殺される所だった。」

 

 

「あんた、何!?何なの!?爆弾の悪魔ぁ!?」

 

 

「あ、人間!良く知っているな!そうとも!私が爆弾の悪魔だ!本当はもっと爆弾みたくボン!キュ!ボン!のスタイルだけど、チェンソー野郎との戦いで力を失いすぎてるからこんな姿なんだ!勘違いするなよ!?」

 

 

「え、あ、う、うん、分かった。」

 

 

びっくりする玲世に向かい、小さな女の子の声でまくし立てる爆弾の悪魔。原作では悪魔単体では出てきていない為、イメージがなかったが、こんな性格だったのかと玲世は思った。

 

 

「しかしなんでただの人間が地獄にいたんだ?地獄の悪魔とかになんかちょっかいでもかけたか?」

 

 

「それが…。」

 

 

玲世はこれまでの事を説明する。そしてチェンソーマンが自分の世界では漫画であり、映画でレゼ=爆弾の悪魔役を演じていた事も。

 

 

「……そのマンガ?やエイガ?って言うのが良くわからないけど、つまりお前は爆弾の悪魔で他の現世から来たってことか?ん?でも私も爆弾の悪魔だぞ?同じ悪魔が2人いるのか?なんなんだ?」

 

 

「わかんないわよ、そんな事。というか私爆弾の悪魔じゃないし。やっぱりこれって私が見てる夢じゃないの?なんで私がこんな目に…。うぅ、帰りたいよぅ。」

 

 

寝ていたらいきなり漫画の世界に来たのだ。無人島に置き去りにされるより絶望を感じた。

 

 

「いや、ちょっと、おい!泣くな!私だって泣きたくなる!いや、悪魔は泣かないけど!泣くやつもいるかもだけど!」

 

 

玲世と爆弾の悪魔。2人でわぁわぁ騒いていると、後ろから老人の声がした。

 

 

「なにやら騒がしいな。此処は地獄と現世の狭間。静寂こそが此処の掟。…………爆弾の。何故お前が此処にいる?」

 

 

「げ!監理の爺様!……いや、あの、これは…。」

 

 

爆弾の悪魔が急に慌てる。玲世は後ろへ振り向いたが、そこにいたのは1人の老人だった。ローブを身に纏い、全身から威圧感を感じる。

 

 

「良い。何故、とは聞いたが、全て監理しておる。無論、その人間も含めてな。」

 

 

「じゃあ聞くなよ…。(小声)」

 

 

「何だ?」

 

 

「いや!何でもない!大丈夫!」

 

 

コントのようなやり取りに玲世は思わず微笑んでしまった。それを監理の爺様と呼ばれた老人が見る。見咎められたように感じ、玲世は笑みを消し、直立する。

 

 

「良い。そのようなことで咎めはせぬ。汝が件の人間か。」

 

 

「は、はい。七篠 玲世と申します。」

 

 

「人間。先程の問いに答えよう。此処は汝の夢でもなければ、汝の世界でもない。此処は地獄と現世が密接に絡み合う悪魔の世界。汝はある悪魔により、この世界に招かれたのだ。」

 

 

精神的な衝撃が玲世を襲う。夢でもなければ違う世界。漫画で異世界に行く物語をよく見るが、あれはあくまでも漫画であるからこそ面白く、自分がそれを体験しても何も面白くない。

 

 

「可能性のが動いたのだろうが、「監理」の名を持とうと異なる世界は監理出来ぬ。人間、我が監理の不行き届きを詫びよう。」

 

 

監理の悪魔は頭を下げる。玲世は両手を突き出し慌てて振る。見るからに上位の存在に謝罪されるなど恐れ多かった。

 

 

「いや!あの!大丈夫!…………ではないですけど、私、これからどうなるんでしょうか?このまま死んじゃうとか?」

 

 

「いや。これから汝は現世へ行く。しかし汝が知る通りの世界だ。なんの力もない人間はいずれ悪魔に殺されよう。」

 

 

玲世は更なる衝撃を受ける。これからチェンソーマンの世界に行く。映画のため格闘技をやっていたが、あの世界では自衛にもならず一般人となにも変わらないだろう。

 

 

「……………………………………………爆弾の。」

 

 

監理の悪魔はしばらく考えた後に爆弾の悪魔を見る。

 

 

「お前は今、心臓が2つに別れている状態だな。ならば1つをそのまま現世へ。もう1つをこの人間へ憑依させ新たな悪魔とする。」

 

 

そう言ってとんでもない爆弾を落としてきた。

 

 

「「はぁ〜〜〜〜〜〜!?」」

 

 

玲世と爆弾の悪魔の声がハモる。玲世にとっては自分の意志とは関係なく悪魔に強制クラスチェンジであり、爆弾の悪魔にとっては「何故自分が!?」といった状態だった。

 

 

「しかし心臓が分かれているのならば、「物」と「概念」になるか。では、「爆弾という物」、「爆発という概念」の2つに分け、どちらかを人間へ憑依させ悪魔とする。それで良かろう。」

 

 

「それで良かろう、じゃない!勝手に話を進めるな、爺ぃ!なんで私がそんな事!爺ぃだからって爆発させるぞ!」

 

 

「そうですよ!なんで私が悪魔に!?他になにかないんですか!?」

 

 

