第1話 始まり
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
一人の美しい少女が屋敷の地下で呪文を唱えていた。足元の魔方陣が淡く光を発して超常の先から何かを呼ぼうとしている。
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ」
魔方陣の上には触媒として、かの高名な円卓の欠片が置かれていた。
「繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」
少女が目を開ける。青い瞳が煌めいて発光する。
「────告げる」
何かが降りてきた。その確信を少女は覚えた。目の前に光が人の形に結ばれていく。
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ───!」
ーーーーそして、少女の前に跪いて首を垂れる美しい女が現れた。黒いレオタードスーツを基調として鎧を纏っている。ピンク色の髪に紫色の瞳の美しい女が青い瞳の少女を見詰めて言った。
「サーヴァント・セイバー。召喚の命に従い参上仕りました。あなたがわたしのマスターですね?」
「ええ。そうよ。よろしくねセイバー。私は九十九 理々花。ふぅ。上手くいったわ」
「よろしくお願いしますマスター。わたしの真名はーーーー」
「すごいわね。大当たりじゃない。ていうか男性だって聞いていたけど、女の子だったのね。意外だわ。まあ聖杯戦争に相性最高ね」
「……そうですね。ええ。聖杯の処理は得意です……一つお聞きしてもいいですか?」
「なにかしら?」
「聖杯にどのような願いを託されているのですか?」
「私は魔術師よ。家名にかけて根源に至るのが目的。そのための手段ね」
「なるほど。わかりました。ならばわたしとしてもかまいません。悪しき望みを持つ者ならば切らねばいけないところでした」
「怖いわね。でもあなたも望みがあるんでしょ?何を聖杯に願うの?」
「……すみません。それは言えません」
「あら?私には聞くのに?自分はだんまり?」
「すみません。ですがこの願いは……恥ずべきものです。理想を裏切ること。だから言えません」
「まあ。大事なら言わなくてもいいわ。わたしたちの目的は共通して勝つことなんだから、別に思想まで共有しなくてもいいでしょう」
「そう言っていただけると助かります」
そして二人は地下室から出る。豪奢なリビングのテーブルに理々花は座った。
「お茶でも飲む?」
「わたしはサーヴァントですが?」
「別にいいんじゃない?戦闘ではともかく日常生活まで堅苦しく過ごす必要はないもの」
「ではいただきます」
二人はお茶を優雅に嗜む。会話はない。時代を超えた二人の間に共通の話題がなかったからだ。
「じゃあ街を偵察に行きましょうか。ちょこちょこ参加者が集い始めてる頃よ。私はこの街の霊地を一応は把握してるけど、あなたも見ておいた方がいいわ」
「そうですね。敵情視察は大事です。戦は前準備で決まるものですからね」
そして二人は夜の街に飛び出していった。
理々花は学生だ。昼は学校に通う必要がある。夜は魔術師の時間だが、昼には表向きの常識人のふりをしなければいけない。現代の魔術師は社会と折り合いをつけていないと生きていけない。通う必要は感じられなかったが、学校に真面目に通っていた。
『いい時代ですね。わたしの時代には学問は教会の僧侶か豪族でもない限りできませんでした。このような場所がわたしの時代にもあればよかったのに……』
『まあ現代だからね。でもこの学校システムだって今の世界でも恵まれてる方よ。海外に行けばまだまだ学校にいけない子供の方が多いくらいなんじゃないかしらね』
『そうなんですか。それはかわいそうなことです』
セイバーは霊体化しながらも周りを観察しているようだった。この時代の在り方に感心しているようだ。英雄とはもっと尊大なものたちだと思っていたがそうでもないらしい。学校の授業もセイバーはときどき理々花にどういう意味なのかを問いかけていた。
『三権の分立。理想の王が1人いればいいんじゃないですか?』
『人が増えすぎてできなくなったのよ。一人の王様じゃ目が届かないくらい世界が広がってしまったのよ』
『なるほど。興味深いです』
休み時間になって購買に行こうと思って廊下に出た。男子生徒たちが理々花を見て色めきだっている。彼女の美しさはこの学校では有名だった。男子生徒たちはこぞって告白しては撃沈するのが風物詩の一つである。
『人気がありますね。誰かとお付き合いとかしてらっしゃったりは?』
『興味ないわ。それに魔術師なんだから相手は血統を強化できる相手じゃないといけない。他の魔術師コミュニティとは遠いし誰かと付き合ったりは考えたこともないわね』
『そうですか。まあ結婚や恋愛は。その。大変ですから……』
『円卓の騎士のあなたが言うと含蓄が深すぎるわね』
アーサー王伝説の末路はまさに恋愛脳の極致だ。なんであんな神話なのか悩むくらいに恋愛ロマンスに溢れている。
「佐藤!この間の模試どうだった?!」
「ギリB判定」
「すげぇじゃん!」
「確実を期すためにこれからも頑張るよ」
男子生徒たちが理々花の横を通りかかった。珍しいのは佐藤と呼ばれた方が理々花に一切興味も示さずに模試の結果票をだけを見ていたこと。真剣な目で偏差値と睨めっこしている。だからふっと佐藤と呼ばれる男子生徒の顔を理々花は見てしまった。その瞬間。
一人ただ荒野にて勝利を嘆く男の姿が見えた。
男は疲れ果てて剣を海に投げた。
だが彼の足は止まらない。
ただ先へ先へと枯れ果てた笑みで歩いていく。
思わず理々花は振り向いた。佐藤と呼ばれた男子生徒はまだ偏差値表と睨めっこしている。こちらを振り向く様子はない。
「今の未来は何?彼はなんなの?」
『どうかしたのですか?マスター?』
ただ理々花は廊下に立ち尽くすことしかできなかった。
サーヴァントはFGOで可能な限り未実装な英雄選びました。よろしくね(゚Д゚)ノ