ある可能性のお話 〜名も無き少女に祝福を〜 作:wasirunoguchi
玲世視点ですが、最後レゼ視点があります。
皆さんは「爆発」と聞くと、どのようなイメージだろうか。
爆弾の悪魔のように、爆弾やミサイルが爆発するイメージ?
それとも、戦闘機が音速を超えた際に発生する爆音のような感じ?
元の世界で、レゼちゃんもとい爆弾の悪魔の役をやったせいで、私にとって爆発の力は爆弾のイメージしか無かった。
でも、悪魔の力は割と融通が利く。
「刀の悪魔」のサムライソードが居合を使い、高速移動するように。
「サメの悪魔」のビーム君が水の中に潜れるように。
「血の悪魔」のパワーちゃんがデンジ君の中の血から復活したように。
私は自分に宿った力がどういったものかを、死にかけながら思い描くーーーー
「って私、誰に話しかけてるんだろう………。」
広い地面に大の字になりながら、1人呟く。身体は切り傷、刺し傷ばかりで疲労困憊。立ち上がる気力もなかった。
「レーセ!大丈夫か!あのバァちゃん、ホントに悪魔だ!あんな動ける人間、見たことない!!」
「あらあら。ボンちゃんにそう言ってもらえるなんて、私もまだまだ現役でいけるかしら?」
大の字の私の目の前でボンちゃんが心配し、数歩離れた所で大家さんが立っている。誰もいない広い公園で、今は実戦形式で訓練を受けている所だった。
「ほらほら。早く血を飲んで、怪我を治しなさい?「爆発」の力をものにするのでしょう?悪魔は待ってはくれないわ。」
「うぐぐ………。わかりました…!」
大家さんが差し出した血液パックを飲み、怪我を治す。初めのうちは吐いちゃったりしていたけど、慣れというのは恐ろしい。今は何ともなく普通に飲める。
「じゃあ、腕力と脚力の「爆発」からもう一度やりましょう。それ以外もどんどん使っていいわよ?」
「はい!行きます!」
私は大家さんの言う通り、脚力を爆発させ高速で大家さんに迫る。その勢いのまま、腕力を爆発させながら右ストレートを放つ。
「シッ!!」
「ふふ。」
だが大家さんはそっと私の拳の横を払うようにして、横に受け流す。私は受け流された流れで、そのまま回転する独楽のように、左後ろ回し蹴りを放つ。しかし大家さんの右手の爪が伸び、私の足を抓んでしまった。
「爪の悪魔も武器になるだけじゃなく、こうして抓むのも出来るわ。便利でしょ?」
私は大家さんの言葉に答えず、左足周辺の空気を「爆発」させる。大家さんの爪が破壊されるがノーダメージだ。しかし私は爆発の反動で後ろに飛び、爆発が目眩ましとなっている大家さんに向かって指を鳴らす。
「いけ!」
パチン!
その瞬間、細い電気のようなものが大家さんに向かって走る。原作レゼちゃんの遠隔起爆。ゲームセンターの一件で密かに練習をしていた。ただ少し改変してあり、爆発を細く、小さく、鋭く。爆発のエネルギーを1点に収束し、広範囲ではなく、限定的に爆発させる事で威力を上げる。
心身共に追い込まれているせいか、会心の出来となった技は大家さんに向かう。
しかし
大家さんの前に、1本の針が浮かぶ。私の技は針に当たり、爆発。瞬間、大家さんが目の前から消える。
「言わなかったかしら。攻撃する前に声は要らないって。せっかく目眩まししたのに、声でバレバレよ。あと今の爆発は良かったけど、指を鳴らす事でタイミングと攻撃が来る方向が分かっちゃう。やるんなら無動作でいきなり、とかが1番ね。強襲にも防御にも使えるし。あとね、」
後ろから声が聞こえる。私は拾っていた石の振り向きざまに投げる。石の運動エネルギーを爆発させる事で超速の投石となる。が、
「はい、残念。視界外でも爆発させられるようにね?気配や空気の流れを掴まなきゃ。」
石は簡単に避けられ、大家さんの持つナイフが私を切り刻む。勘弁して欲しい。私はそんなに人外ではない。切られ過ぎて服が原型を留めていないし、また服買いに行かなくちゃ、と場違いな事を考えながら私は気を失った。
「………えぇ。そっちはどう?……そっか。例の少年はマキマと一緒…。…………こっち?こっちはこっちでなんとかやってるわ。今も便利な力使わせてもらってるし、誰かさんと違って生意気じゃないし教え甲斐があるわ。……………ふふ、そう不貞腐れないの。あ、起きそうだからまた連絡するわ。」
