春の光がガラス越しに廊下を満たしている。
昼休みの校舎はどこか騒がしく、遠くから運動部の掛け声や笑い声が聞こえてくる。
私、七倉つぐみは、連絡通路の窓際にもたれながら一人、スマホを眺めていた。
どこで時間を潰そうか…その思考の外から最近聴き慣れた声がした
――
「せんぱいせんぱい何してるんですか暇ですかですよね暇ですね!?」
履きなれない上履きとリノリウムの床がぱたぱたと軽い足音を響かせる。
それが聞こえたからか、せんぱいは長い睫毛に縁取られたまぶたを持ち上げこちらを見る。
「……いや、私が暇かどうかキミに関係ないと思うけど。」
「ええ~冷たくないですか!? あ、でも今一人ですよね!」
「ん、見ての通り。」
「じゃあ一緒にお昼食べましょう! 私は昼お弁当派なんですけど、せんぱい食堂派だったりします?あ、それとも購買でパンとか!」
私は両手で包み込むようにピンク包みを掲げて見せた。
せんぱいは…何食べるんだろ?
うどん啜ってるのとか想像つかないんだけど…購買ってブリトーとか売ってたっけ?ハモ…ハモンセラーノ?とか響きからして似合うと思う!あ、ハモンセラーノはハムか…
「キミ1年生でしょ…クラスメイトと話しなよ。大事な時期なんだから。」
「うぇ!?
もしかして心配してくれてるんですかありがとうございますこれで今週乗り越えれます!」
「……いや、そういう意味じゃ……」
「え、じゃあどんな意味ですか?」
「……」
せんぱいは一瞬だけ視線を逸らしてから、静かに言った。
「いい?最初のスタートで2年生とばっか関わってたらクラスで浮いちゃうよ?
……あー。らしくないこと言った…もう言わない忘れていいよ。」
せんぱいは少し屈んで、人差し指をピッと立てながら本当に心配そうな顔をして注意してくれた…え、デレ期??
今まで見た事ないんですけどそんな顔…ありがとうございます脳に焼き付けさせて頂きます…!
「あ、あはは…そこまで優しく注意してくれるとは…
なんかちょっと照れちゃいますね…?」
「……勝手に解釈しないで。」
「でも嬉しいですっ!ありがとうございます!」
せんぱいは小さくため息を吐いて踵を返した。…え、行っちゃうのかな?
まぁ今日はそこそこ話せた方だし忙しかったら悪いよね…
「購買、寄るけど。なんか飲みたいのとかあったら教えて。」
「えっ!? 一緒に食べてくれるんですか!?てか飲み物は私が払います!会食費として!!」
「後輩に金払わせて飯食べる先輩とか絵面終わってるでしょ…」
「でも私からお願いしてるので…!」
「……今日だけ私が払う。次からは自分で買っておきな。」
ん?????ん?????えっ?
「え…明日からも一緒していいんですか???」
「いやクラスメイトと食べてくれた方が私は楽だけど。」
そう呟きながら、せんぱいはツカツカと歩いてしまう。
必死に着いてこうとすると、私をチラッと見て歩幅を縮めてくれた。
そういうとこ…!ほんと!そういうとこ…ッ!!
きっと今の私はキモイ顔してる。間違いない。