監理の悪魔の言葉に爆弾の悪魔が噛みつく。玲世も上位の悪魔であろうが、自分を悪魔にする考えを無視できず、声を上げてしまった。

 

「では他になにがある?爆弾のは力を失いかけ、十全には戻らず。人間は力が無くば、いずれ死ぬのみぞ。」

 

 

「それは…………。あ、ほら、元の世界に帰してやるとか。」

 

 

「無理だ。我は監理の悪魔。先程も伝えたが、この世界はまだしも異なる世界の監理は出来ぬ。故に汝を帰す事は出来ぬ。」

 

 

「「…………。」」

 

 

2人共、ぐうの音も出なかった。そもそも監理の悪魔もかなり譲歩している。自分の監理不行き届きとはいえ、爆弾の悪魔や玲世にここまでする義理はあっても義務はなく、珍しい状況に対する気まぐれでもあった。

 

 

「………………わかった。そこまで言うのであれば、爆弾のの意志は「爆発という概念」の方に着け人間に憑依。人間には眷属をつけよう。人間よ、何か持っているものはあるか。」

 

 

監理の悪魔にそう言われ、玲世は何故か自分がハンドバッグを持っていることに気が付いた。仕事に行く際にいつも使っていたハンドバッグだ。玲世はバッグの中を確かめた。バッグの中には

 

 

携帯電話(充電器付き)

 

イヤホン(Bluetoothの無線式)

 

クリーナー(スマホやイヤホンの掃除用セット)

 

 

の3つが入っていた。何故この3つだけ入っていたかは解らない。普段は財布や化粧品等色々入っていたのだが。

 

 

「なんとも面妖な。我らの世界ではいずれも存在し得ぬ未知の物体。…………だからこそ監理をせねばなるまいとの面目は立つか。良いだろう。その3つを元に汝の新たな眷属としよう。人間よ。それぞれどのような概念とするか、頭の中で想像するが良い。」

 

 

唐突に監理の悪魔が力を解放し始めた。「監理」の力の1つは新たに生まれた概念や物体を悪魔化する力。例えば「核兵器」の概念が無い状態で、世界に核兵器という物体が生まれた場合、新たに「核兵器の悪魔」が誕生する。未確認の概念、物体を悪魔化し、監理する。故に監理の悪魔は最古の悪魔の1人と呼ばれ、近しい悪魔達から「監理の翁」と呼ばれている。

 

 

光が強まり、玲世は咄嗟に

 

 

 

携帯電話は遠くの人と話をしたりメール出来たり。

 

イヤホンは音を外に漏らさず、離れた音が聞こえたり。

 

クリーナーは綺麗に掃除し、汚れを無かったようにする。

 

 

 

の3つを考えた。少しすると、監理の悪魔の力は消え、光は収まった。

 

 

「これで良い。今はまだ存在が定着しておらぬが、時がたてば意志も芽生えよう。では次だ。」

 

 

そう言って監理の悪魔は爆弾の悪魔に手をかざす。すると爆弾の悪魔の姿が振れ、デフォルメされた状態とグロテスクな心臓の形に分かれた。デフォルメ状態が概念、心臓の方が物の方だろうか。心臓は脈打ち、気味が悪い。

 

 

「おい!爺ぃ!展開早いんだよ!私はまだ了承してなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………。」

 

 

そう言って爆弾の悪魔の悪魔は玲世の中に吸い込まれていった。憑依というか吸収のような感じだったが。玲世は身体が熱く感じ、息を荒げ、その場に四つん這いの状態になった。

 

 

「今、汝の身体は悪魔化している。とはいえ外観はそのままだ。悪魔の力を宿している。そう捉えよ。」

 

 

玲世は顔を上げるが、身体が熱く、何も喋れない。

 

 

「これで我の詫びも終わりだ。あとは爆弾のの心臓と、汝を現世へ送り、再び静寂にするとしよう。」

 

 

玲世は身体の熱に耐え切れず、気を失う。監理の悪魔は玲世達を青空の向こう、現世へと送り出す。

 

 

「可能性のがどのような目的であの者達を送ったかは解らぬが…。今はただ、この世界を監理することにしよう。」

 

 

監理の悪魔はそう言って姿を消す。狭間には静寂のみが残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、悪魔となった女性の物語が始まるーーーー

 

 

現実にて名も無き少女を演じた彼女が、題材の世界で彼女達と出会った時、どのような未来が待っているのかーーーー

 

 

それは、可能性の悪魔だけが知っているーーーー

 

 




物語が動き出すので、長文になってしまいました。ご容赦下さい。

可能性の数字の話は、「HELLSING」という漫画の一場面で「勝機はいくらだ、千に一つか、万に一つか、億か、兆か、それとも京か」という言葉に対し、「それがたとえ那由他の彼方でも俺には充分に過ぎる」という台詞を元にしています。カッコイイですね。

悪魔の強さは「生物や道具の名前」<「概念の名前」としており、能力はそれに準じた事であれば自由に扱える感じです。原作で落下の悪魔が上空へ「落下」させたのと同じです。言葉遊びのようですが…。

またオリジナル悪魔が出てきています。「監理の悪魔」は転生ものの神様みたいに思って下さい。今の所、再登場の予定はありません(笑)

なるべく設定が分かりやすいように描きますのでよろしくお願い致します。
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