離れた場所で大家さんが誰かと話している。気絶から目が覚めた私は大家さんの方を見るが、大家さん以外、誰もいない。
「大家さん、誰かと話してました…?」
「あ、ごめんなさいね。ちょっとケーちゃんを借りてたわ。やっぱり便利ねぇ、この子。何時でも何処でも相手に連絡できるなんて。」
「オホメニアズカリコウエイデス。オオヤサン。」
大家さんの手にはケーちゃんが握られている。気を失っている間に、勝手に使用されていた。いや、日頃から大家さんに連絡とっていたり、大家さんもたまに借りに来ていた。別に嫌な気はしないし、ケーちゃんも特に気にしていない。
携帯電話の悪魔、ケーちゃんの力の1つ。「何時でも何処でも離れた相手に連絡できる」力は携帯電話がある元の世界では当たり前の事だったが、この世界では携帯電話はなく、もっぱら固定電話か公衆電話だ。大家さんが便利がるのも無理は無かった。
「誰に連絡とってたんですか?」
「えーと、昔の教え子、というか弟分というか。まぁその内、紹介するわね。」
「あ、はい…。」
なんか上手くはぐらかされた気がしたが、特に追求はしなかった。意地悪な所があるので、これ以上聞いても無理だろう。
「玲世ちゃん。なにか失礼な事、考えてない?」
「いえ!?そんな事有りませんよ!?さ、帰りましょう!!」
前言撤回。エスパーも追加しておこう。そう思い、勢いよく立ち上がる。
「あ、玲世ちゃん、服……。」
「………ぎゃあぁぁぁぁぁ~!!」
私の悲鳴が、大空に響いていったーーーー
「えーと、ここです。カフェ「二道」。」
ただの布切れと化した服を着替え、カフェ「二道」に来た。なんと大家さんも一緒だ。今は夕方だが、私がお世話になっている「二道」に大家さんがお礼を言いたいと、ついてきたのだ。すっかり母親である。
大家さんとレゼちゃんを引き合わせるのは不安だったが、断るのもどうかと思い、今に至る。まぁ大丈夫、たぶん、きっと。
いつもより静かに扉を開け、中を見る。今はマスターだけだ。幸か不幸かレゼちゃんはいない。マスターがこちらに気付く。
「いらっしゃい。っと、なんだ、玲世か。珍しい事もあるもんだ。静かに入ってくるなんて、なにか悪いものでも食べたかい?」
「マスター。いつも私は静かです。何言ってるんですか?」
私は嘘をつく。確かにいつもと違うけど、大家さんに知られるのは恥ずかしかった。その時、私の後ろから大家さんが顔を出す。
「あらあら。良いお店。あ、店長さん?いつもこの子がお世話になってるそうで。この子が住んでるアパートの大家で「大家 めぐみ」です。」
「え、あ、こちらこそお世話しています…?…………はは~ん、そういう事か。まぁ、立ち話もなんですし、カウンターへどうぞ。」
ニヤニヤと笑うマスターは得心がいったようにカウンターへ私達を促す。それからはまるで拷問だった。「二道」での行動を大家さんに赤裸々にされ、私は恥ずかしくて顔を真っ赤にし俯いていた。
「それでアルバイトの子に勉強教えているんですが、どう見ても先生っていうか同級生みたいで。しまいには2人して私に聞いてきたりして。」
「そのアルバイトの子も可愛いわね~。今日はいらっしゃらないの?」
「あ~、今買い出しに…。お、ちょうど良く帰って来ましたよ。」
ガチャ
「ただいまです、マスター。重たかった〜。」
カウンター内の扉が開き、買い物袋を持ったレゼちゃんが現れる。相変わらず可愛い。もし元の世界だったらこの店は看板娘で大繁盛。取材なんかが来て店内はレゼちゃん目当ての客で埋まるだろう。やめろ、私のレゼちゃんだぞ。
頭の妄想が爆発している間に、レゼちゃんが此方へ気付く。私を見て笑顔を浮かべるが、一瞬、驚いたように大家さんを見て、また笑顔に戻る。
「れ、玲世さん、いらっしゃいませ。あの…。そちらの方は…?」
「この人は大家さん。私のアパートの大家である大家さんだよ。」
「大家です。ごめんなさいね。紛らわしいでしょ?」
「い、いえ。よろしくお願いします。大家さん。レゼと言います。」
大家さんがレゼちゃんに挨拶する。やっぱりレゼちゃんはなにか感づいている。いつもとは違い、ぎこちない笑顔だ。マスターは気づいていないが、レゼちゃん推しの私には分かる。私に分かるなら、大家さんも勘付いているはずだ。
いつもなら勉強をみたり話をするのだが、今回は口数も少なくあまり話をせずに終わった。
「あら、もうこんな時間。ごめんなさいね、居座っちゃって。これからもこの子をよろしくお願いします。」
「食事の事は任せてください。朝昼晩、対応可能ですよ。」
大家さんとマスターが別れの挨拶をしている。私はレゼちゃんに話しかける。
「レゼちゃん、大丈夫?なんか元気無いみたいだけど。」
「ごめんなさい。ちょっと疲れてたのかも。また今度、勉強教えてくださいね。」
大家さんと2人で「二道」を離れる。アパートに向かって歩く途中、大家さんが口を開く。
「あの子、悪魔と契約?かなにかしているわね。あと高度な戦闘訓練。身のこなしが只者じゃないわ。あんな若い子に何させてるのかしら。可哀想に。」
「大家さん……。」
やはり気づかれた。もしかしたら、初めから彼女の確認をするのが目的で「二道」に来たのだろうか。私はレゼちゃんを助けたい。もし彼女が原作の事件を起こし、大家さんと戦いにでもなったら…。私はどっちを助ければ良いんだろう。
「………玲世ちゃん、心配しないで。あくまであの子が目的で行った訳じゃないわ。純粋に貴女が彼らに迷惑をかけていないか、確認したかっただけよ。大丈夫。そんな事起こらないわ。」
やはり大家さんはエスパーだ。心を読んでいるかの如く、言葉を発する。しかし大家さんの言葉に不安が渦巻く心が落ち着いていく。それ以降、アパートに着くまで私達の間に会話はなかったが、特に気にはならなかった。
「じゃあマスター。お疲れ様でした〜。」
「はーい。気を付けて帰ってね。」
私はマスターに挨拶して「二道」を出る。夕方、マスターに買い出しを頼まれ、帰ってくると店内に玲世さんがいた。この前の勉強を教えて?もらった一件で、かなり仲良くなった。向こうの好感度が初めから高かったのもあるが。スパイにあるまじきだが、顔を見た瞬間、笑顔になってしまった。
だが、そんな笑顔は一瞬で引っ込んだ。問題は玲世さんの隣にいた優しそうな老婆。あれはヤバい。戦闘になっても勝てる未来が見えなかった。恐らくは祖国も警戒している公安対魔特異課最強の岸辺と言う人物と同じ化け物だ。慌てて笑顔を取り繕い、私の正体がバレたかと思ったが、そんな事はなくマスターと楽しそうに会話していた。玲世さんも不安そうな顔でこっちを見てたし、心配かけただろうか。
作戦開始までもう少し。あんな化け物がいる事に不安を覚えたが、同時にいる事を知れたので幸運だった。今まで以上に集中し、潜伏を続けるとしよう。
道を歩き、自宅へ辿り着く。私のベースキャンプとしているボロいアパートだ。土地や建物は、祖国のバックアップ部隊が法的に買い取り、何も問題はない。
「ふぅ。」
電気も付けず、冷蔵庫から水を取り出し飲み、一息つく。通信機のランプが点滅しており、時間を見ると定時連絡の時間だった。私は溜息を付きながら通信機を手に取り、スイッチを入れる。
「こちらシュトゥルモヴィーク。ボンバ、応答せよ。」
「こちらボンバ。通信は良好。」
ロシア語でシュトゥルモヴィークは攻撃機、ボンバはそのまま爆弾だ。攻撃機から放たれる爆弾。センスはともかく、こちらを人間扱いしていないのが分かる。
「そちらの様子はどうだ。潜伏は順調か。」
「特に問題は発生していない。このまま潜伏を続ける。」
「了解した。作戦までもうすぐだ。潜伏先のカフェは作戦開始と同時に破壊、関わった人物も例外なく始末しろ。1人も残すな。」
脳裏に玲世さんやマスター、店の客がよぎる。
「………………ボンバ、了解。通信傍受の恐れがある為、通信を終了する。」
相手の返答を待たずに通信を切る。そのままベッドに倒れ込み、目を閉じる。標的は既に東京へ来ている。なにやら日本のヤクザ、という奴らが、公安へ襲撃を考えているらしい。襲撃準備には時間がかかるらしく、それを待ってから作戦開始のようだ。標的の顔は既に覚えた。金髪の少年。顔はどことなく昔、実験施設に迷い込んだ犬に雰囲気が似ている。すぐに処分されてしまったが。
「まったく…。今回の任務は不確定要素ばっかり…。」
私の呟きは、部屋の闇に溶けていった。
玲世は着実に力を付けていくーーーー
レゼは作戦の為、潜伏を続けるーーーー
2人の思惑とは関係なく、世界は進んでいくーーーー
と言う訳で特訓シーン&大家さん絡みのシーンでした。次回から公安に関わっていく予定です。
次回もよろしくお願い致します。